2087年 4月某日
こんにちにいたるまでNo.XXXが目覚めることはない。
無理やり目覚めさせることが何をもたらすのか分かっている。
それとは別ではあるが、今日は娘夫婦と孫がやってくる日である。
この歳になって遂に自分もグランパと呼ばれる人間となってしまった。
そんな矢先、妻であるサラも客人を迎えることになった。それは彼女にとっても未だに交流ある日本の家……血の繋がりこそなけれど親戚といえる存在であった。
ある意味では私、九島 健がこのUSNAに追放されたあとにもある母国との繋がり。
浦島家の現当主一家がやってくることになった。見事にバッティングした形だが娘の方も日本の方にいる親戚たる『浦島家』のハルカ君とは前からの知り合いなのだから仕方ない。
話によればハルカ君の息子、家の継承権こそ無いが長男であるケイタ君は孫―――アンジェリーナと同い年らしく……ちょっとばかり自分の魔法能力から内向的になりそうなアンジェリーナといい友人になってくれればと思う。
同日
さっそくも後悔する。やってきた浦島啓太という男子は―――。
『かわいい子ですね。いまから2人で一緒に散歩しませんか?』
などと我が家の宝を口説いてきおった!!!
……だが、子ども同士の交流を邪魔するほど自分も無粋ではない。何より赤くなりながらもアンジェリーナもその誘いに嬉しげに乗っている……。
だが、なんというか、こう……ともあれ現れた浦島啓太は、将来のいろいろなものを感じさせる少年だ。
エヴァンジェリン大師によれば、彼こそがヨルダ・バォト打倒の鍵である―――と。
だが、こう……父親や爺の前で進むな!進むな!!まだアンジェリーナはティーンエイジにもなっておらん! 離れろぉ―――!!!
そうして孫娘を取られそうな事態に娘婿とともに憤慨していた自分は気付けなかった―――No.XXXの反応が俄に活気づいていたことを。
そして数日後―――かのアーティフィシャル・インテリジェンスは……
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「まぁこの辺りでいいでしょう。私はそういう経緯でケイタの寄生獣ならぬ寄生電女、パートナーデ〇モン(完全体)となったわけです」
「そして、ワタシはケイタと知り合ったわけですよヨ。同時に将来にはMarriageCoupleの約束をしたワケです」
「エックスの言はともかく、あの時にUSNAに行ったのは、サラお婆ちゃんが将来的に君が兵隊として徴用される危険性を理解していたからこそ、ある種の保険として俺のお袋を招待したんだよ。そして婚約だのは何もありません」
その裏には娘夫婦ではアンジェリーナが兵隊として徴用されそうになった時にロクなことが出来なさそうだと理解していたからだ。
その一方で本家のマクドゥガル家を頼らなかったのは、かの家がロスチャイルドやロックフェラーと同じく魔法師に対する態度が同じだったからだろう。
あるいは……身内だからこそ特別扱いは出来ないということなのかもしれない。好意的に考えればであるが。
「……結局のところ、九島健氏が帰国してこそ、か」
「一応言っておきますが、雪姫が約束したことを反故にすれば私は日本国に提供された全てのAIナンバーズ、AI・TOMATEに
何たる効果的な脅しだ。ある意味ロボット三原則を無視したエックス。つぶやいた十文字に被せた言葉が持つその言葉の効果は大きい。
ともあれ、もはやいいだろう。
「食事を再開してよろしいのでは? もうこれ以上は何もないですよ。こっから先はただのホームビデオ的なものですから」
そういう『家族的』『家庭的』なものをことさら見たくない面子とているでしょ?と含めると苦い顔をして肯定するのであった。
「そうか……。では各々、冷める前に食事に入れ。料理には美味しさの持続時間があるのだからな」
その十文字克人の鶴の一声ならぬ『巌の砲声』を以て食事会は再開するのであった。
めんどくさいことをやった気分を晴らすかのように、食事を摂ることにする。
別に食にこだわりがある啓太ではないが、出された食事をちゃんと食べろと躾けられた身からすれば、悪くなる前にちゃんと食べるべきだと思っているのだ。
「浦島君―――」
「啓太くん。魚の骨を取るの上手いね!」
「普通だよ九郎丸。焼き魚でも煮魚でも小骨を避けるために身をぐちゃぐちゃにするのは俺の趣味じゃないんだ。皮まで食べてこそ食われた側も成仏するってもんだ」
「ヒナタ市は海沿いの街だものネ。戦国大名の後北条家以前からの名家なんでしょ?」
「土地柄的には小田原にもお仕えしただろうけどね。『のぼう様』の辺りは麻帆良との結節点だからな」
重用はされたんじゃないの?とアンジェリーナの言葉に答えつつ、食事をしていたのだが……。
(背後霊かおのれは)
浦島呼びをする限りは退かぬ、媚びぬ、省みぬ!!
