魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.41『新人戦三日目・four』

 

それは異様な光景であった。

 

「確かに本来的なCAD検査委員には、提出されるものがCADでなくとも使う器物の検査があるわ。そして、それは出場選手に対して発生する義務でもあるのだしね」

 

何となく教師の威圧的な説得か速度違反の車を取り締まる警察官のように、相手に『前提条件』を思い出させるような言い回しに『いやみったらしいな』と啓太及び九郎丸も思う。

 

「そんな訳で提出された刀2振りなんだけどね……啓太君、これ本気で使うの?」

 

「別に『そちら』の規則に違反しているわけじゃないですが、つーか馴れ馴れしく下の名前で呼ばないでください」

 

「そりゃCADの検査はスペックオーバーしていないか、基準に沿わない術式が登録されていないかだけだもの!! こんな妖刀持ち出してくるアホなんて想定できへんわ―――!!! あと最後はいけずすぎるわ!!」

 

最後の方には関西弁が出てくる美人のサゲマンに対してなんだかなぁという想いだ。

 

「依代の精気を吸い取って強大になる妖刀。しかも素人が握ったとしても地面を割り砕くとか、こんな殺生丸様の持っていた闘鬼神か爆砕牙みたいな剣、認められるかぁ!!!」

 

「別にルールに違反しているわけじゃないでしょ。第一、『通せ』って言われているんじゃないですか?」

 

「そ、その通りよ……」

 

結局、この京都のサゲマンこと藤林響子が怒っているのはパフォーマンスということだ。要は対外的な言い訳として、そんな風に言っているだけだった。

 

見抜いた事実、既に手にしてある情報から国防軍の士官すらも手玉に取る啓太の様子は、さながら『魔法使い』である。

 

「……では決勝戦で使う器物を両選手に返却します……。互いに正々堂々とした戦いをするように」

 

(あんたみたいな女がそれを言うか)

 

皮肉を内心でのみ言いながら、受け取った得物を互いに鞘込めのままに一度だけ打ち合う。

 

まるでボクシングにおけるグローブ合わせのように、それをしてからお互いの控室へと向かう。

 

もはや言葉などいらない。神鳴流剣士として闘うのみなのだ―――。

 

 

 

そんな風なサゲマンとのやり取りを終えて、控室に戻ってきた啓太だが、ようやく現れた雪姫から苦言を呈されることになった。

 

解せぬ。

 

「啓太、魔法剣士として闘うのはいいが、もう少しヒロイックにやれんのか?」

 

「ムリでーす。雪姫先生がホレていた英雄2人と俺とじゃ、役者が違いすぎますから」

 

「何もナギやぼーやのように戦えなど言っとらんわ。そもそもお前はナ……―――いや、言うまい。ただ……男だったらばカッコつけぐらいすると思うんだがな」

 

少しだけ赤くなりつつもそんな言い訳をするエヴァ。

アンチョコ(カンペ)を読まなきゃ術を発動させられない男でも雪姫にとっちゃホレた男だから、それでもカッコいいらしい。

 

だが、俺にはムリだし、カッコつけて何かを成し遂げられないのも嫌だ。ならば冷酷・冷静に勝利だけをもぎ取っていく。

 

どっかのボクシングジムの重量級ボクサーのごとく、欲しいのはベルト(勝利)だけなのだ。

 

「俺がこの大会で目的としていたのは、一条将輝に落とせぬ土を着けて、九島 健の帰国に道筋を着けることです。だったらばあとの戦いは蛇足だ―――ようやく楽しめる戦いが出来そうなんだ。エヴァンジェリン―――アンタであってもこの戦いだけは邪魔させない」

 

啓太の放ったセリフに誰もが表情を曇らせる。ここまでの戦いは全て、彼にとっては何の心も動かない戦いであったということだ。

 

あの一条将輝ですら下の下も同然に見下す態度は、色んな想いを抱かせる。

 

「啓太……私がお前に魔法大学付属高等学校……魔法科高校を受験するように言った理由を言っていなかったな」

 

「ヨルダを倒すため。ついでに言えば火星人ども、メガロメセンブリーナのゲーデル派の魔法師拉致作戦の阻止。だいたいそんな所だろ?」

 

「それもある……だがな。それ以上にお前にもう少し『人生』を楽しんでほしいんだ」

 

「意味が分からない」

 

啓太とてそれなりに自分のやりたい事がある。東大に行き『約束の女の子』と幸せになる。その為にも勉強を頑張ってきたし、結局……約束の女の子と一緒になるためにも、ヨルダとの宿縁を断ち切らなければならないのだ。

 

「だが、私にはそうは見えないんだよ。お前は与えられたことを成し遂げていただけだ。魔法使いになることを望まれれば魔法使いになり、ひなた神鳴流を継げと言われて剣の術理を学び、ヨルダを滅ぼすために努力しろと言われれば、それを成す……お前には―――」

