「というわけでだ。浦島、シールズ。お前たちはちょっと違う人間と一緒になって行動しろ」
「違う人間って……別に俺は一人でも構いませんけど」
いきなり言われたことに、反論をしておく。なんというかそれはアレすぎるのだから。
「そう言わずに少しは他の魔法科高校の生徒とも交流してくれ。同時に一高の同級生もお前達のことを知りたいという気持ちなんだ。頼む―――」
渡辺委員長の言葉に少しだけげんなりとする。結局の所……自分を晒せということらしい。
(あほらしいな)
かつて立派な魔法使いとして、世界を変革しようとした男がいた。その男は迂闊だったのか、何なのか自分が担任として赴任した学園にて担当生徒たちに魔法がバレまくっていたという。
もっともそれ自体が学園の総責任者の思惑だったとは、雪姫から聞いている。
別になにか聞かれても何も言わなければいいだけだ。恐らく中には何人か知り合いはいるだろうが……。
「それじゃシールズは達也君と。浦島は深雪と―――少しばかり交流してくれ」
「男女じゃなくてもよろしいのでは? 総合主席サマは、一年の優秀組と回るのが筋なんですからアンジェリーナと一緒のほうがいいかと」
一応、自分はアンジェリーナの両親、祖父母から色々とよろしく頼むと言われているのだ。如何にも胡散臭いというか■葉の改造魔法師なんて、忌まわしいものとアンジェリーナを一緒にするなど耐えられない。
自分以外の男に気を許すとしても、『コイツ』だけは論外である―――という啓太の気持ちは色々と何か妙に誤解されているのだった。
「……お前の親族や気を許している相手の少なさには物申したいが……それでもな……まぁ司波は聞きたがっているんだよ。エターナルネギフィーバーに関して……」
「それだったら後で教えますけど、ただそれを受け入れるかどうかは別ですが」
「ええいっ!! 問答全てがお前有利で進む!! いいから黙って従え!! 下級生!!」
最終的には理不尽な先輩ルールの押しつけによって啓太とアンジェリーナは違い違いで行動することになってしまった。
解せぬ。
懇親会会場に入ると、やはり彼女は人目を惹くようだ。つかず離れずではなく思いっきり距離を離したい気分でいながらもエスコート役をやっておく。
三高のイケメン、誰だか知らないが、そういう男が司波深雪を見ていたが、どうでもいい。
「随分と過保護にするんですね」
「親戚だしな。昔っから何をするか分からん子だから見ていないと気が気じゃない」
実際、そういった監督の役割も含めて同居させられたのではないかと思うほどだ。
「キミの方こそ兄貴から随分と過保護にされてんじゃん。見ろよ。さっきから親の仇と言わんばかりにこっちを見てやがる」
「まぁお兄様ってばシスコンなんだから(棒読み)」
世の兄妹というのも色々あるもんだと思いつつ、適当にその辺にある食い物で腹を膨らましていく。
この四■の魔法師という厄の種と一緒にいるなど、正直勘弁願いたい。
(コウマはいい子っつーか、本当に善良な子なのに、コイツラからは血の匂いしかさせていない)
山梨のプロサッカーチームのユースに所属し、何だかその内、
「―――アナタ、十師族? それとも百家? 何かの優勝経験は?」
高圧的な物言いをする人間の言葉が耳に入ってきた。見るとそこには純日本人ではないだろう髪色をして顔立ちにもモンゴロイドではないものを持った少女がいた。
その少女の周囲には『2人ほど』知り合いがいたが……とりあえず、言わずに放置しておくことに。
「浦島君、そのローストビーフサンドとってください」
「あいあい、跳躍競技に出るのに体重大丈夫なのかと思ったりするけど?」
啓太が食べているのを見たからかもしれないが、このヒトが出る競技を知っているだけに、一応はその辺りを気遣ったのだが。
