選手数三百六十名、技術スタッフ七十二名。
作戦スタッフを連れて来ない学校もあるものの、選手団は九校で合計四百五十名を超えている。パーティー(宴会でも可)ならばこの人数でも賄い可能だが、大会期間中毎日宴会というわけにもいかない。
朝食はバイキングで早い者から順に済ませていく形式、昼食は仕出弁当を各学校の天幕や作業車、あるいは部屋に持ち帰って食べるのが基本、夕食は三つの食堂を学校別に各一時間三交代で利用する決まりになっている。(学校別になっているのは作戦の漏洩を防止する為)
実は、この夕食の時間は、自校のメンバーが一堂に会する一日で一度の機会。 一時間の夕食時間は、その日の戦績に喜びと悔しさを分かち合う時間でもあった。
そして今晩、第一高校の食卓は、見事に明暗が分かれていた。
暗は、一年生男子選手が集まった一角。
明は、一年生女子選手が集まった一角。
そして女子選手の集団の中に、2人の男子が紛れているのだが、その様子は対称的であった。
一方はアレコレと色んな女子から話題に出されたり、話しかけられているのだが。
一方は我関せずでメシを食らっているのだった。
この2人は男子の食卓から追い出されたようなものである。
そんな一方、食事に集中している人間は……。
「ケータ、あーん♪」
「そういうのやめろよ。こういう場では……」
「イイじゃない。アナタだけなんだから男子選手の中では、成績残しているノ。玉座にてガールの歓待を受けなさい! ハンチョウのように!」
「ハンチョウは、そんな風な絵図なかったぞ」
そのやり取りに曇天のようだった男子の一角が更に厚い黒雲のようになる。その中でも、啓太と割りかし近い人間である吉田幹比古も苦笑気味である。
結局の所、今日行われた競技種目であるクラウド・ボールとアイスピラーズ・ブレイクにおいて男子勢で戦果をあげて、生き残っているのは後者に参加した啓太だけである。
(情けないというよりも、勝負運にすぐれていないんだろうな)
どうでもいいなと思っていたらば、理論主席サマのヨイショを一通りやって飽きたのか、遂に矛先が啓太にも向き始めた。メシぐらい黙って食えないのかと思いつつも、とりあえず顔と名前が一致している明智が『何故、勝てたのか?』と聞いてきたので……。
「十文字会頭が『適当なとこで負けて全然OK♡』と言ってくれたからな。そのマインドがいい方向に結果を導いているんじゃない?」
論点を誤魔化すのだった。明智も、質問の言葉を間違えて訂正しようとした時には……。
「いや、待て浦島。俺はそんなことは言っていないぞ。確かにどんな言葉で気合い入れてほしかったかは聞いたし、創造された言葉はそれなりに納得したが……あとなんだ『♡』って、そんなもの着けた覚えはないぞ!」
「俺なりに会頭の厳ついイメージを丸くしてあげるイメージアップ戦略だったんですが……お気に召さなかったみたいで申し訳ないです」
三年の集団からやってきた十文字克人の必死な言葉で、明智など有象無象の質問は遮られたのであった。
「―――」
一人、その様子に不愉快さを覚えたのか中座する男が出た。蝙蝠崎だ―――いや、違った、森崎だ。
(ご飯を作ってくれたこのホテルのシェフたちに失礼な男だな)
出ていくならば、用意されたご飯を全部食ってから出ていけというものだ。あえて言う必要もないのだが……。
「まぁ明智さんの言いたいことは分かる。ただのラッキーゲームだったんだって、まぐれ当たりが続いたんだよ。理論主席サマみたいに何か驚愕の技術力が発揮されたわけじゃないよ。それは見てるから分かるでしょ?」
作り笑顔で、思い出すように、諭すように言う。
「そ……そうなのかもしれないけど……」
「そしてマギステルマジックも使っていない。エターナルネギフィーバーも、アーティファクトも、見たまんまだよ」
「むー!むー!! なんかやなかんじー!!!」
ふくれっ面で身のない抗議をする明智に対して特に何も思わず、用意されたご飯を食べる。
「けれども他校から何かズルをしているとか思われたらば……どうするの?」
「そもそも『現代魔法』なんていうものが、社会全体から見りゃ
言ってきた北山が、無表情のままに不機嫌を溜め込む。何を言っても揺るがない啓太は、はぐれものの中のはぐれもの。
史上最強の反逆者と言っても良い。
「浦島君……そんな風にはぐれてはぐれて、それでカッコいいと思っているんですか?」
「カッコいいかどうかは知らん。ただ単に面倒事を避けたいからそうしているんだ」
そんな啓太の態度に噛み付くは司波深雪であった。
怒りの形相を見せる司波深雪だが、啓太は全く怖くない。
「第一、俺がこうしているのは君のせいなんだがね。総合主席サマ」
「―――どういう意味ですか?」
いきなりな『お前が犯人だ!』呼ばわりに、深雪としては色々と困惑する。
「あの選手選考の際にキミ相手に戦った。その際の反応からして、マギステル・マジックを公然と使えば、どうなるかなんて分かってしまった」
「ナンセ、総合主席であるミユキが『ほんぎゃらあっぱぱしにさらしゃんせー』だモノ」
その際のことを思い出して羞恥心で真っ赤になった司波深雪だが
『ほんぎゃらあっぱぱしにさらしゃんせー!!!』
