魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.44『新人戦四日目・惨劇』

 

 

「幹比古さんは動きというか術の行使がいい感じですね」

「お前が来てると聞いてから気合いが入ったそうだ」

 

可奈子の観戦の感想にそう返しながらも、他の森崎と―――名前が分からない1科生は、パッとしない。有り体に言えば雑な印象を受ける。

 

特に森崎など自分がフォワードだからと突出しすぎて、フォロー役の名無しの1科生が困るぐらいに何というか……連携できていない。

 

まぁその犠牲を厭わない突撃突進が、ある意味ディフェンダー役である幹比古の負担軽減に繋がっているならば、別にいいのだが。

 

「そう言えばけーた兄ちゃんが倒したあの残念イケメンは、モノリスに出るん?」

「らしいね。まぁ俺がやった援護も意味がなかったな」

 

ピラーズであの一条将輝を再起不能(リタイア)に追い込んだつもりだったが、存外気合いを入れて戦いに挑んでいるようだ。

 

ピラーズでの自分との試合などラッキーパンチが決まっただけだと思って、油断せずに冷酷に相手を打ちのめしているそうだ。

 

(まぁ九郎丸も出場するらしいから、それ次第かな)

 

とりあえず第1試合は大丈夫のようだ。モノリスを陥れたことで勝利は決まった。ある意味、ボロボロすぎる勝利だが、この分ならば第2試合の四高との戦いも安牌のはず。

 

(―――まぁ森崎くんは一科生、俺のような劣等生とは違い高いレベルの考えがあるんだろう)

 

皮肉げに内心で言う。

 

あとは強敵ぞろい。そもそも上がっていけばどうやっても強いところとは当たるわけで。

 

(あとは野となれ山となれな気持ちだな)

 

「ケータ! そろそろカトラの試合ヨ!」

 

「そうか。じゃあどうする?」

 

アンジェリーナの誘いにどうしたものかと悩む。一応、幹比古のニワカ友人な立場である啓太としては、このまま妹に幹比古の試合を見てほしいのだが……。

 

「幹比古さんには悪いですが、まぁあまり痛ましい試合ばかり見るのは精神的に良くないということで」

 

「カトラねーちゃんの試合……エキゾチックな民族衣装とか見てみたい!!」

 

結論、どうやら一高のモノリス一年チームの戦いっぷりは、2,090年代のJCのウケが悪かったようだ。

 

(すまん!友よ!!)

 

そんなこんなで四高との第2試合は、見ないことが決まったのだった。

 

だが、この判断をすぐに啓太は後悔することになるのだった。この大会に陰謀が走っていることなど先刻承知。

 

しかし、啓太がアレコレ引っ掻き回したのであきらめたかと思えば、全く諦めていなかった。

 

当然といえば当然。

 

そして―――惨劇が起こるのだった。

 

 

ミラージバットのCAD調整ののちに昼寝を終えて競技エリアに戻った達也は、会場が動揺に包まれているのを感じ取った。

何かが破裂しそうな空気……有り体に言えばパニックと動揺が、各校の天幕が置かれたエリアを覆っている。

 

そして、それが強いのは、第一高校の天幕だった。

「お兄様!」

 

天幕に足を踏み入れた途端、深雪が一直線に駆け寄ってきた。

その隣には雫の姿もある。

「深雪? 雫も……エリカたちと一緒じゃなかったのか?」

 

ほのかが起きてくるまで──五時から決勝の準備を始めることになっている──深雪と雫はエリカたちとモノリス・コードを観戦している予定だったはず。

 

それが今、ここに居るということは……。

 

「何があったんだ? モノリス・コードで事故か?」

 

答えを待たずに、達也は更に質問を重ねた。

何かあったのか、とは訊かない。何かがあったことは、この雰囲気から明らかだ。 ただそれが、思った以上に深刻な事態かもしれない、と達也は考えたのだった。

 

「はい、事故と言いますか……」

 

「深雪、あれは事故じゃないよ」

言い淀む深雪の横から、雫が強い口調で口を挿んだ。

「故意の過剰攻撃。明確なルール違反だよ」

 

その口調は抑制を保っているが、雫の目には見間違えようの無い憤りが燃えていたが、その後にはすぐさま不明な気持ちが起こって混乱している様子だ。

 

「けれど……相手である四高の方の人間たちも大怪我を負っていた……それは自傷では出来ないほどの大怪我で―――」

 

険しい顔を見せる雫の気持ちに深雪も同意のようだ。だが、理解出来ていない。共有出来ていない危機意識をおなじにするべく達也は言葉を重ねる。

 

「?つまり……」

 

「加害者側である四高のモノリスメンバー全員も重傷に陥っていたのよ」

 

疑問を呈した達也に応えたのは、どこからか現れた七草会長であった。

 

「使われたのは、こちらが確認した限りでは『破城槌』と呼ばれる戦術級魔法……これは森崎君たちが四高からやられた被害」

 

