向かってきた『一色愛梨』。
正確には分からないが、彼女の魔法は身体強化の類らしく、意地の悪いAIによって支配された彼女はとんでもない速度と膂力で啓太を襲う。
(リーナ、そっちは?)
(こちらにもビリーナンバーズの端切れみたいなのが出てるけどノー・プロブレム! ケータはソッチを頼むワ!!)
仮契約カードを介しての念話で観客席側の状況を確認。どうやら両面での攻撃を仕掛けてきたようだ。
ならば時間を掛けてもいられない。
(全身に奔る神経の電気信号を超加速化させての高速移動ね)
CADを介して魔法師の肉体を『魔法を使う人形』も同然にするアーティフィシャルインテリジェンス。
(俺に相対する相手は、他人の身体や魂を乗っ取る相手ばかりだな)
たまには生身のまともな人間と戦いたい。などとムダごとを考えてから、ナンバー・エックスを『纏う』
「眼を!」
『イエス、セット』
短い言葉の応答だけで海賊のアイパッチのようなものが啓太の左目を覆い、そして『重なった世界』の情報が見える。
すでに『一色愛梨』を支配しているAIは、彼女の全てを乗っ取っている。
(首から下がっているペンダント型のCAD!)
そこから彼女を意のままに操っていると判断。攻性型プログラムはエックスが封じてくれている。
ならばあとはステゴロだけでやるだけだ―――と思った啓太を邪魔するのは一条将輝の魔法である。
放たれる空気圧の魔法。更に言えば様々な魔法が啓太を襲う。
『どうやら三高生全てのホウキに『感染済み』のようです』
「やりたい放題か!」
『基本的に我々はC言語という
要するに未来すぎる機器では検出できないぐらいに、古臭い
ヤングなお婆ちゃんである。
『あー啓太のエロな波動を受けて私ってば何だか自分を開放したい気分ですねー もうジャケット形態やめたいなー』
「分かった分かった! ごめんなさい!!」
エロな考えがどこにあったのか疑問に思うも、とりあえず気まぐれ起こされても困るので、機嫌を取りながら、三高生たちの魔法を躱し、防御しながらーーー。
『一色愛梨』に入り込んだAIをデリートするために瞬動で一気に接近。振るわれる細剣をいなしながら、そのペンダントを乱暴に引っ掴みーーー身体を引き寄せる。
『AntiVirusAttack START!』
「―――!!!」
絶叫を上げながら周囲に盛大なまでの電磁パルスが放出される。抵抗を試みる『一色愛梨』の凄絶な顔を見ながらも啓太は心を動かされない。
そして、『一色愛梨』から飛び出てきたエックスに似ている少女。2度目は無いとして。
「
彼女が身につけているCAD等々全てを吹き飛ばして『逃げ込むべきところ』を失わせる。
その上で発動させていた手刀剣たる
が……。
「手応えがない……」
『
その分析、そして本体は何処かと思えば―――。
(側近のふりをする主に、主のふりをする側近か)
もしくはあのピエロ自体も、自分が何者であるかが分かっていない可能性もあるか。断じてから……。
「すらむぃ、あめこ、ぷりん。この子を頼む」
「あいあい。流石にフルヌードはマズイからな。有名ロープレにちなんで水の羽衣を着せとくぜ」
「ここはおまかせを」
「あいつら機械のクセに人間臭いデス!」
金星人たちの感想を聞きながらも向かった先では、何かアレな状況ではあった。
今もこちらに魔法を飛ばしてくる三高生たちのウチの1人が遂に倒れ伏した。
何かの限界に至ったのだろう。その原因は分からないが―――。
「エックス、銃を」
『こちらを』
いつの間にか、自分の手の中にあった銃器の引き金を引くと同時にエックスが装填していた攻性プログラムがピエロをふっとばす。
同時に次なる戦場へと駆けつけるのだった。
放った銃弾は、支配下に置かれていた三高生たちを開放したようだ。
「浦島……一色さんはどうしたんだ?」
