魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.36『新人戦二日目』

九校戦五日目、新人戦二日目の朝。

 

何となく試合会場周辺を歩きながら身体を解していた啓太はふいに欠伸をするのであった。

 

「ズイブンと眠そうね。どうしたの?―――って話は聞いているワ。なんで呼ばなかったの?」

 

そんな様子は隣にいた少女に目ざとく見られたのであった。

 

「いや、同級生にお呼ばれしていたキミの邪魔するのもどうかと思って、まぁオリジナルの『蜘蛛』だの『ピエロのペーター』なんかは、出てこなかったんだ。あんまり気にすることじゃないよ」

 

その言葉に一応は納得してくれたアンジェリーナだが、しょせんは一応でしかないのだった。

 

ともあれ、今日からは遂に彼女も出陣となるわけで、組み立てられつつある櫓を見ている。

 

「ケイタは、どうやって戦うの?」

「フツーに戦うさ。当然、E・N・F(エターナルネギフィーバー)は使わないよ」

「ソレは幸運なことネ……」

 

とはいえ、爪を隠しながら戦うならば……ファイトプランは既に立ててある。

 

情報強化で全ての氷柱を防御しながら攻撃をする……そんな器用な真似は『劣等生』である啓太には出来ない。

 

だからやりようはあるのだ。

 

「ワタシとしては、もう少し自分を出してもいいと思うワ」

 

「それはやめとこう。やりすぎれば妙なホームタウンディシジョンが、『魔法師』側からかかるかもしれない……この状況こそが、あのジジイに対するカウンターに繋がるのさ」

 

「陰湿な気もするけど……そういうのもアルのネ」

 

その結論に対して『箱入り娘め』と少しだけ皮肉を感じつつも、少しだけ補足をしておく。

 

「ジャッキー・ロビンソン、シャキール・オニール、大谷翔平……キミの母国でもそういう風に『抜きん出た存在』を抑えつけようとしても抑えられなかったんだ―――多様な国の人種が多様な文化 価値観を認めて戦うプロスポーツリーグでも、過去にないタイプが抜きん出ることを許せぬこともあるのさ」

 

我が国(マイホーム)の悪習だワ」

 

「だからこそ……それでも、合衆国で魔法師の『大谷翔平』になったケン爺ちゃんのことを認めさせなければならないのさ」

 

「ケイタ……」

 

潤んだ瞳を向けてくるアンジェリーナを見てから決意を固める。

 

その為の生け贄……口汚いが、そういった『存在』は既に選定しているのだ。

 

―――イケてるお前がその対象だ―――

 

という後ろ向きすぎる決意は……集められた先でのことで少しだけ頓挫する。

 

「意味分かんないっす」

 

男子の怖い先輩方から因縁を着けるように言われて啓太としては、『なにいってんだ。こいつら』という想いしか抱けなかった。

 

「俺は『劣等生』らしく『全力』で戦っていますよ。惨めに這いつくばる姿なんて見せたくないから必死でがんばっているってのにひっどい話だな」

 

その言葉に、こういう下の立場を利用してモノを言う醜悪さを認識した男子上級生たちだが、それでも反論の『理』としては弱くとも言っておくことにするのだった。

 

「お、お前なぁ……! だって!! 他の人間たちは必死で戦っているってのに、あんな生かさず殺さずな状態に持っていかなくてもいいだろう!?」

 

「それは俺の戦略上の考えだ。何もいちいち野良犬・喧嘩犬みたいに『俺は強いんだ。最強なんだ』なんて誇示したくないだけだからああしているんですよ」

 

その言葉に、そう言われたならば服部(ダリル)としても、反論の言葉が弱くなる。

確かに、個々人で試合をどう戦っていくかというゲームプランとでも言うべきものがある……余計な警戒を他校に抱かせないためならば、そういうのはある。

 

ある意味では……戦うものとしては、啓太の方が正道なのだ。寧ろ、司波達也のように目に見えて異常なものを見せている方が変なのだ。

 

