二年前……
どこかの洞窟だろうか、しかし暗くはない場所にて多くの人間が一人の少女を遠くから睨んでいた。
少女は同じく一人の少女に刃物を突きつけながら、そいつらを近づさせけないでいた。
「私の計画はこの時を以て成就する……! 邪亀神の復活を以て―――私は!!」
「バカじゃないのアンタ!! こんなことをしてなんになるってのよ!? もう分かってるんでしょ! 自分が何者であるのかを!! 人造人間でも、クローンでもなくアンタは―――」
「黙りな! いまさら、そんなことを今更知って―――それで……後戻りなんて出来ないんだよ!」
剣を突きつけられている少女。金色の髪に琥珀色の眼をした眼鏡の少女の説得の言葉(無理め)は通用してくれない。
それどころか刃物の突きつけが、更に近くなる。
だが……それでも―――。
言わなければ全ては手遅れになりかねないのだ。怖くても言わなければ―――と思っていた時に。
「来たか! ケータ・ウラシマ!!!」
「けーた……!!」
そんな中、最後のピースが現れた。少女2人のどちらもが喜色を以て、その到着を迎えた。
しかし、誰もがその包囲を狭めないでいる中……啓太だけは駆け出していく。
「―――」
驚いたのは、剣を突きつけている少女だった。他の連中と同じく遠巻きに見ていると思っていた所に、これである。
要求を言うはずだった『間』が完全に消化された。
もたらされた唐突かつ急激な変化。だが、だからといって―――。
「と、とまれ!! これ以上近づけば!!!!」
だが、その言葉に被せる形で啓太は、最大級の声量を以て叫んだ。それは洞窟の性質上、最大の反響を作り出しつつ―――。
「お前が好きだああぁぁあああっ!!!!!」
………
その叫びに、暗殺者カトラス……のちにモルモルの王女『カトラ・スゥ』と判明する少女の肩が、確かにコケた。
「―――……な、なにゃああああ!!!!」
そして遅れてその言葉に理解をして赤面をした瞬間。意味不明な叫びを上げていたカトラスに対して―――。
「どぅあらっしゃああああ!!!!」
どんな掛け声だよ! と一同がツッコミたくなるもので、眼鏡の少女『桜雨キリエ』の背負い投げが見事に決まる。
肩がコケた瞬間、突きつけられていた剣を持つ腕にキリエが手を差し込む隙間が出来上がっていたからだが。
柔の道一直線な見事なまでの背負い投げは、多分な怒りも含まれていた。
受け身も取れずにいたカトラスだが、洞窟の地面は柔らかな白砂であったことが功を奏した。
大した怪我もなく、彼女は無力化された。
「う、うまくいった……」
「いまのは何なのよ!!!!」
「いや、これで意表を突けるって、雪姫が言うから……まさか、お前が人質になっている状況なんて解決手段が俺にはなかったからさ」
「アホか! この無駄有能!! 略して『むのー』!!! 一歩間違えれば、寒すぎる結果だったわよ!!」
「しゃーないだろ! ……もうカトラとケンカなんてしたくないし、そもそも……お袋さんが、ここにいるんだ」
啓太に詰め寄っていたキリエが一時、中断してしまうぐらいに、神秘的な女性がいたのだ。
「――――――」
「――――――」
無言で見つめ合うカトラスと女性……アマラ・スゥというモルモルの女王は、白砂から立ち上がろうとして、半身を起こしていたカトラス……カトラに近づき。
「―――オカエリナサイ」
そんな言葉と同時に、カトラの頭ごと抱きしめていた。だが、それだけで全ては覿面であった。
「おか、おかあ……おかああさん……」
優しき抱擁が、全てを、彼女を包んでいた偽のペルソナを砕いて、大粒の涙を幾重にも流していた。
だが、事態は……止まらない。
封印されていた亀の大邪神とでも言うべきものは、徐々に圧を強めて復活を果たそうとする。
「さて景太郎じーさんも妙な宿題を残していったもんだ。だが、ここで決めてやる」
「ケータ……」
「お袋さんと一緒に避難していろよ。アマラ女王陛下、ここは直に戦場になります。王国兵士たちと避難を―――」
その優しげな言葉と警告のあとには、伝統的な日本刀を引き抜く啓太。
その後ろに雪姫先生、アンジェリーナ……見知らぬ顔が数名と、驚くべきことにフェイト・アーウェルンクスなどが着いてくる。
「さぁて啓太。またもやお前にとっての運命の選択だな―――どうする?」
