一応の義務として1高のテントに戻ってきた啓太とアンジェリーナだが、総合優勝が決まったというのに、少しばかり暗い様子だ。
喜んでいることは喜んでいるのだが、空元気があるというか。
(まぁまだ試合は残っているのだし、ここで節操なく喜ぶのも間が悪いか)
準優勝争いの2高と3高や他校に遠慮したとも取れるが、その辺りは興味がない啓太は、『えにっき』を開きつつ『すみっコぐらし』をしておくのであった。そうしていると、渡辺委員長が啓太の近くにやってきた。
「浦島、私の戦いは見てくれたか?」
「ええ、入賞おめでとうございます」
後輩として一応は、それぐらいのことをいう礼儀はあったので言ったが、どうやらそういうことではないようだ。
「うむ……にしても一色後輩にはやられたよ。司波深雪ともどもな」
「そうですね。素人目線ですが飛行魔法で王手を掛けていたはずなのに逆王手ばかり取られていた様子でしたか」
その言葉に流石に女子勢から色んな慰めを受けていた少し前までは泣いていたらしき司波深雪も少々、耳をそばだてるものがあったようだ。
「だが、お前の心理戦術の盤外戦術で予選では湿っていたじゃないか。それなのに、決勝ではあんな感じで……」
「割り切ったんじゃないですか?『田中太郎なんて凡俗もはやどうでもいいです!ワタシはワタシの道を生きていきますわ!オーホッホッホ!!』とかいう感じで」
途中の女言葉に関しては、エックスが空気を読んで知り合いの財閥令嬢の
一瞬、『両声類』と勘違いされたがそこまでの声帯模写は啓太には無理である。
「そういう言葉遣い、彼女のキャラじゃないと思うが?」
「どうでもいいことですね」
解釈違いだろうとなんだろうと、どうでもいいのだ。
最終的に勝者と敗者は別れたのだから。
「―――この際だからハッキリ言わせてもらう。お前が一色さんに協力して、あれだけのことをやらせたんじゃないか?」
「魔法大好きの理論首席様ならば分かっていると思うが、一色さんがやったことは一部を除けば君の専門分野だ。それだけで、お前は俺に嫌疑を向けるのか? 育ちが悪い野良犬・喧嘩犬みたいに噛みついてくれるじゃん」
言外に『チンピラめ!』と言われたことでむかっ腹が立つ達也だが、冷静に考えて……ある程度のことは確かに、現代魔法の領域であり魔法式の構築も正しかった。
だが……。
(起動式を『小さく』『効率よく』ではなく『大きく』『深く』発生させるなどどう考えても吉祥寺など3高のデバイスアドバイザーに出来るものではない……)
などと技術屋にしか理解できない見識と見当を言ったところで、それの証明は難しい。いや省力化しているのが正しい道だと思っていたところに、違う『正答』を出されたようなものだ。
「ならばあの小さな足場を発生させる魔法はマギステルでは当然なのかい?」
「どちらかといえばマギステルというよりも京都神鳴流ではフォーマルな術式。虚空場というある種の足場を与える
司波達也の稚拙な話し合いにシビレを切らしたのか五十里という先輩が聞いてきた。
「まぁ口頭で説明するよりも、こっちの方が早いでしょ。面倒だから見せますよ。マギステルの戦闘においてあの魔法がどういう用途なのかを」
言いながら取り出したのは『クウネル・サンダース』のパクティオーカード。そこから記憶と記録を引き出しつつ……アスナさんのカードがリンクを果たして一つの記憶を再生するのだった。
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『そんなガキまでかつぎ出すこたねぇ。あとは俺らに任せときな』
『赤髪の魔法使い! お、お前は!? アラルブラ、千の呪文の!!』
問われたからには答えてあげるのが世の情けと言わんばかりに、虚空に浮かび足場としている少年魔法使いは振り返りながら言う。
『そう!俺こそが巷で噂のナギ・スプリングフィールド!! またの名をサウザンドマスター!!!』
