魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.47『新人戦五日目・one』

 

一高モノリス前にてキーパーを任された啓太は、正直退屈を覚えていた。

別に敵がくるのを待ち構えるだけがキーパーの役割では無い。

 

(確かに俺を自由にさせないという点では上策だ。10人ものエクストラアタッカーたちも自己加速魔法などで、接近してくるだろうな)

 

分かりきっていることだ。

有り体に言えば集団でリンチをしにくる連中がいると分かっているのに。

 

「なんで黙って何もしないでいると思うのかね」

 

バカなんじゃなかろうかと想いながら、その辺で拾った木の枝を使って地面を叩く。

 

それは一見すれば意味不明な行動でしかなかっただろうが、それでも啓太はそれだけで良かった。

 

(まずは一番先んじて動いている連中から倒すか)

 

2人組で動いている八高の魔法師……それを認識した後に、啓太は強化した己の拳を何度も地面に叩きつけた。

 

堂に入った正拳突き―――ある意味、腕の動きが見えないほどのものを地面に行う行為に意味を見出そうとするも、魔法師の大半が分からず―――しかし、その結果は次に映し出された八高のアタッカー。

 

先んじて進んでいた連中で知れる。彼らも何が起こったかはわからないだろう。

 

だが起こったことは遠景で撮っていたカメラドローンが、克明に映し出していた。

 

前だけを見ていた彼らには分からなかったろうが、彼らの足元に何かの『穴』。それがいくつも出来上がり、そこからいくつもの『水で出来た手』が出てきて、下から彼らにパンチを幾つも食らわせてきたのだ。

 

しこたま身体を殴られたことと顎に垂直に入るアッパーカットもあったことで、ヘルメットが砕けたのだ。

 

「次は『あっち』か―――そらよっ!」

 

都合、同じ行動を4回ほどモノリス前で続けたことで、足元から飛び出る水の連続パンチが、八高のエクストラアタッカー全員を沈黙させた。

 

一連の映像を見せられて誰もが画面の中で倒れ伏す八高のアタッカーたちと同じく沈黙せざるを得なかった。

 

「―――ハンデなんて無いんだな……」

 

縛り付けたつもりであっても、それは浦島啓太からすれば鎖ですらない。むしろ、その縛り付けた鎖を武器として振り回して相手を倒すのだ。

 

「察するに、あの木枝による地面たたきは、ある種の索敵なのだろう。潜水艦のソナー探知のように相手の場所を探るためのな」

 

「そんなものを聞き分けているの?」

 

「分からんよ。俺も、何となく程度の所感だしな」

 

だが、そうでなければあの水の拳による連続打を正確に打ち出すことは出来なかったはず。

 

しかし、随分とアレコレ出来る男である。魔法使いならば、普通なのかもしれないが、それでも克人は……。

 

(驕り高ぶらないというのも場合によりけりだ)

 

だが、浦島啓太という少年の事情をそれなりに知っている克人は、今も欠伸をしてからアクビちゃんを呼び出したかのように、水の中位精霊を召喚して飛ばしていく啓太を見て思う。

 

恐らく司波と西城への支援砲撃だろうが、この距離からでも使えるものなのだろうか。なにはともあれ―――次には司波と西城の方にカメラが回り……。

 

 

『やらせはせん!! やらせはせんぞおお!!!』

 

などとモノリスの前で獅子奮迅の防御をする八高ディフェンダーを相手に2人が攻めあぐねている様子だった。

 

「正規モノリスメンバー2人は既に倒していたか。中々にやるな」

 

「けど、その一人が随分と硬いようだ。エクストラアタッカーがやられたことを理解しているんだろうな」

 

ここから逆転するためには、最後の一人が踏ん張らなければならないのだ。

 

とはいえ、その一人の心を折るように―――モノリスの前に立ちふさがる八高ディフェンダーの後ろ。モノリスの後ろから……真っ裸(マッパ)の美女が現れた。

 

その肌の色が普通の人種ではなく青色の透けるような身体だとしても、気付いた八高ディフェンダーは見事な肢体と色気にあからさまに動揺して、その美女が迫ってきたことで止まった。

 

その体が幾つもの長い手腕に変わり、魅了されて止まっていた八高生を拘束して……くすぐりの刑―――、一高では『笑顔の魔法』などと言われたものが行われる。

 