詳しいところは書面で見ると、どうやら両校のスタート位置が建物―――廃墟と言うべき場所だったことが災いしたようだ。

 

掛けられた魔法がコンクリート建造物をぺしゃんこにする勢いで掛けられて、結果としてデモリッションも同然に解体。

 

そして―――中にいた人間たちの運命など分かりきっている。

 

「四高の方はどうしてそんなことに?」

 

「それが良くわからないのよ……巻き上がる粉塵の量が多すぎて、それがある種のジャマーにもなったのか審判員も四高側への制止なども出来なくて……直接確認に出向いたらば……」

 

軍用の防護服を鋭利なもので切り裂かれ血まみれ。

そして……全員が何か強烈な電気ショックか、マインドアタックを掛けられたかのように虚ろな目をしながら虚空を見ていたとのこと。

 

恐らく涎も垂れ流しだったのだろう……。

 

思い出したのか暗い表情をする七草会長は、達也と内緒話するべく、奥の方へと誘う。

 

深雪もそれに特に嫉妬を覚えることもなく見送ってくれたが、ともあれ詳細を聞くことに……。

 

もっとも会長もこれといった詳報を聞いてはいないようだが、今の所は十文字会頭が委員会側に『代理チーム』の登録を要請しているとのことだ。

 

「それだけのアクシデントが起きたというのに、続けようというんですか?」

 

正直言えば男子の方及び新人戦での得点は……浦島啓太がアレだけ引っ掻き回したので、マジック点灯とまではいかずとも安牌なぐらいにはなっていると思うのだが……。

 

「その辺りは十文字君の心ね。もっとも……私とてそうするかも―――で、達也君に聞きたいことは、この大会の裏で動き回っているものよ」

 

抽象的な問いかけだが……言わんとする事は理解できた。春先でのブランシュという組織を言い当てた時のように達也の『情報網』を当てにしているのだろうが……。

 

「会長、あの一件は結局の所、ブランシュ本体はおろかその下部組織であったエガリテですら何とも中途半端に終わりましたじゃないですか」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「ヨルダ・バオトと裏火星―――そしてアマテルの茶々入れで全ては覆されたんですよ」

 

あの後の顛末としては、彼らの関与は全て『なかったこと』になった。それよりも巨大な存在・組織とが、彼らの罪を微妙なものにしたのだ。

 

「リーダーの司 一は一旦は逮捕されましたが、すぐに処分保留で釈放及び不起訴になりましたからね―――何も証拠がなければ組織犯罪処罰法も適用できませんし」

 

(きのえ)くんは、あの事件時点で既に一高を『自主退学』していたわ。その後は―――実家の方の縁で京都の方の『協会』とやらに迎えられたそうだけど」

 

ここまでは、確認作業。そのうえで達也は会長の懸念を晴らすことにした。

 

「今回、この九校戦に食指を伸ばしているのは、そういった風な組織じゃない『はず』ですよ。まぁ裏火星やアマテルのCEOに関しては詳しくはないですが……」

 

ならば、なんで断言できるんだ?という視線を理解しながらも達也は、中華系の犯罪シンジケートがバックにいて『闇賭博』をしていると告げるのだった。

 

「それじゃ、何処かの高校の生徒が『八百長』している可能性もあるの?」

 

「まぁそうですよね……普通、そういう賭け事では、勝敗をある程度コントロールすることで、賭けを成り立たせようとすることが普通ですよね」

 

達也が苦悩気味になりながらも、そういう昔ながらの手法ではなくアホらしいことに『勝率一位』の高校を『落とす』ことで、胴元の一人勝ちを狙ったようなのだ。

 

正直言えば、稚拙すぎる……もっとも中華系マフィアが気安く接触できる『ピッチディーラー』みたいな魔法科高校の生徒もいなかったのだろう。

 

よって、達也は詳報を開いた端末を会長に見せることにした。

 

それはこの九校戦の前―――、一週間前に行われた警視庁の大捕物。

全国ニュースにも取り上げられたそれは表向きは台湾系の公司への強制捜査。色々と公の社会では認められないとんでもないもの(ご禁制の商品)が押収されたが、その裏側には『無頭龍』という組織に対するカウンターがあったりしたのだ。

 

「これは私も見たわ。妹たちが大騒ぎするぐらいには近場の事件だったからね」

 

都内に住居がある人間からすれば関東圏全てが、ある意味では近場かもしれないが、皮肉を押さえつつそういう裏側を教えるのだった。

 

「そう……それじゃ関係者は全て逮捕されたのね?」

 

「恐らく―――程度ですけどね。知り合いの坊主経由なので」

 

そう言うと、『忍者』のことに会長も思い至ったようだ。

 

「ですが、胴元が逮捕されただけで、賭け自体は今でも継続しているのかもしれません」

 

「支払い主がいないのに?」

 

「ええ……」

 

この辺りは『本当』に達也も疑問なのだが、まぁ総首領といえる人物は、日本国外にいるわけでそこから『支払い』があるのかもしれないが、

 

