魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.46『新人戦五日目・再始動』

 

 

「なあ、達也……マジ?」

 

訝しげ、というよりどこか途方に暮れた顔で何度も同じ事を問うレオに、司波達也は素早く応える。

 

「ああ、本気と書いてマジ。大マジだ」

 

達也の答えはいつもより軽いものであり、 少しばかりあっけにとられてしまいそうになる。

 

「やっぱりマジか」

 

だが、表情は変わっていないので答えは変わりそうにないのでレオが深いため息をついた。

 

「だが、なんで俺なんだ?」

 

「俺が連携を取れる相手となると、お前ぐらいしかいないのと、ついでに言えば一年一科の男子とはウマが合わない。よって他の決まってる相手を除けばレオに白羽の矢を立てたんだ」

 

「……浦島はそれでいいのか?」

 

「何も言うべきことはないな。そちらに合わせるだけだ」

 

部屋にいたもうひとりのメンバーは壁によりかかりながら、そんな風に言う。

 

結局の所、彼はいつでもマイペースなのだった。

 

レオに基本的なルールを教えつつ、やってもらいたいことの説明をする段になった時点で、少しだけ啓太も会話せざるをえなくなる。

 

「本来ならば、レオにはディフェンダーとしての役目をしてもらいたかったんだが、今回の特別ルールによって、自動的に浦島がモノリス防御の要たる『キーパー』になることになった」

 

「どういうことだ?」

 

「全てを説明すると長くなるが、十文字会頭の交渉で予備チーム登録の条件として、浦島啓太を試合に出すこと。そして、その際の特別ルールが設けられた」

 

1,浦島啓太は開始10分が過ぎるまでモノリスの半径10mからの移動を禁ずる。

 

2,浦島啓太への攻撃選手は10人まで追加することを可能とする。(その他の一高登録選手への攻撃は許さず、浦島啓太への攻撃のみを許可する)

 

3,上記ルールへの救済措置として浦島啓太は、刃物・打突武器を用いない直接攻撃を許可する。

 

4,なお浦島啓太は、プロテクトアーマーの使用を禁ずる。

 

書面というか端末に表示された特別ルールを見た西城レオンハルトは……。

 

「どうせならば、俺にもこのルールが適用されたかったんだがな」

 

西城の目は3番めのルールにばかり行っているようで、少しばかり短慮を戒めるべくいう。

 

「アーマーの使用がないんだ。下手すりゃ大怪我ですまねーよ。4番目のルールの危険性をナメんな」

 

「うっ、ワリぃ。けどお前は大丈夫なのかよ?」

 

「問題ないな」

 

『まぁ私としては、ご主人をナメた馬鹿どもの血で濡れたかったんですけどねー。ぶっはー! 生き血を浴びてー!!!』

 

とんでもなく物騒なことを宣うのは浦島が剣呑にもこの部屋に持ってきた刀である。

己の遺志を持った器物という恐ろしい事実に、実は浦島が腹話術でも……と思ったが、どうやら違うようだ。

 

(あの時逆との戦いでも女の声が聴こえていたが、まさかあの剣からだったとはな……)

 

自分を四葉だと暴露されたときのことを思い出した達也だったが、そんなわけで……。

 

「俺の役目はモノリスのキーパーであると同時に、前進する君らの後方支援というところだな。まぁ安心しろ。色々と支援砲撃は出してやる。

戦いは数だよ兄貴!! と宇宙要塞の偉い人も言っているしな」

 

誰だよそれは? と想いつつも、話は進み―――。フォーメーションの暫定的な確認。

そしてCADの調整という段に至った時点で……。

 

「けれどよ達也……こいつ一本だけが攻撃手段ってのは結構心もとないぜ」

 

「確かに、な。本来ならばレオにはディフェンダーをやってほしかったわけだから……少々心もとないか」

 

「せめて浦島や二高の時逆君みたいに、斬撃を飛ばせたり、何かできれば良かったんだがな」

 

その言葉に神鳴流の技を教えることは不可能ではある。

 

『そもそも、それってどう使うんですか? 剣は使えないならば、刃が無いとは言えそれも使えないはずでは?』

 

「……詳しい説明は省くが、これはある種の『投擲武器』みたいなものだ。柄と分離する形で、この板っきれをぶつけるんですよ。言ってしまえば鎖のないモーニングスター(聖水散布器)というところです」

 

なぜに俺は喋る刀に説明をしているのだろうか? 妙な気分になりながらも、達也はそう懇切丁寧に説明すると―――。

 

『啓太、この少年の剣に『鶴亀紋』を刻んであげなさい。私を介して付けたものならば、恐らくそれなりに出来ることもあるはずですから』

 

先ほどまでの巫山戯た言いようとは違い、真面目な厳かな―――言うなればヒトの上に立つような人間の調子で浦島に命じる様子に呆気に取られるも。

 

