「個別のキャビネットで現地集合でも良かろうに」
「ワタシもソッチが良かったかも―――とはいえ、少しは団体行動も必要じゃない?」
「だったら俺の隣じゃなくて総合主席サマの隣にいればいいじゃないか。俺は静かに暮らしたいの」
「フフフ、そういう訳にはいかないノ!!」
意味分からんと思いつつも、未だに自分たちが乗っているバスが発車しないのは、一人の生徒が来ていないからだ。
(セレブというのは、面倒なものだ)
そう考えるも、自分もお袋から『お見合い』をセッティングされたことが度々あったので、それ以上の講評は避ける。
反対に妹は自分の3倍以上もやらされていたので、面倒な話ではあるが、そういうことは考えないでおくことにした。
そんな風に家族のことに関して考えたからか、啓太はアンジェリーナの家族はどうなんだろうと想い、問うことにした。
「そういえばシールズのおじさん、おばさんは来るのか?」
「行きたいとは言っていたけど……
少しだけ曖昧な表情を浮かべるリーナ。
知らないわけではないが、どうやらアンジェリーナは、A組にいて少々、周囲の人間のお金持ちっぷりに浮いた思いをしている。
正直言えば、市役所勤めの父と専業主婦である母を持つアンジェリーナからすれば、そういった点では『合わない人種』ばかりとのことだ。
「滞在費用ぐらいは出したのに」
しかし、親戚に余裕があるのがいるならば、それを頼ればいいのに。
「ソンナことしたらば、ダディとマムが怒っちゃうわ。それとサラお祖母ちゃんも、ね」
「言われてみればそうか……」
アンジェリーナの家は結構、そういうことには五月蝿いのだ。別に清貧を以て良しとするわけではないが、自分で賄いきれぬことをあまりやるべからず。
つまり、身の丈以上のことをやるならば、覚悟を示せということだ。
そう考えると、こうしてアンジェリーナが日本に留学扱いでやってきていることは、シールズ家にとってギャンブルなのかもしれない。
などと……啓太が考えている一方で、アンジェリーナ・クドウ・シールズという少女が日本にいるのは、様々な思惑があったりするのだ。
そこには米国国務省や一度は断った国防総省など、腹黒い連中の毒が回っていたりするのだが……。
まぁそれはさておき―――。
「ケータ! 将棋指そっ!!」
「いくらケン爺ちゃんに鍛えられたからと、そう簡単に勝てるか?」
「
暇つぶしの為にバス座席に常設してあるボードゲームの類を起動させるのだ。
(飛車角落ちでも勝てそうかな)
健じいちゃんは孫に甘いからな。ワザと負けることもあったのだろう。
―――という啓太の思惑は、あっさりと覆されるのであった。
20分ほどして認識を改める。アンジェリーナの指し手はかなり厳しいものだ。
前は直情的な駒の動かしかたばかりだったのに、中々に先を読んで動かしてくるものである。
「むっ、強くなったな……」
「デッショー! さぁて勝ったら何か要求しちゃおっカナー?」
「賭けなんてしていないだろ? ほらよ」
「ムムッ!」
言い合っている間に、6手先までが読めた。とはいえリーナの駒がどう―――。
「ちょっとシールズさん、浦島君、ちょっといいかしら?」
その言葉を受けて二人は持ち時間時計を同時に停止。対局中に物言いを付けるだなんて、なんて無粋な……と想いながらも、私服の会長に対応をすることに……。
「なんですか七草会長?」
「イマ、
「後輩2人して、なんて塩対応……ええっとね。とりあえずこの私服を浦島君はどう思う?」
どう思うとか言われて接待方式で答えるか、それとも……と考えていたが。
「エサ撒きすぎな格好ですね。俺は興味無いですけど、食いつく男はいるんじゃないっすか?」
「Equal ビーアイティーシーエイチというフィーリングです」
正直に答えることにした。そういうおためごかしの言葉で偽ることは良くないと思えたからだ。
