魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.39『新人戦三日目・two』

「まさか『つらら』の三強に浦島が上がるなんてな」

 

「レオ君からすればそんなに奇妙な話ですか?」

 

「いや、まぁそう言われればアイツの実力からすれば当然なんだろうけど……」

 

どうにも普段の様子からすれば、何というか場違い感が拭えない。

別に際立ったものを普段から見せる……口汚く言えば、ケンカ犬か野良犬のようにあちこちに噛み付くのが魔法師などの在り方ではないが、どうにも昼行灯すぎていずれ『四十七士の討ち入り』のリーダーのようになるのではないかという懸念が生まれる。

 

光井ほのかが決勝進出したのを見ながら、同じく少し前にバトル・ボードで決勝進出した浦島のことを思い出しての話だったのだが……。

 

「さてさて十師族である一条を下せるのかしらね?」

 

観戦者のうちの一人でありウォーモンガーである千葉エリカの言葉に、流石にそこには負けるのではないかとレオは考えたのだが……。

 

「大丈夫。浦島君ならば優勝するよエリカちゃん!!」

 

妙に浦島に対する期待値というか信頼が高すぎる美月の言葉に苦笑しながらも、会議というか合議ではちょっとした騒動が起こっているのだった。

 

 

「―――ならば俺は最初に浦島と、次に時逆とやります」

 

二連戦で構わないとしてきた一条将輝の言に一、二、三の首脳陣はそれぞれの表情だ。

 

女子の方は、そんなに蟠りなく試合順が決まった矢先に、男子の方はこんな調子であった。いや、確かに優先権は一条にあるのだが、まさか殆どインターバル無しでの二戦を望むとは……同席していた達也も驚いてしまうのであった。

 

三高の首脳は、その『男気』溢れる決断に喜びっぱなしだが、一高の……特に十師族の2人は、微妙な表情だ。

 

「一条、お前は二連戦する意味を理解しているのか?」

 

「勿論ですよ。ですが、それこそが十師族としての誇りを全うする道なんですから」

 

手の内を晒すことや、疲労が溜まることも織り込み済み―――というよりも浦島相手にしても疲れるわけがないという『見込み』なのだろう。

 

先程から深雪に度々、視線をやりながらそんな風に男気アピールをしている一条将輝なのだが……。

 

「他校の人間としては喜ばしいことなのだがな……だが言っておくぞ。それは『誇り』ではない。『驕り』だ」

 

驕慢・傲慢のたぐいであると腕組みしながら伝える十文字の言葉だが伝わることはあるまい。

 

「―――浦島君と時逆君はそれでいいのかしら?」

 

真由美会長の最終確認だが、そもそも意味のあることでは無かった。

 

「別に俺に選択権がある話じゃないでしょ。いいもわるいもない」

 

「啓太君におなじく。ただ一つ確認を……僕と戦う時は啓太君は『ひな』を使うんだね?」

 

「ああ、九郎丸も『大業物』だしてくれるんだな?」

 

「当然だよ。全力で神鳴流剣士としてお相手させてもらう」

 

そんな風に完全に一条将輝を蚊帳の外にしての会話は、如何に深雪にだけ意識を向けていたとはいえ一条将輝のトサカを立たせていた。

 

「俺と戦ったあとのことばかり気にするだなんて、随分と意識が低いんだな」

 

「当たり前じゃん。十師族は『日本の魔法師』の中でも最強のタイトルホルダーなんだろ? だったら俺が勝てるわけないじゃん」

 

「自分が二連戦して勝負を決めるとか宣言しておきながら、いざ自分を無視されたらイガるとか随分と小さいね」

 

浦島と時逆との連携された言葉に、苛立ちを見せる一条。

 

「そもそも三高ないし、一高以外の学校はお前の田中太郎名乗りにムカついているんだよ。ふざけたことをしてお前は……」

 

「それの何が悪いってんだか、君やそこの『ちんまいの』やらみたいに『クリムゾンプリンス』だの『カーディナル・ジョージ』だのなんて2つ名で自分のことを指し示すことが出来るならば、俺が田中太郎と名乗ることに何の不都合があるってんだか」

 

「……田中太郎は偽名じゃないと言いたいのか?」

 

