大会四日目。
本戦は一旦休みとなり、今日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。
ここまでの成績は一位が第一高校。二位が第三高校三位以下は団子状態の混戦模様。一位と二位の差が100ポイント以上とここまでは一高が大量リードを奪っている。しかし、新人戦の成績如何ではまだまだ逆転もあり得る点差だ。
新人戦で大差をつけて優勝すれば三高にも逆転優勝の芽が出て来るし、逆に新人戦で優勝できなくてもポイントで大差をつけられなければ一高は総合優勝に大きく近づくことになる。
「そんなわけで、一年各生徒には奮起してもらいたい! 皆の働きに期待している」
その十文字克人の言葉に男子の殆どが、勢いよく応えるも……。
「むぅ。浦島的には今の演説はダメだったか?」
昔なじみと言える後輩の一人が平素であることが、少しだけ気になった。
「全員を前にして演説ぶっておいて今更ダメ出しとか意味ないでしょ」
一度出したものを引っ込めるような真似がどれだけみっともないか分からぬわけではあるまい。そういう視線を受けながらも克人は返す。
「この際だ。お前が聞きたかった言葉を言ってみろ。カッコ悪いかもしれないが、後年には参考になるからな」
本戦『つらら』で優勝を決めて余裕なのかもしれない―――こんな発言が出る辺りは……それがいいか悪いかは知らない。
「俺はこの居並ぶ連中の中でも場違い極まりないので、
言いながら、エックスに諏訪部―――ならぬ十文字克人の声をコピーさせた上で、言ってほしかった言葉を言わせることにした。
『―――遠慮はいらんぞ浦島。『貯金』は使うためにあるんだ。お前の失点ぐらいは後半本戦で取り返してやる』
その『創造された』言葉は……実は啓太はいらないのだが、他の一年連中……特に男子は切実に欲しかったりするものだった。
「むっ……中々に名言に思える。だがお前はどう返す?」
「―――では遠慮なく」
「いや、しかし……
「何を妙な寸劇をやっているのよ!!! とにかく、頼むわよ!! 特に男子ボードの初っ端は浦島くんなんだから!!」
「劣等生らしく気張らせていただきます〜〜」
手をひらひらさせながらの啓太の気合ない言葉に同級生一同は『巫山戯ている』だの『意識が低すぎる』だの言っていたりする。
中でも歯を食いしばる様子の七草会長を感じながら―――。
(勝てばいいんだ。爪を隠しながらさ)
既にアーティファクトは提出済み。その用途は知れないだろう。なんせCADではないのだから……ともあれ、ファーストゲームが自分というのは少々厄介だ。
(これで俺が余裕のよっちゃんで勝てば後続の連中は焦るんじゃないか?)
だからこそ必要最小限の出力のみで勝とうと思うのだった。
そんな啓太の胸中など知られないまま、試合は進行するのであった……。
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「応援も観戦も要らない。全員、北山さんにどうぞ、か……」
「負けると分かっているからそうなのか―――なわけないな……」
「達也さんは浦島君のことがキライ?」
言ってきた北山雫のCADの調整をしていた達也はムダごとではあるが、その言葉に……少しだけ考える。
魔法師の器物たるCADの調整中にこんなことを考えるなど明らかに良くないのだが、それでも調整自体に齟齬は発生していないのだ。
「……確かにファーストコンタクトがワーストコンタクトであった所はある。実際、アイツは偽名を名乗って、それを怪訝に思って探った俺を嫌うのは分かる」
だが、そこから先は『近づくな』と言わんばかりに達也を毛嫌いする様子にムカつきを覚えてくる。
―――お前のような非人間は嫌いだ―――
そういう態度が見え隠れするのだ。
更に言えば、達也の行いの全てに対して『底が浅い』『外道め』と言ってくる……。
これに関しては浦島というよりも浦島の関係者、雪姫先生などが主ではあるが、そういう所は浦島も共通している。
まぁつまりは認めたくない事実だが、達也は自分が優位に立てない相手がいることに不満があるのだ。
そいつが自分のことを少しは認めてくれるならば兎も角、そんな感じで友誼の一つも深めようとしないならば……そうもなる。
「―――嫌いではあるな」
認めてしまうことにするのだった。
ともあれ、ソレ以上は雫も突っ込まないでいたので、納得はしたようだ。
そんなやり取りがありつつも雫の試合と同時に浦島の試合も始まるのであった。
