魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

39 / 72
stage.38『新人戦三日目・one』

新人戦三日目。九校戦通算では六日目に至ったこの日の啓太は誰よりも忙しくなるのだった。

 

(まぁ2種目に登録した以上、こうなることは分かっていたけどさ)

 

どっちか―――バトル・ボードを落とすことも考えたが……。

 

『こうなればどちらもポイントを取ってくれ』

 

それは要するに最低でも三位には入れ。決勝リーグに進出しろということだ。いかつい顔の顔見知り十文字の言葉に、了承することになったのだが。

 

「会長、委員長。俺の方はいいですから北山さんとかアンジェリーナの方を観戦してきてください」

 

「サポートはいらないのか?」

 

「いりません」

 

いてもいなくても同じならば、いない方が啓太としては嬉しい。元来、啓太はそういうボッチ気質なので上級生の接待など出来ないのだ。

 

控室にて寝っ転がって待つ姿は、どこぞの世界タイトル六階級制覇を目指すボクサーのようである。

 

「そうか……じゃあ頼んだぞ……」

「はいはい」

 

後ろ髪を引かれるというほどではないが、出ていった渡辺委員長の言葉を聞きながら考えることは……。とりあえずトーナメント表を見る。

 

「九郎丸が3つ目のブロックにいる―――上がってくるだろうな……」

 

決勝リーグにおける楽しみの一つを考えつつ、妖刀を検査委員に出しても大丈夫だろうか? そんなことを考えた。

 

そして時間になったので、試合会場へと赴く。

 

(観客は少ないといいなぁ……)

 

およそ九校戦に出る選手ないし魔法師の態度ではない啓太は試合会場の櫓の昇降機で上がる。

 

(ブーイングでも欲しい。ブブゼラでも鳴らしやがれ)

 

出来るだけ『詠唱』が聞こえないフィールドがいいのだ。しかし、啓太の願いは叶わなかった。

 

特に歓声が上がるわけでもないが、それでも観客は多かった。

 

相手は三高の『大島』とかいう名前の相手。特に相手の情報は知らないが、好戦的だろうとは分かっていた。それぐらいだったのでスタートブザーが鳴り響くと同時にいつもどおり……相手が気持ちよく攻撃しているところに―――。

 

「ああん?」

 

予想外に口汚い声を出してしまったのは相手が汎用型CADを使ってやったのが、自陣の徹底的な防御であったからだ。

 

合間に攻撃でも来るかと思えば、それすらなく『穴熊』に徹しているからだった。

 

どういうつもりなんだ?と思うも、汗を少しだけ流しながらも、自陣から眼を離さない様子に察した。

 

閑話

 

 

朝方、三高の作戦会議にて驚愕のことが伝えられた。それを聞いた大島 司は……握りこぶしを我知らずきつくしながらも問いかける。

 

「吉祥寺クン、それはつまり……俺に、カメのように丸まっていろってことか? 浦島相手に、カメになれと?」

 

言葉の皮肉を吐いたが、構わず吉祥寺真紅郎は口を開く。

 

「そうだね……残酷なようだけど、まずは彼の攻撃の性質を見るためにも領域干渉など強力な防御術で固まってくれ」

 

その言の意味は大島が2回戦までやってきた『赤い弾丸』(レッドガンバレット)を封印して戦えということだった。

 

自分の得意手を封じてチームの為に、偵察役・壁役を実行しろと言われて苦渋の思いだ。

 

確かにここまで浦島啓太は『良くわからない方法』で、3回戦まで駆け上ってきた。その性質を掴むためにも、自分に本来の戦術を封じてまで見に徹しろなど……。捨て駒も同然ではないか。

 

そういう気持ちを察したのか一年男子のリーダーがフォローに入る。

 

「早合点するなよ司。別にジョージは、攻撃をするなとは言っていないんだ」

 

「一条クン……」

 

「浦島が、どうやって攻撃をしているのか、もしかしたらば、それは多大な防御を敷けば封殺出来るものなのかもしれない。そうなれば、こっちのもんさ―――お前の弾丸と競える決勝リーグを俺は待ち望むぜ」

 

その言葉に落ち込んでいた大島の心が持ち上がる。そうだ。相手に勝てないわけではない。

 

これが勝利のためならば、こなしてみせる。やってみせる。

 

その気持ちで、浦島に立ち向かうのだった。

 

 

閑話終了

 

 