「肉と炭水化物をちょっと取ったぐらいで、どうこうなるほどヤワじゃないんですけど!」
「それならどうぞ」
啓太の気遣いは無用であったようだ。トングを使い小皿に6つほど取り分けてから司波深雪に差し出すことに。
そうして給仕か執事は言い過ぎだが小間使い的なことをやりながら、何となくやっていた時に件の集団がやってきた。
「え? あの方は……浦島君……?」
「キミに用事のようだな。対応してやれよ」
そうして対応をお任せしながら、啓太は腹を満たしていく。俺のことなどかまわず優秀どうし話をしてやがれという気持ちだ。
「さぞかし名家のご出身とお見受けするわ」
少しだけ緊張した面持ちでいる金髪が、啓太に対して居丈高にローストビーフサンドを要求した女子に自己紹介をする。
「私は第三高校一年、一色愛梨、そしてこっちが左から同じく十七夜栞、四十九院沓子、紺野カオラ―――どうぞよろしく」
後半2人―――沓子は自信満々に、『カオラ』の方は何の感情も見せない。真然とした様子で一礼をしてきた。
「えっ!? ええと……第一高校一年 司波深雪です。どうぞよろしく」
後半2人の内、1人に疑問を覚えつつも最後には普通に挨拶をするのだった。
楚々とした様子の『カオラ』に少しだけ驚き、そして――――。
「で、そちらの方は?」
別に司波深雪だけに興味を示しとけばよかろうに面倒なことにこちらにも自己紹介を求めてきやがった金髪。
ここで、『あっしなど名乗るほどのものじゃございやせん』などと旅がらす風に言ってやるのも一つだったが……。
「―――第一高校一年田中太郎です」
既にデフォルトとなった名乗りをした瞬間、殆どの一高生が、なぜかズッコケたり微妙な表情をしていた。
ついでに言えば三高一年2人ほどは、その名乗りを聞いた瞬間、膨れるような笑みを堪えている様子を見せる。
「あらぁ一般の方に平凡な名前の方なんですねぇ」
嘲弄を浮かべた笑みの後に朗らかに笑いながら、そんなことを言う一色愛梨に更に2人は堪えきれない様子を見せる。
そしてこの金髪は全世界の田中太郎さんに対して土下座行脚することは確実である。
「さぞや名のあるお方かと想ってお声掛けしましたの。勘違いでお騒がせしてごめんなさい」
更に吹き出しそうになる2人を見て、この子はキミらの友達じゃないの?とか半眼で問いたくなる。
「特に田中くんは、三高で言うところの普通科の生徒とお見受けします。選手かエンジニアかは分かりませんが記念として連れてこられたのだとしても、試合頑張ってくださいね」
一高の醜聞。いわゆる校章のあるなしでのことは内外に知れ渡っており、啓太の所属も分かっていたようだ。
「ええ、ありがとうございます。何せウチの先輩方はめっちゃ強いらしくて、俺みたいな『劣等生』のやらかした『失点』を取り返すぐらいはしてくれるらしいので」
啓太の放った一言。その裏に秘められた『真意』を一色愛梨は読み取った。
「ちょっ! 浦」
何かを言おうとしたらしき総合主席サマの口が開かれる前に……。
「そう、随分と我々―――他校は舐められているんですのね……ベンチにいるメンバーに甲子園の記念打席用意するかのごとく、そのような振る舞いをするとは……どちらにせよ。私達三高の決意は揺るがないので」
その牙をむくような言葉を最後に一色愛梨と十七夜栞は去っていくが……。
「2人とも、わしとカオラは、この『田中太郎』と少々話しておく!! 色々と聞きたいことがあるのでな!!!」
2人ほどは残る。別にいいけど。
「そう。あんまり話し込まないようにね」
言外に内部事情はバラすなと釘を指された沓子は、笑顔で首を振ってから―――十分に距離が離れた時点で……。
「久しいの、啓太!」
「よっ! あいっかわらずの
「あいや久しぶり2人とも、つーか君等薄情すぎ」