「どうするもなにもない。コレ以上の将来への不安なんてものはいらない。ここで終わらせる!」
そうして……現代魔法を使う魔法師とは別の、魔法使い……マギステルたちのとんでもない戦闘が繰り広げられていく……。
・
・
・
『―――そんな風な顛末で私は、現在……モルモル王国からの留学生として、第三高校にいるのさ』
見せられた現実離れした映像に魔法師全てが驚愕している中、話は続き……魔法使いたちは、それをさらりと流して会話を続ける。
「カトラ、そいつは大変結構だがな。男女混成で戦う競技種目なんてないぞ。お前と俺が戦うことなんて無い」
『分かっているさ。だが、『何か』があるかもしれないだろ。とにかく出てこい。マイスター・ケンのことも、色々と国の方で『交渉』してやる―――その果てに、わ、私と夫婦になってもいいぞ!?』
「……ちょっと考えさせろ。俺はこの学校でおまえの学校でいうところの普通科の生徒でしかないんだからさ」
『ああ、だが……お前はお前に課せられた『運命』からは逃れられないんだ。私が、こうなったようにな……』
労るような慈しむようなその声と顔は姫君らしいものであって血に塗れた戦士を手助けしたいものであった……。
その言葉を最後に、南国の姫君からのいきなりな通信は終わった。
全てを聞き終えて見終わって、全員が浦島啓太に目線を向けるが―――。
「カトラが第三高校にいるのは、知っていたのか?」
完全に無視して、隣にいるアンジェリーナに問いかける。
「ウン、タダ……こんな計画を練っていただなんて」
「ケンじいさんを日本に帰すためにも、何かは必要か……」
髪を掻いて少しだけ嘆息する浦島。
そうして2人して思索に耽っていたところに……。
「こういう会議は生徒主導で終わらせたいところだが、ことがここまで大きくなると私も出ざるを得ないほどだ」
部活連の部屋に入り込んできた人物が2人、一人は御老体である。ざわつく生徒たちは当然だ。
第一高校校長である百山 東が、ここまでやってきたのだ。生徒の自主性を重んじる。というか重んじすぎている先生がやってきたのだから……。
もうひとりは普通ならば副校長もしくは教頭である人間のはずだが、2科の教師である松岡雪姫であった。
「校長先生……」
「百山校長……」
会長と会頭の呆然としたような声を聞きながら、この後の展開を「予測」して、啓太は『本』を閉じながら向けられた視線を受ける。
「浦島君、シールズ君……君たちが九島烈を好かないのは理解している。私も大嫌いだからな」
意外な話……というわけではないが、十師族嫌いでも知られている校長の言葉に少しだけ当の十師族である『四人』ほどが呻く調子になる。
そしてから百山校長は一つの頼み事をする。
「だが、カトラ王女及び……モルモルのランバ国王などからも圧を加えられているのが、現在の日本の魔法師界の状況だ。頼む2人とも、一高のためになど戦わなくていい。
ただ九島 健という御老体の日本への帰還のために―――君たちのチカラで、戦って、勝って、そして……『未来』を掴み取ってくれ」
「頭を上げてください校長先生。健ジイさんの友人であり弟分だったアナタに、そこまで言わせては、もはや俺は何も言えませんよ……」
まだ学生の若造に頭を下げて、願い出る老人を見て心底困った調子で、言葉を紡ぐ浦島啓太。
「――――――承知しました。ですが、俺やアンジェリーナが戦って結果を残すことが、マイスターK9の帰還に役立つというならば、やはり」
「―――ソウイウコトなんですネ?」
「ああ、彼の帰還こそが……望みなんだ」
訳知りだけにしか通用しない会話。だが、結局の所そんな風に入り込めないのは、彼らも『他』を『区別』しているのではないかと皮肉げに達也は思うが……。
そうしていると雪姫先生は首脳陣に対して色々と物言いを付けているようだ。
「そもそも七草、十文字。お前たちは何故、アンジェリーナはともかく啓太まで選手に含めようとしたんだ?」
「雪姫先生までそんなことを言うんですか……?」
「司波達也のようにテストの成績とか納得できるだけのものを啓太は示していない。そして、お前の参加要請の理由が不透明なんだよ」
「え?」
「まさか、1科と2科の融和だのお花畑なことを考えているわけじゃないだろうな? 啓太はこの学校で外様中の外様だ。そんなヤツを内側に入れたところで