「名前なんて所詮は記号だろ。禍音の使徒だの闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)だの童姿の闇の魔王だのなんて猛々しくロクでもないものばかり着けられた『子猫の魔王サマ』を知っているからな―――そんなものを言い合い名付け合うアホな奴らと同類になりたくないのさ」

 

言葉の真意はいまいち不透明だが、その少しだけ寂寥感を灯した言葉に一同は少しだけ黙る。

 

「渡り廊下でそこにいる理論主席サマにうざ絡みした際に『自分の名前』を言われてどんな気分だったのやら―――興味ないからどうでもいいけど」

 

達也を引き合いに出したことで、深雪の険相が出来上がる。同時に、将輝も険相を出す。

 

「お前だけは倒す……!!! 俺の全てを賭けても、お前を倒してやる!!」

 

「はいはい。こっちも場合によってはそこの総合主席の司波深雪さんを倒した時と同じ技でキメてやるよ」

 

意気を上げる一条将輝に対して返した言葉に一高首脳陣がざわつく。

 

「ま、待て浦島!! アレで一条を倒そうというのか!?」

 

「ええ、何か司波深雪をチラホラ見ているんでオソロの技でぶっ倒されれば、いい縁が出来るんじゃないかと思いまして」

 

「バカを言うな!! アレで倒されたあとの司波妹御の様子は見ていられなかったんだぞ!! それと同じことを一条にやろうというのか、やめてくれ!!」

 

「おやおや身内贔屓ですね会頭。やはり同じ十師族どうしで忖度し合うんですか?」

 

「違うわよっ!!と『すごいや! 啓太君!! それって前に言っていた『千の英雄』のスーパーアーツなんだよねっ!?』―――時逆くん!!」

 

三巨頭を思いっきり混乱に招く驚愕の発言。ちなみに最初の言葉で一条将輝は真っ赤になり、最後の真由美会長の発言は子犬のようにやってきた九郎丸によって外された。

 

「ソレならば、千の英雄を倒した『ライテン』でもヨクない!? ワタシはソッチの方がベリークール(チョーカッコイイ)と思うんダケド!?」

 

「俺は水属性だからそれを使えば大ダメージ必須で―――」

 

「もうそちらの口三味線に付き合ってられるかぁ!!! 係員に既に登録した!! 第一試合はウチの一条と一高の浦島! 第二試合は一条と二高の時逆!!―――帰るぞっ一条、十七夜!!」

 

アレだのソレだの、訳知りだけが分かるこちらの会話をうざく思ったのか、全て遮るように前田という三高の会長が他のメンツを引き連れて一高のテント内から出ていく。

 

どうでもいいが、その際に選手2人が、向ける視線の方向が色々であった……。

 

「ほな、ウチらもお暇させていただきますえ。九郎丸はん―――勝負を楽しむのもええですが、勝てる試合の勝ちはひろってくださいな」

 

「当然です水納見会長―――それじゃ試合で会おうね」

 

二高の女会長の言葉に答えたあとには、二高勢も姿を消す。そうしてからたっぷり1分ほど経ってから―――。

 

「本当に一条に勝てるのか?」

 

「負けてほしいならばゼニよこせ」

 

「……俺は勝算があるのかどうかを尋ねたんだ」

 

「信用ないのなー俺ってば。まぁ今更の話だからどうでもいいけど」

 

とことんマイペースすぎる浦島啓太という男にどうしても、気分が悪くなるのだ。

 

「勝負は時の運。勝敗のアヤがどんなものになるかなんて知らんわ」

 

「むぅ……だが、エターナルネギフィーバーは使うんだな?」

 

「使う機会が来れば。ですよ」

 

そんなものを使って勝たれては色々と魔法師界隈が混乱をきたすとか考えているのかもしれないが、別に俺に特別の実害はないわけだからどうでもいい。

 

「―――最終確認なんですけど、十文字会頭に七草会長は本当に俺が一条将輝に勝っても、何も言わないんですか?」

 

「―――当たり前だ。七草もいいな? お前が浦島に一条を倒して優勝するように求めたんだ」

 

「……ええ、お願いするわ」

 

最終的な言質を取ったことで浦島は30分後の戦いに赴くことが確定する。そしてそれこそが……九校戦最大の混乱の『序章』になるなど知る由もなかったのだ。

 

