上役の退場を全て見届けてから、行動に移る。とりあえず啓太としては――――――
「―――幹比古、『オウギ』」
―――装備の回収をするのであった。
「も、もうちょっとだけ持たせてもらえないかな?」
「ダメだとは言いづらいが、まぁとにかく今は帰るようだから」
その言葉に、ため息交じりに扇を渡す幹比古に対して、反応するものが一人。
「ちょっとミキ! アンタ浦島くんと知り合いだったの!?」
「エリカ―――まぁ経緯は話しづらいんだけど、ちょっとあってね……」
赤毛の女子、千葉が知り合いらしく幹比古に詰め寄った。その一瞬を利用して『アベアット』と唱えることでカードを懐に収めた。
積極的に見せびらかしたいものでもないので、そうしたのだが……。
「そのカード、何かの魔法道具なんですか?」
そんな風な疑問を呈されてしまったので、誤魔化すために先ほどのことを利用する。
「背後に立たないでくれ。また俺のカメが握りつぶされるかもしれないという恐怖は味わいたくない」
「そ、そういうつもりじゃなかったんですけど! け、けど立派なんですよね!」
胸部が、たいそうご立派な少女が、自分の秘密を見ていたので、そういう言葉で誤魔化すことにした。先程のセクハラを想起させることで、眼鏡の向こうの顔を赤くさせるのだった。
最後の言葉は……気が動転しているのだろうと解釈する。
そうしてから、先程から押し黙ったまま睨む男に声をかける。森崎某だ。
「――――――」
「ヒトを睨んだ所でお前に呪殺が出来るわけじゃねぇだろ。言いたいことがあるなら言えよ」
「……何であれだけのことが出来て―――お前みたいな2科生がいるわけが……ワケが分からない……!!」
支離滅裂な言動をする森崎某だが、メンドクサクも少し脅しつけることにする。
「ラベルがレベルだと思っているような人間には受け容れづらい現実だろうが、受け止めろ。世の中には、『そういった風な人間』がいるんだよ」
魔法師は世界の闇を知らない。
世界の汚さを知らない。
世界の
怪物を倒すために怪物になった者達は多い。。
それだけなのだ。それだけが魔法の世界の道理なのである。
「ッ……!」
そういう『何か』を悟ったのか、少しだけ後ずさりつつも、こちらを睨む森崎に最後の忠告をしておくのであった。
「まぁとにかくあんまりイキるなよ。俺のような敬老精神溢れる青少年だっているんだからさ。他人が心に敷いている地雷を踏み抜いて、お陀仏にはなりたくあるまい」
「―――……浦島啓太……僕はお前を認めない。お前みたいに、チカラがありながら責任も義務も持たないやつに、司波さんもシールズさんも、側にいさせるわけにはいかないんだ!」
その言葉を捨て台詞にして学校から去っていく森崎、それに追随していく連中は多く、殆どが不実を晒されて困惑したものたちだ。
そいつらが去ってから呟く。
「別に俺は総合主席サマのことはどーでもいいんだけど」
「随分と冷たいことを仰るんですね」
「事実だし」
不満げな表情と声を言う本人こそ、冷たい印象をもたせる女である。
「ケイタ、
「そうするか」
久々に使った拳の奥義、見えぬ拳を叩きつけるそれは―――。
「ちょっと待ってくれ浦島」
―――やはり耳目を集めてしまうのだった。
「待たない」
理論主席サマに素気なく返すも、どうやらこいつは粘着質なようである。
「聞きたいことがあるから一緒に帰りたいんだが」
「俺は聞かせたくないから、ぶっ!!!」
「ケイタッ!? アララ……まだマスターの糸が括られていたのネ」
つれない態度をする啓太が、いきなりつんのめった理由。
それは余人には見きれない『細い魔力糸』によるある種の制裁であった。
糸から伝わる意図(掛詞)。それ即ち―――。
「いいだろう。俺は別段、君みたいな自慢しいじゃないから嫌だけど、仲裁をしてくれた雪姫に免じて教えてやるよ」
「別に俺だって、そこまで自慢屋根性を出していたわけじゃないと思うが……」
にじみ出る何かがあったに違いないと、そばにいる深雪は、そう思った。ともあれ―――。
そうして帰ろうとした矢先に―――。
「あのっ!!」
A組の少女2人―――光井ほのかと北山雫がアンジェリーナと司波深雪に謝罪をしつつ、帰路を同行したいと申し出るのだった。
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居合斬りという剣の極意がある。それは鞘に納刀した状態でも、一息一足で相手を叩き切る技法とも、はたまた鞘を一種の『線路』として、抜刀の『加速』を行う最速斬撃とも言われる。
どちらも眉唾ではあるし、剣の達人・玄人が匕首に手を伸ばした時点で、意―――気を呑むとでもいえばいいのか、そういったこと『停滞』した感覚だから早く感じるとも言える。
何はともあれ―――居合い斬りというのは、最速の斬撃ということであろう。
「その原理を活かして、ポケットを鞘代わりに、パンチを繰り出しているのさ」
射程距離およそ10m程度のパンチという言葉に、一部を除いてどう反応したら良いのか分からない。
「……実に驚きだな。それが居合拳、無音拳の正体か」
