魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.22『無力な魔法師たち』

 

 

サヤカ=ヨルダは限界のようだが、まだ戦う意思を見せている。

 

だが、こちらとて既にギリギリなのだ。

 

マギアエレベアの魔素痕が、際限なく広がっていく。

 

甲羅のように背部に展開しておきながら魔力を循環させる。

 

「―――アンタにゃ恨みは無いが、それでもアンタの夢は叶えちゃならないんだ……」

 

「ふっ――ふっ―――アナタこそ分かっているの?いずれ火星人たちは魔法師たちを狩り尽くす……そして、そのときにこそ私の『完全なる世界』は発動を果たす―――この世界でのキティは上手く『やりすぎた』……私の憑坐にスプリングフィールドの血縁は『ならなかった』……だが、だからこそ、最悪の結末が待つのだ!!!!」

 

最初こそ息を吐くのも辛そうであったが、最後には饒舌に演説をぶる。

 

正しく神の如きチカラを持つものだけが語れる視点。矮小なるものを見下し、その生き様を堕落と称するに足るだけのものがある。

 

だが……。

 

「アンタの夢の中に落ちたところでいずれは皆して起き上がると想うけどね」

「それは希望か? それとも信頼か?」

「いいや、ただの経験則さ」

 

ひなた荘という場所をよく理解していた啓太にとって、そういう事なのではないかと思ってしまう。

結局の所……覚めない夢など無いのだから……。

 

崩れ落ちた校舎の壁を背中にしていたヨルダに対して、ハマノツルギ……姫御子の『鋏』を構える。

 

躱せない。だが、滅せれない―――それでも……この場での決着は着けるべきだ。

 

そこに―――招かれざる闖入者さえ現れなければ。

 

「待ってくれ!! 浦島!!! その剣で壬生を刺そうっていうのか!?」

 

啓太とヨルダの境界に割り込むもの、腕を大きく広げてヨルダを庇い立てしてきた。

 

「そうですよ。邪魔だから退け」

 

剣術部で見たような気がする顔。名前は覚えていない。だが先輩だったかな? などと思い出しながらも―――。

 

「アンタが、どういう想いでそこにいるのか知らないですけどね。そこの女はもう既に壬生紗耶香という女じゃない。太陽系銀河規模で思考する(モノを考える)ようなバケモノ女に身体を乗っ取られた。既にそいつの魂や精神なんざ、超恒星級のエネルギーを食らって既に砕け散っている!!!」

 

「ーーーーーーーーーーーーーーー」

 

俺の言を虚言と強弁することも出来たはずだ。だが、ここに至るまでに、背中に庇う女がどれだけの事をやってきたのかを知っているだけに……それを簡単に否定することも出来なかった。

 

「だけど!!!!!」

「き、桐原くん……」

 

その時、まるで『壬生紗耶香』らしき声音で弱々しく言ったことで桐原は顔を明るくして振り向き―――そして!

 

「―――貴様がこの娘の嘆きと苦しみの元凶だ」

 

力なくも腕を差し出し、五指から伸びた影の触手が―――桐原武明の四肢と頭部を貫いていた。完全なるだまし討ち。

 

「紗耶香……アナタの悲しみは、もはや無い―――だから―――」

 

そんな風に涙を流して、殺人の想いを言うサヤカ=ヨルダ。

 

桐原の救護は、後ろから来た連中に任せた―――そして啓太は、マギアの紋章を『ツルギ』に重ねて―――。

 

「―――!!!!」

 

―――裂帛の気合と共に真っ直ぐ打ち出した。

 

サヤカの真芯を貫く強烈な勢いの『剣砲弾』は、その慣性の法則を消費し尽くして、瓦礫を吹き飛ばしながら、サヤカの身体を向こう……校舎側まで飛ばした。

 

終点は……奇しくも、八枚花弁の校章が象られたモニュメント。それが埋め込まれた校舎の壁。

 

そこに打ち付けられたことで、校章に鮮血が飛び散り、紅に染まる……。

 

血染めの一高のシンボルを見た全員が、その様子に苦衷を覚える。糸が切れたマリオネットのように動かなくなったサヤカの中から、何かが出てくる。

 

「出るものが出たか」

 

啓太の呟きに応じるように、達也はそれを注視する。

 

巨大な杖のようにも見える。

柱のようにも見える。

 