『浦島選手のお株を奪うカメの甲羅ディフェンスを展開した大島選手、これに対して浦島選手はどう出る!?』

 

そんなものをお披露目した覚えはないが、煽り過ぎな実況の通りにどうしたものかと啓太は思う。

 

(影のゲートを通して『チカラ』の散弾を打ち氷柱の中身を砕くことは無理かな)

 

あそこまでガチガチに固められたらば、流石にこちらのトリックがバレるだろう。

 

(しゃーない……)

 

―――ちょっくら魔法戦(ボクシング)をしてみるか―――

 

決意をして首を鳴らしてから、左右の腕にチカラを通す。そして―――。

 

「リク・ラク・ディラック・アンラック 来たれ氷精 闇の精 闇を従え 吹雪け 常世の氷雪―――」

 

闇……としか言えないものが渦巻いて、両手に集まる。それは凍てつくような『闇雪』―――その全てが、収束して固まった瞬間……。

 

 

闇の吹雪―――(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!!」

 

横に発生する『竜巻』。それが巻き上がらせるのは全てを破壊する闇と全てを凍らせる雪。

 

ゆえに―――。

 

情報強化された氷柱であろうと領域干渉されたものであろうと……闇は、全てを砕いていく。その世界全体に対する影響力は凄まじいものだ。

 

「そんなっ!?」

 

「別にガチガチに守ってもいいんだけどさ。それ、君の戦い方か?」

 

一直線に放たれた渦巻き状のエネルギーの流れが、氷柱の一列を完全に破壊して余波も加えて5本が砕けた。

 

「さらにもう一発!!」

 

詠唱で発生させていたのは「2つ」の闇の吹雪であり、左手を振りかぶって放とうとした姿に、これ以上はマズイと思った大島が―――。

 

「させるかよぉおおお!!!」

 

―――攻撃に転じる。赤い弾丸と呼ばれる―――本当に赤くなったり高熱を生じているわけではないが、その特異体質、血潮を発生させるほどの汗が蒸発して魔法に乗った時に―――超高速の魔法弾が放たれるのだ。

 

その危険性を見た啓太は、術式を変更。手で何かを回すようにして、指をその円状のものに滑らせることで変化が起こる。

 

円環防盾(キルクルスレクシオン)!!」

 

その超高速の弾丸を受け止める魔力の盾(シールド)が幾つも啓太の氷柱の周辺に出来上がる。

 

シールドは自動の防御(オートガード)をするらしく、超高速の弾丸を迎撃する様子に、こんな複雑な術式を何故―――。

 

「リク・ラク・ディラック・アンラック―――魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・闇の109矢!(セリエス・オブスクーリー)

 

―――その上で山なりの弾道で魔力の矢が大島の陣を襲う。だが、それを防ぐべく弾丸は息も着かせぬぐらい放たなければならなくなるのだ。

 

「―――くそっ!! 一高は俺たちを騙していたのか!? 司波達也だけでなくこんな秘密兵器まで普通科の生徒として登録していただなんて!!」

 

「いやいや、あの理論主席サマは知らないけど、俺は平々凡々なる人間ですよ。買いかぶらないでくれ」

 

手をひらひらさせる仕草と剽げた言い草にキレてしまいそうになる大島だが、大島の改変魔法や赤い弾丸と呼ばれる超高速の速攻魔法も魔力盾によって阻まれてしまう。

 

こんなふざけた現実、呪文詠唱などという古臭い手法で、こちらを圧倒するなど……。

 

「認めない……認められるものかぁああ!!!! お前のような巫山戯た男が九校戦の決勝リーグに上がるなど!! 俺たち一年男子の顔役(ボス)である一条の戦いに並び立つなど!!」

 

「覚悟と情熱が、そのまま結果につながると信じているならば―――それは甘い夢というものだ」

 

それは本来ならば紋無しの生徒が言えるセリフではなかった。それでも、それこそが皮肉へと繋がる。

 

ぎりぎりと歯ぎしりする様子を見ながら啓太は告げる。

 

「不可解か? 理不尽か? ならばそれこそがお前を物事の本質から遠ざけているものの正体だろうな―――まぁ説法なんてガラじゃないんでね。そろそろ決めさせてもらう―――」

 

その言葉と同時に呪文詠唱が聞こえてくる。それが死神たちの合唱(フルコーラス)に聞こえてくる大島は。

 

「来たれ風精 闇の精霊 闇夜を喰らいて 迸れ 心喰らう 大地の底に眠り在る覇王の蒼の力よ―――闇竜の凍てつく息吹(ヴォイド・ブレス)!」

 

こぅっ! 