立体映像でその際の様子を見せてきたことで悶絶寸前の頭を抱える司波深雪。
しかもリピート再生である。混乱状態の司波深雪の姿が繰り返しである。
穴があったら入りたい。そんな気分なんだろう。
「だ、だって……私は……なんで―――」
画面の中の彼女と現在の彼女が――――――同じようになる。
「おまけに君が敗北した瞬間、エターナルネギフィーバーを放った後の観戦者全員の表情ときたらば、まるで俺の勝利なんか信じられないというものだったしなぁ」
次いでエックスが再生したのは、その際の外野席の面子の表情全てだ。例外を除けば誰一人として、啓太の勝利を喜んでいる様子はない。
というかエックスは知らぬ間に色々と撮っているものだ……。
「まぁ俺のような『はぐれもの』のことなど構わずに、そちらはそちらでヨロシクやってなさいよ。知らぬが仏。言わぬが花ともいうだろ? 分かんないもの、知らなくてもいいものを無理に理解しなくても、あれこれと物言いばかりつけなくていいんだよ」
その満面の笑顔のもとでの言葉に全員が微妙な表情をする。あの司波達也ですら、そんな顔をしているのだから痛快な気分だ。
「―――話し込んでいないで次のディナータイムの学校が来る前に、全員腹を満たしておけ。楽しくわいわい喋るのもいいが、食事
そんな注意であり『場』を閉ざす克人の行儀の良い言葉が放たれて、全員がとりあえずは飲食を再開する。
……自分に話が向けられる前にその言葉が欲しかったのに……。
そんなこんなで、食事を再開して、満腹になるも『デザート類』は部屋に持ち帰れるらしく適当に係のヒトに包んでもらい、一服は部屋ですることにしたのだが……。
「ワタシはこのモンブランとショコラケーキを!」
などと……頼んでいた啓太に着いていく形にするアンジェリーナに何とも言えない顔をしてしまう。
憎まれ役であり『ひかげ』を歩くのは自分だけでいいのだ。真っ当に生きていける彼女まで、『ひなた』を歩ける彼女まで、自分に構うことを啓太はどうしても苦しくなるのだ。
―――ワタシだって
その言葉に降参しつつ、結局連れ立って部屋に行くのだった。少しだけ速く食堂を出ていく2人は誰かに見られたり見られなかったりだが……。
その10分後ほどにようやくディナーを終えて、全体が出ていこうとした際に、途上というよりも扉前で次のディナータイムである三高の方々がやってきてばったり鉢合わせするのだった。
朗らかに、にこやかに挨拶し合う一高一年女子と、三高一年女子―――司波深雪と一色愛梨の会話。
宣言の後に握手をした2人だが……。片方は一高の集団の中に2人ほど見知った顔がいないのか探して、目前の相手にその行方を尋ねるのであった。
「ところで、今日クラウドで私を倒したクドウさんと浦島君は……いないんでしょうか?」
「――――――」
どういう意図で一色愛梨が言ったかは分からないが、推測するに後者は、偽名を使ったことをアレコレだろうかとしつつも、その名前は今の深雪にはあまりにも地雷すぎた―――。
「浦島なんて―――名字のヒトは一高にはいませんよ。一色さん」
「へ? え、ええと……司波さん―――」
とたんに不安定な様子を見せる司波深雪に慄く一色愛梨。そして表面張力が限界を迎え溢れるかのように深雪はキレた。
「いませんから、そんなヒト。浦島なんてヒト、いませんから、いませんから、いるわけがない。いませんからね。いませんからね。いるわけがない。いませんからね。いません、いません」
その明らかに混乱しきっている……というか自分に言い聞かせるような繰り言に、一色だけでなくて全員がドン引きするのだった。
「―――おいミキヒコ、何があったんだよ?」
「語れば長くなるんだけど、端的に言えば、啓太にコテンパンにやり込められて混乱しているんだ」
「
そんな様子に褐色肌に金髪の少女―――カトラが顔見知りの少年をとっ捕まえて問いただし、それを聞いた沓子が、そんな感想を出すのだった。
だが、そんな司波深雪の様子を少しだけ奥の方から見ていた一人の少年……三高の一年生が怒りの炎を燃やす。
同級生でありながら、普通科の生徒でありながら一高のトップたる司波深雪さんを、女神のように美しい彼女を
(司波さん。アナタをいじめた浦島啓太を、アナタを泣かせたヤツを俺が叩きのめす!!)
そうした時に、彼女の満面の笑顔が俺に向けられる。その瞬間を想像して内心でのみ有頂天になる一条将輝。
そんな決意の一条クンを少し勘違いした司波達也であったりするのだが……。
「あの2人……啓太君とクドウさんって……付き合っているの?」
「よくは分からない」
「ただ、何かと一緒にはいるんだよね……」
十七夜 栞の質問に答える雫とほのかだが、『親戚』ということぐらしか2人の関係を知らないので、それぐらしか言えなかったりした。
少しだけ落ち込む栞に2人してどういうことだろう? と思いつつも、それぞれで夜は更けていき……。
「今回ばかりは傍観者だな……私もかつては従者にエックスのような
「頼むから、あなたのような人の多大な干渉など、ご勘弁願いますよ。色々と後始末が増えるのですから……」
大会の裏側に張り付いていたものたちも遂に動き出すのであった……。