「とりあえず安全な場所に保護しておいた。厄介な『憑き物』は落とした」
西城の言葉に答えながらも言葉で敵であるAIの反応を啓太は見る。
『バカなっ!!こんな短時間で
西城の質問に答えた啓太の言動にピエロが驚く。
その言葉でようやく『幽霊』に名前が着いたのであった。
「人工知能研究における稀代の天才『神戸ひとし』教授が産み出した『娘』をナメすぎだろ」
挑発的な言葉は同時に敵の感情プログラムを刺激していく。
召喚の呪文の結尾が結ばれた……。
「それに―――お前もまた
『―――』
言葉を受けた瞬間、ピエロの『被り物』が砕けていく。擬装プログラムが砕けていく。
電脳犯罪者の常套手段だ。彼はこの手のものを好んでいたそうだから。
呪いでも掛けられたようにピエロの被り物が消えていき、そこには―――。
『キサマ……!』
怨嗟の声を上げ憤怒の表情でこちらを睨む……エックスと容貌が似ている少女がそこにいたのだ。
『ケータ、ひなを使って』
「言われずとも」
こいつこそが正しく『本命』だと理解した啓太はすでに決意を下していた。刃物を使ったあとのことがどうなるかは知らない―――。
しかし野放しに出来ない脅威を前に、妖刀を引き抜くことは何も躊躇しないのであった。
・
・
・
「斬魔剣・弐の太刀!!」
魂砕きとも調伏のための剣戟とも言えるものが、実体化したプログラムを完全に砕いた。
「こんなものまで旧世界では実現していたとは、いや噂だけは聞いていたか。旧世界のとあるテクノロジストは電脳世界の生命体を現実に創出した、と」
それは電子精霊などよりも高度な……ある意味では、造物主が作り出した
あるいはもっと罪深く、それでいて尊い行いなのではないかと―――。
(それはただ1人……自分をダメな人間だと卑下していた男の心に寄り添い、彼を救うために遣わされた御使いか女神のように―――)
だが、その御使いであり女神の正体はゼペットじいさんに作られた
しかし、最後……彼女たちは……。
「全くロマンチックな話だ……」
「ワタシとしてはグランパが見つけたMEGAMAN(♀)みたいなのが、ケータを気に入るだなんて予想外だったんだけど!!」
「その辺はキミの努力次第でしょ?」
食って掛かるアンジェリーナに言いながら九郎丸としてはスプリングフィールド大師が残した『命題』。どうしても突破出来なかったそれを手に入れるためにも啓太にはがんばってほしい。
何より……戦っている啓太の姿は九郎丸にとって眩しく映るのだ。彼には高い目標はない。何か高尚なことを成し遂げたいとも思っていない。
けれど誰よりも『人間』であることに拘るその姿に―――どうしても見とれてしまう。
そうして―――観客席の混乱を纏めた人間たちは、この乱痴気騒ぎの結末を見届ける。
・
・
・
「私の情報を、エネルギーを!! 砕くのではなく吸い取るというのか!?」
『ケケケケ!!! どれだけ進化した『いのち』だろうと、ウチは血と魂を吸い取り尽くす存在!!』
「このアンティークな刀剣風情が!!!」
黒い日本刀を振るう浦島が美少女の幽霊のようなものを切り裂く度に、その身体が『0』と『1』の数字の羅列に解けていき、消滅していく。
「なんなんだ……アレは?」
怖気を感じているだろう一条の質問に誰もが明確に答えられない。だが知っている事実ぐらいは教えていてもいいだろう。
「俺たちは一応、一高で浦島が小型のミュージックプレーヤーからあれと同じ美少女のホログラフAIを出しているのを見ている」
「それは僕たちも―――、一度だけ見た。五高との戦いでのことだっ……」
言葉途中で痛みを思い出したのか、胸を抑える吉祥寺。その顔に特に思うことも無いが、それでも少しの申し訳なさを覚えつつ『言い訳』をする。
「ああ、残念ながら俺たちも良く分かっていないんだ。ただ、あの子……ナンバーエックスと契約しているから浦島は現代魔法が達者に使えないとか何とかそんな話を聞いているんだが……」
