魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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マイノリティってのは、そういうことなんですよね。ひどい話だ。


stage.4『分岐する世界』

 

 

そして昼食(どき)……宣言通りにすみっこの方でぼっち飯を摂っていた時に、騒がしい一団が食堂に入り込んできたことを理解した。

 

優秀生の集団。カーストの上位にいる連中がやってきたのである。パリピよろしくの連中の中に知り合いの姿を見る……。気付くなよという願いは叶わずに、リーナはこちらにやって来ようとする。

 

位置関係的に、どうやら司波達也(理論主席サマ)の一団に合流しようとする司波深雪(総合主席サマ)との間で対応が分かれたようである。

 

「モー! 何でこんなヘンピな所で食事摂っているのよ!!」

 

「一人で食事を摂っていても構わない所に座っていただけだ。孤独のグルメの井之頭ゴローとて、テーブル席に案内されなければカウンター席で食事だっての」

 

言い訳など聞きたくないとばかりに、踵を返すリーナの姿。

 

「とにかく! 待ってて! いまランチを取ってくるから!!」

 

「クラスメイトと取っていればいいじゃないか」

 

食事のスピードを早めるかと思ったが……。リーナに追い着いてきたA組の連中が『ご注進』をしはじめる。

 

「アンジェリーナさん。ここで食事を取らずに、あちらの広い方で取りませんか?」

 

「そうよ。ここは全員が座るには狭すぎますし」

 

「―――ワルイけど、ワタシはケイタとランチを取りたいので、そちらには行きません。広い所で食べたい人たちと食べてクダサイ」

 

拒絶の言葉と、はっきりとした『嫌悪』を眼で示したリーナに対して、それを理解しているのかしていないのか、しつこい態度とこちらを睨んできたA組の連中だが―――――。

 

「失礼、1Aの諸君。申し訳ないがシールズ君と浦島とは、ここで食事を取っていてほしいと俺が頼んでいたんだ。少々、『込み入ったこと』を話すのでね」

 

後ろから掛けられた声にリーナに追いついてきた連中がざわつく。野太いが、だみ声ではない―――バリトンボイスを響かせる巨漢がそこにいた。

 

「じゅ、十文字先輩……」

 

「わ、分かりました……」

 

明確なまでの『権威』が現れたことで、流石の優秀生たちも強弁を張れるとは想っていなかったのだろう。同時に怪訝な視線が、啓太に降り注ぐ。

 

「十文字さん。ちょっとリーナの配膳手伝ってきます」

 

「ああ、ここの席は確保しておく」

 

十文字克人という『魔法師』の剛力を席取りに使う男。ただ単にリーナを手伝ってくるとだけ言ったのだが、そう見られたことは啓太としても不本意だった。

 

5分後。然程の苦労もなく元の席に戻ってきた啓太は、当然のごとく隣に座るリーナに、もはやあきらめつつ……話をすることに。

 

「久しいな」

 

「まぁ、久しぶりといえば久しぶりで。けど実家の菓子は、普通に届けられていたでしょう?」

 

「ああ、和菓子うらしまの菓子は、取引先や工事関係でご迷惑をお掛けする近隣住民の方々にも評判だ。だが、お前はウチへの配達に『とんと』現れなくなったからな」

 

演技かそれとも心から想ってのことか、淋しげに言う巨漢。意外なことというわけではないが、巨漢は甘党であり、我が家の御贔屓様である。

 

そして食べている昼食は甘口カレーであり、デザートにはマロンケーキという徹底ぶりである。

 

「―――中坊の俺にも『色々』あったんですよ。まぁ私的なことなんですけどね」

 

「ワタシも関わったものネ」

 

そんな2人の内緒話と、私的……という部分で疑わしい目をする克人。同時に、少しだけ物申すことがあるようだ。

 

「七草に偽名を名乗ったことは―――まぁ許す。状況から察するに、お前もムカついていただろうと思えるからな」

 

「許しちゃうんだ……」

 

リーナの呆然とした言葉だが、克人はそれを前置きして本題を始める。

 

「だが、何で2科生なんだ?」

 

「俺の『魔法能力』と現代魔法師の『魔法能力』は違いますからね」

 