 

―――与えられた目的しかなかった。

 

無言で口を閉ざした雪姫の最後の言葉を啓太は理解してしまった。

 

だから、与えられるものに納得できなくなった時、どうなるのか分かったものではない……それが怖いとは以前にも聞いた。

 

「大事なのはどんな風に走るのかじゃなくて、どちらに向かって走るのかってことだが……」

 

「ムリだよ。俺はヨルダさえ抹殺してしまえば、普通の生活に戻りたい。エヴァンジェリンが入学初期にE組で言っていた通り、魔法なんてチカラに夢みたところでロクなことがない人間……俺はその筆頭さ」

 

言いながら『ひな』を手に持ちながら控室を出ることにする。

 

「エヴァ……雪姫だって『普通』になりたかったんだろ? だったらば俺がそうであってもいいじゃないか」

 

「そうだな。私の場合は『あきらめ』を着けるまでが長かった。未練がましい女なんだ。けれど―――」

 

そんな『普通』じゃないからこそ出来たであろう出会いも、大切に思えていたんだ。

 

どうしようもない別れがあったとしても……。

 

無言でのエヴァの言葉を理解しながらも、そういった面では分かりあえない師弟なのだった。

 

(シニカルすぎる……)

 

そんな事を思う傍から見ていた達也だが、その『気持ち』こそが闇の魔法にとって必要なのだ。

 

知らぬこととはいえ、そんな感想を出しつつも、新人戦男子アイスピラーズ・ブレイク決勝戦は始まるのであった。

 

 

 

全くもって静かな試合会場だ。

 

だが、だからといって観客がいないわけではない。

 

むしろ満員御礼なぐらいだ。

 

既に女子の試合も終わってお腹いっぱいだろうから、ホテルに帰っていればいいのに。

 

十師族にしてイケメンの一条将輝クンを倒したことで(試合でもそれ以外でも)、ブーイングとかあれば良かったのに。

 

(はーダルいわー)

 

望まれていないファイナリスト。これはかつてのマスコミ……まぁ今でもあるのだが、なにかの競技種目で国内大会で優勝候補と目されていた学校チームが『しょっぱい結果』になったとしても、その学校を取材していたからこそ、まるで優勝したかのような扱いでスタジオに呼んだり、今までのことをプレイバックしたりする。

 

要は……忖度なのだ。

 

当然、チームとしても今まで練習時点からもあれこれ取材に応じてきたのに、この結果に終わったことで掌返しするように、優勝チームばかりにインタビューがいけば面白くない。

 

そういうのを防ぐためにも、取材陣というのは複数編成した上で、一年がかりで取材させるものなのだがーーー

 

まぁそれは蛇足としても、現在の自分と九郎丸の戦いもそれと同じだ。

 

優勝候補であり優勝しなければならず、優勝が約束されていたはずの男子を欠いた決勝戦。

 

盛り下がって、盛り下がってお通夜のような気分なのだろう。

 

盆にも早いが、故人(死んでいない)を偲ぶように一条将輝に対してなにか言っておけばよかったかなとも感じるほどだ。

 

(まぁそんなことをやれば、一条君のプライドを逆撫でしてぶっ飛ばされるかな)

 

そんな風に考えてから、スタートランプが徐々に点灯していくのを見ながら鞘込めの刀を互いに構える。

 

居合抜きの態勢を距離が離れたところからやることで、何が出来るのか? そんな『薄い興味』を誰もが持ちつつも、神鳴流剣士の戦いは始まるのだった。

 

同門にして流派の原理が一致している剣客同士の戦いとは、即ち相手をどうやって出し抜くかに帰結する。だが、それ以上に同門であるからこそ、最初の一撃は同一になる。

 

―――神鳴流 奥義 斬空閃!!―――

 

(きんせつ)でありながら遠距離攻撃(遠間をこえる)のであった。

 

気と剣圧の合一による攻撃が、まるで剣を交わしたかのように中央でぶつかり合い砕ける。エネルギーの余波が互いの前面氷柱に少しの罅を与えるも、構わず振り下ろした攻撃の次撃を加える。

 

同じく斬空閃。やはり迎撃し合うも……既にチカラの差を九郎丸は感じていた。

 

(流石はひなた神鳴流の継承者……いや、浦島家の血筋が為せる技か)

 

ひなたの土地というものの特殊性を、実は九郎丸は既に知っていた。それは聖地という魔法界に赴くためのパワースポットとも密接につながるものだ。

 

ゆえに、ひなたという土地には、時に『全幸の魔法使い』が生まれるというのだ。それは管理者である浦島家に多く生まれること多く、彼らはそれゆえに家に女系の縛りを与えて『男子』が生まれた時に、『鑑定』するのだ。

