ストーリーを先に進めたくてもレベルやらカード強化やらついでに言えば新規の
ガチャで強いカードも手に入れられない。結局の所、地道な作業が必要になるのだが、正直終わることが確定しているゲームにそこまで時間掛けたくないっての。
結局、公安暗躍編とやらも見れず、飛騨遺跡の半端なところで終わり『陽菜ちゃんパイオツカイデー』とかいう感想程度で終わる始末。
供養のしがいが無いゲームであった。
温泉の中に沈みきろうとしていた一条の氷柱だが、流石にそこまでの湯量を用意出来なかったのか、少しだけ水面に出ている状態が確認できる。
だが、それは人間に例えれば水没しそうな密室で必死に空気を求めて天井近くで呼吸にあえぐようなものだ。
更に言えば、とんでもない熱気が一条から正常な思考力を奪う。
「おまけに現在時刻は昼過ぎの二時……気温がたまり続けたこの時刻にこれは一条君もたまったもんじゃないだろうね」
「ねぇミキ。浦島君は何をやったの……? そして、あの浮かび上がっているタトゥーみたいなものとか……」
「全てが不明すぎるぜ……」
E組ではあるが、幹比古にとって馴染み・友人と言える2人の冷や汗混じりの発言に少し考えるが……観客席の近場に居る一高のみんなが説明を求めていることを察する。
だが、これは特級すぎる秘密だ。啓太が、ここで晒したからと説明するわけではないだろうが……。
(あとで怒られるのは僕だけでいいはず)
雪姫師母も怒るだろうがとりあえず説明していく。
「まず最初にエリカの質問だけど、あれは『闇の魔法』……ラテン語読みで『マギア・エレベア』と呼ばれる術法。その術は紋章状の魔素痕が装填される身体の部位に発現するものなんだ。大抵は腕なんだけどね」
「マギア・エレベア……」
言葉にしただけ、思っただけで誰もの口が乾いていくのを感じた。それだけとんでもない術なのだろうとは気付く。
言霊というものを信じてしまいそうになるほどに何かの忌み名を思わせるのだ。
「装填ってことはサイオンかなにかを凝縮するのか?」
「いや、違うよレオ―――アレは……魔法そのものを己の身に
「魔法そのものを……?」
「極論してしまえばマギステルの術というのは殆どが自然現象的なものを『精霊』の力を借り受ける・従えることで発動するものだ。その発生するエネルギー量というのは、正直言えば現代魔法とは一線を画す……エイドスの書き換え云々ではなく、直接的なエネルギーを叩きつけることは考え次第では大味かもしれないが、絶大だ」
その事実は、都合二度ほど一高を襲ったマギステルの実力で全員が痛みを思い出しながら痛感する。
「ゆえに、そのエネルギーを『己の身体』に取り込む……現代魔法的な考え方では自分の体を『魔法現象』に『書き換える』ことで、無限の耐久力を、視認不可能な速度を、触れること叶わぬ身体を得ることが出来るんだ―――俗な表現だけど、伝説の海賊漫画で言う所の
装填する魔法の種類次第だけど。と付け加えると全員がかなりとんでもないことではないかと思ってしまう。
「本来的にこれは自らが詠唱した魔法のみを取り込めるわけだけど、啓太の場合はちょっと特殊で他者の放った魔法とかちょっとした現象も『ストック』するように保持していける……多分、一条将輝の放った爆裂を『玄武陣』を通して
あっさり。あっけなく。
なんでもないことかのように吉田幹比古は言うが、それがどれだけの『とんでも』であるか、現代魔法では不可能な領域であるかが、現代魔法師だからこそ分かってしまう。
周囲にいる面子は、なんでこれだけ出来るヤツが2科生にいて……あそこまでやる気が無いのだと思う。
「彼にとっては……はじまりの魔法使いを倒すことだけが、魔法科高校にいる理由なんだね……」
ここまでの説明を聞いた五十里が沈痛な顔をして俯きながら口を開いた。
「そうですね。啓太は魔法師としての栄達とかマギステル・マギになろうとかいう目的はありません。東京大学に合格して『約束の女の子』と幸せになることだけが目的ですし」
「約束の女の子?」
「まぁこれ以上は啓太のプライベートに関わるから言わないし、言いたくないよ……それにそろそろ決まるよ―――」
ここまで7,8分は経っただろうか、その間に彼我の攻防は定まっていたのだ。
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―――完全にやられた。
絶望的な感情が自分を埋め尽くすのを感じながらも、一条将輝は対策を講じなければならない。
ならないのだが、この熱気を受けている中では正常な思考もままならない。
更に言えば水中に没している氷柱に対しての防御も難儀だ。情報強化で何とか『つらら』の耐久度を上げようとしても、『熱』と『水流』の圧……どちらからも影響を受けていて、気を抜けばただの『氷の塊』として物理現象のままにさらされそうなのだ。
水中に没していても攻撃は続いているのだ。
(おまけに、情報強化の魔法を通じてなのか熱を感じる。アツすぎる!!! 張り付くシャツの感覚がウザすぎる!!)