「いっひひひひひ!! うひゃははは!!!」

 

強制的に笑わされるという恐ろしき刑罰を見過ごすしかなかった達也とレオは呆然としていたのだが。

 

『ほれ、相手ディフェンダーは既に拘束している。必死にヘルメットだけは死守している様子だが、そのせいで脇を擽ることが容易―――何をやるかは分かるはずだな?』

 

いきなり現れた子ガメ……タマよりもデフォルメされたそれが言葉を放つ。浦島の使い魔の類のようだが……。

 

「いや、けれどよ……」

 

動けない相手に対して硬化した板で殴るというのは間尺が悪すぎて、レオとしては少々卑怯に過ぎて戸惑うのだが。

 

「面倒だが―――モノリスのコードを送信する。レオ、護衛を頼む。万が一拘束を抜け出す可能性もあるからな」

 

言葉の途中で無系統魔法で石版を割った達也が、手首の端末を操る。

こいつはこいつで、何も出来ない相手(笑いっぱなし)が目の前にいるというのに、コードを送信するという……卑怯ではないが、少々無情なことを平然とやるのであった。

 

「ここここんちくしょぶっはははは!!!」

 

哀れ過ぎる笑い声をBGMに新生一高モノリスチームは勝利を飾るのだった。

 

 

そんな戦いの様子を見ていた観客の中でも一際、注目をしていた三高一年モノリスチームの2人は、終わってしまえば沈黙だけをしなければならなくなった。

 

「………」

「………ジョージ、どう想う?」

「どうもこうもないよ……何なんだアイツは……もう魔法理論も何もない……対策を立てられない。アイツは拳を使わせても強すぎる……」

 

問いかけた将輝も、正直……浦島が、ここまでとんでもないなどとは思っていなかった。

 

正面から勝とうと思えば、本当に人海戦術しかないのだが……。

 

(親父が呈したルールはあまりにも卑劣過ぎる。これが俺に勝ちを与えるための配慮であり忖度であることは分かる……)

 

だが、それを使って勝ちを得たとしてタイトルホルダーとしての一条家の名誉が守れるのか?

ガンダムに勝つために父親がステージに細工したようなものだ。

 

「……カトラと四十九院が協力してくれるならなぁ」

「ダメもとで頼んでみようか」

 

2人が頼みの綱とせざるをえないのは、その2人であったのだ。

 

果たして何か教えてくれるかどうか……焦燥と後悔の混ぜ合わせのままに三高テントへと戻るのであった。

 

 

 

一高選手控室。モノリスメンバーに急遽選ばれた3人は、ここに集結していたのだが、その行動はてんでバラバラであった。

 

一方は、アイマスクを着けてお気に入りの音楽をワイヤレスイヤホンで聞いている様子。

そんなスリープしている状態の啓太の音楽プレーヤーに無断でのジャックイン(接続)をして、同じく音楽を聞いているのはアンジェリーナである。

 

変則的ではあるが、半世紀以上前に流行ったまだワイヤレスイヤホンが出る前のケーブルイヤホンを左右で違う人間が使う……ようは当時の恋人たちがちょくちょくやっていたらしい『イヤホン半分こ』をやっているのであった。

 

もう片方は、端末を操り何かの作業をしているのだが、労っているつもりなのかその背に回り込み肩もみをしていたりする兄妹がいたりする。

 

何とも控室では一人であるレオとしては肩身が狭い想いでいたところに―――。

 

「どうぞ」

 

などとこちらの気持ちを察したかのように、一人の少女が横合いから茶菓子と茶を自然と差し出してきたのだ。机の上に置かれたそれよりも疑問なのは……この少女が誰なのか?だ。

 

「あっ、これはどうも……えーと……」

 

流石に最初から九校戦選抜メンバーではない上に、あまり1科生とも面識がないレオは、こんな割烹着姿の少女は分からなかったりするのだった。

ジャージでも着ていれば流石に一高生とも推測出来るが、そういう感じでもなさそうだ。

 

少女の無表情さは北山雫を思わせるものだったが、背丈は彼女のほうが高い。分かることはそんなところであり――。

 

「何をやってんだよ。可奈子」

 

答えは意外なところから出てきたのであった。

 

「お届け物です。兄さんのことだから、茶菓子の一つも出していないんだろうなと思いまして」

 

「別にいらないっつーか。 好みじゃなかろうなと思ってあえて出さなかったんだよ」

 