だが、その持ち手部分、先端部分にはよくある宝珠(オーブ)の類はなく、そこから十の翼が左右対称に広がり、それを持つ堕天使・邪女神とでもいうべき悍ましきものは、苦悶の表情で叫んでいた。

 

当然、杖の巨大さ同様に、巨大な……巨人とでも言うべきものだ。

 

「この場で全てを終わらせられないが――――――お前は―――出ていけぇええええ!!!!!」

 

一瞬の早業。瞬動でサヤカまで近寄り剣を抜き取り、そしてサヤカの頭上に浮かぶそれを真っ向唐竹割りをするのだった。

 

飛び上がりながらのそれを前にして、柱は崩れ去るが―――その中に、金髪の女がいた。

 

「――――」

 

「――――」

 

無言での視線の交錯。

堕ちていく啓太。

上昇していく女。

 

女の顔は……少しだけ雪姫先生にも似ていた。

 

「いずれ殺しにいってやる―――はじまりの魔法使い!! 我が浦島の中にありし毒血の女よ!!! お前こそが我が人生を穢した存在だ!!」

 

「ケイスケは、私を愛してくれた。それだけだ―――お前の不幸は、私のせいでもケイスケのせいでもない!!」

 

その言葉を最後に―――元凶たる存在は消えていく。全ては終わったのだ……。

 

 

「こちらと同時に決めてくれるとは、流石」

 

「別に示し合わせたわけではないぞ……フェイト。お前は……本気で魔法師を殲滅したいのか?」

 

「当然だ。エヴァンジェリン、いや雪姫。アナタとて気付いていよう。ネギ君が求め、アナタの学友達が求めた世界の在り様とは、『こんなもの』ではなかったはず」

 

羽音有子という幽霊を滅したあとに、そんな会話をする2人の超人。だが、その会話は超然としているようで、ただ単に井戸端会議と変わらない。

 

「―――確かに、ダーナから見せられた2つの■■に比べれば、この■■は手遅れなのかもしれない。だが、私は『不幸』でなかったし……、お前の主だって『救われる』かもしれないんだぞ」

 

それは希望ではないのか? 口にせずとも問いかけるが……。

 

「惰弱だ。ネギくんが定命のものとして死に、運命の託宣は『皆幸の魔法使い』に託されただけ……そして、魔法師たちは全ての『立派な魔法使い』を絶望させる俗物ばかりだ」

 

「仕方あるまい……天界の神々から火を与えられた人間が、それを以て暖を取るだけでなく、同じ人を焼くからと取り上げることは出来ない」

 

「だが、人々は『火を使って焼く』ことを『共有』してきた、焼灼。……水でものを洗うこと、洗浄。石を割って尖らせること、研磨。……全ては誰かにしか出来ないことではなかった。魔法も『本来』ならば、そうなるべきだったのだ。魔法師という強欲者どもがのさばるならば、僕の考えは変わらないんだよ」

 

例え、その結果がどうなろうと。始まりを知ったものたちは、誰かに自分の発見で豊かになってほしいと願うのだから……。

 

その言葉のあとに、フェイト・アーウェルンクスという雪姫にとって旧い友人は消え去るのだった。

 

「さて、死んだのは2人か……取り戻せるかな?」

 

そして、来訪してきた友人に頼み込む。

 

「そりゃウチがおらんかったら、しょっぱい結果になるんやろけど、まぁ問題ないんちゃう?」

 

いつの間にか、自分の近くにやってきた旧知の友人。齢100歳を越えた女性の言葉に、くすりと笑みが零れる。

 

京都から連れてきた多くの『侍従』たちも、怪我をした全ての『人間』たちに回復術を行使しているはず。

 

「ならば頼む。木乃香―――啓太とアンジェリーナは存分にこき使っていいからな」

 

「はいな。とはいえ景太郎先生の孫子(まごこ)に、そこまで無体なことは出来んよ」

 

「優しいな。お前は……」

 

笑顔で金槌を『ジジイ』に振るっていた事実に眼をつむりつつ、あれはジジイがJCに不向きな縁談ばかり頼んでいたことが原因だと懐かしく想いながら――事態の中心に向かうのだった。

 

 

「―――これが、結末なの……こんな、こんな……ここまで絶望して―――それに私は気付かず……!!!」

 

「七草……」

 