軽い挨拶を交わしながら、後ろで呆然とした顔をする総合主席サマを何となく察する。
「いやいや、失礼を先にかましたのは愛梨の方じゃし」
「流石に礼を失する行為だろ。それにどうせ。試合になればケータの名前は知れちまうぜ」
そりゃそうだが。浦島啓太は静かに暮らしたいのだ。
「名を売るならば太陽系宇宙ブッチギリ最強トーナメントで売りたいね」
そんなものがあるかどうかは分からない。だが、魔法世界でちょっとしたコロシアムにも参加したことがある啓太からすれば、こんな大会は「ぬるすぎる」。
「まぁせいぜい『お客さん』として観戦させてもらうさ」
その態度は流石に会話に参加していなかった司波深雪を苛立たせた。
「浦島君、そういう態度ってどうなんですか?」
「別にやるべきことをやっとけばいいだろうが。君が一々講釈たれるようなことか?」
別に啓太には愛校心も、一高に対して義理立てすべきものすらない。ただ、九島 健という御老体の帰国のためだけに戦うのだ。
「―――本心も能力も、名前すら隠して、全てを小馬鹿にしているアナタなんて本当に好かないわ」
「奇遇だな。俺も自分は隠し事ばかりしているくせに他人には真摯な態度を要求するような二枚舌オンナなんてキライだよ」
その言葉の後には、お互いの冷たい視線がバチッ!とぶつかり合う。
「エクレールへの態度とは打って変わって随分と冷めた女だな。本性はそっちか」
「猫かぶりすぎじゃな」
「ち、ちがいま―――」
司波深雪が慌ててカトラと沓子の言葉を否定しようとした矢先に―――。
『続きましてかつて世界最強と目され、二十年前に第一線を退かれた後も九校戦をご支援くださっております―――九島烈閣下よりお言葉を頂戴します』
誰が書いたんだか分からぬ提灯記事ならぬ提灯紹介。義勇忠孝欠けすぎなジジイを持ち上げすぎなその紹介文に思わず失笑を覚える。
少し離れたところでは、アンジェリーナも同じ気持ちだったらしく同じような笑みを浮かべていて―――。
―――やっちゃっていい?
―――おけまる(*´ڡ`●)
近くにいる司波兄妹にも構わず2人だけが分かるサイン。特にアンジェリーナは『てへぺろ顔』にOKサインを組み合わせてのそれなので。
―――斬魔掌・散―――
空間全体に指先から『魔』を切り裂く『斬撃』を放った。バレないように放ったそれの後には、ドレッシーな美女の後ろにいた老人の姿が全員に晒された。
だが、それは『別』であった。ジジイなど物の序ででしかない―――とんでもない『デラックス』な存在がいたのだ。
「「「「「うげっ!!!!」」」」」
啓太、リーナ、幹比古、沓子、カトラの驚いた声が重なる。それぐらい……ここにいるには、どうにも緊張しすぎる存在がいた。
「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する―――」
そんな老人が発する言葉など遠い。そして壇上を降りた
老人のもっともらしい演説……老人自身も、認識できていない事実……『彼ら』がいないことなど分からぬことから15分後―――『彼ら』が会場に戻ってきた時に、まるでその夢見心地から覚醒するように―――……時間を改変されたかのような感覚を今さらながら覚えたのが数名いた。
(―――なんだこの違和感? 最初は浦島が老師の精神干渉を切り裂いたと想った。いや、それは事実のはずだ。だが……)
その後の老師の演説、工夫をしろということも覚えている。だが……何かを『欠けさせられた』気分だ。
隣でサンドイッチを食べているシールズにも何の変化もない……。
(無いのか? 本当に?)
達也が違和感を覚えるも……全てが不明なままに懇親会は終幕へと向かうのだった。
途中……田中太郎名乗りをした浦島を嗜める三巨頭を見ながら、それでも拭えぬ違和感を覚えている達也は行動を起こすことにした。