理解が及び、分かったものは、果たしてそれが「MAX」のスペックなのかどうかを恐ろしく考えるのだ。
「打ち出しているのは『サイオン』でもなければ魔力でもない。『拳圧』だ。物理障壁を何重にでも張ってれば、なんぼかは耐えられたんだがな」
「森崎も、まさか肉体強化しただけの拳の圧で倒れ伏すとは思っていなかったんだろうな……」
簡単に言っているが、さも当然のことかのように浦島啓太は言うが―――こんなものを初見で察知しろというのが、無理筋である。
達也が考えるに、これと相対するならば一も二もなく、浦島本人を『消去』するしかない。拳圧なんてあやふやなものを消し飛ばすなど無理だ。
魔力の風であれば『解体』も出来る。
物理的な爆風であれば、熱波などを『消去』することも出来る。
だが、見えぬ拳からの圧なんてものは無理すぎる。しかも、あの自己加速魔法や達也の体術以上の速度で動く『しゅっくち!』とか言うふざけた歩法と併用されたらば……。
「何をむつかしい顔してんだ?」
こちらの深い思考の末の苦い顔を見られてしまうのだった。
「いや、お前の無音拳を真似できないかと思ってな」
「似たようなことならば君も出来そうだけどな。相手から離れた位置で、『猛打の舞』『豪打の舞』とでも呼ぶべきものを披露して、その物理的衝撃を与えることが」
ウソを着いた瞬間、返された言葉に反応する。
腕組みしながら眼を閉じて―――頬をぴくぴくさせながら―――否定することは自分のレゾン・デートルを脅かすことになりそうなので、必死に取り繕いながら……。
「それは―――開発会社の技術力の限界だ……」
開発会社の技術力ってなにさ。そんな視線が全方向から達也に注がれるのだった。
「で、疑問は解消されたか?」
「ああ……だが、何というか―――お前、本当にウソつきだな。どの口で、ヒトに誇れる能がないとか言っていたんだ。とんでもないウソだ」
「はいはい。申し訳ないね。ただ入試結果は特筆すべきものじゃなかったんだし、あの時点じゃ俺の能力が魔法科高校で通用するとも思えてなかったんだよ」
この飄々とした態度が、どうにも達也は苦手だ。柳のように、こちらの追求を受け流して、自分のことなど『どうでもいいと思っている』。
そういう自分を大事にしない態度が嫌だ。何故ならば、達也は深雪を絶対に守るという『命題』に対して、忠実に命を賭けることも当たり前に出来るが……。
浦島の態度を見ていると、『お前は自分が可愛いだけだ』『俗物だ』と突きつけられている気分なのだ。本当の意味で、自己のことなどどうでもいいと思って投げ捨てられる男を見て―――達也は……。
「お兄様、今夜にでも私のCADを調整してください」
愛妹の割り込んだ言葉で、陰々滅々とした思考は消え去り―――。
その後に、多くの自分を持ち上げる声でーーー卑しくも持ち直すのであった。
駅に到着し、それぞれのコミューターで家に帰ると、それぞれの帰宅風景になるのだった。
「ケイタ、今夜の晩ごはんは何にしよっか?」
「何かリクエストあるなら言ってくれ、出来るだけ善処するから」
「ンー、じゃあ串カツなど
言われて、シシトウなど辛いもの除いて、食材はあったかなと思いながら冷蔵庫を開けて食材仕入れに向かうことが決定しつつ―――。
その背中に抱きつくものがいる。
「アリガトウ……」
「大げさだよ。俺にとってもケンじいちゃんは尊敬すべきヒトで……もう一度ぐらいは、日本の大地を踏ませたいからな」
はやくしないと……お迎えが来そうで恐いのだ。本人は、アンジェリーナが結婚して曾孫を見せるまで生きてみせると言っているのだが……。
「ソレでも―――ワタシは嬉しかったのよ……」
「―――A組で何かあれば言えよ」
「ウン……アリガトウ」
そんな短いやり取りの後にスーパーに向かうことになる。明日の昼食は『弁当』だなということを考慮しての買い物風景は―――学生カップルというよりも新婚夫婦に見えたことはご愛嬌である。
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予想外・予定外・想定外―――色々と表現出来る言葉はあるが、ともあれ―――。
「昼は生徒会室に来てほしいそうだ」
「来てほしいというのならば、行かなくてもいいわけだな」
お気に入りの『まっくん』のメドレーを妨害してきた司波達也にそう返しながら、要件を考える。
「……どうやらシールズさんも同じような返答を深雪にしたようだな」
以心伝心か? という目に『知らない』とだけ言っておく。だが要件は分かったような分からないような。
そんな気がしていると……。
「お上からの正式なお達しなんだ。たまには素直に従っておけ―――お前にしか出来ないことを任されるかもしれないんだぞ?」
雪姫先生が、机に突っ伏していた浦島に何かを渡す。どうやら件の生徒会長からの通達らしい。
「わかったよ」
教師を介しての説得工作に、そんなことを言っていた達也は、俺の説得は意味なかったじゃないかと想うのであった。
時刻はそろそろ正午ごろ―――昨日は色々あった昼食時間は、生徒会室にてとなるのであった。