「ほな。明日もがんばってーなー」
「いや、もう俺の出場する競技種目はないよ」
「さて、どうでしょうね。案外、何かの『緊急』で出場しろとか言われるかも知れませんよ」
妹と妹の友人を宿泊先のホテルに送った際に言われた言葉に、不穏なものを覚える。
可奈子はなんというか時々、こういう謎めいた発言をする子であった。そして、その予言があたってしまうことが多々ある子なのだった。
そんな風に2人を送った後に、アンジェリーナと共にホテルへと帰宅するのだった。
「良かったワネ。家族が見に来てくれて♪」
「つーか可奈子に伝わったのは、ホームビデオでアンジェリーナの活躍の様子を撮って欲しいといったシールズ家の人々とアメリカのクドウ家の人々なんだけど」
「分かってるわヨー。タダそれでもネ」
帰路に着いている最中に言われた言葉。要するに不満なのだった。
苦笑しつつも、ご機嫌取りというわけではないが何か買い食いするか?と言うと割りかし乗ってくれる。カラオケで日笠陽子、林原めぐみメドレー決めまくった歌うたいは合間にポテトだのフランクフルトを食っていても腹減りの歌うたいである。
(それにしても、これでケンじいちゃんが帰国する道筋が着けられるのかね……)
良くわからないが、それでもやるだけやったのだ。後は雪姫とカトラ任せなのだが……。
「どったの?」
何かこちらを覗き見てはニヤつくアンジェリーナがいるのだった。
「ケータ、ワタシは今日アイスピラーズ
「そうだね。再度おめでとう」
食事でもカラオケでも祝福(Y○AS○BI曲も含め)してやったのに、この欲しがりさんめ。などと苦笑しながら祝ってやったのだが狙いはそうではなかったのだ。
「ケータ言ったわよネ。優勝したらばキスするって」
「考えさせてくれって言っただけだよ」
まさか優勝するとは思っていなかった啓太としては、そんな卑怯な手段で躱すしかなかったのだが……。
「むーーー!!!」
「そんなふくれっ面見せてもやりませんよ」
「むーーー!!!」
気分はさながら子どもが余計なお菓子(食玩付き)をスーパーの買い物カゴに入れようとするのを阻止するお母さんの気分。
例えスーパーリッド君フルモデルタイプであろうと、それを阻止するぐらいの気持ちであったのだが……。
「分かった。分かったってば、いたいいたい!」
最後には実力行使に出てきたアンジェリーナに降参せざるをえなかったのだ。
恋人でもない相手とキスをする不実。付き合っている男女ならば、別に何の問題もないのだが。
そんな気持ちでいながら、いつぞや十七夜 栞と話したベンチ前。街灯がそれなりに照りつけるも、それ以上に月が輝くもとーーー……。
目を瞑りながら唇を突き出してきたアンジェリーナの肩に手を起きながら唇を近づけて……。
―――その頬に口を当てるのだった。
「
「誰もマウストゥマウスをするとは言っていないしな。別に友愛を示すための挨拶は
アンジェリーナの頬に口づけをしたのだが、やられた当人は当たり前のごとく不満であった。
だが、そもそも、口づけでの『チュー』とは確約していなかったことを今更ながら気付かされている様子だ。
「くっ! つまりアノ
「まだまだだね」
ワンマン宰相でありながらも占領軍を『一応』は追い出して日本独立の立役者となった人物と同列とは何とも……。だが、そういうことを狙っていたのも事実である。
「そもそも論として、そんな風に付き合ってもいない男女が気軽にやるものじゃないよ。第一、アーティファクトの『アドバンス』を確かめるならば、あのオコジョの元に行かなきゃならない」
「ソ、ソレはソーダケドー……」
正論を吐かれて、顔を赤くしつつ、どうしようもない想いでこちらを見てくるアンジェリーナに苦笑する。
とはいえ、ホテルが近づいてくるのは避けられないわけで……。
「多数の人間が張ってやがる」
「
「俺の
「ワタシの
エンのリスクなめんな。と言わんばかりの文言に『敏感な女の子』と断じてから、捕まれば面倒なことになるのは、間違いなかったわけで、少しだけ啓太としては思案してから―――。
「そういえば真名さんからサービスで貰っていた転移魔法符がいっぱいあったな」
使用期限はそれなりにある商品なので、使える時に使ってしまわないと、RPGで言うところのもったいない根性で最後まで残りかねないのだ。
「キャッ☆ ケータの部屋は今夜、ワタシとの愛の巣になっちゃうのネ♪」
「誰が直接転移すると言ったんだよ。流石に目立ちすぎるからな。『孤独な黒子』とのコンボで躱す」
もっとも……アンジェリーナが別に質問攻めにあってもいいというのならば、こんなことはしなくていいのだが……。
「ワタシ1人だけそんな場面に遭わせるの?」
「オーケー、んじゃ静かに、何事もなくホテルに帰るとするか」
そんな言葉の応酬で、リキッド・スネークよろしくなミッションに移行することに……。
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私たちは、なにをやってるんだろ?