 

音にすればそれだけなのだが、効果は瞬間であった。大島の氷柱の陣の中心から青い光が吹き上がり、天空へと登ろうとする寸前に光はドーム状に盛り上がっていき、その破壊力は、存分に放たれて大島の陣は全て破壊されるのだった。

 

 

『試合終了!! 勝者 一高 浦島啓太!!』

 

崩れ落ちる大島の姿を見ながらも、そうして決勝進出を決めるのだった―――。

 

 

その様子を察した別会場の九郎丸は喜色を出していく。

 

(啓太くん勝ったんだね……ならば―――)

 

僕も本気を出そう。

 

二高のサムライプリンスが己の身に気を充足させる。

 

「神鳴流奥義!! 極大・雷光剣!!!」

 

放たれる剣が巨大な疑似球電を発生させて、相手の陣でその破壊力を発揮する。

 

剣の間合いではない。しかし、その理を無視するだけの術理が、神鳴流にはあるのだ。

 

「なっ―――」

 

情報強化され、物理障壁で保護された氷柱が砕けたことに驚いているようだ。

 

(現代魔法か……今更ながら同情するよ。君たちの手に入れたものは、『選民の下劣な技術』であり、決してネギ・スプリングフィールド大師が目指した『万民の便利な道具』ではないことにね)

 

皮肉を内心でのみ言いつつ、九郎丸は離れたところから放つ『飛ぶ斬撃』で全てを終えた。

 

―――剣を交わすような戦いじゃない。こんな競技種目でしかないけど、僕は君と戦いたい―――

 

その決意は確実に叶うことになる。

 

 

「ようやく理解したよ……浦島啓太はマギクスじゃない。マギステル―――歴史の彼方に消えたとも、世界の裏側に行ったともいえる『本物の魔法使い』だ」

 

「佐渡ヶ島でも現れたな……あの時、来たのはタケミチ・T・ミナモトとかいうマギステルだったか……」

 

「―――だが、彼らは新ソ連の兵隊たちを『殺さなかった』……確かに極力人死を出さないのは高潔な行為かもしれない。けれども、あの兵隊たちはいずれ復讐しに来る。そしてあいつらがいなくならなければ、僕のような親兄弟を殺された人々の怨みは消えないんだ……!!!」

 

「ジョージ……」

 

世界の嘆きを減らすために活動している彼らの存在は、ある意味では民間では公然の秘密ではある。しかし、魔法師にとっては、その活動範囲・活動内容が時に自分たちとかち合って対立を生むこともあるのだ。

 

「ジョージ……いや、真紅郎―――俺は勝つ。大島の無念、そしてお前の気持ちを晴らすために」

 

十師族としての誇り。

そして……自分が恋い焦がれた少女、女神のような彼女……司波深雪のために―――。

 

(俺は―――浦島啓太に勝つ!!!)

 

邪すぎる決意が刻まれるのだった。

 

 

そんな選手たちとは違い、頭を悩ませるものたちが数名。

 

女子アイスピラーズブレイク決勝リーグ。

一高 司波深雪

一高 アンジェリーナ・シールズ

三高 十七夜 栞

 

男子アイスピラーズブレイク決勝リーグ。

三高 一条将輝

二高 時逆九郎丸

一高 浦島啓太

 

見事にバラけた結果になったのだ。

まぁ女子は一高勢が2人なのだが……こうなると決勝リーグの進行が、色々と大変になってくる。

 

「例年通りならば予選までの失点数(自陣被害)が少ない人間が、どういう試合順であるかを決める権利があるわけだけど……」

 

「男子はともかく、女子はどうしたものかだな……」

 

「司波妹御とシールズが戦わなければ、一高で申し合わせがあったとか探られるぞ」

 

別に探られても痛くはない腹ではあるが、世間体というものがある。

 

「選手の調子はどうなんだ?」

「男女3名ずつ元気いっぱいだな」

 

一高三巨頭の会話は、今後の展開に関してだった。

 

「まぁこれ以上は大会委員の言う通り、二高、三高の役員も入れて決めるべきことだろうな」

 

そんな風に考えつつも、場合によっては一条の試合は『オマケ』にしかなりかねない可能性。

 

『十師族が負ける』ということの影響力を考えて、十文字克人は少しだけ憂鬱になるのだった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。