魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

61 / 72
stage.60『湿った戦いの場』

 

 

九校戦もついに九日目。

今日からは本戦競技であり、ついに勝負どころ……天王山であり関ヶ原であるのだが、大半の人間たちは色んな意味で低調なのだった。

 

「今日・明日のプログラムで全ては決まる―――決まるのだが、すでにマジック点灯もしているので下の敗退次第では競技前に総合優勝が決まるな」

 

新人戦での司波達也の恐るべき八面六臂の大活躍が、結局のところ三高と二高の成績次第では戦わずして一高の優勝が決まってしまうという事態に陥っている。

 

だが、そういうことは試合前に言わなくてもいいんじゃないかなと思う会頭の愚痴るような言葉。まぁどうでもいい。

 

啓太はとにかく冷めた考えでこの会議の中に混じっていた。

 

「が……その前に、言っておきたいことがある」

 

十文字会頭の言葉に硬さが混じる。

 

「浦島……お前は、どこまでも一人で戦うのか? ヨルダを倒す為ならば俺達などどうでもいい、と?」

 

吐かれた言葉は啓太にとって予想通り過ぎてつまらない。

 

「まぁどうでもいいですね。冷たいことを言ってしまえばそういうことです。だから一色さんなんかもどうでもいいわけですね」

 

その冷たい考えに周囲一同が様々な表情を浮かべるも大概は哀しさとでもいうべきものだ。ここまで、冷たい男だったとは。正直予想外であったのだ。

 

「………お前に課せられた宿命の重さは俺も半端な理解であっても理解しているつもりだ。だが、一色愛梨はお前を理解しようとしたというのに、あの態度は無情じゃないか」

 

「それ、あの時の夕食会で一色さんを擁護するように言っていれば、あのハーフ女子のハートを掴めたかもしれませんのに」

 

「そんな間男じみたことできるかっ! やはりあの場でのアレはそういうことだったのか……」

 

「ノッておけば可愛い後輩女子を恋人にできたかもしれないのに、チャンスを逃しましたね」

 

悪役を演じていた―――というほどではないが、それでも昨晩の啓太の意図を伝えると、十文字克人は少しだけぐらつく。しかしながら会長の咳払いで持ち直すと、それでもと続ける。

 

「それでも、だ。彼女の心に理解を示すぐらいはしてくれ。お前は事態に対する洞察力は鋭すぎるが、人間洞察力に関してはかなり低すぎるぞ……いや、違うな―――分かっていてお前はあえて冷たく接しているんだ」

 

「そりゃそうでしょ。俺は自分が真っ当な人間じゃないって分かっているし、闇の魔法の魔素刻印を見て興味を惹かれたとしても、そんなものは真っ当な人間が求めるべきものじゃないと分かっている―――つまり、俺は皆さんの安心安全快適な魔法師ライフのために関わり合いをしないでおくんですよ」

 

その言葉に沈黙。結局のところ何もかもが分かり合えない人間というものはいるということであった。

 

そして『君のためを思って言っているんだ』『余計なことに関わらなくてもいいはず』という弁えた発言を崩すことも中々出来ない。それは本当に魔法師(いっぱんじん)にとって善行であるからだ。

 

「とにかく今は俺のスタンスなんてどうでもいいじゃないですか? 現在、意識を向けるべきは九校戦優勝でしょ。俺の態度で一色愛梨が本調子じゃないというのならば、それは優勝を目指す一高にとって歓迎すべきことのはずだ。彼女の気持ちが「湿っている」というのならば、魔法のキレだって落ちているだろうしな」

 

「む、むぅ……」

 

意識を向けるべきは、九校戦そのものだと言っておく。

「いどのえにっき」を開きながらの啓太の言葉は、上役の急所を突いていた。

 

「………それもそうだな。しかし、こんな形で勝利を得ることを私はあんまり望んじゃいないんだが、いや。一色に勝てるとも限らんが」

 

渡辺摩利の複雑なその言動に対して啓太は、ここいらだなと思いつつ畳み掛けることにした。

 

「どんなことがあろうとも戦いの場に臨むのならば自分の気持ちや調子なんてのは、二の次でしょうよ。プロボクサーだってベストウェイトは上の階級でも下の階級で戦うことになれば、そこに体重を落とした上で戦うための体を作る。私生活で色々あったとしてもホームランバッターであることをチームに求められれば、そこに意識を切り替える。プロフェッショナルとはそういうものだと俺は思っていますが」

 

その言葉に俺たちはまだアマチュアだなどと甘ったれたことを宣えばやり返される。もはや浦島啓太には何を言っても無駄なのだと気付く。

 

そして正論すぎて何も言えなかった。

 

「で、皆さんは勝負に徹するプロフェッショナルになれます? たとえ相手がどれだけ不調であっても全力で殴るだけの覚悟はあります?」

 

平坦な調子でそんな風に聞く浦島。挑戦的な笑みを浮かべるぐらいはあっても良かったのだが……。

 

「だとしても俺達は……幕之内一歩みたいな一本気で実直なボクサーでありたいよ」

 

プロボクサーとしては甘すぎた風神のことを持ち出してきた十文字克人の疲れるような言葉を前にして試合前の会議はお開きとなったのだ。

 

 

「曇天ですね……」

「そうだな……」

 

