解析をした部屋に招き入れた客人を前に達也は口を開いて報告をする。
「一通り、検証してみました。やはり、第三者の介入があったと見るべきですね。五十里先輩、確認していただけますか」
「了解。……さすがに司波君は仕事が速いね」
勧められた椅子に腰下ろしながら、五十里はジェスチャー混じりで感心を表現した。
「ですが、正直言えば『何も分からないことが分かった。』としか言えませんね」
意味が分からないという顔をする五十里 啓とその同行者である千代田 花音だが……五十里が端末を操り……達也の解析したものを見る。
「―――成程、確かに『何も分からないことが分かった』ね……」
「ちょっと啓、どういうことよ?」
恋人の得心した声に疑問を覚える千代田。それに対して頭の中で言葉を組み合わせながら五十里は口を開く。
「司波くんは現代魔法及び古式魔法……両面でこの現象を解析した。現実に水面は『陥没』したのだからね」
「それで?」
「この明らかに不自然な現象には『サイオン』も『プシオン』も感知されていない。実際、この解析画像と実際の画像……両面で、やっぱり反応が無いんだ」
画面における魔法干渉を示すグラフ数値は、摩利の浮かぶ水面を陥没させた現象ではなく、やはり摩利の魔法行使にのみ反応している。異常な話だ。
「マギステルとかの魔法の可能性は?」
「だとしても何かの『エネルギー』は感知されるはずなんだけど……。そもそも浦島君や雪姫先生の放つチカラの波動は、サイオンもプシオンも振り切れるほどに強烈なものなんだよ……まぁ感知されないような遅延魔法でもあるのかもしれないけどね」
それは達也も存じていた。あのテスト結果だけを信じるならばマギステルの使うエネルギーは、かなり巨大であり、マギクスのサイオンよりも大味なのではないかと思う。
「この現象を端的に言うならば、本当に水分子がいきなり消滅したとしか言えないんだよね」
何の波形も感知されない『異常現象』ということに五十里も頭を悩ませる。
「少し専門家を呼びましたので、入れて構いませんか?」
そんな時にドア前の電子モニターに2人の客人の存在を確認。先輩2人に許可を取って入室させた。
吉田幹比古と柴田美月である。
精霊魔法の可能性を疑って、この2人を呼んだのだが、はっきりいって徒労に終わってしまうかもしれない。ちなみにB組の吉田は選手でもあるのだが、とにかく……話を聞くことにした。
「ごめんなさい。その時、水面の方は特にーーーただ確かに渡辺先輩がバランスを崩して『七高』の人を受け止め損なう前に……何かの加護とでもいうべきものは見えました」
「加護?」
「柴田さんが見たものは『玄武』の加護だね。水難を弾くものだ。四方八卦の考えで『鬼門』である『北』を守護する玄武神は不意の災い払いを与えるんだよ」
「そんなものが摩利さんに……」
驚愕している千代田を見つつ、玄武という単語と玄武という四神の一柱の生物的特徴を思い出してーーー問う。
「浦島の仕業か?」
「さぁそれは分からないーーーなんて言うのは不義理かな。司波くんが言う通り、多分啓太が『たまご』を介してやったんだろうね」
昨日、外出した後にカフェで将棋を指しながら話している2人を見たと白状する幹比古。
「恐らくだけど啓太は、渡辺委員長が『水の難事』になると見たんだと思う。浦島家に限らずマギステルってのは、そういう風な『先の運命』が見えてしまうものだしね」
「そうなのか?」
「ちなみに言えば『とある伝説の魔法使い』は啓太がよく使うハマノツルギの持ち主に『失恋の相が出てる』『かなりドギツイ失恋の相が出てる』なんて初対面時に言ったそうだ」
嘘か真か知らないけど。と苦笑気味に付け加える幹比古の言葉に、随分と魔法使いは自分たち魔法師とは違う存在なのだと気づく。
脱線したことを認識したのか、改めて画面を見て意見を述べる幹比古は驚くべきことを言ってきた。
「まぁともかく僕の知見だけど、これは『魔法』『魔術』というよりもその真逆、『科学分野』に近い現象だと思う」
「どういうことだ?」
「僕が言えることはここまでだよ。ここから先は専門家に聞くべきことだ」
断言してのけた幹比古の目は誰かへの信頼に満ちている。誰かは、明白だ。
だが……。
(何故そこまで浦島啓太を信頼できるんだ……?)
