魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.42『新人戦三日目・夜1』

一試合を終えて身体を解した啓太は、試合前の雪姫の言葉に少しだけ考える。

 

―――お前は与えられたことを成し遂げていただけだ―――

 

別にいいじゃないかと反発を覚えながらも、雪姫の言いたいことは概ね分かる。

 

だが、それは雪姫が自分をネギ・スプリングフィールドやナギ・スプリングフィールドのような存在と、同列に見ているからこそ起きている錯覚なのだ。

 

だからこそ、色々と思惑があれども魔法科高校に入るように言ったのだろう。

 

だが……。

 

「俺は……魔法に何も思い入れなんて無いんだ……」

 

そして、魔法を手に入れた俗物たちが地球を蹂躙する地獄が此処にあるのだ。

 

戦略級魔法を手にした連中は、いわばアインシュタインの鬼子たちである。

 

アインシュタインが己の理論を元に核兵器を開発した背景には、自分の母国たるドイツが核兵器を開発しているという『疑念』から急いだことが発端だ。

 

だが、彼らはそれを作ったあとに、使用したがゆえに出来た多くの惨状を目にして、自らの行いに後悔するばかりだった。

 

アインシュタインの後進たるオッペンハイマーもまた然り……そして唯一の核被爆国たる日本の科学者である湯川秀樹もまた1人だ。

 

アインシュタインは、まだWW2が本格化する前に来日して日本人の精神性及び文化に感銘を受けた1人だった。

 

(それも彼の苦悩を深めた原因だろうな……)

 

考えつつも、どうでもいい。

 

別に人類救済など考えていない。

 

大きなことも成し遂げたくない。

 

ただ全ての因縁としがらみを断ち切ることで―――。

 

「けーた兄ちゃーーーん♪♪」

 

などと考えていた時に、控室から出た啓太の胸に飛び込むもの一つ。

 

武を嗜むものとして即座にバランスを取れたからいいが、困った子であり、身体の小ささの割に一部に不釣り合いなものをお持ちの女の子であった。

 

「わっ、ととと―――陽菜ちゃん?」

 

「そやよ♪ 胸に抱きついただけでわかっとるなんて、やっぱりうちとけーた兄ちゃんは運命の赤い糸で結ばれとるんよ。これぞ『飛騨高山名物』―――『ムスビ』!!」

 

そんなもん初めて聞いた言葉だ。

 

こちらの名前呼びに反応して見上げてきた女の子の顔は、確かに顔見知りの子であった。

 

『高山陽菜』

 

美少女すぎる子で、故郷の村でも求婚者続出確定だろう女の子である。

 

というかタッパ(背丈)が違うこともあいまって、さっきからJCの身体と密着することになってしまっている。

いい加減離れてほしいのだが、完全に体重を預けてきているので下ろすに下ろせない。

 

「とりあえず離れてくれないか? 久々に会えて嬉しいのは分かるけどさ、ちょっと疲れるよ」

 

「私の見立てでは、陽菜のぱっつんぱっつんぼいんぼいんが先程から胸板を刺激していて、のっぴきならない状況になろうとしているからと見ますが」

 

「そうそう。陽菜ちゃんはトシと不釣り合いな―――げぇっ!可奈子!!」

 

「陽菜とは違って随分と薄情な反応ですね兄さん」

 

いつの間にか後ろに現れた女の子の頭の悪い言葉に反応したが最後、こちらに迫りよる実妹に弱くなる。

 

「どうしたんだよ。いきなり此処に来るだなんて」

 

陽菜を床に下ろしながら実妹――――――『浦島可奈子』に問う。

九校戦なる魔法科高校の大会に出るなんてことは家族には伝えなかった。

 

だが、アンジェリーナなり誰かから漏れることはあり得たのだが……失念していた。

 

「兄さんこそ薄情ですね。まさか選手としての出場だなんて思っていませんでした。それを私にも伝えないなんて」

 

「悪かったよ。ただ、俺の試合なんてヒールのプロレスだ。相手校だけでなく自校からも認められていない戦いだしな」

 

「別にラビットパンチしとるわけないやさ、けーた兄ちゃん、立派にたたかっとーやん」

 

嬉しそうに言う陽菜のフォローにありがたいやらなんやら……まぁどちらにせよ。そういう『はぐれもの』の兄貴など見せたくないのだ。

 

言うなれば、フリッカー使いの死神が、実妹に『俺の試合を見に来るな』という心境には似ている。

 

「そんならうちらでけーたにいちゃんを祝おうやない可奈子。拍手もまばらな様子やったし、つらって夕食したいし、他にも話をききとーわ♪」

 

サマーニットとデニムショーパンという組み合わせの飛騨高山の巫女っ子と―――

 

「それはいいですね。アンジェリーナさんと同棲しているようですし、その事も聞きたいですよ兄さんーーーー」

 

剣呑な様子を見せる黒系統の衣服をこの夏場に着こなす実妹―――2人に対して、色んな意味で降参するしかなかった。

 