「ちなみに言えば理論主席サマの異常な技術力は三高でも議題にあがって、あちらのリーダーエンジニアと一条君を驚愕させて警戒させていたそうですよ」

 

えにっきを使わなくても目の前の上級生たちの頭に理論主席である司波達也が思い浮かんだのを察した啓太が、そんな爆弾を投げつける。

 

「むっ、四十九院やカトラ王女から聞いたのか?」

 

「―――――まぁそんな所です。爪を隠さず振るいたいだけ振るって気ままに相手を斬り刻んでいれば、無用な警戒心と恐怖心を呼んで窮鼠猫を噛む状態になると思いますよ」

 

少しの間を置いてから十文字の疑問に嘘をつきつつ答えた啓太。もたらされた情報は、ざわつきを全員に与えていた。

 

「そんな訳で偽名使い(フェイカー)の俺まで、異常な術者だとか思わせずに、戦わないとどんなことになるか分かったもんじゃない」

 

「けれど浦島君だって、このままいけば三高の一条君と戦う……」

 

そんな啓太の戦略に噛み付くは女顔の先輩。

名前は知らない。なんかマギア・エレベアに興味を持っていたことを思い出す。

 

「まぁその際は、ちとばかり『違う手札』(カードチェンジ)を使うしか無いですね。それだけですよ」

 

「―――勝てるのかい?」

 

「あんたらが妙なアヤ着けなければ勝てるんじゃないですか、皆さん勝ちたいんでしょ?総合優勝したいんでしょ? だったら味方撃ちなんてヒマなことやってる意味あるんですかね?」

 

もはや沈黙せざるを得ない。何のために勝利をしたいのか……それぞれで違うならば、そこは呑み込めとするのだった。

 

「ある「わるいまほうつかい」が言っていたことですがね。

―――人の凄さというものは与えられた手札では決まらず。手にした札で何をするか、どうするかで決まる――― だったらば……」

 

いちいち、その手札を開帳しなくてもいいはずだ。

 

司波達也とは真逆すぎるそのやり方は、確かに戦いに挑むものとしては『正しい』としても、どうにも隠しすぎではないかと思うのだった。

 

「俺は自分の手札が、何の意味ももたない『役なし』(ブタ)になることを願うんですよ。チャーチルじゃないが、『私はブタでありたい』。それだけです」

 

その意味を理解できないだろうが、それでも啓太は『トクベツ』でありたくない。

ただひとりの女の子。求めている子にとって『特別』であるというのならば……。

 

 

それは自分の人生に意味をもたせられるのだから……。

 

 

 

「ええと、これでもないし、これとこれだ!!!」

 

アシスタンツを軽快とは言えない様子で操り何とか、あたふたと慌てて魔法を発動させる様子を見て『憐れみ』すら覚える。

 

バトル・ボードでは何とか勝利を拾った様子の魔法科高校の劣等生……まさしく憐れみを覚える弱い相手だ……。

 

『ポケット』に時々手を入れながらもアシスタンツで自陣の氷柱を強化する様子。あまりにも弱い情報強化であり、六高 星野 哲也の魔法ならば難なく壊せるものだ。

 

(余裕というほどではないが、強烈な術を使って後の試合に影響を出す必要もないだろう)

 

安牌な戦いで勝ち筋を打っていくのみ。正しくラッキーな限りだ。

 

「うわっ!! このっ!!!」

 

焦った所で情報強化を強めることも出来ないだろう。嘲りながらも一高 浦島の氷柱が2本砕ける。

 

その様子に強烈な歓声が上がる。

悲鳴すら上がる様子は、正しく勝利の歓喜だ。

 

このままパーフェクトを目指すことも出来るだろう。

 

そうして星野は……『浦島が目を向ける』氷柱のみに目を向けて、そして五本目を砕いた所で……。

 

盛大なブザーが鳴り響くのを聞いた。隣の試合のブザーか……。

 

「終了です!! 星野選手、CADの読み込みを止めなさい!!」

「え……」

 

試合の監督委員から大声を言われて気付かされた―――。

 

『試合終了!! 勝者!! 一高 浦島啓太!!」

 