周囲にいる男2人―――少年よりも年齢が上の青年というべき2人は。
『自分で言ったよコイツ……』
『フフフ、ノリノリですね』
呆れと感心の両方の感想を述べるのだった。
魔力の砲弾や銃火が飛び交う『何処かしれぬ戦場』にて、その三者の超絶の使い手は巨大な『鬼』とでもいうべきものを次から次へと撃破していくのだった。
「と、まぁこのようにマギステルというよりも神鳴流剣士にとっては足場の確保としてこのような浮遊陣を使うことは普通です。まぁカトラが教えたんじゃないの?」
「フフフ、やはりナギはいいな。男ならばやはり英雄らしく戦ってこそだ」
「最後はヤンキー漫画みたいにおエライサンにメンチ切っていたけど?」
魔法学校中退だと言ってのける男でもいつの間にかやってきた雪姫にとっては超イケメン(死語)らしいのだ。
「コノ頃に、サウザンドマスターに出会えていたら違ったのでは?」
「その場合、私は歴史の大罪人になってしまうな」
アンジェリーナの言葉に悩ましい顔をしてからため息を突く雪姫。
「まぁこんなところでいいですか? マギステルなど先のソーサラス・アデプトにとっては、浮遊術、飛翔術、舞空魔法は別に珍しい技能ではないので」
「「「「「――――――」」」」」
投影された映像を見た一部を除いた人間たちが絶句している。基本的には育ちのいいお坊ちゃんお嬢ちゃんばかりの第一高校出身者たちである。
こんなヤンキー漫画の主人公、1980-90年代のマガジンでブイブイ言わせていたハードラックとダンスっちまうような男がマギステルの英雄などカルチャーショックが過ぎるのだろう。
食いっぱぐれないようで食いっぱぐれたヒトがオープニングを書いたアニメで例えるならばヤック・デカルチャーというところか(古っ!)。
「いや、申し訳なかった……まさかここまでのことがマギステルにとっては普通のことだったとはな」
そう渡辺委員長が言って、全ては落ち着こうとしていたところに雪姫は爆弾を投げつける。
「渡辺はそう言って納得しているが、お前は本当に三高生に接触していないのか?」
「多少は絡まれたよ。平々凡々な田中太郎なんでな。おまけに九郎丸と剣戟している最中に、結界の中に入り込んできたし」
んなことをやっていたのかと誰もが何とも言えない表情をしているのだが、啓太としてはこの辺りで収めておきたいところだ。
別に不実を行った訳では無いが、何とも微妙な話でもあるのだ。
利敵行為かと言われれば、完全にイエスなのだが。
ただ、その利敵行為の範疇次第では魔法師の魔法など『無価値』であると太鼓判を押すことになりそうなので恐ろしくあった。
結局のところ、それ以上の追求はなくお開きとなるのだった。
テントから即座にいなくなるのは浦島啓太であったりすることに、少しだけ悲しい思いを雪姫は持つ。
(お前はどこまでも一人でいるんだな……)
雪姫は期待していた。
かつての自分の弟子のように多くのヒトと和して、多くのヒトを守りたいと思える気持ちを持てることを。
だが現実には、啓太が目指したのは一人で全てを解決する道だ。
確かに啓太のスキルに追いつける人間など、そうはいない。特に一高ではアンジェリーナぐらいだろう。
それ以前に、あの少年には。
(『アイ』がない)
ヒトを
捨鉢な考えで自分を
何より……
だからこそ、かつての約束である『トーダイ』に行くことだけをヨスガにして進んでいるだけだ。いや、進んでいるように見せているだけだ。
(……アナタもそうだったのか、ヨルダ?)
かつての『至るまえ』のヨルダが司波達也に似ているならば。
いまの『至ってしまった』ヨルダは浦島啓太に似ているのだ。
(ただの『女』であれば、何も問題はなかったというのに)
結局、大きなものを見てしまったからこそ、そうなる。
―――ヒトの身でありながら、神の如き視点を得てしまったからこそバランスを崩すのだ。