全ては遅かった。この魔法科高校の在り方に絶望をした羽音『優子』の嘆きを聞いたヨルダが、ここまでのことを行った。

謀略でありながらも、正しく徒手空拳を用いた裸での策謀が用いた結果である。

 

「お兄様……」

「―――あまり見るな」

 

横たわる2つの『死体』、男女の仏に対して深雪が望んだことを行おうとしても、達也には不可能だった。完全に『取り戻せない』と分かった。

 

だが……。

 

「浦島……シールズ……」

 

ただ一人、いや二人が、眠るように眼を閉じている壬生と桐原に『魔力』なのか、何かを贈り続けている。

 

死人を冒涜するな。と言うべきかどうか……そうしていると―――。

 

「京都からご足労感謝いたします」

 

「律儀やな。ウチにとっても、この辺り()は知らんところやないから気にせんでえーよ」

 

京都弁を使う美女……巫女服というよりも、古めかしい神官服を纏ったヒトが、後ろから現れていた。

 

達也ですら気づけなかった唐突な登場。

 

振り向き、そのヒトに礼儀を正した挨拶をする浦島とシールズの姿。何より……佇まいが、どことなく高貴な家柄を感じさせており、自然と達也たちも姿勢を正していた。

 

「ではお願いします。マギステル・マギ・コノカ」

 

「ほな借り受けるで」

 

「どうぞ―――」

 

言葉と同時に、何か……サイオンではない力のようなものが、マギステル・マギ・コノカとやらに送られて―――それを受け取った美女は、その手に持った扇子を使って、舞い踊るようにして何かを唱える。

 

そしてチカラが伝播する―――力強くも優しきチカラの行き先は……桐原と壬生であり、チカラが彼らを……。

 

「ううっ………」

「あああ―――」

 

呻くような調子での言葉を上げさせて意識が戻っていく様子。誰もが驚く。そして―――。

 

「ヨルダお母様……ヨルダさま―――」

「壬生……」

 

横たわる男女は上半身だけだが起き上がり、そして譫言のように呟く少女、涙を流す少女を労るように見る少年。その心が寄り添うまでは長くかかろうが……。それでも―――一旦は終わりを迎えた。

 

「ほな。ウチはこの辺で失礼するえ」

 

「ありがとうございました」

 

その笑顔での言葉を最後に何事もない様子。気楽な調子で、近衛木乃香は去っていく。まるで夢幻の如く、その歩みを追うことは出来ない。

 

―――そして何より、全てを取り戻していても尚、周囲は壊滅的であった。

 

崩れ果てた校舎。

血染めの校旗(ペイント・イット・レッド)

そして恐怖を覚えし魔法師たち……。

 

爪痕はキッチリ刻まれているのであった……。

 

土煙棚引く第一高校は正しく廃墟も同然であり、今後を考えるのが、実に恐ろしいのであった。

 

 

その後に語ることは多すぎた。

 

これだけの大騒動は巷間が放っておくことは出来ずに、色々と混乱は続いた。

 

まずは騒動の扇動者であるブランシュに関しては、『アマテル・インダストリィ』社の取り計らいもあり、無罪放免とまではいかずとも、あまり厳しいことにはなりそうにはなかった。

 

この事に激怒したのが、十文字など一高の重役ではあるが、『黙っていろ』と多くの関係各所の『上層』(うえ)から言われたことで、憤慨を溜め込むことに。

 

校舎の再建に関してだが、これに関してはそういった関係各所がありったけの(カネ)人材(ヒト)を放出し、多くの権利関係をスルーすることで、十日間ほどの休校で何と元通りの姿を取り戻すことになった。

当然、ここにもアマテル関係の企業のカネが放出されたことは間違いない。

 

生徒の処遇に関しては、これはデリケートな問題であった。

 

多くの生徒が分かることは、一科生の大半が為す術もなく打ちのめされてしまったということ。そして、二科生はほとんど狙われなかったということだ。

 

その為に一科生の間には疑心暗鬼が生まれていた。二科生が、今回の襲撃で手引きしていたのではないかと……半分がアタリで半分はハズレ。という事実公表をするには……あまりにも残酷な事実が含まれていた。

 

多くの関係者総出で仕上げた報告書をまとめ上げて、それを読んだ七草会長は完全に恐怖で震えていた。

これだけの大きすぎる真実を公表すれば……魔法師の学生たちは、己のレゾン・デートルに疑義を持つだろう、と。

 