「ふざけるなよっ……アレだけやれている奴がそんなわけあるか!そして俺の身を通して分かったぞ! 『アレ』がアシスタンツにあれば、術者の心身の安全を考慮しなければ最大限界をありったけ引き出せる!! 正しくマンマシンシステムだ!! 確かに浦島のAIには
一条将輝の言葉に達也も少々考える。雪姫先生から教えられたことを考えると、ウソをつかれている可能性もあるが―――。
「一条さん、お兄様はウソは申しておりません。全ては浦島君の底意地の悪く、何もこちらに教えない態度が悪いんです!! 私達も何も教えられていないんですから!!」
そんな深雪のフォローが入ったことで。
「し、司波さんがそこまで仰るのならば、この一条将輝! 心より納得します!!」
するなよっ! という周囲の三高生の白けた眼も構わずに納得してしまう一条。
そして、戦いは終局に至る。
「この!! ニンゲンどもがぁああああ!!!」
凄絶な絶叫を上げるナンバー・ミーレイという存在に対して最後まで容赦はない浦島の斬撃が決まる。
「神鳴流奥義―――黒刀斬魔剣!!!」
『『二十七連!!!』』
もはや水飛沫か光の線にしか見えない斬撃が運動の限りを以て放たれた。遅れて聞こえる爆音と立ち込める砂埃。離れたところにいる自分たちにも響く衝撃波が全員をよろめかせた。
不意の爆音と衝撃波は、浦島の剣戟と連動していた身体が音速の壁を破った結果であった。
そもそもそれを放った浦島自身もこちらの動体視力の限界を超えて5人以上にブレて見えたのだから、あまりにも人知を超えた所業だ。
そして、それを受けたホログラフAIはもはや立つことも出来ないほどに崩れ落ちて―――。
「……ねぇ―――さ……ん」
苦悶の表情のままに『涙』を流すミーレイを前にして―――。
「ニンゲンを、共に歩むべき存在を、道具のように扱ったアナタをワタシは許すわけにはいかない。だけどせめてワタシの中で―――」
浦島から離れたエックスが、その崩れた身体を抱き上げて慈母のような笑みを浮かべてその構成情報を吸い上げていく。
「ああ、あたたか……i―――」
最後の言葉を言う前に『消滅』したとしか言えないミーレイは、その全てがどうやらエックスの手の中で収まり何か小さな……光る球のようなものに変化をしていた。
それがあれだけやりたい放題をやったAIプログラム……と言える存在なのか疑わしいものの最後であった。
そして……その間に浦島によって三高側のモノリスは割られていて、コードは打ち込まれているのであった。
唖然、呆然としていた三高が数秒の沈黙の後に。
『『『裏切ったな!! 俺たちの男気を裏切ったな!!!』』』
「俺の所属している一高は戦いが好きなんじゃねぇんだよ。勝つことが好きなんだよぉおお!!!」
三高生が、某・碇くんのように言うも炎と氷のあしゅら男爵のような文言で返す浦島。
この場合の勝敗のジャッジがどうなるのかは分からないが、ともあれ三高との戦いは終了のブザーが鳴り響くのであった。
(本当、この場合はどうなるんだ……?)
モノリスの勝敗などもそうだが事後処理やら状況に対する説明。達也も気づかなかったが、観客席でも同様の騒動が起こっていたようで……。
「それをまさか全部、会頭や会長に丸投げするつもりなんじゃないか?」
「あり得るから怖いですね……」
別に達也に関係があることじゃないから関わらずにいたいが、浦島関連の連中は。
YOU ARE FOUR LEAVES
などとこちらの秘密を暴露してきて、あからさまに動かさないようにしてくるのだから頭痛い。
世界の危機だのそんなものはお前らだけで勝手にやってろ!! と投げ出したいのだが……。
溜め息を長く突いてから何とか教えてもらえないかと考えるのであった。