「承知」

 

特に驚かずにそれに応える浦島。鞘から少しだけ引き抜いた刀で自分の親指の腹を少しだけ切る様子。

 

そして血判でも押すかのように親指で精緻な紋様をレオの武器である『小通連』の『打撃板』と『柄』に刻んだ。

 

時間にして10秒足らずで、その作業を終える浦島。手慣れた様子に、前からこういうことをやってきたのだろうと推測できる。

 

「あとで試し斬りする時は呼んでくれ。ぶっつけ本番ならば、それでいいが、俺はちょいと出てくる」

 

「まぁお前にはCADの調整は要らんし、アーマーも中条先輩が持ってくるわけじゃないが、何処に行ってくるんだよ?」

 

「―――女のところ」

 

その言葉に達也は呆気に取られる。こやつは自分とレオが懸命になっている時に、そんなことをしようというのかなどと嫌悪も顕になりそうになったのだが……。

 

「ああ、ついでに言えばお前の『目ン玉』の封印を解くのもある。別にハマノツルギ(ハリセン)でぶっ叩いてもいいんだけどな」

 

あっかんべーをしながら、『目的』を話されたことで、その退室を見送ることにした。

 

戸惑うレオに構わず達也は作業を続行することにした……。端末機器に入れて解析したところ自分の作成した武器が、とんでもない『強化』がなされていることに驚くのだった。

 

(マギステル……とんでもないな)

 

改めてその力に脅威を覚えて、そして試合になった瞬間、ソレ以上の脅威を覚えるのだった。

 

 

新人戦五日目は、困惑の空気と共に幕を開けた。

 

前日のモノリス・コードで、前例の無い悪質なルール違反と同時に混乱してしまうような不可解な事態があり、その『事件』でメンバー全員が大怪我をして試合続行不能となった第一高校は、通常であれば残り二試合が不戦敗となるところを、大会本部の裁定と十師族の多大な影響力と腹黒い思惑により代理チーム―――1名は既に規定済みでの出場と特別ルールを採用した上で試合の順延が認められることになった。

 

「……浦島君、再度聞くんだけど本当にこのルールで大丈夫なの?」

 

「問題ないです。射撃武器の持ち込みも許可してくれてるし、直接のぶん殴りも問題ない。逆に聞きますが、こんなザルなルールで十師族は俺を縛れると思ってるんですかね?」

 

むしろ啓太からすればボーナスも同然だ。

 

「実を言うと、今回の特別ルールは一条君の父親である剛毅さんが提案したものなのよ」

 

その言葉に反応したのは責任教師であり、啓太にとっての師匠であった。

 

「ふん。大方、佐渡ヶ島でタケミチに会ったことでマギステルが手妻使い程度だと思っているんだろうな」

 

「タケミチ兄貴は、居合拳と魔法のみで戦ったんだろ? ならば、接近戦がとんでもないことぐらい分かりそうなもんだが」

 

「分かっとらんな。剛毅のアホは、タケミチの『居合拳』もまた『加重魔法』の原型程度にしか思っとらんのだよ。拳の圧でイワンの兵隊どもが伸されているだなんて、想像の埒外だろうな」

 

浅っ! 雪姫の言葉に短絡的な感想が出たが、それならば、こんなルールにもなろうか……。

 

「で、雪姫は何をしに来たの?」

 

「お前にお届けものだ。そんなジャージ姿で戦うとか、お前はいつの時代のバトル漫画のキャラだ」

 

「ジャンプやサンデーは分からんが、マガジンでは鉄板だと思うけどね。まぁ学ランでも持ってくれば良かった」

 

中学の制服も実はブレザータイプだっただけにカッコつけの為の衣装としてのオシャレ学ランが実家にあったりするのだが、持ってきていないので、こうだったのだが……。

 

「そんなお前にプレゼントだ」

 

「―――これは誰から?」

 

「麻帆良学園の学園長様からだよ。かつてのぼーやの伝説をお前に重ねているわけじゃないから安心しろ」

 

「アンタは?」

 

雪姫こそこれを着ることに何も感じないのか? と暗に問うと微笑を浮かべながら口を開く。

 

「啓太とぼーやは似ても似つかんよ。だがお前は―――どうする?」

 

口ごもった雪姫の心が分からないほど不孝者ではない啓太は『エヴァンジェリンおばあちゃん』からのプレゼントを素直に受け取る。

 

薄い山吹色のローブ。この夏場に羽織るものではないが、これこそが魔法使いとしての正式衣装であることを理解していたので、それを素直に羽織ることにするのだった。

 

「準備はいいんだな?」

「ああ、いつでもどうぞ」

 

リーダーである司波達也の言葉に端的に答えてからフィールドに赴くことになるのだった。

 