ミラージ・バットという競技を行う上では陽光で、打つべき光球が遮られないというのはいいことだ。しかしながら、どうにも少し前のテントでの話から妙な連想をしてしまっている。

 

「本当に気持ちが曇り空なのは三高の一色さんなんだろうが、確かに試合でそれらメンタルが落ち込んでいるというのは、こちらとしては突くべき弱所なんだが」

 

「悪役に回りすぎなんですよ……何でそこまで偽悪的に振る舞って……」

 

結果として一高の評判は悪い。その中には兄である達也も含まれているのだが、それは彼女としては的はずれな指摘であった。

 

「……アイツにとっては魔法だろうと呪術だろうと等しくどうでもいいことなんだな。習熟したいわけではないが、覚えなければどうしようもないからそうしている……」

 

全能の存在というわけではないが、それでもその高い能力などよりもヤツ(浦島)にとっては、普通に暮らしている人間のほうが羨ましいということだ。

 

(雪姫先生の言葉から察するに随分とアイツは出来の良いお坊ちゃんのようだな)

 

覚えようとしたことは大概出来る。そのオーバースペックは喉から手が出るかもしれないぐらいに誰もが求めるものだが、本人はそうではないということが色々な齟齬を生んでいる。

 

魔法を扱う優れた才能や秀でた技量があるからと魔法を好きだとは限らない。

 

そして魔法が好きだからと魔法の方が自分を好きになってくれる(自在に使わせてくれる)とは限らない。

 

前者が浦島であるならば、後者が達也というところか。

そんな皮肉を覚えながらも、―――結局のところ戦いは始まる。

 

 

(バカな!電子金蚕が発動しなかっただと!?)

 

大会のCAD検査委員の一人が、一高の小早川という女子のCADに掛けたシステムトラップ。

自分が仕込んだ『魔法』が発動しなかったことに驚愕しつつ、それでも次の行動を起こしていた。

 

しかし、起こす前に彼は破滅していた。

 

「こんにちは」

「――――――――」

 

自室に戻る前に、廊下の途中に現れた美女の手で氷漬けになってしまった。あまりにあまりな早業。当然であった。

 

美女は最強の魔法使いなのだから……。

 

「やれやれ、後は何事もないだろう……ないようにしてくれよ」

「……誰に懇願しているんですか?」

「面倒なことを行うイタズラな神様だな。ほら私は詳しく知らないが、強化兵士みたいなのが会場内にいるんだろ。あとはお前らアーミーの仕事だ。税金泥棒と言われたくなければ働け。納税者の手を患わせるな。このシワシワのお婆ちゃんの手をな」

 

ひでぇBBAだと一番に問うた響子のみならず独立魔装の隊員全員が、その艶やかな若い手を見ながら思うも、言われたことはこなさなければ、その通りになると自覚している公僕であった。

 

 

 

三高の女子エースの一人は予選こそ通ったものの、とんでもなく調子を落としていた。

 

いつもは輝き自信に満ちていた面影が全てにおいて落ちていたのだ。

 

昨日の浦島啓太という男子とのやり取り。

そして同じく予選に出た一高の司波深雪によって披露された飛行術式に対する劣等感。全てがマイナスに働いていた。

 

「愛梨……」

「大丈夫です……私は―――」

 

アシスタンツの調整役である十七夜 栞ですらこれ以上はマズイんじゃないかと思うほどに、調子を妙な方向にしている彼女を抑えきれない。

 

(浦島君……)

 

あの時は自分に優しくしてくれた男子に対して複雑な思いを栞は抱いてしまう。同時に彼が田中太郎であることに、少しばかり自分も同じ思いを、納得をしてしまった。

 

魔法の家だからこそ、魔法師であったからこそ自分は両親から離れてしまった。仮に魔法とは関わりのない家であったならば、自分は両親とともにいられたかもしれない。

 

両親も戦いに行けなかったことを後悔することはなかったかもしれないのだ。

 

魔法などという清貧の士にとってとんでもない大金も同然のそれが生まれたときから、あったからこそあんなことになったのだ。と、いまの栞は考えられるようになっていた。

 

(仮にもしも……魔法というものが誰にでも使えるものであったならば)

 

戦うことが出来ない弱いヒトにまで強さを求めることが無ければ、あんなことにはーーー

 

思考がまとまらない中、愛梨は外の風を吸ってくると言って出ていった。

 

ついて行こうかと思うも、どうしてもそうすることが出来なかった。

 

いまの自分は、浦島啓太の言葉に納得をしすぎて、迷っているのだから何も言えないのだ。

 

そうして少しだけ作業に没頭していた頃……およそ20分ぐらいした頃に、選手控え室に三高の上役がやって来た。

 

「一色さんは?」

 

「ちょっと気晴らしに外出しました」

 

「ならちょうどよかったかも。十七夜さん一人だけの方がまだ話は通りやすかったかもしれないから」

 

その言葉から察するに愛梨が不機嫌になるような話だろうなと察した栞は―――それでも話は聞いておくことにするのであった。

 

 

その頃、一色愛梨は……。

 

「九郎丸―――!!!」

「啓太君―――!!!」

 

虚空(そら)を足場にしながらとんでもない剣戟を奮わせる超常の剣士の戦いを目撃しているのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。