そこを応用を利かすことは出来たはずだ。そういう眼を向けてくる十文字克人に苦笑しながら話す。

 

「まぁ俺は東大に行きたい人間なので、特に魔法能力を高めたくて来たわけではないことが心苦しかったんですよ」

 

結局、自分が1科生になりでもしたらば、それだけ教育機会が失われるということだ――――――あのロリBBAが教職員として来た時点で水泡に帰した、浅い奸策であったが。

 

「……そういうことか―――だが、お前が此処に来たということは『火星』か『金星』絡みなんじゃないか?」

 

「さぁ?」

 

その言葉に険相を向ける克人。だが誤魔化しているわけではないとして語る。

 

「俺を一高に寄越したのは、アナタもご存知のロリBBAです。まぁ何かあるんでしょうが、それを教えないでいるってことは、余計な情報を入れて、変数を発生させたくないんでしょうよ」

 

沈黙する克人。

 

言われたことは何となく分かる。だが―――克人も関わったあの恐るべき人外の戦いが……この一高でも起こるとすれば……。

 

「お前も戦うんだな?」

 

「起こんなきゃいいんですよ。そんなことは―――ただ、まぁ起こったらば仕方ないでしょ」

 

別に実力をあえて隠すほど暇ではない。とはいえ、魔法師(いっぱんじん)にとって驚天動地の実力など知られるわけにはいかないのだが。

 

「空手形ほど商売人にとって後々の瑕疵になることはない。それを知っているお前だから―――信じるぞ浦島」

 

勝手な話とは思わないが、自分たち―――というよりもリーナのランチを取りに行った関係で、十文字克人は自分たちよりも早くに昼食を終えてしまった。

 

だが、今さらここいらに近づこうという気持ちは無いようだ。

 

生贄になった司波深雪には悪いが、自分が優先すべきはアンジェリーナ・クドウ・シールズなのだから。

 

「……一応、言っておくが―――全ての魔法師がケンじいちゃんを追い出した人間じゃないんだぞ」

 

あの時、クラスメイトを睨んだリーナの心を読んだ啓太は、少しだけ嗜める。無理だと思うけど。

 

「わかってるワよ。ケレド……ワタシは―――」

 

「君のおじいちゃんの理想とは真逆だ、此処(一高)は―――けれど、此処で君が自儘に振る舞って、思うままにやってしまえば、『やはり九島健は、日本から追い出されるべき人間だった』と、今を生きている魔法師の連中に思わせてしまう」

 

「ケイタ……」

 

潤んだ瞳が向けられている。泣きそうだったリーナに申し訳なくなる。

 

「そんなことは無いって分かっているよな。だってケンじいちゃんは『血生臭いこと』にしか使われない魔法師の現状を嫌って、それでも『鉄血』を示して合衆国の市民権を取ったあとに、ワンウェイしか無い合衆国の魔法師に、多くの軍事とは違う魔法教育を施して、多くの道を与えていったって―――」

 

「ウン……」

 

肩を預けて既にこちらに体重を乗せてくるリーナの柔らかさに心地良さを覚えながらも、言うべきことを言う。

 

「俺は時々考える。人間ってやつがああなのか、多数派になればどの『種族』もああなるのか、って」

 

「……どうだろう……」

 

「東京中探しても、■■■の血が入ってる日本人なんて、十人はいないだろう。もっと少ないかもしれないな」 

 

「……人間が、キライ?」 

 

……マギクス(魔法師)も、と聞く勇気はリーナには無かった。

 

啓太から見れば、同じ多数派なのだ。

 

十師族だろうとナンバーズだろうとエレメンツであろうと―――はたまた古式魔法師であっても、啓太からすれば同じでしかないのだから……。

 

「人間が嫌いなんじゃない。多数派であることに甘んじて、少数派が多数派に合わせることを寛容さとはき違えている輩が嫌いなだけさ」 

 

本当にそうなのだ。 

多数派の中で、少数派に寛容であることは難しい。その少数派にしてからが、もっと少数の誰かに対しては多数派であるからだ。 

自分にくらいは全てをさらけ出してくれてもよかろうに、とは寂しく思ってしまう。

 

世の真理を知ってしまった時から、彼は『タマテバコ』(玉手箱)のような固い封の中に自分の心を仕舞い込んでいる。

 