アイマスクを少しだけ上げる五条スタイルで、そんなことを言う浦島。どうやら本格的に寝ていたわけではないようだ。

 

「いや、んなこたぁねーけど」

 

正面にてカメ饅頭を頬張りながら緑茶を飲む西城が言うが、啓太としても言っておくべきことはある。

 

「一回だけだが俺も君等『司波組』に付き合って小洒落た喫茶店に入ったからな。まぁこういうのは好かないんだろうなって思ってな。別に実家の稼業を殊更アピールしたいわけじゃないしな」

 

言いながらカメ饅頭を啓太も食べる。ついでに言えばアンジェリーナも食べるのだが……。

 

「やっぱり、このシロアン(白餡)の味がイイわ―――なんていうかホッとするとでもいえばいいのかしらネ」

 

「特殊な製法はないが、やっぱり『癒やし』を目的とした茶菓子だからな。何かあるんだろうよ」

 

本当のところは啓太もアンジェリーナも知ってはいる。浦島家は『霊脈の管理者』なのだ。

 

特に北関東……海なし県である『埼玉』の巨大都市の方から流れ込んでくるチカラを調整する上で、それらを利用しているのだ。

 

その一つ……樹から流れてくる告白成功率100%永遠相思相愛という『呪い』も同然のものが、ひなた旅館の別館に使われていたのだが……。

 

そんな風に実家の味に舌鼓を打っていたのだが、一人、いや二人食えていない人間が苦言を呈してきた。

 

「浦島、俺と深雪には無いのか?」

 

「生憎、我が家の菓子を珈琲でマリアージュさせようとする輩には出せません。緑茶で頂いてもらいたいもので」

 

「……なんで君が応えるんだ?」

 

「私も浦島なもので」

 

端末から外して顔をこちら―――西城と座っている長机に向けてきた司波達也に応答するのは、割烹着姿の可奈子である。

 

その返答に怪訝な顔をするも推測はあるのか、啓太に顔を向けるも。

 

「浦島 可奈子と申します。そちらにいる啓太は私の実兄に当たりますので、以後お見知り置きを」

 

「どうも……」

 

その前に丁寧な一礼と同時に自己紹介をしてきたことで、司波達也も応対するのだった。

 

「兄さんのための茶菓子も届けられたので、そろそろ私は御暇します。では―――」

 

―――浦島流柔術 空蝉―――

 

言葉と同時に可奈子の姿は無くなるのだった。煙の演出などは無いが、あまりに急激な消失に司波達也は頭を混乱させているようだ。

 

「……柔術ってそんなことも出来るのか?」

「やろうと思えばな。面倒だから俺はやらんが。

まぁ浦島流柔術は『攻撃』よりも『防御』に重点を置いてるから真島クンみたいな鉄菱(骨折者続出)とか出来ないとは言っておく」

 

真島クンって誰だよ? という疑問はさておき、すっとばされるように仕切りを開けて中条先輩と七草会長がやってくるのだった。

 

「誰かやって来ていたの?」

「ウチの妹が激励に。もう帰りましたけど」

「……すれ違うことも無かったんだけど……」

「そこは気にせずに、で―――何か報告事項でもあったのでは?」

 

言葉の途中で『和菓子 うらしま』の銘菓をそれとなく向けると、とりあえず素直に受け取るのであった。

 

「次の試合のステージが設定されたわ。今度は荒野よ」

 

その言葉に大方のメンバーは『ふうん』としか思えなかった。中でも反応が薄くて戸惑うのは浦島啓太に関してであった。

 

「って! 浦島くんは何もないの!?」

 

「別に。もしかして会長が心配してるのって見晴らしのいいところならば、俺の術が使えないとか効果は発揮できないとかそういう浅いことなんですか?」

 

「そ、そうよ……って浅くないわよ! 私は―――」

 

「十師族ってのはバカの壁でも造られているんですかね? アレが使えなきゃ他の手を考えるし、いくらでも使える……言うなれば俺は―――制限がないんですよ(Unlimited)

 

道が無いならばこじ開ける。

ぶっ壊してでも道を創る。

 

でなければ届かないのだ。

 

はじまりの魔法使いにして―――いまも全人類を思いながらも、断腸の思いで地上に送り出した『太郎』をおもって泣き腫らす『乙姫』を救うことは……。

 

 

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