「まぁ察するに女の子2人で此処までやって来たんだろうな。夜中に男の付き添い無しで食事は危険か」

 

「ホテルは既にチェックイン済みですのでご安心を」

 

流石は浦島家の後継者、おふくろの英才教育は行き届いているようで何よりだ。だが、何処で食べるべきか……ファミレスかあるいは……。

 

「焼き肉のJOJO苑かGYUU角でもいいかな」

 

「ニオイ消しの魔法は標準装備やね」

 

「まぁ肉が食べたい気分ではありましたからいいでしょう。兄さんのエスコートにお任せしましょうか―――」

 

了承を得てから、着替えは兎も角として、上役たちには許可を取らなければならないなと考えてテントに向かおうとするも。

 

「けーた兄ちゃんと遊びたい! ゲーセンで音ゲーしたりバッセンでかっ飛ばしたり!!」

 

陽菜ちゃんの要求が飛んでくる。いつもは飛騨高山の村にいるだけに、街に下りてくると遊びたいのだろう。

 

現在の大亜……主に支那と呼ばれている地域では、寒冷化時代に食糧難を何とかするために都会の若者を強制的に農耕地帯に送るという人権ガン無視の政策―――第二文化大革命などと呼ばれるものもあったのだが。

 

それとは逆に、現在の日本では行政サービスの集約化・効率化の為に、過疎地の人口を全て県庁所在地や政令指定都市などに移動させるという政策が取られたのだが……。

 

全国津々浦々でそれが実行できたわけもなく、人権やら動くわけにはいかない人間達という例外もあったわけで、その一つが飛騨高山の山奥の村で巫女をやっているこの子なのだ。

 

そんなわけで、そういった諸々―――隠すべきところを隠して。

 

『妹と妹の友人が応援観戦に来てくれていたので、遊びがてら今夜は外食ですませつつ接待します』

 

と、大まかに端末の向こうにいる十文字会頭に伝えたのだが……。

 

『……待て、浦島。お前……いや、カナコ君が来ているならば、家で立場の弱いお前に強要出来ないのだとしてもだな―――。一度、テントないし一高の会議室に戻ってきてくれ! せめてそれぐらいは、出来ないのか?』

 

狼狽える様子の十文字会頭だが、それを聞いた啓太は一計を案じる。

 

田舎(山の方)から出てきた遊びたいざかりのJCもいるんで勘弁出来ませんか? 十文字さんだって、下に弟妹いるなら分かってくれると思ったんだけどな〜」

 

『……むぅ』

 

情に訴える作戦はそれなりに成功しているようで、通話口の向こうにいる巨漢を苦しめている。

 

もう一息だな。と気付くと同時にダメ押しとして……。

 

「今日の試合を観戦させてもらいましたが、その際の様子から、どうやら第一高校の皆さんは兄さんの勝利を祝ってはくれないようなので、私と陽菜で祝福させてもらいますよ」

 

『カナコ君、それは――――――』

 

「それでは」

 

途中で端末を奪った実妹の強攻策で話は終わった。

 

冗長ではないだろうが、それでも話を切り捨てることに長けた可奈子らしい手口で、その後の連絡はなくなり―――。

 

「ほな!」「行きましょう」

 

手を差し出してきた元気いっぱいな美少女JCとの接待をすることになるのだった。

 

 

「じゃあ浦島君は夕食会に出ないっていうの!?」

 

驚きと怒りを混ぜ合わせながら言う真由美に対して、十文字は変わらずに返す。

 

「ああ、まぁ別に全員仲良しで参加するという類ではないしな。作業や明日のことに集中していて食いっぱぐれる人間も出るぐらいには……まぁご自由にどうぞの類だからな」

 

連絡をくれただけ、まだ浦島啓太の対応はマシな方であった。だが一高上役及び他校の思惑は狂ってしまった。

 

だがそんな『思惑』に対して物言いが着く。

 

「アイツの魔法や根源を調べるために、九校戦参加全校の生徒などを集めて、いい気分に美味しい食事とともにヨイショして口を滑らせる、か―――随分と姑息な真似をするんだな」

 

「うぐぐっ……」

 

「報道関係者が詳細わからぬ事件の関係者……特に犯人の個人情報提供者に現ナマくれてやって、口を軽く開けさせる手段と変わらんぞ」

 

「そんな言い方しなくても……」

 

雪姫先生の怒涛の口撃に対して三巨頭は落ち込んでしまう。

 

「だが、マガジンで言えば粕壁 隼(女神のカフェテラス)の系譜であろうあの男に、そんな真似が通じるものか」

 

それは女であろうと容赦なく塩対応をする男ということだ。いや、まぁそういうものはにじみ出ていたわけだが。

 

「東大を目指しているのは、後に海辺の喫茶店のオーナーになって、ハーレムを作るつもりだからなんですか? ライバル店の女の子も加えるつもりなんですか?」

 