「では事実を隠して、再びあのような事が起きるのを享受するか?」

 

「それは―――」

 

「下手を打てば、一科生たちは二科生たちを弾圧するだろう。ヨルダという銀河規模の神人(しんじん)になる可能性がある存在は、能力が低い存在に取り憑くなどと誤解をしてな」

 

虐殺・弾圧・不信・疑惑……あらゆる負の感情が、一高を昏い穴のどん底に落とすのだろう。

 

そう言って椅子にふんぞり返る幼女。

 

これこそが自分の『本来の姿』だという、松岡 雪姫先生こと『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』に七草真由美は戸惑う。

 

「……魔法世界ムンドゥス・マギクス、それの創始者『ヨルダ・バオト・アルコーン』……あまりにも話が大きすぎて呑み込めきれませんよ」

 

「ひとまずそこは置いておけ。まずは魔法使いの始祖のようなものは、『虐げられた存在』に取り憑いて、差別した側を殺すべくチカラを与えるとでも、言っておけ」

 

お座なりな説明だが、それでいいのだろうか?

 

「だが、どちらにせよヨルダは、虎視眈々と魔法師を抹殺し、その生命の滴(いのちのしずく)を用いて太陽系銀河の知的生命体を『永眠』させるべく動き出しているのだからな。どちらにせよ対峙せざるをえない存在だ」

 

そんな冷たい現実を告げられて、黙るしかなくなる。

 

そして―――復興する前の仮組みの大講堂で発表された事実公表は、やはり大混乱を招く。そして次いで十師族が内々に魔法師の名家に出した同じような事実公表が、それらを少しだけ収める。

 

だが……事態打開の具体策に欠けるそれらが、落胆を生んだのもまた事実だ。

 

「ケレド、少しだけいいこともあるワ。ソレは、二科生もまた同じ魔法師であるということを意識してくれているもの」

 

「そりゃヨルダが取り憑く可能性があるとなれば、自然と態度も柔らかくなるわな。もっとも、これがポリコレ的な配慮で終わらないことを期待するしかないな」

 

皮肉屋(ニヒリスト)なんだからー」

 

「何にせよ。ホルダーズのチカラを借り受けることもなく終わってしまったからな……」

 

この事態を読んでいたのだろうか? そう想いつつも……面倒なことは、再び起こるだろうと予測するのだった。

 

 

『事実です。この太陽系銀河において先に到達したものであるヨルダ様は、未だに嘆きと悲しみを受けておられるのですよ』

 

「―――地球及び火星の全人類の負の感情を受け続ける存在……それだけの想念を受け続けていれば」

 

『常人ならば、塩の柱となるのみでしょう。その前に発狂死するのがオチ、ヒトのココロを操ることに長けた我が四葉でも、そのようなお人を害することは不可能ですよ―――正しく神の如きチカラと視点を持った方ですからね』

 

もはや大きすぎる人間―――という枠には収まらない怪物だ。こんなものが、今までこの世界にいたなど……全然知らなかった。

 

「マギステルたちは、その方との戦いを続けていたのですか?」

 

『ええ、詳しくは現在 雪姫を名乗っておられる魔法使い様から、いずれお聞きしなさい。今は忙しいでしょうから時間を置くとして―――そして達也さん』

 

「はい」

 

神妙になりながら呼びかけられたことで佇まいを正す。

 

『あまり浦島家を探らないように、ご当主である『はるか』さんは、私や姉さんにとっても、数少ない友人といえる方。何より―――和菓子・浦島の銘菓は我が家では欠かせない茶請けなのですから』

 

ビックリする事実。四葉と浦島は繋がりがあったという暴露。そして何より―――……。

 

『そういう訳なんで、啓太さんやその関係者にあまり嫌疑を持って近づかないでくださいよ兄さん』

 

本当の意味で『従弟』であるひとつ下の男子。現在通信の相手であった叔母であり当主の息子が出てきたことで、コレ以上の探りはやめた方が良さそうだと気付くのであった。

 

今回の事件、自分たちは完全に蚊帳の外であった。身柄を狙われたことは確かなのだが、ヨルダなる女にとって自分たちは『どうでもいい』という事実。

 

かといって無視するには恐ろしく強大すぎる敵を相手に立ち向かえたのは―――。

 

(浦島啓太……)

 

そいつただ一人であったことだけが達也の胸に突き刺さっていた……。

 

 

 

 

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