 

 

大歓声の中に現れた王子さまの姿にさらなる大歓声―――これほどまでに、イケてる魔法師サマとなると張っ倒せば、どんなことになるのやら。想像しただけで色々だが―――まぁどうでもいい。

 

(爆裂とかいう対象物の水分子を沸騰させる魔法ねぇ……)

 

その魔法一つの一本調子で勝ち上がってきた。最強のワンパターンともいえる。

 

(けれどバカの一つ覚えみたいにおんなじことばっかりやってれば、対策の一つや二つ出来るもんさ)

 

櫓の上で身体を解していた啓太は、右腕と左腕を解放する。

 

それだけで何かを察したのか遠くの櫓に陣取る一条は表情を強張らせる。

 

空気の変化……とでも言うべきものを感じ取れる辺り、ただの色ボケではないようだが。

 

(生憎ながら、気づいた所で時既に遅しだ)

 

スタートランプの点灯と同時に特化型の読み込みをする一条。

 

校章の無い制服の両袖を引きちぎりながら凶悪なる魔素痕が浮かび上がる。

 

その意味を理解できるものは少ない。だが、それを見た一条に動揺が走る。すなわち―――

 

(闘いというものは、臆した者に必ず『負け』がおとずれるものなのだ!!!)

 

黒き闇の腕を見たことで動揺した一条の魔法だが―――スタートと同時に放たれるも―――。

 

「玄武陣・玉璧!!」

 

右腕を突き出すと同時に放った防御術が、一条の魔法から氷柱を防御した。もっとも五本ほどがやられたが―――それすら織り込み済み。

 

玄武には『太陰の絵図』が組み込まれている。

 

つまり―――。

 

(これが一条将輝の『魔法』か……)

 

その魔法の熱は―――。

 

(ヌルいんだよ!!)

 

「スタグネット・エクスプロジオン・コンプレクシオー!!!」

 

奪い取った現代魔法を元に術を編み上げる。その魔法の名は―――。

 

「ひなたの土地に温泉湧き上がる!! サクラサク!!!」

 

ちょー適当なものだったが、大きなモノを掲げるような両手からの変化は急であり突然だった。

驚いた一条の顔が更に強張る現象が出来る。

湯が、

熱湯が、

温泉が、

 

―――いきなり自陣から吹き上がったのだ。

 

「なっ!?」

 

想像すらしてなかった奇襲であるが、出てくる湯量と熱量はとてつもなくて、防御を講じなければ将輝の氷柱など一瞬にして溶けてしまうものであった。

 

即座に特化型をホルスターにしまってから、慌てて汎用型で防御を講じる。この際に、啓太は攻撃をしようと思えば『出来た』が、あえてしなかった。

 

(せっかく呼び起こした名湯なんだ。存分に浸かって浴びていけや)

 

この夏場では実に暑苦しい限りだろうが、それこそが啓太の狙い(・・)なのだ。

 

玄武陣による仕切りで、一条と自分の陣の間に完全に境界を作りながら、啓太は狙いを絞ることにするのだった。

 

 

 

「ど……どうなってるんだ!? 浦島の魔法は……!! あ、頭がおかしくなりそうだ……!!」

 

歯を噛み締めながら頭を掻きむしるようにして、三高の参謀役である吉祥寺真紅郎は震えるような声で言葉を絞り出す。

 

将輝には詳細には見えなかっただろうが、真紅郎にはしかと見えていた。

 

「将輝の魔法……爆裂を利用―――いや『吸収』『簒奪』して、それを使っての『お湯』の創成(クリエイト)だと……!! どこからあれだけの水を用意したんだよっ!?」

 

起動式も魔法式もなくただ、『チカラ』を用いて現象を引き起こす様に頭を振るのみだ。

 

「吉祥寺君落ち着いてっ!」

 

宥める一色愛梨だが、サポーター席ともいえる場所から見えている光景は覆らない。

 

とんでもない。とてつもない。

 

浦島啓太が放った一連の魔法を前にして吉祥寺とは違い、何故か背筋をゾクゾクさせるもの―――有り体に言えば快感、エクスタシーともいえるものを愛梨は感じるのであった。

 

 

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