親戚が出ている魔法師たちの九校戦を見ながら双子は思った……。
黒羽双子((なんだか、このミラージバット決勝戦では、
ミラージ・バットの第2ピリオドは恐ろしく混戦模様であった。
この展開が予想外だったのは第一高校……というよりも飛行魔法の開発者である達也であった。
当初の予想は、真由美が言ったとおりに飛行魔法使用による消費の激しさからそろそろリタイアが続出すると思ったのだが。
(全員生き残っているとは……)
何か……達也の知り得ぬ改造を施している可能性もあるが、何かがおかしいという直感が働いていた。
しかし戦いはまだ深雪優位で進んでいる。
(だが……)
基本的に深雪は自分のとんでもない実力で戦って勝ってきた相手だ。先行逃げ切りとでもいえばいいのか。
相手から追い縋られるという経験に欠けている。それだけならば、まだしも圧倒的なチカラで『敗北』しそうになった瞬間―――
(彼女の心が壊れてしまうだろうな)
あの『エターナル・ネギフィーバー』という恐らく『立派な魔法使い』ネギ・スプリングフィールドの『必殺技』を食らった時の深雪は見ていられなかったのだ。
そういう状況に陥った時が恐ろしい。そうなった時に……達也は自分を抑えられるだろうか分からないのだ。
深雪のワンサイドゲームとなるはずだったミラージ本戦は1位に深雪、2位に一色、3位に渡辺という……その後はダンゴ状態ではあるが、それでも上位陣だけに得点が許されているわけではないのが、状況の流動性を作り出している。
「まさか一色さんが、ここまで食い下がるなんて……」
この状況に危機感というほどではないが、摩利と深雪が協力をする形で一色愛梨を抑え込んでいけばワンツーフィニッシュを決められたかもしれない。
だが、それはあまりにも『申し合わせ』が過ぎることだ。同校選手2人で他校選手1人を封じ込めるなど、あまり外聞のよい戦いではない。
とはいえ―――。
遂に深雪と一色のポイント差が『1』に詰まる事態が起きた。
返す刀で深雪は2ポイントを取るが、それを見越したかのように一色は、体全体を使ったロール機動で持って深雪の頭上を飛び越すようにして光球を叩いたのであった。
再び1ポイント差になった。
決して一色愛梨にリードを許す事態はないが、戦いがシーソーゲームになりつつある。
そして―――。
第二ピリオドの最後の光球出現。その配置は―――。
(深雪!!!)
(摩利!!!)
運が悪かったわけではない。しかし、それは一色愛梨にとって有利な配置。
ここでもしも大量得点されたならば分からない。そして―――次の瞬間。
一色愛梨は、この試合で『初めて』飛行魔法を使った。
そして6つ現れた光球のうち―――4つをゲットしてこの試合初めて深雪からリードを奪うのであった。
三高観客席が湧き上がる。
達也は顔を顰める。真由美は驚愕し、中条は慌てふためく。
そしてピリオドを終えて帰ってきた深雪は―――。
「深雪!大丈夫だ!!落ち込むな。最後のはアンラッキーだけだったんだ」
「は、はい!お兄様!!」
少しだけ強い言葉で気付けをしなければならないほどにインターバルのために帰ってきた深雪は意気消沈をしていたのだった。
(浦島ァ……!!)
このゲームのもつれがヤツのせいだとは確定していないが、それでも完全無欠であった深雪に瑕疵をつけた男の存在に恨み言を零すのは、達也の中では自然な流れであった。
その一方、三高側のベンチ席では……。
「よく耐え忍んだね……」
いたわるような言葉と声を掛けてくる栞に感謝する。
「ええ、ここから先はアグレッシブに行くか、それとも通常通りで行くか……」
「ここから見ていたけど、司波さんの顔はあんまりにも青褪めていた。いや、私の見当だけどね」
ベンチを見るというのもサポーターの役割だ。別に野球におけるサイン盗みをするわけではないのだが、相手陣営を見るというのも戦略である。
「分かりました。ならば前者でいきましょう」
恐らく、彼女はこのようなリードされた展開の
圧倒的な魔法力で相手を叩いて、他の追随を許さなかった人間だからこそ、リードを許し、追い付かれた時の動揺は尋常ではない。
優秀であるからこその弱点。
それを突くことにした。
(浦島君……あなたの教えてくれた
そうして見た先にいた浦島啓太の周囲に女子が多いのは、少しだけ苛つくも第3ピリオドは始まろうとしていた。
・
・
・
・
「で、ウララシマさん。何をアノ人に教えたんですか?」
「いや、僕の名前は浦島だ。なんだその色々と属性過多な男主人公のような名前は!! グレ先生(?)の新作連載記念か!?」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ」
「噛みまみた♪」
「わざとじゃない!?」
八九寺真宵ならぬ高山陽菜という何一つ名前が掠っていないJCが、こちらにやってきたことで、色々と対応を迫られるわけだが。
「俺が何かやったわけじゃないよ。多分、カトラ辺りが教えたんだろ」
「そうなん?」
「嘘くさい限りです」
妹分は疑問を覚えるが、実妹は完全に疑っている辺り、如何ともしがたいものがある。
「まぁとにかく戦いは続いているんだ。見ることに注力しろ」
「しかし、随分と皆さん粘りますね。意外とリタイアが続出すると思ったのですが」
「それはあれやさ。一色さんが発生させている靴裏の虚空場が周囲のチカラを循環させてるんよ。サイオンとの違いはあれど自然と魔法師のパワーに変換されてるんね」
あっさりと飛騨高山の巫女みこJCは、啓太の仕掛けたトリックを見抜いたわけだが……。
「ケ〜〜タ〜〜〜」
「なんだよ」
「ナンデモナイワ」
なんでもないわけもなく、自分を無視するなというメッセージなわけだが、そっぽを向いたアンジェリーナの目線は試合へと向かっていく。
第3ピリオドにて落ち着いた様子の一色愛梨。反対に司波深雪は少々、落ち着かない様子にも見える。
心の平静を保てないのが、見え見えだ。
(ポーカー・フェイスが出来ない感情的な女だ)
そのことに何も感想を出さずにとりあえず試合の推移を見守る。
一時は司波深雪の飛行魔法の凄さに圧倒されて、それだけに注目していたオーディエンスだが、一色愛梨が虚空場を以て跳躍―――超飛躍をし続けたことでこの競技のルールにおける『正統』であり『正当』な『正答』を認識しつつある。
そして、一色愛梨の『飛行魔法・改』が披露される。
・
・
・
(まただ!)