ならばその前に爆裂を―――汎用型にも登録してあるそれで浦島の氷柱をと考えるも……。
(あんな防御術まで用意していた―――いいや、元々持っていたんだな。ここまで使ってこなかったんだ……!)
多くの人には視覚処理されたとしても見えないかもしれないが、相対する将輝にはそれが見えていた。
亀の甲羅―――亀甲で構成されたようなドームが浦島の陣を包んでいるのを理解する。
手の内を隠して、ここまでやってきた浦島。
己の必殺を晒しまくってきた一条。
どちらが戦上手かといえば当たり前のごとく前者なのだ。
(理論主席サマを意識しまくって、自慢屋根性で勝ち進んできたからな。お前の棋譜並べなんてするまでもなくやることなんて予想済みだ)
一条がそれを感じているかどうかは分からないが、既に10分以上が経過している。その間、水中に没した氷柱に対する防御だけで疲労困憊。底なしの泥沼に沈みこんだ状態も同然。
ダメ押ししてやれば、あちらのやることは唯一つだろう。
「リク・ラク・ディラック・アンラック―――海神の象徴たりし三叉の槍―――
啓太の背後に整列した三叉の槍の数は30はくだらない。そして、それが啓太の手振りだけで将輝の陣に飛び込む。
海の神であるポセイドンの槍は、天変地異を引き起こす魔法のアイテムである。原典においては、そうなのだが、長い変質なのかゼウスの兄という点が『雷』の特性を与えたのか、そういう属性も付与されている。
即ち―――水中レールガンのようなものだ。あるいは魚雷ともいえるし、水中自爆ドローン……まぁ何でもいいが、それが情報強化されて障壁で防御していた氷柱を砕いていく。
「ッ!!!」
「水流の影響もあって動かすことも出来ないだろう? もはや水中に活路なしだな」
止まっている
生き残った氷柱は4本、これを用いて何が出来るのか、それを必死で模索する一条将輝の頭など丸見えだ。スケスケすぎる。
そしてそれこそが啓太の目的だ。
「―――ぐぉおおお!! 持ち上がれ氷柱よ!!!」
別にマギステルとは違って口頭言語が必要というわけではあるまいが、汎用型を使って氷柱を持ち上げるような動作……何か強烈に重すぎるモノを上げようとする一条将輝に対して『イチジョウコール』が盛大に出来上がる。
だがその一方で一高周辺からは『バカー!! 持ち上げるなー!!』『そりゃ死路だぞ!!』だの裏切り者どもの声が聞こえる。
見聞色の覇気(笑)のようなものでそれを聞きながら、確信した。
(俺はいま―――最高に悪い魔法使いだ!!!)
最高にハイな気分になっていく。
だから―――重力魔法……偽名使いの先駆者の十八番を発動。簡単な重力圧を一条が持ち上げようとしている氷柱に向ける。
簡単に持ち上げられないことに難儀しつつも、こらえるような仕草を取りつつも―――。
「おらぁっ!!!!」
最後にはそれを解除して一条の氷柱は空中に打ち出された。
その4本の氷柱はもはや本来の形状ではないぐらいに崩れたものだったが、試合終了の合図は出ていない。
持ち上げた時点で肩で息をしていて、顔も青ざめたものだが……。
「ふんぬらばうふゃふゃしにさらしゃんせ―――!!!」
最後の行動と言動は同じすぎて、憐憫の情を覚えながらも啓太は打ち出す。
カッコつけのポーズの連続の後にこちらに向かって高速落下してくるつららに対して―――。
「イターナルッ……ネギフィーバー!!!」
発音をちょっとだけ良くした全身ビーム射撃でつららを全て破壊!!