 

赴いた森林フィールドで新生一年モノリスチームは、いろいろな目で見られる。

 

好奇、嫌悪、期待……様々だ。

 

「なんだか目立ってるよなぁ」

「仕方ないな。色々と異例ずくめの補欠チームなんだ。そして十師族の一条を破った魔法使い……山吹色のローブを着ている人間まで出場するんだからな」

「デバイスの技術力で選手を勝たせているマッドサイエンティスト(フランケンシュタイン博士)にいわれたかねーよ」

 

 

辺りに落ちていた木枝を手に取った浦島の言葉でバチッ!とお互いの視線が火花を散らせたような気持ちをしながらも、試合開始のブザーは鳴り響き、二校は動き出すのだった。

 

 

今回の特別編成ルールにおいて、ネックとなることがあった。それは浦島啓太への攻撃人数だとか、そういうことではない。

 

単純な話、西城レオンハルトという2科生に『忍術使い』たる司波達也のバックアップを出来るほどの疾さを得ることが出来るかということであった。

 

魔法に頼らずとも、司波達也が恐るべき敏捷性を持っていることは殆どの一高上役が知っている事実だ。ゆえに先行するように前に出ていく司波達也を追えるのか? その疑問を解消するように、西城レオンハルトの速度は、司波達也ほどではないが、決して引き離されるようなものではない。

 

「西城くんが、あそこまでの自己加速が出来るだなんて……」

 

2科生だからといって、決して侮っているわけではないが、それにしてもいい動きをするものだ。

 

テント内の真由美は前線の様子を見せるカメラに関して感想を出す。

 

「動き出した10名のアタッカーは、一直線にモノリスに向かっているな。何処に石版があるかは分からないだろうが、10名で索敵していけば、誰かは見つける。そういう算段なんだろうな」

 

「じゃあ10名ものアタッカーと浦島は戦うのか?」

 

「まぁあちらには途中で鉢合わせするかもしれない西城と司波を撃退することは出来ないんだ」

 

狙う首は1つだけだ。防御することは出来たとしても、それだけではどうしようもないだろう。

 

そして浦島に掛けられた制約が、厄介だ。

 

(………果たしてどうなるのか?)

 

昔にある事件でマギステルと関わった克人だが、それでもその総力―――極まった魔法使いの一人だろう浦島啓太や雪姫の実力の全てを見切れていないのだ。

 

自分たちが見ているライブ映像の殆どは相手校である八高と司波と西城ばかりを撮っている。

 

察するに、浦島にはまだアタッカーが接近出来ていないのだろう。

 

つまり変化はない……。

 

「開始して既に八分か……」

 

既に司波と西城は八高のモノリス前で戦端を開いている。

 

通常の試合展開に比べれば驚異的なスピードではある。司波の速度に着いていった西城に合わせた形でなければもう少し早かったかもしれないが。

 

(おかしい……十人のアタッカーが、一斉に進んでいったというのに、まだ浦島……一高モノリス側には何の変化もないというのか!?)

 

展開の速さよりも、まだ何も起こっていないことに克人は驚く。

 

ルール違反監視用のカメラドローンは動き続けているのだろうが、その映像は『取捨選択』された上でディスプレイに表示される。

 

それは観客席でも同じであり、克人は焦燥する想いで、早く浦島か八高のエクストラアタッカーを映してくれという願いだ。

 

その願いが叶ったのか、ようやくのことで映像が出たのだが……モノリス前は何もない。

 

なんだか屈んで木枝で地面を叩いている様子だ。

子どもが遊んでいるのか!? と言いたくなる様子

 

だが―――次に見せられた映像には、ドヤ顔で司波の放った術式解体を説明していた七草も息を呑んだ。

 

「な、、なな!!!なにが―――」

「八高のエクストラアタッカーが……」

「全滅している……!」

 

三巨頭が呆然としてしまうのも当然だ。10人の八高生たちが、森の中で倒れ伏したり木の枝に吊るされたりしながら、動けずにいたのだ。

 

原始的な戦場跡。いわゆる打ち捨てられた屍が、そこかしこにあるようなものと同じような有り様が、そこにあったのだ。

 

ご丁寧にも、失えば戦闘不能のジャッジが下る頭部ヘルメットを全員が喪失して、その上で頭髪は当然のことで全身が水に濡れていたのだ。

 

「ど、どういうことなの!? これもマギステルの術だっての!? 浦島くんはどうやって敵を捕捉していたのよ!? 私のマルチスコープでも、ここまで……どういうことなのよ……」

 

混乱しきる七草の言葉に誰も答えられない。だがカメラドローンは、それらを克明に映し出していた。

 

リプレイ映像として浦島とエクストラアタッカーの攻防ではなく……一方的な攻撃の連続(ずっと俺のターン)が……。

 

 

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