 

いずれ……自らの死を待ち望みつづける彼らにとっての『乙姫』を殺すために……。

 

「竜破斬!!!」

 

などと思索に耽っていた九郎丸を切り裂くように赫光が猛烈な勢いで放たれて、九郎丸の陣地の中央で収束赤い破壊のドームを作ろうとするのを―――。

 

「四天結界独鈷練殻!!!」

 

―――寸前で、用意しておいた結界式で封じきろうとしても、その破壊力は普通ではない。

 

「どうした!? 裏火星の桃源神鳴流なんてそんなもんか!? 権力者と結びついて技が錆びついてるんじゃないか!?」

 

「言ってくれるねぇ!」

 

妖刀の切っ先を突きつけながら言う啓太に、返すように九郎丸も奥義を見せる決意。

 

(竜破斬か。対竜斬撃(ドラグスレイブ)として昇華した術理の一つ。なんかスゴく威力が高くて驚いたけど)

 

だが、九郎丸とて今まで培ってきた剣の術理がある。それを見せてくれる。

 

「裏神鳴流奥義 暴爆滅殺剣!!」

 

見えぬ剣閃を一振りするごとに、『小さな火の球』が出来上がり、それが数十に及んだあとに思いっきり振り抜くと猛烈な火球の嵐と熱波とが襲う。

 

「そいつは俺の属性的に悪手だ。九郎丸」

 

―――神鳴流奥義 水竜王臣剣―――

 

水流の後のような輝線の斬撃を放つと、大量の水流が斬撃の軌跡に応じて解き放たれる。

 

蒸発する熱の限り……そんなこんなで、奥義を出し尽くしているとはいえないが、それでもお互いの氷柱は削られていく。

 

 

千葉流(ウチ)の剣術ってなんだったのかしら……?」

 

観客席にて嘆くように顔を俯く千葉エリカの言葉に、誰も何も言えない。

 

今も極大の疑似球電とでも言うべきものをぶつけ合う2人の戦いは、確かに『魔法師の魔法剣士』の常識を崩すものだろう。

 

「ところでだ。エリカは、親父さんや兄さんとかに、神鳴流に関して聞かなかったのか?」

 

達也としては、魔法師側での神鳴流の認知度はどうなのか、エリカの気持ちも慰めようという意図での質問であった。

 

それに対してエリカの反応は……。

 

「何か三人とも言いづらいことのように口を噤んじゃっていたわ。チャラ軽いトシカズっていう上の兄も『関わるな』っていつになく真剣な顔で言ってきたもの」

 

千葉流の剣客として巷間で有名な手練れ3人が警告をするとは、神鳴流とは魔法師側の魔法剣術にとって忌み名と見た。

 

そんな風に話しながらも試合は進んでいき、浦島はマギア・エレベアの魔素痕を妖刀に纏わりつかせていく禍々しき魔剣となったものを持つ。

 

対する時逆は白羽根のようなものを剣に纏わりつかせていく―――。

 

悪魔と天使……天使(ミカエル)悪魔(ハカイダー)と呼べるような2人の巨大剣……いや極巨大剣と呼べるようなものが真っ向唐竹割りの要領で振るわれた。

 

裂帛の気合いと同時に全てを切り裂くであろう巨大剣の圧が、観客席にすら暴風の圧を与える。

 

そうして……どんな攻防があったかは余人には分からぬままに、勝敗は刻まれて……。

 

 

『WINNER! 一高 浦島啓太!!!』

 

勝者の宣言が成されるのだった。

 

その勝利に対して拍手はまばらであり、それが功を奏したのか……。

 

「けーた兄ちゃん勝ったやんカナコ(・・・)! やっぱりうちのダーリンってば、やる時はやる漢なんよ!!」

 

ヒナ(・・)。アナタが兄さんのダーリンだなんていつ決まったんですか?」

 

「そんなん、前前前世からに決まっとるやん!」

 

「そりゃアナタの出身は、あの作品の田舎方面ですけどね。だからといって身体が入れ替わった事実なんてないでしょうが」

 

などという言い合いをしている女子2人の会話を聞き取った達也であったりする。会話内容から浦島の関係者であるのは分かったが。

 

「けーた兄ちゃんを祝福しにいこうやん」

「そうしますか」

 

行動まで分かったことで、そう言えば自分たちは浦島の勝利を祝福したことはないなと気付きつつも、それをされて嬉しい人間なんだろうか? と少しだけ悩み―――。

 

それでも自校の選手が勝ったことで、その選手を歓待しないのは無情かなと、そんな風に思い悩むこと自体がそもそもアレな行為なのだが、そうして浦島がテントに戻ってきた時に祝えばいいかと妥協することにした。

 

その行動が悪手になって一騒動を起こすことになるのだったりする……。

 

 

 

 

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