理解できないものを覚えて、達也は懊悩するのであった。
……とはいえ、この案件に関しては執行部なども色々と興味を覚えていたようで、浦島たちなどは会長の呼び出しにあっていたのであった。
「以上で、明日以降の選手変更や戦略に関しては終わったわけだが……浦島、シールズ……渡辺を襲ったアクシデントに関してお前たちは何かを知っているんじゃないか?」
「先程の話で
「ナナセじゃないけどミユキもいるしネ」
推理は完璧であるはず。という補足をするも、十文字は納得していないようだ。
「まぁそうだな。七高の『CADの不調』からの『アクシデント』はそれで決着した……だが、渡辺の足元の不調に関してはまだ分からずじまいでもある」
「そちらも、それで決着させていいんじゃないですか。それがあっても委員長、『優勝してる』じゃないですか」
結局、種々のトラブルあれど椅子にいる女子の先輩は優勝してしまったのだ。
「そうだがな……何かスッキリしないんだよ。そもそもお前は私が水で難事に遭うと理解していたんだろ? つまりお前は何かを知っていたんじゃないか?」
大して鋭くもない推理ではあるが、別に全てを明かす必要もあるまい。
「……皆さんは随分と渡辺委員長を信頼しているんですね」
そんなわけで啓太は少しだけ『深い推理』を入れてやるのだった。
「? どういう意味だ?」
「このヒトが失敗をするわけがないという思い込みに捕らわれて、そこには何かの策動があるはずだという観念に囚われている……」
「何が言いたいんだ」
「視点を変えてくださいってことですよ―――」
少しだけ怒る調子を見せる摩利に、平淡に言いながら啓太は渡辺摩利がアクシデントに陥った準決勝のレースの動画―――その動画の『アングル』をオーバースピードに陥ったりした七高の選手ではなく、もう一人の出走者である三高 『水尾佐保』に変えていた。
端末を弄る手は、達也ほど早くはないがそれなりに達者であり、その上で必要最低限なことを入力していた。
「あれ? 摩利がボードを不安定にさせていた時に水尾さんもそんなことになっていたの?」
「更にコース全体に対してスキャンを掛けてみましょうか」
七草会長の言葉に答えずに、その映像をミニプレーヤー的なものに縮小して画面の端に置きながら、司波達也がやったような
「―――馬鹿な……!!」
あちこちが穴ぼこだらけの悪路のようになったコースの様子が出来上がっていた。
「ご覧のとおりです。要するに渡辺委員長が陥っていたアクシデントは、このコース全体で起きていたものであって、別にアナタだけが被害者だったわけではないんですよ」
その言葉に会議室にいた全員が沈黙。今まで自分たちはどれだけ視野狭窄に陥っていたのかとか、尊敬する兄の努力をムダにしやがってとか、まぁ様々な感情が渦巻いていたのだが……。
「どういうことなんだ? 浦島、お前は何かを知っているのか?」
最終的には、事態の根本を知りたがることになるのであった。
「とりあえずこのコースにおける陥没現象は場当たり的で通り魔的な……要するに『大雑把』なやり口です。俺に分かることはそんなところです」
「つまり、この水路の陥没現象を起こした『人間』は、このレースそのものを妨害したかっただけで、特別誰かを狙った犯行ではないってことなの?」
「七高のヒトは明らかに狙われたようですけどね」
「……何か知っているならば教えてほしい。またもや『フェイト・アーウェルンクス』関連なのか?」
「それは分かりません。ただ先に述べた通り―――この犯行は場当たり的で通り魔的なものです。こういうことをする人間というのは、総じて『幼稚』で『自分勝手』……つまり犯人は
それで結論のつもりなのか、浦島は退室しようとしたのだが……。
「ちなみにお尋ねしますが、この委員長の準決勝のレースの会場の観客席……特にCAD持ちの魔法科高校生たちの中に『水まみれ』になったヒトとか多量に出ませんでした?」
出る前に一つの質問が飛んできた。
「ええ、特にあーちゃんなんて『お漏らし』なんてからかわれて涙目で桐原くんをグーでぶっ飛ばしていたわ」
「ああ、成程。『そっち』によこしたわけか。どうもありがとうございました。おやすみなさい」
「
2人がいなくなったあとの会議室で残された人間は話し合う。
「何かを隠しているのは間違いないな。下手人に関してはかなり深く察しているんだろうが……」
「それを私達に教えないっていうのは、関わらせたくないのか、それとも何かあるのかしら……?」
「浦島は……ヨルダを倒すためならば、別に魔法師にどれだけ犠牲が出ても構わないそうだ」
十文字、七草が言った後にそんなことをポツリと摩利が言った言葉に、七草が激昂しようとした時に……。
「まぁアイツの場合は、そうだろうな……仕方ない。俺だって同じ立場に置かれたならば、そうなるかもしれない……」
十文字克人だけは理解を示すのであった。
「アイツは誰かの側に立つことがない『はぐれもの』だ。その生き方を責めることは出来ないんだ」
「……十文字君は浦島君に関して何か知っているの?」
「色々とな。何故ならば誰かの側に立つということは、誰かの味方でしかいなければならないからだ。誰にも靡かない『はぐれもの』であればあらゆる『しがらみ』もなく動けるだろうからな……」
その言葉に、全員は呻く。
彼は一高にいても一高に思い入れはない。
2科生だからと2科生に親しみはない。
だからと1科に従順ではないどころか反発する。
魔法師の中にいても魔法師の価値観に染まらない。
「何者かの側に立つことしか出来ない人間では務まらないことだ……創生の魔法使いを倒すことはな……」
言葉と同時に達也に視線を寄越す十文字は何かを悟っているようだ。
「お前にそこまでのチカラがあるかどうかは知らない。だが、浦島は理解しているんだろうな。お前が、魔法師だけの国でも作って魔法師だけの側に立った魔法師であることだけが唯一の価値観になりえるそんな国を作ることを……」
「………」
(馬鹿げているとか、現実味はないとか言わないんだな)
何も言い返さない司波達也に対して苦笑気味に内心でのみ言いながら、それでとりあえずは終わらせることにするのであった。
「まぁ今は浦島も、特に波風は起こさないだろう。今大会での
「そうであることを願うわ……」
そんな言葉でとりあえずは、今夜の会議は終了となるのであった。
色々と収まりきらないしこりを覚えながらも大会四日目―――新人戦は始まろうとしていた……。