3月9日
まだ何も出ない。
義母であるシンシアが自分に依頼してきたこと―――それは義母の『友人』。その『最後の住まい』を見つけてほしいということだった。
この辺りは新ソ連との局地的な戦争があったアークティック・ヒドゥンウォーの流れ弾を食らった地域であり、おいそれとヒトも立ち入らない土地だ。
だが……北極海からはかなり離れていることが不審ではある。
疑問を飲み込みつつ、妻であるサラと共にもう少し探ることにした。彼女は世界的な考古学者の養女であった時もある才媛だ。門外漢の自分よりは何か発見できるかもしれない。
徒労には終わるまい。彼女と一緒なことがすごく嬉しいのだから。
3月12日
新しい場所でキャンプを張り、まわりを格子状にふちどりしてから発掘していった。
計器がある一点で奇妙な反応を示した。魔法も使い少しだけ探ると……大きめの金属物質が地表から数メートル下に埋まっているようだ。明日は、そこを発掘しようという提案は却下された。
妻はもうやる気満々である。もう少しこのちょっとした旅行気分を味わいたいが。
『アタシは知っているんだよ!
スコップを手に有名な考古学者の薫陶を受けた金髪美女(四十路)の言葉には逆らえなかったのだ。
同日
信じられない。
地表から数メートル下に研究所跡があったのだ。
跡とは言うが研究所はまるで『何か』で守られているかのように無傷だった……魔法ではないことは理解できたが化石のように固まるわけでもなくエネルギー供給も独立して行われていた研究所。
これが有名な人工知能工学の権威 神戸ひとし博士の研究所であったことを示す文書を見つけた。
義母の依頼はここで終了するはずだったが、私の眼を惹いたのは、未だに稼働し続けている端末にある膨大な資料。そして走り書きのように残されていた神戸博士の論文の草稿である。読み返したことで理解したが、どうやら博士の研究は大きく前進していたらしい。
現在のAI技術よりも高度な結論、そして禁断の研究―――
「カプセル」について書き綴られていた。
3月13日
ついにカプセルを見つけた。
縦14メートル、横8メートルのカプセルは研究所の更に奥まった場所に―――眠り姫の棺のようにあったのだ。
建物が無傷であったことも不思議だったが、それでも堆積物である土砂の影響はそこかしこにあった。
だというのにカプセルがある部屋だけは何事もないように『最後の時』のまま残されていた。ここでは妻も私も防塵マスクを外していた。それぐらい空気が清浄に思えたのだ。
3月14日
発見した時何らかの診断動作をしていたカプセル。
カプセルには『触れるべからず』という警告があったが、すべてのインディケーターは安全を示すグリーンになっていた。
だがそれを開放することはなかなかに難しかった。そこにいたのは裸身を晒したティーンエイジの容姿をした少女であったのだから……ちなみに妻からは。
『ケータローもケンも似たようなもんか』
などと呆れるような顔をされてしまった。
3月16日
今日、義母にあたるシンシア・マクドゥガルの立ち会いのもと
カプセルの中にいるナンバーエックスを見たあと義母は
『ああ……ヒトシ、サーティ……』
滂沱の涙というのを初めて見た。
そうして老女は崩れ落ちながらも、ナンバーエックスをカプセルから開放する―――
「ちょ、ちょっと待った!!!! 一旦の休憩をもらいたいんだが!!」
「無粋っすねー。十文字会頭」
「ホントよねー。
十文字会頭の言葉に少し遅れて、『一時停止』をエックスに求める。啓太もアンジェリーナも、何だろうと思いながらもコ○・コー○を啜る。
そして、ポップコーンを頬張る。それが映画の様式美というものである。
「あー……何から聞いたらいいのかわからないぐらいに情報の大量洪水だったわけだが、まず最初に―――あの映像に出てきたクドウの曾祖母に当たるだろう相手は……あのハリウッドスターで、情報工学関連―――
あの映像……この大会場の空中に大スクリーンの映像をエックスはハイパーオプションプログラムを使用して投影しているのだ。
魔法とは違う『純粋科学』の領域……それを行う存在に驚嘆しつつも、それ以上に十文字及び聞きたいことがあったのだ。
「ソーデスヨー。別に隠すわけじゃないですが、グランマの旧姓名はサラ・マクドゥガル。 とはいえアクトレスプリンセス・シンディとは
恐る恐る聞いた十文字相手にあっけらかんと答えるアンジェリーナ相手に呆然とするは一同であった。
まさか日本から放逐した九島の魔法師が、そんな相手と結婚していたなど予想外だったのである。
あの司波達也ですら、『仰天とした』としか言えない顔をしているのだ。
「ある意味、サラお婆ちゃんとケン爺ちゃんは似た者同士だったのかもな」
「
しかし深く考えるにIBMの方のマクドゥガル家も別にサラ・マクドゥガルのことを無視していたわけではあるまい。
『保護』しようとは動いていたはずだがその前に、母親と親交があった東大の考古学教授に引き取られ、そして同じく親交のあった『茶店』の女主人が保護者となってひなた市の小学校に通わせることになったのだ。
「け、けれど何でそこで浦島君と繋がりが出来るの? ミセス・サラが言うケータローって浦島 景太郎氏のことよね?」