痛烈な言葉だ。だが真由美の狙いを看破していた雪姫先生の言葉は厳しい。
「そして、お前は分かっていないようだから言ってやるが、―――
「それは―――」
心臓を掴まれた気分だ。普段の真由美ならば『あり得ない』として特に考えもしなかった可能性だが……現実にいざ啓太を選手として登録して『上手くやった』可能性を、その場合のことを考えて妙な話だが十師族が危険を―――。
などと考えた時に、横から何かで頭を叩かれた。
「お前な。何でそこで逡巡するんだよ!! 雪姫先生が言っていること突きつけたものに悩んだ時点で、お前は駄目なんだよ!!」
どういうことだ!? と考えるも―――分からず、叩いてきた相手、渡辺摩利は呆れ果てるも、答える。
「雪姫先生はお前の覚悟を聞いているんだよ。試しているんだ。仮にそういう状況になったとしても、お前がそれを受け入れるかどうか―――はっきり言ってしまえば、お前は浦島にフリーハンドをくれてやれるだけの器があるかどうかを測られたんだよ」
「――――――」
その言葉に真由美は、絶句してしまう。
だが、一度口から出したものを引っ込めるわけにはいかない。例え相手が魔法師でなくても、多くの秘密を持っていたとしても、一高の為に戦わないとしても……そのチカラが人知を超えた、魔法師の常識を覆すものであろうと……少しでも伝えなければ、魔法師全ての命が火星人の手で刈り取られるかもしれないのだ。
「……改めてお願いするわ浦島君、新人戦男子アイスピラーズブレイクで出てくるだろう十師族の三高生……一条将輝を倒して、そして優勝してください」
苦渋の決断としか見えなかったが、言質を取ったことで、一応啓太もこれ以上のメンツを潰すこともあるまいとして矛を収めた。
「そういう言葉を最初っから言っていれば良かったんですけどね。まぁいいでしょう。担ぐべき神輿がそういう覚悟ならば、何もないですよ」
「―――ケータ……
「ルビが違うと思うんだけど……」
そんな啓太の嘆きにも構わず、リーナは啓太に抱きついてくる。
「シールズさんも出場してくれるの?」
「グランパの為に親戚の
九校戦に出場する理由としては、正直……一高首脳陣としては面白くない。
だが、バラバラな旗掲げてでも全員が前に進むというのならば、それを受け入れる胆力はトップには必要なのだ。
その言葉で一応は終わりへとなるはずだったが、それにストップを掛ける相手が出てきた。
「待ってください会長も会頭も! その男を九校戦の選手として登録することは受け入れられません!!」
「そうか。だったらばお前を外すだけだな森崎瞬―――納得が出来ない人間がいるというのならば、遠慮なく物申せ。いますぐ他の生徒を選抜するようだからな」
返す刀で抗議の声を上げた森崎を切り捨てた十文字克人の言葉。
あまりにも呆気ない言葉で、まさかそうされるとは思わなかった森崎の顔が青くなる。
「面倒な話を除けば、お前一人の穴ぐらいを埋めることはできるだろう。とりわけ、浦島―――お前ならばスピードシューティングでも優良な成績を収められるだろうしな」
「やったことがないからどうだか分かりません」
「マギステルの放つ『コモン・マジック』……サギタマギカは、七草の『魔弾の射手』よりも汎用性に長けたものだ。浦島、お前―――無詠唱でどれだけいける?」
「40本がいいところです」
「ウソをつくな。99本だろうが、それと無詠唱で矢を叩き込みながら、詠唱で300は生成出来るだろう」
雪姫先生の証言で、あっさりウソがバレた瞬間である。
だが、あのサギタマギカというのが、術者の近傍から放たれるならば、現代魔法における汎用性とは少々かけ離れるのだろうが―――問題はそこではないと思えた。
「あの十文字会頭……流石に浦島に対して贔屓が過ぎませんか?」
選考選手の一人、名前は知らない相手が弱気になりながらも、抗弁するのだが。
「意味が分からんな。極めて現実的な対処に終始しているだけだがな。そもそも、森崎。お前は何故、浦島が選手に選ばれることに不満なんだ?」
「コイツが努力をしていないからですよ! そりゃ実力はあるのかもしれないが、テストを適当でこなしているから150位なんて成績で落ち着いている! こんなやる気のないヤツを選手として登録するなんて認められない!!!」