そんな疑問に囚われる一高生たちの多いこと多いこと……だが、さもありなん。
今日、遂に白日のもとに晒した浦島啓太の秘奥は、衝撃的だったが……それを問うなんてことは出来ないとしても……。
「10時30分過ぎまで外出しているなんて……いや、別に門限なんてないんだけどね……」
その辺りは、この九校戦という競技の特性上……色々と融通してくれている。軍の管轄でもあるからだろうが……。
嘆く会長とて不実な対応だとは理解しているのだろう。だが、他の選手に対して示しがつかないとかそんな所だろう。
「そもそも電話連絡してしまえばよいのでは?」
「十文字くんだけに連絡が来るのよ。番号を教えてくれと言っても、当たり前に拒否られるし……」
よく考えてみれば浦島は、誰とも電話番号の交換をしていない。秘密主義の塊だ。
そんな風にしていると、桐原と服部がホテルの自動ドアを通り過ぎてホテルロビーにやって来た。
「ダメです。2人の姿は何処にも見えませんね」
「事件に巻き込まれる―――なんてことがあっても大丈夫なんでしょうけど……こんな時間までほっつき歩くだなんて……」
その言葉にまぁそれなりに同意だが……。
(何だろうか? 空気が変わっている気がする……)
桐原と服部が入ると同時に何か妙な空気が混ざった気がするのだ。
知覚系統のことに関しては視覚的なものだけに頼っていた達也にとって、それはあまりにもフィーリングに頼ったものだが、それでも……精霊の眼という切り札を、事実上封印されている中でも違和感を覚えるものがあったのだ。
だが、それでも勘違いということもあり得る。そもそも、そんなステルスな術やアーティファクトがあるのか……。
(決めつけるのはいかんな……)
例え、自分たちにとってはセオリーではないことも、その他の分野の人間にとってはセオリーであることもあるのだ。
―――キミみたいな
そんな言葉を思い出した5分後―――。
「えっ!? どういうことよ!!!」
『そのまんまの意味だ。浦島とシールズは帰ってきている。先程、『ご夫婦』揃って俺の方に『謝罪』しに来たぐらいだから、ご苦労さん。明日も早いから寝たほうが良いぞ』
十文字会頭からの連絡が入り、狐につままれた気分でいながらも、いい加減ホテルの従業員たちの視線も痛いので、そのままそれぞれの部屋に戻るのだった。
ちなみに深雪と同室のアンジェリーナは、浦島の部屋で2次会をやるとの連絡が入り、無理やり連れ戻すのもどーかと思い悩みつつも、夜が明けるのだった。
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翌日……結局、啓太の部屋で夜明かしすることになったアンジェリーナだったわけだが、まぁそのことは蛇足であり、一高の会議室の空気は微妙な限りであった。
「くだらない。そういうのをシャットアウトするのがアンタの仕事じゃないのかよ七草会長」
前夜の夕食会で啓太の秘儀を暴露してほしかったという会長に対する辛辣な態度に誰もが何かを言いたくても言えなかった。
全ては所詮……浦島啓太の胸先三寸でしかないのだ。そして、啓太は自分が『偶然』にも手に入れたこのチカラをひけらかして、さもそれが尋常の御業と勘違いされるのは御免こうむるのだ。
「浦島君はいつでも1人なのね……1人で全てを解決して、1人で全てを背負い込んで、1人で闘う……私たちなんていらない。役に立たないという態度で……気分が悪いのよ」
「一高にいる大半の2科生もそういう気分なんですよ。1科の連中から『役立たず』『無能』と蔑まれるのと同じ気分―――体験できて良かったじゃないですか? 1と2の融和だの望んでいるアナタにとっちゃ貴重な経験でしょ」
