戦い終わってフィールドから出ていの一番に確認すべきなのは……。
「可奈子、陽菜―――無事か?」
「けーた兄ちゃん!」
「兄さん!!」
通路の向こうに見えた姿に変わりはないようだが、それでも……。
「「怖かったぁ」」
「……本当に?」
不安そうに抱きついてきたJC2人、実妹と妹分を慰めながらも後ろに居たアンジェリーナのAIイクスが啓太を疑わしく思わせるものを見せていた。
観客席での戦闘の様子。その中でも八面六臂の大活躍を見せている2人の動画を投影して見せてきたのであった。
「まぁ無事ならば良かったよ」
「というか兄さんは私達とも仮契約しているのですから私達が戦闘していたのは感じたのでは?」
「あのフォームになると、チカラの消費に関しては不感になるんだよ」
可奈子のツッコミから察するに、どうやら彼女たちは啓太から魔力や気を引っ張っていたようだ。
どうでもいいけど……。
そんなこんなで、どうしたものかと思っていると大会委員ではないが、それに準ずる立場なのか後ろにいるアンジェリーナを退けるように国防軍の
「妙なルビ振りをせんといて! ともあれ……分かっているようね……私が来た理由は」
「察するに、俺は失格の上で一高は決勝進出。不足人員の選定に関しては―――」
「
ならば何も問題はない。だというのに、サゲマンが緊張した面持ちなのが妙に思う。
「……なんで何も言わなかったのよ……ビリーナンバーズが出現していることは理解していたわ。けれどオリジネーターナンバーがいるだなんて!! それを何で私に教えなかったのよ!?」
「アンタに何が出来たってんだよ。そもそも今の日本の魔法師界にクドウ・ケンの影響を排するように願ったのはアンタの祖父だぞ?」
そこを突かれると響子としても、いたい話だ。
「電脳世界での戦いでも勝てない。ついでに言えば現出したAIは魔法師の魔法では傷一つ与えられない、砕けない『完全生命体』だ」
「けれど言ってくれていれば……三高生の被害は抑えられたはず……」
それはあまりにも甘すぎる目算であった。
いまさらな話だ。
言っている響子自身もそんなことは信じていない様子。
だからどうでもいいのだ。
証拠という訳ではないが、No.3101のデータログからエックスが、一色愛梨が『誘惑』されている場面をチョイスして響子に見せるのだった。
「―――……」
手出しできぬほどに恐るべき存在。なのに支配しようとも、殊更目立とうともしない。
達也とは真逆の存在なのだ。浦島啓太は―――。
彼が本気になれば日本の魔法勢力は一気に『魔法師殲滅』へと傾く。
立派な魔法使いたるマギステルだけが『道』へと進む……。
「お勤めご苦労さまでした」
そんな事務的な言葉すらも色々な意味で、響子を打ち拉がせるものでしかないのだ。
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「十文字会頭でいいんじゃないですか」
オーバーエイジ枠の選定で喧々囂々の一高会議室にて意見を求められた啓太は、平淡に言ったのだが、やはりその意見を是とするわけにはいかない勢力はいたわけだ。
その反論に対して―――殊更それ以上言うこともなく引き下がろうとした時に……。
「浦島はモノリスの代理メンバーとして選出されたんだ。お前の意見が筋が通っているものだろう。何故それを突き通さない?」
「他の意見の方が筋が通っているかもしれないからです。そして俺はこの中では余所者で部外者の中の部外者ですから、そこまで意地を張ろうとは思わない」
一高の生徒のはずなのに、そういう突き放すというか外側からモノを見ていますみたいな言い方をするから反感が生まれる。
古めかしいハードカバー本か日記帳のようなモノに眼を落としながらそんなことを言う浦島啓太は……本当のはぐれものなのだ。
「どちらにせよ。司波達也とそれなりに話をしていられるのは、その技術力を認めてきた会頭だけでしょ? ならば結論なんて一つじゃないですか」
そんな言葉で結は出た。最終的には司波達也と上手くやれそうなのは、十文字克人だけという満場一致の解釈に至ったのだから。
もちろん、啓太がそれを言えたのは『いどのえにっき』による思考盗聴があってこそだ。
「新人戦モノリスに関してはそれでいいわ。次は―――」
「ちょいと出かけてきます。妹たちが呼んでいるので」
「マッタク、JCの行動力はスゴイワねー」
「待ってくれないの!?」
「どうせモノリスでの『アレ』は何だとか観客席でCADから現れたものは何だとかそんなところでしょ。今日の夕食会で説明すると言ったじゃないですか?」
その言葉に会議室に居る全員が呻く。
「―――」
「そしてあなた達が、この場で何かを知ってしまえば他校に対するある種の背任にも当たることになりますけれども、それでもいいんですか?」
「さ、先読みがすぎるし、何よりこちらの気持ちを推測し過ぎよ!!」
先程まで開いていた『いどのえにっき』から読み取った情報とエックスからの
これをアンジェリーナは『ウラシマジックコンボ』と命名している。ダサっ!
