魔法科高校のアイとま!   作:無淵玄白

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stage.63『夜に駆ける』

 

ついに始まるミラージ・バット決勝戦。

 

既に日も落ちて、ナイターよろしく多くのスタンドが明かりを灯す時間。

夜空ノムコウに飛び立つべくそれぞれのポールに立ち飛翔のときを待つ妖精たち。

 

(恐らく全選手が飛行魔法を使う……でなければ勝てないからな)

 

それは深雪と同じく決勝リーグに残った渡辺摩利も同様であろう。当初は摩利にも、同じく飛行魔法をインストールするべく動こうとした達也だが。

 

『私達三年女子にとっては、これが最後なんだ。勝利のためというよりも同じ三年同士でつるませてくれ』

 

と、平河先輩のアシストの下でやるといった摩利の言葉を前に引き下がることにした。そういう風な考えに特別共感はないが、とりあえず理解は出来ている達也なのだった。

 

「なにはともあれ飛行魔法が認められて良かったですよ」

「あーちゃんはそう言うけど、本当に大丈夫なの?」

「トーラス・シルバーの術式のままならば、安全装置が働くはずですから」

 

中条あずさの喜ばしい声とは違って真由美はそれが少しばかり気がかりであった。安全装置とやらがどういうものかは分からないが、物体の落下速度は時間に比例して早くなる。

 

ガリレオがピサの斜塔で行った有名な実験である。ソフト・ランディングが出来るようなものであるならば、それでいいのだが……そうでない場合が少しだけ怖い。

 

かつてのテレビ局主催の企画で鳥人間コンテストというものが琵琶湖で行われていたが、これとて落下速度云々はともかくとして着水がよろしくないと不幸な事故があったりしたのだ。

まぁそんな危険性への懸念に対する対策が存在しており、本来ならばそれを説明することになるはずだったのだが。

 

そんなことを説明する余裕など吹き飛ぶ事態が出てくるのだった。

 

選手のスタート位置であり跳躍などの着陸位置であるはずのポールは実は等高・等広ではない。全てに差異がある。

これは魔法による落着をなるべくソフトランディングにするための処置である。

 

魔法による落着の作用が開始される位置が低すぎると高いポールでは当たり前のごとくハードランディングになってしまう。

 

パラシュートを開く高度が低すぎては意味がないのと同じく、停止を安全にするために緩やかに、徐々に減速を掛けていくのは自動車などでも当たり前のことだ。

 

しかしそれとは逆に、スタート時点でのポールは当然のごとく高いところがいい。

 

選手たちのポールは自由に選べるが予選での成績順……得点数で順番に呼ばれてポジショニングの優先が決まる。

 

予選1位は渡辺摩利。ゆえに当然、彼女は一番高いポールに陣取る。

 

「よかった〜渡辺先輩〜。離島の美人教師ヨマコ先生でも男運最悪の天元突破ガンナーな衣装でもないんですね〜」

「あーちゃん……」

 

ホッとした様子の中条に呆れたような顔をする七草。なんのことやらと思いながらも3位の深雪が少しだけ高いポールに陣取る。

 

そして予選得点最下位であった三高の一色愛梨は……当たり前のごとく一番低いポールである。ただし落着位置の広さは一番である。

 

注目選手を見ながら決勝戦はスタートした。

 

始まりの合図と同時に六人の選手が飛び上がった。いや、違う―――。

 

(一色さんだけは跳躍か)

 

まさか三高だけは、意地でも因縁深い一高から提供された飛行魔法を使わないなんて考えがあったわけではあるまい。

 

しかし、その跳躍は速い。通常の3倍の速度とでも言わんばかりだ。

 

(自己加速魔法(ブーストアップ)は確かに一色家の十八番だが)

 

ともあれ他の選手が飛行魔法で深雪に追いすがろうとする中、一色愛梨は超加速で深雪に先んじて現れた光球7つのうちの1つを叩いた。

 

先制点は一色愛梨。歓声が上がる。

 

(だが、飛ばなければあとは戻るだけだ)

 

そんな歓声にも心惑わされずに、冷たい考えを心中に乗せるのは達也であった。

 

いくらかは浮遊状態での得点も出来ようが、一色愛梨が使った魔法と位置取りからしても、魔法をキャンセルした上で一度は戻らなければならない。

 

だが、しかし……ここで驚くべきことが行われた。

 

位置的には届かないはず。高さはともかくとして……真横にでも動かなければ取れないはずの光球に対して―――。

 

一色愛梨のスティックが叩くのをしかと見た。

 

「あ、あの状態からスライドした!?」

「ど、どういうことなのかしら!?」

「………」

 

達也ですら理解不能の現象。本来ならば下降に転じてからでしか、取れないはずのそれは……。

 

(魔法の理屈で言えば上昇したあと、魔法を切った上で下降……断続的に行使する加速魔法で自由落下と上昇を繰り返すことにより、空中にとどまりながらポイントは出来る)

 

そんな達也の推論は少しだけ(未来)の一高の後輩が同じく飛行魔法に制限がかかった試合で行ってくるのだが、それはさておき、あの真横へのスライドだけはどう考えても理屈に合わないと頭を悩ませた。

 

虚空(そら)にしかと踏みしめれる足場(だいち)でもなければ不可能な芸当だ。

 

7つの光球のうち深雪が4つ、一色が2つ、渡辺が1つ。

 

最初の光球得点はそんな内訳。

 

本来ならば、ここでポールに戻ったうえで次の出現を待つことが肝要だが。

 

浦島が嫌悪もあらわに言った通りに神の手ゴールよろしく、いつどこに現れんと手を出して得点せんと飛行している選手たち。

 

どの高さ・位置に出現するかも分からん以上、下手に上昇も下降もできない。

 