「それ、本人に問えるのか?」

 

「聞きたくありません!!」

 

半眼で問うた雪姫に対する渡辺摩利の涙ながらの返事に、『やれやれ』と思う雪姫。

 

「まぁ啓太の魔法に関しては私が教えてやる。それを他校に伝えるかどうかは、お前たちの胸先三寸だが……ただ、関係が悪くなることだけは自明の理だ」

 

そうして、伝えられる一条将輝を倒した闇の魔法(マギア・エレベア)の詳細。

 

三巨頭の内の1人である十文字克人は全てを知っていたわけではないが、それでも2人よりは知っているつもりだったのだが……詳しいことを伝えられたことにより……少しだけ思い悩むのであった。

 

「……アイツはそれでいいんですか?」

 

「さぁな。私もそれなりにアレコレ焚き付けるも、どうにもな。悟っているといえばいいのかな……私はどうやらあまりヒトを育てるのに向いていないようだ」

 

自嘲気味にそう言う雪姫。結局、彼女の弟子たちは全て何かしらの高低に関わらず『自分だけの目的』が最初からあった。

 

現在の軸でも出会えた『想い人の息子』は、当たり前のごとく『英雄』であった。

この世界では出会えなかった『弟子の孫』であり、自分を愛してくれた男も。

 

啓太(アイツ)にもそういう期待をしていたんだが……如何ともし難いことに、アイツはああなってしまった」

 

ヨルダは倒す。

ただし、それは英雄の道じゃなくてはぐれものとしての道であった。

 

「私達としては少しばかり協力したいんですよ。浦島君や雪姫先生にだけ負担を強いて……」

 

「その気持ちはありがたいし、思惑としては自衛のためもあるんだろうが、結局の所―――魔法師の能力ではマギステルの障壁を打ち破ることすら難しい。私がいまどれだけの魔法障壁を張り巡らしながら、動き喋っているのかすら、お前たちには詳細に見えないだろう?」

 

魔法師などヒヨッコ以前、自分の横にあるものを見えるようになったらもっぺんおいでよ。などと言われた気分だ。

 

「他の十師族に関しては九島烈が話を通してくれているはずだ。一条将輝とタッチの差で伝わっていないかも知れないが、それでも沈黙を貫くぐらいはしておけよ」

 

先ほどは伝えてもいいと言っていたが、それでもやはり不文律を破るというのは間尺が悪いわけで、雪姫はどうやってもそう窘めるのだった。

 

そんな風な会話の後に、九校戦全生徒を集めた大夕食会が開かれたのだが、そこに本日の出場選手にして男女『つらら』の優勝者はいなかったのである。

 

そんなわけで……。

 

「今日のつららの優勝者が来ないってどういうことだ!!」

 

「今日こそ文句を言いに来たんだぞ!!」

 

「浦島を出せ―――!!!」

 

などと、監獄学園のアニメ打ち上げ会場のような様相を見せるのだった……。

 

醜い限りであるのだが、それを宥めるために投入された三巨頭を、一高生徒たちは少しだけ可哀想に思うのだった。

 

だがそんな三巨頭は驚くべきことを言う。

 

「お前たちがどう考えようと、浦島もシールズも一高の生徒であり俺たちの後輩だ。だからお前たちが求めているような、アイツらの魔法の秘密など話すわけが無い―――物乞いのような真似でもすれば、教えてくれるかもしれんがな」

 

十文字の言葉で反感が生まれる。だが、強烈な圧を感じさせる十文字克人の前では誰もが黙るしかなくなる。

 

「そして俺が知る限り、浦島とシールズの放つ魔法――――――マギステル・マジックの全ては、俺たち現代魔法師とは違う。マギステル・マジックの根源とは『万民が使用可能な技術』であるという点だ……極論してしまえば、呪文さえ唱えられ、それに応じたサイオンでは無い――――――全ての人に天然自然で備わるチカラである『魔力』……精神力由来のエネルギー。『気』……生命力由来のエネルギーを使用することが出来れば、『誰でも使える人間能力だ』」

 

十文字克人という魔法師社会の若大将から断言された真実に、色んな人間が不安定になる。

 

では、自分達が使っているサイオン由来の現代魔法とは何なのだ?

 

使える人間が限られている―――魔法師という才能を見いだされて学んでいる自分達を凌駕する、マギステルの技量が自分達を圧倒しているというのに、それが限られた人間に許されたものではなく、万民が『学び』『練習』すれば使えるものだという事実が、魔法師たちを苛むのだ。

 

そして……そんなマギステル・マジックを使える連中は―――。

 

「ビーフにポークにサイコーよ!!」

「サンチュに包んだカルビが旨い」

「はやくご飯来ないかなぁ……焼き肉といったら白い飯だろうが」

「おいしーわー!!高い肉はやっぱりこう食うのがいちばんやね!」

 

――などと、美味しい肉とご飯と野菜を存分に胃袋に収めているのだった。

 

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