「ざっくり言えば、サラお婆ちゃんは元々、浦島家の養女であり『ひなた荘』の住人でもあったんですよ」
「―――詳しくは教えてくれないの?」
ざっくりしすぎている上に固有名詞の深い説明がほしいのだが……。
「結構、ドロドロとした内情があるんですけどね」
それでも聞きます? と、『これ以上はヨソの家の事情に首を突っ込むな』という言葉を言外に含めた啓太に気圧される真由美。
「……わ、分かったわ。それは無粋な話なのね。ならば聞かないわ」
「賢明な判断ありがとうございます」
そうしてからエックスに頷き続きを再生させる……。
3月31日
神戸博士は天才だった。
博士のAIに対する設計をざっと見てみたのだが、驚くべきはこの領域に至っていた時期である。
プログラムコードのログを見るとまだ2000年代にも至らない1990年の後期……。
私も知らないが、世間では世紀末だ。恐怖の大王が降り注ぐ、グランドクロスが起こる。PCの2,000年問題など……―――後の時代の人間からすれば『アホだなぁ』と思えるような時代。
しかし、先に述べた通り神戸博士は父親の研究を引き継ぐ形とは言え、まだ情報端末の普及が初期の草創期のものでこれだけの自己意思決定を行える電脳生命体を作り出していたのだ。
改めて思う。
神戸博士は天才だった。
そのプログラムを詳しく見ると、そこには常人では想像もできない、理解が中々及ばない量子の世界が描かれていた。
これらの資料と『未明状態』のNo.XXXを参考にすれば、神戸博士の設計思想を再現できる。
そしてそれはきっと導いてくれるはずだ。
ネギ・スプリングフィールド大師が望んだ世界とは『真逆』に、誰かが『選択肢』を間違えたこの『狂った世界』の矛盾を解消する―――遥かなる高みへ……。
8月22日
No.XXXを参考にして、最初の自立型にして人間型のAI「A・I TOMATE」を完成させた。完全なる造語ではあるが、妻も娘も特に笑うことはなかった。
問題は『アイトメイト』がちゃんと動作するのかどうかだ。
神戸博士はかなり筆まめな人物だったようで、初期型のAIが『とんでもないこと』をしでかしたことまで丹念に別の資料で説明していた。
同時に彼の警告―――No.XXXの危険性は十分に承知していたし、それも分かっているつもりだ。
作ったシステムがどのように動作するのか、完全に理解しているわけではない。
ましてや『実体化モジュール』に関しては未だに不透明な理論だが、それでも最初のアイトメイト『No.
―――そこで一旦区切ることにした。
「ご飯が冷めますから、とりあえず一時中断しましょう。腹減った」
「I am Hungry」
まさかケン爺ちゃんの日記がここまで長いものだとは予定外であり、とりあえず料理を作ってくれたホテルのシェフたちに悪いので一旦の中止を要請するのであった。
流石に全員、見入っていた方だが空腹には勝てなかったようだ。
メモリートレースを一時停止したエックスはここまでの映像の切り抜きをシャボン玉のように会場中に散らす。
昔懐かしの映像ソフトのメニュー画面でのそのソフトで印象ある画を厳選したキャプチャー表示のようなものだ。
現在のAR技術及びVR技術を応用すればいくらでも出来ることではあるが、エックスはケン爺ちゃんの文字情報からここまでの映像化を果たして、それを一瞬で行った……ということを理解しているのが、どれだけいるのか。
(まぁどうでもいいか)
そう断じるように思いながら、『ア~ンして♪』などと口を開けるアンジェリーナの元にハムサンドを親鳥のごとくやるのであった。
思い思いに食事を取れば良かろうに、全員して『こちらを見てくる』。
どうやらアンジェリーナが、ハリウッドスターの血筋であることから色々と浮き足立っているようだ。
「ケータもソウだと思うけど」
「先程の映像に俺に関わるものは無かっただろうが」
聞きたいことは色々とあるのだろうが、それを勇気を以て聞けないのが魔法師なのだった。
ローストビーフサンドを食べていると。
「少しカトラ王女から聞いたけど啓太君は色々な冒険をしていたんだね。僕もそれに付いて行きたかったよ」
「それは頼もしいが、まぁ終わるようで終わらない話だからな。だが確実にネギ・スプリングフィールドの理想には近づきつつある。セカイが変わる時は近いな」
九郎丸がやってきて、そんなことを言う。
そして気配で分かっていたので、先程からコーヒーを嚥下し続けている御仁……魔法科高校の制服で変装している。
顔も変えている……渚カ○ルのような容姿の人間に渡すべきものを渡す。
「―――というわけで、これがビリーナンバーズから抽出されたピースの1つです。ご確認を」
殆ど投げるようなフォームで寄越した記録媒体だが。
「―――確認させてもらうよ――――――間違いなく。これでネギ君の理想である『マギステルアプリ』の開発が進んだよ」
簡単に空中で浚い、その後―――端末で確認をした人間は笑顔で言ってから自分に掛けていた偽装を剥いだ。
偽装をしてまで、この会場に入り込んだ人物。
銀髪の美少年が座っていた場所には―――太陽系最強の魔法使い。
フェイト・アーウェルンクスがいたのだった。