そんな中でもやはり光球は出現する。

 

光球の出現は通常よりも早かった。本来的なピリオドにおける出現の間隔ではない。

 

これもまた飛行魔法ゆえの変化であろう。

 

来年度は『飛行時間』に制限がかかるかもしれないと思いつつ、今年度だけのチートゲームで深雪が優勝出来ますようにと祈るしか無い。

 

(一色さんは『浮遊』でとどまっている)

 

位置的には良くも悪くもない。出た光球は8つ。

 

普通ならば選手数よりも少なくするのが当然なのだが、恐らく深雪のワンサイドゲームではなくすために、交錯してあわや事故という可能性を無くすために……色々可能性は考えられるがともあれ。

 

そして再びの超跳躍ならぬ……超飛躍(ウルトラ・ジャンプ)で光球を叩こうとする。

 

ここで深雪はあえて自分が取れる光球よりも一色の邪魔……インタラプト、インターセプトを試みた。

 

飛行魔法の優位は揺るがないとはいえ、このまま一色にやらせていては、飛行魔法よりもそんな『小技』の方がいいなどと思われかねない。

それは非常に心外だと思った深雪の心である。

 

あえて自分の得点有利圏内から出て一色の狙いを邪魔するように動いた深雪。

 

しかし―――。

 

そこで急激な方向転換。深雪が放棄した得点圏内だろう光球3つを狙うように動く彼女は、まるで猛禽類のようだった。

 

夜目が利くような鳥といえばオウル()だが、深雪を振る形で一色愛梨は虚空を足場に急加速を果たして、光球を叩いていく。

 

クラウド・ボールで見せた超加速の限りを虚空にいても自在に(こな)す一色のそれはフェアリー・ダンスという別名の印象を少しだけ変えるものだ。

 

流麗というよりも荒々しさを前面に出した、剣を振るうような動きは―――。

 

(京都神鳴流のようにも見える……)

 

そして、一色愛梨の超加速のトリックというほどではないが、その理由も見えた。

 

(足裏に発生している小さな魔法陣が、彼女に確かな足場を与えている……それが彼女のエクレールの動きを虚空で再現させている……)

 

達也が既知ではない魔法。

 

当然BS魔法や古式魔法でも達也の知識外のものはあるのだが……いま、達也の脳裏にめぐるは―――。

 

マギステル……魔法師という超常現象を『現実』の物理法則に落とし込まれた存在からすれば、フザけた能力としか言えないものを発揮するイレギュラー。

 

誰かが思い描いた、望んだ人間の進化の可能性。

多岐に渡る人類の未来を物理法則の軛を振り払って実現。

 

マギステルとは、人類の誰もが思い描いた いくつもの『異次元(夢のセカイ)を生きる者たち』

 

……などと考えている達也だが、彼らにも彼らなりの『理屈』があるのだろうと思いつつも、その詳細を知らぬだけに、その能力の凄まじさと総量の見えなさに、某・海賊漫画の能力者のような印象を持ってしまうのだ。

 

そして第一ピリオドの15分間の得点数は乱れた形だ。

 

1位は深雪なのだが2位の一色とは3ポイントしか離れていない。その下の渡辺摩利とは8ポイント差……。

 

このままいけば混戦。だが深雪は飛行魔法を順調に使えている。

 

少しだけ一色愛梨に引っ掻き回された形だが、1ピリオドを終えて戻ってきた深雪の様子は問題なさそうだ。

 

達也がざっ、と『眼』で見た限り問題はない。

 

第二ピリオドの15分間までの五分間のインターバルで伝えるべきことはない。

 

余計なことを言えばどうなるか分からないのもあったのだが。そして15分間のセカンドステージが始まる。

 

 

「ミラージ・バットは(一)空中に投映された光球を見付け(二)光球に接近し(三)光球を手に持つスティックで打つという、三つの要素から成り立っている」

 

単純化された図式を言いながら、ポップコーンのキャラメル味を食べる。

 

「飛行魔法の優位性は(二)が足場から跳躍するより早くできるからだ。まぁあとは(一)も光球の発見も適切な高度ならば足場よりもいいかもしれんが」

 

見上げてごらん夜の星を。(by坂本 九)などとするよりも、同じ高さから周囲を見渡した方が早いこともある。

 

全球を叩くというよりも己の有効範囲内だけに限定するならば、空中での位置取りも重要になるだろう。

 

「とはいえ、今回限りだろ。飛行魔法に制限を掛けないなんてのは」

 

来年度からは何か制限が着く。でなければ、実につまらん試合になる。

ペナルティエリアでディフェンダーによるオフサイドも取られないサッカーなど、ロングパスを前線に打ち出すだけのクソつまんないものになり下がるだけなのだから。

 

それと同等の理屈である。

 

「まぁ来年度まで俺がいるとは限らない―――だから蹴るなよ!!」

「なんでそう悲観的な考え(ペシミスト)ナノよ!」

「ヨルダの問題さえ解決すれば、俺が魔法科高校にいる理由はなくなるからさ……」

 

同時にそれは、魔法科高校というよりも現代魔法師に『死』が突きつけられる瞬間(とき)でもある。

 

「まぁとにかく『カトラ』が仕上げた虚空場魔陣と飛行魔法の競い合い。夜に駆ける戦いを見よう」

それホントウ(Really?)〜〜? 何だかアノ娘、ケイタのいるこの場所を見ているように見えるワ。ワタシの知らないところでとんでもないYOASOBIとかしたんじゃないノ?」

「邪推の限りだよ」

 

アヤシイ!と半顔でこちらの顔を覗き込んできたアンジェリーナに平素な顔で返すと同時に、第二ピリオドは始まる……。

 

 

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