―――自分の氷柱が全て砕けていることに……。

 

「―――ジャスト3分(さんぷん)だ。ホットな悪夢(ユメ)は見れたかよ?」

 

どこからか出した丸メガネを掛けながら真ん中クイッ!をやった浦島の様子。そんな声は聞こえていないのに、そういった風なポーズが見えない浦島啓太は―――。

 

「ふぃ〜〜。なんとか勝てたぁ……」

 

などと額の汗を拭う様子を見せていたのだった……。

 

 

「心臓に悪い試合ばかりするわね……」

 

テントの中でその試合の様子を見ていた一高上級生の中でも真由美は、大きなため息をつかざるを得ない。

 

「だが勝ちは勝ちだ。しかし、多くの人間は『ただの加重圧力魔法』が運良く掛かったと見るだろうかな?」

 

それに対して克人の方は特にそこまで懸念などは持たずに、そう感想を出してくる。

 

「どうかしら……ただ、無音拳はただの奇襲戦法じゃなかったってことだけは分かるわ」

 

啓太のやったことを説明しきれば、かなり煩雑だ。

 

啓太が試合開始直後、ポケットの片方からアシスタンツたるCADを取り出すと同時にもう片方の手では、恐るべきことに……『2つのチカラの合成』という作業が行われていたのだ。

 

五本の指と掌を用いて極小規模な『宇宙』を作り上げた啓太はそれを用いて豪殺の圧を打ち出して六高星野の氷柱の真芯。12本全てを完全に『居抜き』にしていた。

開始30秒時点で既にシロアリに食い尽くされた廃屋の柱も同然にしていたのである。

 

縦列に並ぶ相手陣の氷柱に真正面から貫通するようにそれが出来たトリックはまだ不透明だが……ともあれ、その後は如何にも『劣等生』らしい術式展開で防御しつつ、単一の加重魔法、移動魔法だのランダムに発動させていけば……例え『劣等生』の魔法でも、その重量1.83トンの氷柱を破壊することは出来る。

 

「おまけに、アイツが懇親会……公衆の面前で自分は『劣等生』などと認めたことが効果を発揮している……」

 

「六高の星野君はナメていたのかしら?」

 

「ああ、それゆえ自陣の異常に気づけていなかった。同時に劣等生らしい『術式』の展開に目を奪われて―――完全に視線誘導されていた。攻撃だけに意識が集中しすぎていたんだ」

 

克人の『ヤツはミスディレクションしていた』という言葉に、何故か真由美は、いないはずの『旦那様』のことを考えて、妄想を打ち消しつつ……少しだけ考える。

 

「だが、これは俺たちが『多少』は、浦島の術法、技法を知っている人間だからこそ分かることだ。他の人間たちはラッキーなヤツ、フロックゲームとして見るだろうな」

 

しかし、聡いものであれば『何か』に気付くはず……確かに星野の防御行動がお粗末であったとしても『単一の系統魔法』で、1.83トンの氷柱が砕けるなどあり得ない……として、本当に気付くものがいることを願う。

魔法科高校の中に知恵者がいることを願う……一高の会長にあるまじき思考になっていくのであった。

 

 

「くそっ……俺は普通に戦っているつもりだったのに、ちゃんと魔法を放っていたのに…いつの間にか俺の方の氷柱が砕けて―――なんで負けてんのかわかんねェっ…!!」

 

「ドンマイ、ドンマイ!! 次に活かそう!! 勝負は時の運なんだからさ!!」

 

将輝の前の試合―――つららの2回戦第4試合。浦島と戦った四高の選手が顔を手で覆って今にも泣きそうになっていた。

エンジニアに肩を抱かれ慰められながら出場前の通路に戻ってきた様子を見ながら……あの一回戦、そして直近の二回戦での戦いは見れていないが、浦島には何かがあるのではないか? と少しだけ思う。

 

(ヤツの普通科という経歴に油断しているだけじゃ説明はつかないよな……)

 

何だか狐に化かされている気分になりながらも、今夜は親友であり相棒であるジョージと共に浦島の解析をすることを決意するのであった……。

 

 

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