とんでもない文言を発する2人に、さしもの真由美も少しだけ言いたくなる。特に浦島の言いようは癇に障る。
「浦島君……流石にその言い方は、私もカチンと来るわよ。何ていうか本当に……冷めているわよアナタ!」
「生憎ながら、これが俺の性分なわけですよ。イヤならば、服部副会長みたいにアナタにメロメロな相手にだけ見せつけていればいいじゃないですか。俺は女という『いきもの』の面倒くささとか、厭な部分を幼い頃から見てきたもんで、女に幻想なんて抱けないんですよ」
その言葉と表情の冷めきったものに、真由美は少しだけ傷つく。
今の自分はそういう浦島の言う『面倒くさくて厭な女』であり、服部を惑わした
「浦島家は明治の文明開化以前から存在している名家の一つだ。関東一帯の大地主であり、はたまた多角的な経営で財を成している……そんな家の特徴とは『女系の当主』を据えているということにある」
「だからとことさら冷遇されてきたわけじゃないですけどね。とはいえ、まぁ……お袋・妹を筆頭に、俺は女といういきものにそこまで夢を見ないんですよ」
十文字のフォローのつもりなのか、そんな説明に啓太は補足しておく。別に虐待をされていたわけでも、妹と険悪なわけでもなく……ただ単にそういう家であるということだとしたのだが、違う部分が真由美の耳を引いた。
「え? 浦島君、妹さんいたの? てっきり一人っ子だと思っていたわ……」
「さいですか。まぁ別に構わないでしょ。他人の家の家族構成なんて、聞かれなきゃアレコレ言わないほうがよいのでは」
この情報社会において、そういった風な個人の口から漏れるものほど易い情報はないともいえる。
「ケータ、続きヨ!」
「ああ、そうするか―――」
将棋という思考の競技において他ごとを考えすぎるのはマズイのだ。アンジェリーナの求めに応じて再開させようとしたのだが……。
「浦島君、次は私と指さない? 当然、アンジェリーナさんが終わってからで構わないけど」
「とりあえずタマと指してください。場合によってはハンデを着けなければいけませんし」
その言葉に再び真由美はカチンと来た。
タマというのが、浦島の飼い猫ならぬ飼いカメであり、時々一高の校舎内を『飛び回っている』摩訶不思議なカメであることはとっくにご存知である。
更に不可思議なことに、実を言えばこの空飛ぶカメというのは、沖縄など南方地域や温暖な赤道付近の国家ではありったけ近縁種がいるのだが……。
(なんでこんな生物がいることを、私達は認識出来ていなかったのかしら……?)
子供の頃には父親から与えられた『動物図鑑』などを読んでいたというのに、こんな爬虫綱カメ目潜頸亜目リクガメ科亜種の『温泉カメ』なんて珍生物を知らなかったのか……そんな疑問を覚えながらも……。
「いいわよ! タマちゃん!! 如何に某特撮映画では地球の守護神のモデルであっても! しょせんはカメ!! 霊長類の知性に勝てるものかぁ!!!」
『みゅっ♪』
勢い込んで悪役ムーブをかます七草先輩に対して、丁寧に一礼をしてから会長の隣に座る市原の椅子の側の端末を操るたまご―――。
25分後……。
「負けました……」
3戦やって3戦とも『たまご』に勝てなかった会長の、震えるような投了宣言がバス車内に響く。
もう顔を覆って泣くような様子になる会長に対して、誰もが何も言えない。
「カメにすら劣る知性……」
ぐさりっ! 誰が放った一言かは分からないが、その一言が真由美を更に傷つかせる。
「むぅ……七草の棋譜は正直あれすぎるな」
「先々を見据えられていない人間なら当然では」
「将棋の結果だけでそこまで言われなきゃならないのっ!?」
十文字と啓太からさんざっぱら言われて真由美としてはとことん面白くない。大体、何故にカメがここまで将棋に強いのか?