同時に魔法の解除。お湯が引いていく一条将輝のフィールドには既に何もなく、完全に全ての氷柱が無くなったことが確認出来ると―――。
『しょ、勝者! 一高 浦島啓太!!』
上擦ったアナウンスの声と言葉のあとには大歓声ではなく、大きな悲鳴と信じたくないという言葉の大合唱であった。
そして櫓に立っていたはずの一条将輝が前のめりにいきなり倒れ込んだことで、救護班が急いで駆け寄る様子にさらなる大きな悲鳴が上がったりする……。
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「一条将輝は次の試合への出場は不可能なようだ。ゆえに男子ピラーズではヤツの成績は3位となる。明日のモノリス・コードはどうなるかは分からないが、今日一日は無理させられないとこちらにも伝わっている―――」
「そして男子バトル・ボードはもうひとりの決勝進出者が棄権を申し出たことで、三位決定戦が残っていますが、自動的に浦島君の優勝が決定しました」
喜ばしい報告ばかりのはずなのに、どうしても気分が晴れない。最初の十文字の発言は一条将輝という魔法科高校の男子後輩を気遣ったもので少しの鬱屈を感じる。
次の市原鈴音の発言は事務的なものだが、空調が効いたテント内でも汗を見せている辺り心は分かる。
「なにはともあれ勝つには勝ったんだ。それで良しとしてかないか? それとも他校からクレームでも来ているのか?」
「いえ、そんなことは無いんだけど……いざ、こういう現実を見せられると、どうしても受け止めきれなくて……」
摩利の竹を割ったような言葉。そしてその質問に戸惑い気味に返した真由美、まさかマギステルの術が、ここまでとんでもないものだったなんて、想像の埒外だったのだ。
「あとは時逆との戦いだが……浦島から要望が届いた」
その言葉にざわつくテント内の一同。あのはぐれものからどんな要求が来たのか、戦々恐々としながら十文字からの言葉を待つことに。
「―――時逆との試合は『無観客試合』にして審判だけを入れたものにしてほしいだそうだ。記録映像を録ることはいいそうだが……」
「なんでアイツはそんな上から目線なんですか……?」
十文字の言葉に、桐原が怖気づきつつも質問をすると、ため息を一つ突いてから、腕組みをして眼を瞑りながら言葉を吐く。
「―――魔法師界の『安定』を保つためならば、魔法師に日本社会が不信感を持つことは困る。生ぬるい世間に刺激が強すぎる映像を見せなくても、知らしめる必要もないだろう―――とのことだ。ちなみに原文ママだぞ」
巌のような漢の放ったその言葉の意味は……色々な意味を持っていた。
「つまり二高の時逆君との戦いは、一条君との戦い以上のものになると、白熱及び想像だにしない映像が出ると言うことなんですね?」
「そうだろうな。そして最近になって知ったんだが、彼はどうやら裏火星……ムンドゥス・マギクスからやって来た人間のようだ」
その言葉に全員が強張る。火星人という単語、そして伝えられた真実が色々と身体まで緊張に晒されたのだ。
「……それで、そんな浦島君の提案に関して十文字君はどう返したの?」
話が逸れたことを理解したのか話を戻した真由美。
「当然、『ふざけるな』と返したさ。だが、あいつの提案に少しだけ考えたのは事実だ……」
つまりは、十文字の懺悔であったということだ。
「マギステルの術は、俺たちのような魔法師にとっては毒だ。その『実態』が本格的に知れ渡れば、魔法師という『亜人』の存在意義にすら関わる……それこそが、もしかしたらば浦島の目的なのかもしれないがな」
だが、それは浦島の目的ではない。浦島啓太に協力している種々の勢力の目的である。
今は、魔法師が全ての荒事で矢面に立っているからこそ、表に出てこないでいるが……。
(マギステルとマギクスとの間に引かれた境界の導火線……短いのかもしれないな)
そうして一高の首脳陣とか上級生たちがあれこれ思い悩んでいる中……。
「ケータ! 勝利のためにチューするわよ! ミユキには勝てたのはケータの
下級生たる1年たちは、ちょっとしたお祭り気分であった。
「ノーサンキューだよっ!! そもそもアンジェリーナが勝てたのは俺のお陰とか関係なく―――っていうかこんな公衆の面前で、そんなこと出来るかっ!! とりあえず次の栞さんとの戦いに勝って優勝決められたらば、考えさせてくれ!」
「コレが、女神のカフェテラスやアホガールでやっていたモテ男のジラシ戦術ってものなのネ―――イイわ。確約されていないとはいえ、ソレに乗ってアゲル!!」
なにはともあれ……。
新人戦アイスピラーズブレイク男女 優勝決定戦は開催することになるのだった―――。