「それでは失礼します。ご健闘祈っていますよ会頭」
「時逆、犬上、神多羅木……水納見―――この四人に勝つ方策が欲しいんだがな」
「ならばこちらを―――
簡単な気流操作で一枚の紙片を十文字の前に飛ばしてから今度こそ会議室から出ていくのであった。
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モノリス・コード三決は三高が取った様子。一色愛梨に代わり出てきたカトラのワザマエは凄まじく調子が悪かった男子陣をフォローどころか活躍を奪うような様子であった。
その後―――少々の時間を置いてから始まった決勝戦は……。
十文字克人がその魔法の特性通りに壁であり、巨大な山のように立ちはだかり九郎丸(ネコ耳和メイド服ver)たち二高生を苦しめた。
二高生徒会長『水納見 光』というプリンセスも恐るべき複合術で十文字に襲いかかるも、最終的には司波達也の忍術とか司波深雪の高度な魔法、西城レオンハルトの意表を突く攻撃……全てがいい感じで掛け合わさり、全力の掛け算が二高のモノリスを陥落させて勝利をもぎ取ったのだ。
「接近戦ありならば負けていたのは俺たちだな」
ヘルメットを脱いで泥まみれの顔をいらうように袖で拭う達也はそう呟く。
「犬上と時逆は、そういうタイプだったんだろうな……」
レオもまた雷の狼犬という『飛び道具』を食らって、全身を痺れさせながらも最後まで戦い抜いたのだ。
なんにせよ。浦島の代わりにディフェンダーをやってくれた十文字会頭は今にも崩れ落ちそうなので、とりあえず肩を貸すことは後の本戦モノリスの関係で拙いので適当な支えになるべく男2人は駆け出すのであった。
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「「まもりめぐまひさきはへためへと」」
「「そなへたてまつることをもろもろきこしめせ―――」」
ものの数秒でそれら……現代魔法師が無用の長物とした祝詞を唱えた男女。そして振るっていた扇の動きで―――術式の終着点たる十文字克人は完全回復するのだった。
「こ、れは―――!?」
「傷病治癒、疲労回復、ついでに言えば霊障の類も全て取り除いておきました。明日の本戦モノリスに影響は無いでしょうよ」
驚いた十文字とは対称的に事も無げに、『とんでも』を当たり前にやった浦島啓太は、協力してくれた高山陽菜という女子中学生に『ありがとうね』と親しげに言ってその女の子に『抱っこ!』などとせがまれて、それを実行する。
浦島の妹とシールズの視線がきつくなるも、辰砂のような色をした眼のツインテール少女は喜色満面である。
「うむ。助かった―――浦島、高山君」
「いえいえ、十文字さんの怪我のおかげでうちはけーた兄ちゃんに甘えられるんやから礼はこっちがいいたいぐらいやよ」
などと言って浦島にいっそう深く抱きつくJCの美少女の姿に男・十文字は眼をつむって苦笑する。
「何だか複雑な気分だぞ……」
「そういうものは飲み込んでください。陽菜がいてこそ木乃香様の術式は出来るので」
どうやらあの『完全治癒』とでもいうべき現象は、浦島1人では無理なようだ。
だが……。
(俺の『再成』とは少々違う……)
この二人の手際を見ると自分のそれは、何というか酷く不器用なものに感じてしまう。
原理こそ分からないが、それでも癒やしの奇跡としての格が違うとでもいうべきか。
そんなこんなしている内に、高山陽菜を下ろして『アベアット』と唱えてアーティファクトをカードに戻す浦島であった。