その言葉を受けて―――啓太は……。
「凡そ4ヶ月前には、才能のあるやつならば自儘にやっても構わないとほざいていた男が、今度は努力ときたか。随分と変節が激しいな」
「―――」
その鋭く通る声で森崎瞬は一挙に心臓を掴まれた気分だ。これが過去の自分の発言を槍玉に挙げられて辞任に追い込まれる政治家なのだと理解した時には既に王手を掛けられてきた。
「お前は
「お、お前っ!!!」
だが、その見事な言葉の連ねに思わず吹き出す人間が多かったのも事実だった。
恥を覚えて赤くなる森崎。
つくづく思うことだが……。
(浦島の言舌はものの見事に誰かの急所を突くな)
詠唱―――というか口舌、口頭での『魔法使用』をしなくなった魔法師は、こういうことに疎いと思えた達也だが、マギステルである浦島の舌鋒は鋭い。
「覚悟と情熱がそのまま結果につながると信じているならば、それは甘い夢というもの。結果的にお前は俺の拳圧ではっ倒されて、ヨルダによってさんざっぱらやられたわけだ。指はひん曲がった糸束みたいになっていたしな―――つまり、才能あるやつならば何をやってもいいお前の言葉通りになったわけだ。まさしく因果応報の呪いだな」
「……だからといって、だからって……そんなつもりでは……」
苦しい表情の蝙蝠崎……ではなく森崎―――。
「いっそのことヨルダに五体不満足にされた状態のままだった方が、お前にとっては幸せだったか?なんせお前の信奉してやまない才能の極みに到達したものだ。嬉しかっただろう」
痛めつけられて幸せなわけがあるか。と反論することは流石に難しい。ここまで、人を追い詰めることが出来るとは、ことごとく言葉とは『呪い』であり、『魔法』であると思えた。
「ならば、お前は自分の魔法技能を伸ばそうとは思わないのか?」
別に森崎をフォローするつもりはないが、深雪が悲しい想いをしていることを感じてその言動を止めるべく、言葉を発した達也だが。
「全然。生憎ながら俺は
この魔法科高校において、とんでもない発言ではある……達也ですら魔法で身を立てたいと思う中、この男は……他を圧倒するだけのチカラを持ちながら、この調子なのだ。
「理論主席サマは、俺と同じ2科生の割には随分と魔法技能の上下に拘るよな。案外、キミと蝙蝠崎って似た者同士なんじゃない?」
「……俺は魔法師としての一般論を話しているだけだ」
一緒にするなとか反論したかったが、この場では抑えておくだけの理性が、いまのところ達也には働いていた。
だが、浦島は続ける……。
「そうかい。だとしたらば、俺はそういうのについていけないんだ。結局の所、才能の極みってヤツを見たからな。火星の裏側に人類居住のアルカディアを造りその上で、あまりある才能は太陽系銀河全てを知覚して、全ての知的生命体の負の感情を一心に受ける」
言葉を区切って、再度口を開く。
「そんな人間が、その上でやろうとしていることは、太陽系全ての知的生命を揺籃の眠りにいざなうなんて話だ。超越した者の行きつく先にイッてしまった人間の末路なんてものを知っているならば、そんなもの磨きたいとは思えないな」
思わず全員が沈黙してしまった。それは確かにその通り過ぎて、何も言えなくなるぐらいもっともであったからだ。
才能がある人間が善良で、だからといってそれが善行をするとは限らないのだ。
「その内……キミみたいな
「……それは、邪推の極みだろ……」
いつの間にか森崎ではなく自分にターゲットが移った。
「まぁそれは兎も角として、俺としては十師族の一条将輝を倒していければいいんで、他競技に出たくはないので、そこの変節すぎるコウモリ野郎の小物崎クンは、そのまま選手でいいっすよ。七面倒臭いので、そちらの理論主席サマと同じく俺の実力検分をやればいいんじゃないですか?」
その悪罵と嘲弄を混ぜ合わせた言葉だが意味合いは理解できた。
だが、誰が相手をするのか……。
「会長、会頭―――それならば、私が浦島君の相手を実力を検分します」
「深雪さん……!」
予想外の相手が立候補してきたことで、ざわつきがこれ以上なく部活連の一室に響き渡り、その中で啓太は、雪姫先生、アンジェリーナと共に再び『図鑑』のような本を開いて、それを見て―――。
―――コレ以上無いため息を三人して吐き出したりしていたのを達也は目撃した……。