約束の女の子―――それが誰だかは分からないし、そもそもそんな子がいるのかは分からない。

 

(ワタシがそれだったらばヨカッたのに……)

 

そんな風に少しの寂寥感を持ちながらも、リーナは愛しい『けーくん』との穏やかな昼食の時間を経て、午後の真由美会長の練習風景の中でも、啓太は傍観者の立場で、後ろの方で雪姫とリーナと少しの話をしつつ、放課後になるのだった。

 

 

「ケイタ! 一緒に帰りましょう!!」

 

「ホレ、言っていた通りじゃないか、その内アンジェリーナがやって来るとな」

 

「アンタが慣れない端末扱いで、ここまで寄越したんだろうが!!」

 

うがー!と喚きたい気分で、美人女教師の幻を纏うBBAに抗議するも、端末の起動が正常に戻り、とりあえず暫くは大丈夫になったことを確認して、雪姫先生の横にいた眼鏡を掛けた男性教師に

 

「騒いで申し訳ないです」

 

と謝罪は入れておくのだった。

 

「いやいや、構わないさ。元気のある生徒を見るのは僕も好きだからね! 青春!! これこそが、全ての魔法科高校に足りないものなんだよ!!」

 

「は……はぁ……」

 

いきなりな演説をぶる『橘』という男性教諭に、少しだけ面食らう。

 

「求めるものの為に勇往邁進する!! その先駆けに、君こそがなってもいいと思うんだよ! 浦島くん!!」

 

「―――善処します」

 

「橘先生、浦島はまだ入学2日目なので、そういう話は後々で―――では帰っていいぞ」

 

雪姫がフォローというか助け舟を入れてくれなければ、この男性教諭は何処まで言っていたのか分かったものではない。よって帰宅することになるのだが……。

 

「ほー、A組じゃそんな感じなのか」

 

「エエ、正直言えばワタシだって―――ユキヒメ先生に習いたいわネ」

 

A組の担任にして学年主任の言葉は、アンジェリーナの心に瑕疵を与えていた。こんなのが、日本の魔法教育なのか……。

 

「あのヒトは、『魔女』に出来の悪い弟子扱いされていたからな。寧ろ出来のいいヤツなんて育てたくないんじゃない?」

 

唯一の例外が『太陽系世界最強の魔法使い』の盟友にして英雄というのが、なんとも……。

 

そんなわけで無駄話をしながら校門の方まで向かうと何か一悶着あるようだ。司波達也と司波深雪とE組の同級生たち―――そしてA組の連中とが押し問答している様子だった。

 

「アララ……ミユキってば大人気ネ」

 

「面倒だ。スルーして出るぞ」

 

といきたかったのだが……。

 

「アンジェリーナさん! アナタまで2科生と一緒になって!!」

 

「1科生としての誇りを掲げてほしい!!」

 

「―――ワタシは浦島ケイタと帰るダケよ。それの何が悪いってのよ?」

 

眼が険しくなる。ヤバい。リーナは切れる寸前だ。

 

こちらに注目が集まる。既に『飛ばしている』からいいが……。彼女は―――。

 

(いざとなれば……)

 

泥をかぶるのは俺がやるだけだ。

 

「僕たち優秀生は、これからの魔法科高校をリードしていくんだ! その為にも、今から課外活動をしなければならない!!!」

 

「2科生! ウィード如きがアンジェリーナさんや司波さんのそばにいるなんて許されないんだよ!!!」

 

集団の劣悪さ。下劣さを覚えさせる言動と蔑称が出た。

 

本来ならば、ここでキレるのは―――『柴田美月』という少女であったのだが……。

『世界』は変わっているのだから、事態は少々変わる。

 

「ソウ―――だったらば、ワタシは除外してもよさそうネ。ワタシはそんな考えには同意(consent)しないワ。ワタシは―――そういう風(・・・・・)なアンタたちを叩きのめす為にニホンに来たのヨ」

 

冷たい一言が響き渡った後に、全員が寒気を覚えた。

 

次の瞬間、彼女は噴火した。

 

「ワタシの祖父(グランパ)クドウ・ケンは、そういった風な『排他的な考え』のモト、当時の政府及び魔法師たちの同意で合衆国に追放された!!!