「イマイチ分からないわね……」

 

「俺も混乱していますよ……俺が掴んでいないだけで他の勢力が暗躍している可能性もありますが……」

 

「達也君の情報網も完全じゃないのね」

 

「申し訳ありません」

 

「アナタが謝ることじゃないでしょ。ただ……事の発端は、摩利が陥ったアクシデントよね」

 

それには黙って首肯をする。そしてこの事態の裏側に至るまでを理解しているだろう相手にお互いにため息を突くのだった。

 

(なんでそんなにまでも秘密なのかしら? そりゃ達也君みたいに自慢屋根性を出して、傲慢になれとは言わないのだけど……)

 

みんなに何も言わないことで、必然的に傲慢に高慢になっていることは気付いているのだろうが……それを改めるつもりはない。

 

そして、危機や危難が起こればそれを解決してしまう。そこには使命感とか義侠心など無い。

 

ただ単に『他のやつに任せていては不安だから自分でやってしまう』というある種の面倒くさい仕事人間的な一面が見え隠れするのだ。

 

それが少しばかり真由美にとっては、嫌なのだ。

 

(なんかすごい失礼なことを考えているな)

 

そんな真由美の考えを『えにっき』などというアーティファクト無しでも何となく察した達也に直々に指令が下った。

 

「一年女子に動揺が広がらないよう協力して欲しい」

 

こちらの考えを読んだわけではないだろうが、それでも下った指令と今後のCAD調整などに忙殺されることになってしまう達也は、その間―――啓太の方から注意を離すのだった。

 

 

ホテルの一室にて、全てを解析しつくした啓太のAIは残酷な真実を告げてくる。

 

『間違いない。実体化モジュールを使ってCADから出現した痕跡(ログ)が存在している。しかもある種のウイルスプログラムな魔法も実体化(リアライズ)したようだ』

 

「どれだけの数のビリーナンバーズがやって来ているんだ?」

 

エックスの言葉に啓太は陰鬱な気持ちで答える。

一旦はいなくなったというか十七夜栞との夜中の会合で始末しきったと思ったのに、まだいたということに啓太は片手で頭を抱える。

 

一匹いたらなんとやらなぐらいに湧いて出るのだ。

 

『奴らに道理など無い。分かっていたはずだマスター啓太。人類滅亡の芽などそこらへんにありったけあるのだと』

 

嫌なことを警告してくれるAIである。だが、こうなった以上……もはや、やるべきことは一つなのだろう。

 

「ケータ、どうするの?」

 

「どうするもこうするもないな。だが、奴らイレギュラーAIが、『一高の優勝の阻止』ということを『命令』として受けたのならば、一高が確実に勝ちに向かっていく段で稚拙な手段に出てくる」

 

そこを叩くしか無い。

 

情報世界での戦い『だけ』で奴らを『DELETE』することは不可能。

 

物質世界……三次元世界に出てきた時に決着を着けるしか無いのだ。

 

アンジェリーナの質問に答えたあとに急遽のコール。幹比古が意識を取り戻して自分を呼んでいるとのこと。

 

可奈子からの連絡に啓太とアンジェリーナは病院へと向かうのだった。

 

 

向かった先にいた幹比古はどう考えても重傷であり、だというのに可奈子は自分を呼んだというのだ。

 

看病していた可奈子は、『長く話さないでください』と言ってくる辺り、この集中治療室にいる友人の状態を察するのだった。

 

「啓太ーーーそこにいるんだね?」

 

目は現在開かれていない。粉塵で眼がやられたからなのか包帯が巻かれている。あるいは再生治療の真っ最中なのかもしれないが。

 

「ああ、いる―――今はゆっくり休め。俺はもう出れない『手を―――手を出してくれ』幹比古……」

 

痛ましい姿。彷徨うように上に出された手もまた治療の痕が生々しいが、それでもその治療中の手に自分の手を向けると―――パチンッ!と叩くようにして何かを手渡されたような感覚を覚えた。

 

「バトン、タッチだ……確かに渡したよ……」

 

「幹比古……」

 

「キミのやりたいようにやればいいんだ。狭い甲羅でも大海に出てしまえば広い世界……誰かがキミに―――嫌疑を向けたとしても……キミが思うがままに、行きたい方向に行けばいいんだ……魔法科高校(ガッコー)は、キミにとって狭いならば……閉じこもっている全員の在り方を崩して、、……しまえよ。せっかく……の時間を無駄にするなよ」

 

そう―――言われたあとに、ナース(看護師)のようなドクター(女医)がやってきて、出ていくように言われる。

 

「よろしくおねがいします」

「はいな。まかされたえ♪」

 

京都弁のマジックドクター……言うなれば『スーパードクターK』に後は任せるのだった。

 

「兄さん……」

 

「何も言うな……ただ―――やるべきことはやるさ」

 

幹比古の心に報いるだけの何かをやるには今の啓太は無理なものが多い、ただそれでも受け取ったバトンは間違いなくあるのだった。

 

 

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