恐るべきことに、此処に来て一色愛梨のとんでもない高速移動が、自分たちの体勢を崩す。
決して
まるで『風の通り道』『早い潮流』に彼女だけが乗って加速しているようなものだ。
一色愛梨の風道に煽られて他校の選手はどうしても体勢を崩す。ここに来て勝負を決めに来たマジックナイトの攻勢に摩利は少しだけ苦しむ。
その技法を見た達也は、自分が再従妹である少女に教えた『瞬間移動』と原理は同じであり、その応用だと気付く。
これまた
エクレールという異名とは真逆の
当然、深雪も負けてはいない。一色の速さとその接触範囲を見極めて一色とは別の光球を刈り取っていくことでなんとか戦う。
たとえ接敵しそうになったとしても飛行魔法の
だが、その結果がもたらすものは……あまり良くはない。
戦いの行方はこの2人次第となる。一進一退のデッドヒート。その末にどちらが勝者となるかは分からない。
フェアリーたちの戦いは永遠に続くかに思われた。魔法を使ったドッグファイトの結末を決めるべく―――時間帯的に最後の光球出現であろうものが空中に浮かんだ。
その数は―――。
「35個!?」
真由美の驚愕の声が達也の耳に響く。
あまりにあまりな数。本来ならばゲームの参加人数よりも少ない光球が出るはずだが……ここまでの戦いを演じてきたフェアリーたちに対する最後の花蜜のように与えられる数。
そして最後の飛翔が始まる。
焦れるような飛翔舞踏。
「負けません!!!」
最後の意地を振り絞る深雪。当然、一色愛梨とて必死だ。
その他の選手もせめて3位に入ろうと必死。その様子に一高・三高だけでなく九校全てが声を震わせる。
しかし―――。
(勝った!!!)
光球の出現位置ゆえのラッキーかもしれない。
35個のうちのおよそ15個ずつを深雪と一色がとりあい残りの5個のうちの2つを摩利と4高の選手が取った。
残り3つ―――その全てが深雪が飛行魔法で進めば楽々と優先的に取れる圏内にある。
それの2つさえ取れば―――イーブン状態からの決着は着く。
更に言えば悪あがきのように2高の選手が1個を狙おうとしている。
一色愛梨がどうあがいても、司波深雪が勝つ!
そうベンチに居る達也だけでなく深雪すら覚えるほどの―――余裕が生まれた瞬間。
愛梨はこの試合に望む前のことを思い出しながら動いていた。
『瞬動術はそれなりの鍛錬しなきゃものには出来ないが、まぁある程度の資質があれば、直線的に動くだけならば、それなりには出来るか』
『雪姫の一番弟子なんて一夜漬けでそれ覚えたぐらいだからな』
『虚空瞬動はとりあえずあきらめろ。とはいえコツだけは教えといてやる』
―――大地を蹴り
一色愛梨が直線的に、消えるように動いた。その速度は凄まじい。
完全に人間の動体視力では見えない速度を認識。距離が詰まる。
位置だけならば同じ高さに一色愛梨はいたのだ。
―――大地を掴め!!
迂闊さを深雪と達也が認識した時には既に遅し!
夜空を踏みしめるべき場所として『直線高速移動』で横っ飛びした一色愛梨によって、深雪が狙っていた2つの光球は叩かれ。
掻っ攫うかのようなその薙ぎ払いを前に、ポイントが変動をして返す刀で最後の一球を狙おうとした一色愛梨に先んじて2高がゲット。
ブザーが鳴り響く。
勝者と敗者の境が定まる。
1位 三高 一色愛梨
2位 一高 司波深雪
3位 一高 渡辺摩利
3位 二高 天ヶ崎猿那
そうして試合は終わりを告げるのだった……