その理由はただ一つ(ONLY ONE)! 魔法師たちに、多様な教育(ダイバーシティ)を施すべき!! その考え・思想を持った。ソレだけの理由で、ワタシのグランパは故郷(ホーム)から追い出されたんだ!!!」

 

沈黙。決して全てを知らなかったわけではない。

だが多くの人間は、彼女のような米国人に何故クドウの姓があるのかということを、真面目に考えていなかった。

 

慟哭の声は響く。

 

「他とチガウから! 自分とはチガウから!! オナジじゃないから!! それだけの理由で『同じニンゲン』を区別しているアンタたちは、ワタシのグランパを追い出した連中とオンナジよ!!!

ソシテ、今度は入試点数の違いダケで、区別どころか『差別』しているアンタたちナンカ認められない!!!」

 

沈痛な表情をしているA組女子陣。それだけでなくE組の連中も、少しばかり悲しい表情をしている。例外は―――

 

(司波達也……)

 

そんな観察をしてから、リーナのセリフを聞く。

 

「コンドはワタシのグランパだけでなく!!! この学校にいる自分たちとチガウものを『外』(アウト)に追い出すのか!? ナンバーズだろうがエレメンツだろうが知ったこっちゃないワヨ!! ワタシのグランパをパブリック・エネミー(公共の敵)だとするように、ワタシのケイタも、そうだと区別・差別するならば、ワタシもソレになるだけよ!!」

 

沈黙。それだけだった。

 

もはや涙を流しながら語るリーナを見ていられず、啓太は後ろから抱きつくことで抑える。『浦島の魔力』……それで、彼女の悋気を抑えるのだ。

 

「―――落ち着けアンジェリーナ。君の想いは理解している。君が……お前が健じいちゃんの為に涙を流せる子だってことはさ―――だからと無闇に怒るな。俺が昼間言ったことを思い出してくれ」

 

「ダ、ダッテェ……!! ―――」

 

こうなることは理解していたのだ。

彼女は、国を追放されても自分の考えを曲げなかった『九島 健』の孫なのだから。

頑固で、それでも貫き通す意志を持っている――――――。

 

「さっ、帰ろう」

 

「ウン……」

 

振り向き自分の胸中で泣いていたリーナを頭を撫でてから促す形で、この場を離脱しようとした時。

 

このまま見逃すならば、何もしなかったのだが―――世の中には存外『バカ』が多いようだ。

 

「魔法能力に自信が無いからと、女を誑し込むことだけは一級品のようだな」

 

「「「「―――――」」」」

 

A組の人間たちですら、感じ入りながらそれを見送ろうとした時に、非常に下劣な発言が―――森崎という男子から放たれて誰もが唖然とする。

 

「お、おい! 森崎!!!」

 

「選ばれた人間だからこそ、やらなければならないことがある!! アンジェリーナさんの祖父に起こったことは、時代が求めたことだ!! ならば、これから僕たちブルームでそれを変えていけばいい!! そこに劣った人間を入れていくから、何も変わらないんだ!!!」

 

その言葉にリーナがキレる前に―――啓太がキレた。

 

瞬間―――啓太の中で『渦巻く魔力』が発露した。一瞬ではあるが、それを感知したものが校舎内に居たことで事態が動く。

 

だが、それとは関係なく―――もはや啓太は、この男が許せなかった。このような愚物に九島健の生き様を、そのように評されるなど許せなかった。

 

「―――だったらば、その御大層で優秀な能力とやらを、一手、俺にご指南いただこうじゃないか。ケン爺ちゃんを外国に追い出してまで、お前らナンバーズが続けてきたその下劣な選民とやらのチカラをよ!!」

 

制服のズボンポケットに『拳』を入れながら、森崎なる男に正面から言ってのけた。

その言葉にあちらもキレたのか、横にあるホルスターに手を入れながら―――。

 

「だったら教えてやる!―――これが―――」

 

言いながら向けられた銃型CAD。特化型の速さが啓太に向けられ。

 

「才能の―――」

 

構築される魔法式。そして―――。

 

「差だぁっぷぁあああ!!!」

 

言葉を最後まで言えずに、奇声をあげて吹き飛ばされる森崎の姿であった。

 

 

 

 

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