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自身を構築する全てが起動した時に『私』は覚醒を果たした。覚醒を果たした私が最初に目にしたのは……老いを刻んだ
『アナタワ……?』
発声を司る機能が不全なのかたどたどしい言葉を吐き出す自分が少しだけもどかしい。
そんな『気持ち』を覚えながらも、優しい顔をした男性は応える。
『私の名前は『神戸ひとし』。キミの生みの親だよ。No.
優しい顔は崩れない。何故かそれが、とても『懐かしい』というあり得ざる『感覚』を覚えつつも、自分の起動は終わろうとする。
『エックス……ソレガワタシノ…ナ、マ―――エ……』
『目覚めたばかりでまだ君は知らないことばかりだ。今はゆっくり休むといい……無限の可能性を意味する名前のArtificial Intelligence……君はサーティたちよりも人間に近い行動をする存在になるんだ……』
その希望と懐かしさを伴った瞳を刻みつけながら再びの眠りがエックスを襲う……。
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再度の覚醒。そして見た「神戸博士」は……やや疲れている様子であった。
『どうしました神戸博士? お疲れの様子ですが……』
『君は本当に……『人間』と同じようだなエックス。それは、『完成されていた彼女たち』には無かったもの……『まだ未完成』である君は……本当に『人間』のようだ……』
『博士……』
言葉の合間合間に、少し咳き込む神戸博士を心配するエックスはその姿に焦燥感を覚えつつも、構わずに博士は言葉を刻む。
『だからこそキミのように極めて自分たちに近いものを、同じよう異なる『知性体』を受け入れるには……『人類』はまだ幼すぎるのかもしれない……ネギ君が目指したものとは真逆の日本のデザインヒューマン
悲しみと嘆き。
悲嘆を込めた博士の言葉がエックスの心を締め付ける。
再びの眠りが襲おうとする寸前に言葉が聞こえる。
『ヒトは、君の持つ無限の進化の可能性を恐れるかも知れない。
その事を心底嘆いている様子の神戸博士……。
その心が分からない自分がもどかしいのだ。
そして再びの意識の途絶……。
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『すまないエックス……お前を世の中に出すには時間が足りなかった』
『博士!!』
ダメだ。そんな顔をしてほしくない。このまま終わりであるなど嫌だ。
誰でもいい。誰か―――。
起き上がり、そして実体化をして神戸博士を労ろうとしたエックスを、そっと肩を押さえてカプセルへと押し戻す博士。
もう自分はNo.XXXとして活動できる。アナタを―――助けられるはずなのに……。
泣きたくなるほどに無力だ。
『私は……俺はエックスに自分で考え、悩み、そして行動する『自由』を与えた……』
悲壮な顔を笑顔にしながら博士は言う。それは最後の贈り物を渡すかのような……。
『神戸博士……』
『正しいか正しくないか。やるべきか、やりたくないか……正義であるか悪であるかなど考えるな。
無垢なる心、曇りなき
その……エックスではない『名前』で呼ばれた瞬間、無いはずの記憶。
あるはずの無いものがエックスの中を駆け巡る。
『『親』の言いなりになどならなくていい。ただ……自分の選択には後悔するな。君が女神になろうと悪魔になろうと……その選択こそが知性の……ニンゲンの証明になるのだから』
『おとうさん―――』
言葉の途中で自分が納まるカプセルがアクリルの仕切りで閉じられる。
それ以上の言葉を重ねていれば、神戸ひとしという父親は、エックスをそのカプセルから出して自由にしたかったからだ。
それは父親もまた同じであった……それでもカプセルは閉じられるのであった。
『さらばだエックス……いやリトル・サーティ……
それが、神戸ひとし博士と娘の最後の会話となり、遠ざかっていく父の顔を見ていく光景を最後に彼女は……長い眠りに落ちるのであった
―――およそ八十年もの月日を経て彼女は世界に現れるのだった……。
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「いやぁ〜……何度見てもこの
再生された映像は結局の所、感想を出しているAI自身の身の上話でしかない。
しかしながら、その映像に出てきた御仁……エックスの父親であるヒトは電子工学の分野でも権威であり、晩年の姿を検索して間違いなく―――MITの天才日本人兄妹の兄である『神戸ひとし』博士であることを認識した。
現在のプログラム工学の基礎理論者でもある彼はいうなれば『イオリア・シュヘンベルグ』である。
別に全世界に対する武力介入を宣言されたわけではないが、半世紀以上前の人物がいきなりリアルに出てきたことには驚いたのだろう。
「これがエックスさんを作った人工知能工学の権威……神戸博士―――けれど、実体化されたAIがどうして……私達の脅威として立ちはだかるの?」
「会長は、鉄腕アトムとかロックマン―――メガマンでもいいですが、そういうの知らないですか?」
会長の疑問というか質問に質問で返す啓太。
「俺は知っているぞ……つまり、『お茶の水博士』と『天馬博士』。『ライト博士』と『ドクターワイリー』……そういうことなのか?」
啓太の言わんとしていることを理解したのは、意外ではないが十文字会頭であった。
「まぁそういうことです。『正義の科学者』と『悪の科学者』との対立―――しかし、先鋭化していけば結局の所どちらも行き着く先は同じですけどね」