このカメを操るものがどこかにいて、ソイツが―――などという、何処ぞの『最後のファンタジーの七作目』の仲間キャラの一人のような想像をした瞬間。
『ケイタ、トラブルだ。前方凡そ600m先、上り車線側の車に異変が起こっている。ドライバーは意識途絶、魔法が仕掛けられている』
浦島の頭上に現れる女性のホログラフ―――というには少しばかり実体感がありすぎるものが出てきた。
この美少女の外観を持ったホログラフデータが出るのは、今回が初めてではないのだが、それにしても……。
「そいつは穏やかじゃないが……ああ、あれか?」
『アレだ』
浦島啓太のつぶやきに応えるように、ホログラフが言っていたトラブルの原因が―――。
「運転手さーん。ブレーキランプ点灯させた上で念の為に停車した方がいいですよ。何か上り車線が危ないですから」
「―――おや、本当だな…ありがとう―――本車両はブレーキを掛けます。シートに深く掛けてシートベルトを着用してください」
幸いながら下り車線が混雑しているわけではなく、異常な走行をしている車両の存在にはすぐさま運転手の方でも気づけた。
万が一、という可能性を信じてしまうぐらい、とんでもないドリフト走行―――いや、ただのスピンなのだが……。
しかし、まさかそこから上下車線を隔てる分離帯を越えてこちらの車線に跳んでくるとは、流石に予想外ではあったが……。
車の制動はその前に効いており、後続の整備士たちなどが機器と一緒に乗り込んでいるバスも、こちらの停車に気づき止まるのであった。
すぐさまバス運転手が高速道路の交通警察隊に通信をする様子を見ながら、啓太は外へと出ることにした。
「浦島、どこへ―――」
「要救助者がいるかもしれません。っていうかいますし、まぁスーパードクターKじゃありませんが、何かの救護ぐらいは出来ますよ」
「アコ・イズミのカードはワタシが使うワ!」
「いや、俺が使えば『KAZUYA』か『ゴッドハンド輝』なみのことが出来るから、別に女物の看護師服になるわけじゃないから!」
余人には微妙に分かるようで分からない会話を繰り広げながらも、浦島とシールズは外へ出て横転して動かないでいる車へと向かうようだ。
「―――待ってくれ啓太、アンジェリーナ! 僕も行くよ!! 木乃香さまほどじゃないが回復呪法ぐらい僕も会得している!!」
その2人に遅れて吉田幹比古という古式魔法の使い手も同行を願い出るのであった。
誰もが唖然とするぐらいに、鮮やかな手並み。
というよりも……。
(浦島の警告が遅れていたらば、もっとひどい結果になったかもしれない……)
スピンして、こちらの車線に跳んできた車……それがどういう意味を持つのかは分からないが、反対車線の異常に誰よりも早く気づき、されど『絶妙のタイミング』で昨年度もお世話になったバス運転手である小泉氏に警告を放ったのだ。
(仮にもしもこれが遠隔での魔法の作用で、直前までこちらに跳ばすタイミングを測っていたとするならば……)
早すぎても駄目だったはずだ。そう十文字が考えた時には……。
「ミス・エックス、ありがとうございました」
その立役者たるAIに礼をするしかなかったのだ。
『礼には及びません。私はマスターであるケイタ・ウラシマの身柄を守っただけです』
「だが、そのお陰で俺たちは何事もなく―――そして、運転席にいたドライバーも無事に済んでいる」
『いいえ、無事ではありません……もはや旅立たれている様子です……』
「「「えっ―――」」」
横転した車の運転席から啓太が引っ張り出している様子は視えていた。マギステルの身体強化でドアを退けたのは見ていたのだが……。
エックスの言葉で見やると、三人が手を合わせて黙祷をしている様子だった。
・
・
・
「そ、し―――俺をいかさ―――たの、む……これい―――お、ようなも、を……」
男を運転席から引きずり出して、救助・救命活動をと思った時には……既に
(長期に渡って服毒させられた上での決行だったのか)
仮に今、救急車がやってきたとしても、彼はもう……。
末期の息で、車を跳びはねさせた人間がやったことは、遺言を自分たちに託すことだった。
同時に受け取った情報が正しければ……恐らく―――
「他になにかあるか、水が飲みたいならば」
「い、、、、んだ―――頼むよ。ウラシマの方……俺のような―――」
「しっかりしろ。おいっ!! だめだ!! もどってこ―――」
取り戻せない。横にしていた男性が息絶えたことは……どうしようもなく取り戻しが効かなくなっていたのだ。
「木乃香様の蘇生はある意味、啓太が『情報』を剥離させないでいるから可能なものだ。彼は―――『消滅』を掛けられていたんだよ」
「―――分かっている」
幹比古の言葉に返事しながらも、それでも嫌な気分を残して、そして黙祷を捧げてから、後続の整備車両の更に後ろからやってきた救急車と警察車両にあとはおまかせするしかなかった。
「
その前にアンジェリーナは啓太が、事故車両の『魔法使い』から受け取ったメモリに関して言いたいことがあるようだ。
「警察に渡すさ。既にデータは『はんぺん』がコピーしたからな」
「ヌケメないワねー♪」
「アンジェリーナ、それはあまり褒め言葉じゃないからね? 俺以外にはあまり使わないように」
「ハーイ」
そんな幹比古からすれば『バカップル』にしか思えない遣り取りをするティーンの男女だが、妙なことにこの2人は付き合っていないのである。
(約束の女の子か……難儀な女の子が啓太の心に居着いちゃったもんだ)
そんな友人の問題は幹比古にも関わりがあり、これが解決しない限り、自分と『カナコちゃん』の仲も進展しないというものがあったりするのであったのだ……。
限りなくどうでもいいことではあるが、そんな風なトラブルと幹比古のToLOVEるな事情を含みつつ、若干の遅れがありながらも……一高の九校戦メンバーは、富士の会場に到着するーーー。