などと背後霊のように自分の後ろにいて決して必要以上に近寄らせないように術を掛けておいた一色愛梨が、とことん落ち込むのを感じるが―――。
(しょせんは他人だもの)
周囲の男子からすれば慰めてカッコつけさせるチャンスを作らせている啓太はさながら恋のキューピッドというところだろう。
麻帆良のフザけた魔力である愛の告白1000%SPARKING!を受ける土地を故郷としている啓太の塩対応は、いうなればマギステル・マギらしい人助けである!!(詭弁)
そうこうしながらカトラや沓子も加えて楽しい食事会をしていたのだが……。
「た、田中くん!!」
「なんすか、一色さん?」
その境地に至った一色愛梨の呼びかけにようやく啓太は振り返るのだった。
振り返ったというのに、何故かその顔は頬をぴくぴくさせるという顔面けいれん真っ最中であったりするのだが。
「で、なんか用ですか?」
「その前に!なんで浦島と呼んでもこっちを見なかったんですか!?」
「そりゃ俺は君に対して浦島啓太とは名乗っていないからな。それは君に対する
なんたる詭弁を弄するのだろう……周囲の面子がなんとも言えぬ表情を見せながらも、何故……田中太郎名乗りをしているのかを詳細に知る一高勢は少しだけ暗い顔だ。
「だ、だって!アナタは―――なんで私にだけそんな……イジワルをするんですか!?」
「アンタには恨みがあるからな。これからも田中太郎でヨロシクおねがいするよ」
「う、恨み!? まさか司波深雪さんを侮って―――」
「何であんな女のことが俺の動機になるんだよ。アホらしい」
心底、司波深雪なんぞどうでもいいという態度と半眼の表情を前に当の司波深雪が憤慨するかと思いきや、暗い顔をしていた。そうしておけば、どうせあの理論首席が慰めるだろう。
これもまたマギステル・マギとしての善行ではあろう。今日の俺は良い魔法使いとして活動出来ているようだ。
「アンタへの恨みは―――俺の尊敬する田中太郎さんを侮辱してくれやがったことだ。俺の実力を侮ったとか別にそんなことはどうでもいいんだ」
「――――――」
「アンタは特別な人間、特異な人間でなければ自分と口を利くことすら許さない人間なんだろう? それも俺は別にどうでもいい。ただ俺の主義とは真逆なんだよ。だから恨みが発生する」
「そ、それは………なんにゃんですか?」
少しだけ涙声で今にも泣きそうな一色愛梨に全く以て同情心が沸かないままに言う。
「俺は君みたいに
その言葉に沈黙が降り立つ。
だが構わず啓太は一色愛梨に『拒絶』を告げる。
「君は
とんでもない言葉だ。
浦島啓太が見ている魔法師の世界とは……須らく異常者の集まりだと告げているのだ。
「だから俺は田中太郎という普通の人間にいつでもなりたくて畏れ多くもそう名乗らせてもらっている。いつか平凡な普通のニンゲンになるべく、俺は田中太郎をリスペクトしているんだよ」
だが、それに抗議するには、ここに至るまでに告げられた事実は重すぎる。
それらを全て虚言だとして何かを言えればいいのだが……。
(なんであんなヤツに……魔法師の生殺与奪が握られているんだよ……)
強い感情を持たない達也ですら、この事実には色んな意味で苦悩して憤慨する。
魔法師全体を批判しておきながら、魔法師を守らなければいけないという目的で一高にやって来た人間。
この矛盾の限りの事柄が多くの人間の頭を痛めさせる原因であるのだ。
「あと、ビリーナンバーズの件ならば気にするな。君が何かの負い目を感じる必要はないから―――俺に構わずにどうぞ」
とことん塩対応な浦島に一色愛梨は、もう泣く寸前だ。
ていうかもう泣いてしまっている。
だが、浦島啓太は全く振り返らない。男であればあんな可愛い子が泣いていれば困るのが普通なのだが、浦島啓太は動かない。構わず浦島にとっての友人一同と談笑しながら食事に興じる。
なんてヤツだ……誰でもいいから男気見せろよと思うも、やればやり返される。それもとんでもないチカラで1000倍返しされることを理解している……。
理解していてもそれでも出てくるべきHERO……一色愛梨を助けるべく出てくる男子はいなかったのだ。
そしてそのままに、夕食会はそれぞれが抱いた心のままに過ぎていくのであった―――。
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「ちょっとアレは無いんじゃないかなー……と感じるんだけどね」
「アンタの玉こそもう無いわ」
盤面では既に逃げ回っているだけの会長の玉を前に詰みまでは7手というところだ。
夕食会後、何やかんやと誘われてカフェで将棋を打ちながら話すということになったのだが、七草会長は渡辺委員長よりも弱かった。
「……一色さんはアナタにお礼を言いたかっただけなのよ。それに対してけんもほろろに対応しちゃったから……」
「礼はいらない。そもそもアイツは俺の尊敬する田中太郎さんに無礼を働いたんだから、その時点でもはや違えている。そしてビリーナンバーズの始末に関しては俺にとっての仕事だったんだから何も彼女が感じることはないんだ」
「―――なんでそんなにまでも……」
誰かからの好意も理解も拒む。
どうしてそこまで
真由美にとって目の前の後輩は何もかもが理解の外側にある人物だ。普通の青少年なら持っている無駄な功名心も自尊心も何もないその姿は……達也以上に奇異に見える。
「でなければアンタらがヨルダに憑依された時に心置きなくぶん殴ることは出来ない。あのババアは老若男女の区別なくその資質ごと身体を乗っ取れる……事実、雪姫は自分が心から惚れた男が乗っ取られたことで、その体に攻撃することを躊躇ったそうですし」
『別の世界』でのことだけどと内心でのみ付け加えてから桂馬を使って追い詰める。
「九校戦も残るは本戦ミラージとモノリスだけ。俺のことなど我関せずで―――王手を掛けていきましょうよ」
盤面と説得、両面で打つ手がなくなってしまった真由美に対する言葉は無情な限りだが、言葉だけは正しいわけで結局のところ、そちらに邁進せざるを得なくなるのだった。