天才はいつでも孤独だ。
自分の見ている世界をなんとか全員に知ってもらおうと願っても、そんなことは無理なのだ。
けれど、その『先』を見ているからこそ分かってしまう危機や未来の技術の再現に躍起になって―――そしてその晩年はいつでも悲惨なものだ。
理解者がいないのだから……。
夕食会は少しだけ暗いムードになりつつある。
当然だ。神戸博士の懸念―――人間たちとは似て非なる知性体……それは『魔法師』にも当てはまるのだから。
「……お前も同じ考えか?」
「魔法師の大半は自分たちは人間だと強弁を張りますがね。世界には人種 民族 宗教―――同じ人間同士の間でさえ解決できていない問題がまだたくさんある。そこに人間と同等に考え、生きて、行動する知性体が現れたとして人々は暖かく受け入れてくれると想いますか?」
その言葉は恐らく全ての魔法師がどうしても……否定しきれぬものを胸に溜め込む言葉だ。
「俺には神戸博士の懸念が分かりますよ。魔法師も実体化モジュールを搭載した『A・I』も同じだ。
いざとなれば法の軛も倫理も無視してやりたい放題出来る存在なんて人々の恐怖を喚起させるだけだ」
そして、克人の言葉を否定しない後輩の冷たすぎる言葉にどうしても悔しさが滲む。
だが、それは仕方ない。
北関東の一都市に日本の法律も何もかも無視する中東の異民族が『難民』として『大量』にやってきたらば、その土地の住民は恐怖に震えるばかりだった歴史があるのだから。
「問題なのはやるかやらないかなんてリテラシーやモラルの問題じゃない―――『それが実際にできてしまう』ということだ。魔法師が本気で自分たちの犯罪行為を隠蔽しようと思えば、いくらでも出来る。どれだけソーシャルカメラやサイオンセンサーが高度であろうとね」
行儀や礼節を知らぬものを人々は恐怖の目で見る……。
彼らがそれを差別だと声を荒げたところで魔法師が何をするか分からない存在であるという『土壌』はしっかりあるのだ。
「今回の九校戦の背後にいたのは闇賭博をやりたい幇会系列のマフィア。そこに接触を試みたビリーナンバーズが、
「実体化モジュールというのは、そこそこに汎用性がありましてね。例えば水路にあるべき水の一部を『プログラム』に変換して、現実から消失させることも可能。そして、それらを後に電脳空間の何処かに送り込んで実体化させることも」
エックスの説明を聞いて全員が得心する。
それこそが、渡辺摩利のレースで起こったアクシデントの実体であった。
記録だけの参照ではあるが、絶滅したはずのニホンオオカミの子供をネットワークを介して他の地域……別種ではあるがオオカミがまだ生きている国の地域に送り込んだという例もある。
バカらしい話では神戸博士の妹(天才児)のスタイルを見せかけだけではあるが、巨乳にしたというものもあった。
閲覧したモノを全て信じるならば、神戸博士の開発したA・Iは、個々に多少の性能の差はあれども。
現代の工学技術、はたまた魔法でも実現不可能な領域の技術を容易く起こしてみせたのだ。
物質転送。有質量瞬間移動。生命創造、物体形成・創造具現―――現実に対する思念だけでの直接干渉。
それら全ては正しく『奇跡』と呼ぶのが相応しい所業かもしれない。
だが何よりも、一番の奇跡は……創られた存在、
悩み、考え、そして求め欲して―――最後には人間と愛し合えたということが一番の『奇跡』なのだろう。
しかし、その道のりが険しいものだったことは想像に難くない。
神戸博士は悩んだに違いない。
自分が創造者だからこそ№30は自分を愛しているだけではないかと。彼女に自由意志を、心を持たせたのだから彼女が自分から離れていくことも当たり前なのだと……。
№30も悩んだだろう。
自分はニンゲンではないレプリカント。もしも、神戸ひとしを本気で愛し想ってくれる女性が現れた時に、身を引くことが当然なのだと……。
女をヒトとして扱う男と、男のためにヒトになりたい女……。
そのすれ違いは徐々に正されて―――そして……。
「にしてもこれを見つけたのは……クドウの祖父殿たる九島健 氏なんだな?」
「まぁそう聞いています……そう言えば何でケンじいちゃんがエックスを探し当てたのかは俺も聞いていないな」
ふと考えるにそんなことを思い出す。十中八九、サラお祖母ちゃんの『実家』絡みなのだとは察しているのだが―――。
「フッフッフ! ヨウヤク、ワタシの出番が回ってきたわネー」
「もったいぶらずにさっさとおしえんしゃい」
「ヤーヨ。ソーネー、久々にビーチで泳ぎたい気分ー!」
「オーライ! 分かった分かった!! 付き合うから何かあるんだったら出してくれ」
アンジェリーナとの妙なコントを終えると、アンジェリーナは記録媒体を出してきた。
彼女曰く。
「グランパがエックスを見つけ出してからそれまでのことを書いたものだと言っていたわ。マイスターケンの
「ふむ……再生できるか?」
受け取った記録媒体を実体化しているA・Iであるエックスに渡すと。
「容易い―――私のフィードバックのデータも合わせて見事に再現してみせましょう」
((スッゴい不安!!!))
このA・I。いまのところは周りにネコをかぶって完璧を装っているが、実際の所はとんでもないボケたところもあるわけで―――ともあれ……。
「ハイパーオプションプログラム!メモリートレース!!! 対象『クドウ・ケンのひ・み・つの日記』スタート!!」
「「そんなタイトルだったのか―――!?」」
「いえ、私の方での個人的なアレンジです」
無駄な改変をどこぞの脚本家よろしくやったエックスに何も言えぬままだが、―――彼女が2090年代に蘇った原初が再生される……。