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男子バトル・ボード第1試合の走者として『田中太郎』ならぬ『浦島啓太』という名前が呼ばれた時には、他の3名の走者を少しだけ驚かせたが、それでも所詮は普通科、二科の魔法師として三高と二高の生徒は侮ったが、それでももうひとり九高の生徒―――古式魔法の家に生まれた人間は、浦島という『名前』に思い当たり『ぎょっ!』とする。
そんな変化を感じながらもスタートランプは順番よく点灯していき、全員が水上を走り出すのであった。
「四名ともに殆ど横並びか……」
「普通の二科生ならば、良くやっているとか感心するんでしょうが、アイツはそういう枠に居ないですからね」
啓太が如何に『応援・観戦! 一切無用!!』などと言った所で、どこの学校でも天の邪鬼はいるわけで、男子の本戦出場組は、こちらを見に来たのだった。
十文字の言葉に桐原が考えつつ、それを見ていたのだが……。
「何とも地味な試合ですね……」
「まぁそうだな」
服部の言葉に、十文字もそれぐらいしか言えない。順調に走り、順当にコース踏破を行い、それなりに妨害を仕掛けてそれに対抗していく……。
突出した実力者であれば、何かのとんでもない手段が放たれるだろう。
試合巧者であれば、何かの策が他の三名を縛り付けるだろうが……。
何も起こらない。これならば北山雫の試合を見て司波達也の技術でも見ていた方がいいのではないだろうか……。
そんな気持ちを抱かせながら一周目を終えた……再びスタートラインでありながらゴールラインから二周目―――となった時に変化が起きる。
「なんだ浦島が加速したのか?」
急に横並びの列から10mほど先んじて走る後輩の姿に、疑問が出る。
だが、良く見れば違う……。
「違うな。他の三名が水路を進むのに難儀しているんだ」
「「「えっ!?」」」
目に見えてハッキリと分かることではないが、それでも分かったのは他三名が難儀する水路を浦島は通常通りに進んでいるわけだ。
「うっしゃー!!! GOGO!!ケイタ!!!」
「「「「「GOGO!!! マスター!!」」」」」
自分たちから少し離れたところでは『私設浦島啓太応援団』が、そんなエールをしているのだった。
ちなみに内訳は、人間1人にAI1人にハムスターのような存在が7匹と亀が1匹である。
(魚類のような鱗を思わせるあのグローブと恐らくマギア・エレベアのコンボがアレを成しているのだろう)
詳細は分からないが、浦島に対して持っている知識を総動員してそんな風に結論づけた……。
そうして、その付かず離れずの距離を保ちながら……三周目を1位で終えたのは浦島であった。
「加速しようと思えば、いくらでも加速できたのだろうが、天性の反射神経と柔軟さで、必要な出力を必要なだけ用意するというよりは、あえて爪を隠すことを選んだようだな」
「じゃあ浦島は試合をコントロールしていたっていうんですか?」
その言葉に服部は本当に驚く。確かに2科生としては特異な能力を持っているとは知っている。マギステルであることも存じている。
だが、それでもまさか
十文字の舎弟(2年組)が、ごくりとツバを飲み込んだ。
「おかげで敵対した者は拍子抜けする──そして拍子抜けしたまま、なんで自分が負けに追いやられたか納得できないまま敗北することになる。学校や魔法師の界隈では評価しないだろうが……」
決して克人も嫌いではないし、人によっては好むだろう。
だが克人の周りにいるむさい後輩達は意見を異にする。
「ですが会頭……見方を変えれば少々、無情に過ぎませんか?」
「そうですよ。要するにいつでも勝てる状態だっていうのに、全力を出さずに生殺しみたいなやり方……俺は好きません」
服部と桐原の言葉に少し考えるも。結論は変わらなかった。
「別に好き嫌いでこの大会が行われているわけじゃないしな。そして、我々は基本的にそんなものだ」
「え?」
「―――『魔法師は対称戦争とは無縁な存在だ。』そんな言葉を聞いたことはあるか?」
それは軍や警察……治安維持の分野ではいつでも聞く言葉である。それ関連に進もうとする学生たちでもよく聞く標語だ。
「基本的に魔法師は多くの軍事兵器を無効化出来る存在だ。まぁ個人個人でチカラの強弱などはあれども殆ど生身で軍用兵器を無効化出来る存在など、悪夢以外の何者でもないだろうさ」
相手にもこちらを殺すことが出来る手段が存在している。相手と自分とにまともなケンカが成立しないなんて戦いは魔法師では当たり前なのだ。
それを『当たり前』と思う感性こそが、実は一番『危険』なのだとも克人は思っていたりする。
「魔法師を害するものは魔法師のみなんて話もあるぐらいだ」
「けれど……」
それでも言い募る桐原だが。