凄い皮肉である。なんて一直線に会長を貫く言葉の槍であろうか。だが、そこに思い至った時点で、気付かされて俯いた会長から言葉は出なくなるのだった。
「俺のことなんざどーでもいいでしょ。今はミラージとモノリスとやらに関して話し合えばいいじゃないですか? 俺が得点積み重ねてあげたお陰で、このままいけば『マジック点灯』するかもしれないんでしょ? だったらそっちに意識を向ければいい」
その言葉に、今日新人戦モノリスに参加するメンバーの内の2人が少しだけ震えた。それは恐怖であり決して武者震いの類ではなかった。
「それは取らぬ狸の皮算用だな。お前はカトラ王女に光井と里美が勝てると思うか?」
「さぁ? どちらも俺はどれほど出来るか分かりませんので、ただ勝つつもりでいるならば、必死になればいい」
ふと、その際に『里美』という言葉で、選手ジャージを着ていた一年女子2人を見た様子。その後には『ああ、そっちか』という言葉が浦島から聞こえた。
カンのいい連中はそれで気付けた。
この男、どうやらここにいるメンバー……九校戦に参加している全員の顔と名前を一致させていないようだ。
いや、三巨頭とか、その辺りの主要メンバーは既知だろうが、それにしても薄情な男である。
だが抗議ないし嗜めるような物言いをすれば―――。
『2科生である俺が、『同窓生』じゃない1科生の名前と顔を全て一致させているわけがない』
『それとも2科生は1科生を現人神のように崇め奉れとでも仰る?』
などという皮肉―――もうちょっとエッジを利かせたものかもしれないが、そういうことを言ってきたかもしれないのだ。
だからあえてそこはツッコまないだけの理性が働いた……。
「新人戦男子で唯一、ミソが着かない勝利をしているお前が何かをしてくれると期待していたんだがな」
「何も出来ません。やってもいいというのならば、20世紀後半のイラクサッカーのようなことをしますが」
「やらんでいい」
独裁者の長男がやったサッカー恐怖政治のようなものは、十文字会頭によって却下されるのだった。
まぁ当然の話だが……。
「では作戦会議をしよう―――と言っても何もないな。だが、これだけは胸に刻んでおけ。現状、どんな形であれ、浦島とシールズ以外の一年は味噌っかす以下の認識で他校から見られている。そう思われたくなければ、気合いと根性を見せろ」
結論としては、十文字会頭が恐怖政治のような焚き付けを行うのだった。
「大丈夫です会頭。啓太! 可奈子ちゃんに僕のカッコいいところを見るように言っておいてよ!!」
「気合い入れすぎてずっこけんなよ」
女の為に戦うとして意気を上げる吉田に返す浦島。
そんなやり取りのあとにはそれぞれで動き出すのだった。
「浦島君は僕の名前と顔を一致させていなかったんだね……」
「まぁ俺だって、こういう機会が無ければ1科生の面子のことなんてあまり知ることは無いからな」
だが、それを差し引いても随分と浦島は薄情に見える。ヨルダ・バオトに憑依する可能性があるのが一高の全魔法師であるというならば、そいつをはっ倒す上で余計な交流など無駄ごとなのだろう。
情が剣戟を鈍らせるということを徹底的に排しているのだろう。
そんな態度と様子から浦島の
色んなヒトが達也に期待してくれている。色んな人間関係が出来上がって、絡み合っている。そのことを嬉しく思う気持ちの一方で、それを煩わしいものだとして嫌気しながらも、違う人間関係を構築している人間を見ているとイラつくのだ。
達也からすれば異物なのだ。
しかし、その異物こそが事態の中心にいて全てを解決していくのならば……。
そんな達也の苦悩とは裏腹に事態は動き始める―――。