「んじゃどっかに遊びに行くか」
と声を掛けるのはJC2人と幼なじみであるのが―――。
「なんでそんなに一高の中に居ようとしないで外に出たがるのよ!? ちょっとはジッとしていてもよくない!」
『『『『空気が良くない。むしろ不味い!』』』』
どこの『たヤマさん』だと言わんばかりの言葉。
「どうせ俺の術に関して何かを知ろうとすることしかしないでしょ? 俺は教えたくないし言いたくない。ついでに言えば、自慢したくもない」
詮索屋は嫌われるということを理解しない人たちである。
「……だが、君やクドウさんだけがあの暴走した人工知能を止められて僕たちは何も出来なかったんだ。それどころか三高の生徒だけでなく多くの魔法科高校の生徒達が魔法を強制的に行使させられたんだ……」
「ご愁傷様です」
「何も感じないのか!? 命の危機に至った人もいるというのに!」
「修行が足りてないだけでしょ? い、、、ああそうだ……。五十里先輩がそこまで義憤を覚えることですか?」
こいつは未だにここにいる面子の名前を覚えていないということが理解できた証左である。
しかし、次の一言には殆どの人間が呻かざるを得なかった。
「今までスペアだ、予備だ、補欠だなんだと二科生制度が存続している理由に『心』から納得していたんだ。だとすれば、別に魔法師を都合のいい道具も同然にする存在がいても構わないでしょ? ヨルダ然り、AIナンバーズ然り―――その『心』に従っているだけなんだ」
そしてそれが事実であるというのももはや理解している。
なのにそれに対抗できる存在は自分たちを守ってくれるベビーフェイスではなく、ヒールでもなく……ただのオーディエンスなのだ。
そして『心』から自分たち魔法師……一高の生徒を助けたい、守りたいとも思っていない。
彼にあるのは……普通の人々を助けたいという『高潔な精神?』だ。
こんな不条理……それこそ自分たちが蔑ろにしてきたもの、足蹴にしてきた人間たちの『心』だと言われているようだ。
「知りたいことは夕食会で話しますよ。それでいいでしょう」
いいかげんうんざりしてくる啓太。
結局の所、魔法というものを全能の道具のように扱い、魔法を使う自分たちこそが人類の優良種だのと思っているのだろう。
実に低俗かつ拙劣な考えである。
そのチカラが使えるものが限定されているからこその錯覚なのだろう。
マギステル・マジックの擬い物だという現実を知らぬからこそだが……。
その事実を知ったとしても、何も変わりはしないだろう―――。
そうして一高陣営の眼の前から消えると、端末に連絡が入る。
『夕食会には僕も出席しよう。そこで『フラグメンツ』を提供してくれ』
その連絡先はCEOのアドレスであり、彼のような存在が食事時に現れるとなると混乱は避けられない。
だから―――。
『出された食べ物を粗末にするようなことをしなければ構いませんよ』
釘を刺すことだけは忘れないでおくのだった。
『当然さ。ではまた―――』
恐らくフェイトCEOの目的は、自分ではなく……。
「まぁいいや。どうせ世の中、全てはあるがままなり―――」
「丸くオサマルと思うカシラ?」
「無理だな。健ジイちゃんの思想が生き延びていれば、どうにでもなったかもしれないが、それは失われたものだ」
他の人間たちに道を繋ぐこともなく、
魔法師の行き着く先というのは『シオニスト』による『シオニズム運動』であると分かっている。
分かっていたヒトを追い出せばそうなってしまう……それが今も啓太の右腕に引っ付く女の子の祖父なのだから……。
さもありなんである。