「少なくとも売り言葉に買い言葉程度で、ほぼ丸腰の相手。普通の竹刀を相手に高周波ブレードなんてものを発動させる男にだけは浦島も講釈されたくないだろうさ」
「――――――」
克人の言葉に桐原も押し黙るしかなくなる。あの一件が全てではなかったかもしれないが、それでも……ヨルダが憑依した原因に桐原武明という男子がいたのは間違いなかった。だからこそ、彼と壬生沙耶香は既に関係が色んな意味で切れていたのである。
「何はともあれ後輩が勝ったんだ。まずは祝福してやるのが筋というものじゃないか?」
アヤ付けるというならば、その後でも良かろう。そう言う風に後輩を窘めてから拍手をして克人は後輩の勝利を祝うのであった。
結果から言えば、その日―――バトル・ボードの男子で予選を突破したのは啓太のみであり、他競技では一応男子シューティングで準優勝を決めた森崎瞬ではあるが、優勝を決めた吉祥寺真紅郎という男子には
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「で、だ。そういった風な女子陣のバックにいるエンジニアの云々に関しては今はいい……問題は、一色に『田中太郎』と名乗った男子に関してだ」
暗い話題の後に少しの話題転換。三名全員が突破できるはずと踏んでいた男子バトル・ボードにおけるダークホースと言えばいいのか、実は
「―――浦島 啓太か……。なんというか中途半端な名前だな…」
「おいコラ。マサキ、それ以上は良くないぜ」
「啓太は、かな――――り気にしとるんじゃからな!」
予想外のレス。そして今日に至るまでの2人の女子の行動から関係は読めた。
「……2人は浦島君と知り合いなの?」
偽名で自己紹介された一色愛梨としては、何かいらつくもの、むかつくものを覚える。自分を罠に嵌めるために、あざ笑うためにこんなことをやったのではないか、とかそういう気持ちになる。
更に言えば自己の実力を隠すためにワザと2科生の制服を着ていたのではないかとか様々な考えが出てくるのだ。
「まぁそうだな。アタシが『南国の姫』であることは、アイツの何代か前の爺さんの関係とかでとっくにご存知だ」
「ワシは、まぁ色々じゃな……ただ『浦島家』は古式魔法師の界隈ででもかなり知られた家だとは言っておこう。ソレ以上はちょっと話せんがな」
外国と自国の関係を言われたが、外国は周知の事実ではあるが……自国でも、そんな家が存在しているなど知らなかった。
別に日本の魔法師だからといって、全国津々浦々の全てのそういうことに通じているわけではないのだが……四十九院沓子という三高でも有名な「のじゃロリ女子」が、そこまで言うならばかなり巨大な家だろうに……何故知らなかったのか。
疑問は多いが、ともあれ浦島に負けた将輝の同級生は、何故負けたのかの理由が知りたいようだ。
「ふむ。これは啓太の魔法を知っているわしらじゃから言えることじゃが……」
「あんまり
魔法師の不文律を侵すのか? そういう警告に三高の会議室にいる2人を除いて全員がすこしだけ呻いた。
「だが、アタシも三高の生徒だからな。これ以上、自校の傷が広がるのも少々無情に思える」
「だから言っておくとするかの。啓太が使った『装備』を再確認しておくことじゃ」
その言葉を受けて比較的冷静だった吉祥寺真紅郎は改めて確認する。映像の中で彼が使ったCADを、あのモンスターエンジニアと同じような……同じような……。
「ど、どういうことだ!?」
「どうしたジョージ!?」
「彼は、浦島啓太は―――――――CADを使っていない!!!」
その言葉を受けて全員が改めて映像を見る。個々人の端末で見ると……。
確かに汎用型も特化型も使っていない。せいぜい、特殊な形状をした手袋をしているぐらいだが……こんなCADはないし、何よりそれを操っている様子もない。
「啓太があの試合で使ったものは、この手袋を除けば全ては己の身一つのみで魔法を行使した―――そういうことじゃ」
先程は、デバイスの凄まじき技術力を論じていたが、今度は、己の肉体一つを原資にして複雑な術(?)を行使している存在に戦慄を抱くのであった……。
時代に逆行したイレギュラー、それを前にして誰もが驚いていたのだが……。
「ちなみに、浦島は……し、司波深雪さんとどんな関係なんだ!?」
「安心しな。カレカノな関係じゃないのは確かだ」
「寧ろお互いに毛嫌いしている印象じゃ♪」
そんなどーでもいいことを気にする一年リーダーであり北陸を代表する魔法師の長男に少しだけ脱力するのであった……。
その間…浦島啓太を睨むように見ていた一色愛梨に誰も気づくことは出来なかったのである―――。