「それじゃ浦島くんも、風紀委員にスカウトされたんですか?」
「監視の間違いな気もするけどね。まぁ何にせよ目を付けられたわけだ」
台車を動かすという魔法実技の練習。基本的にこういう風な『四角四角』の術式というのは間尺に合わない気がするのだが、現代魔法においてはこれが金科玉条の如く信奉されているのだから、一応はその方式に従う。
しかし、気分は一昔前の『自動車教習所の教官』に、アレコレと細かなことを注意されている気分だ。
無論、そうしなければいけないことがあるのも分かるが、その手順が違うことまで、アレコレと綾を付けられている気分になりながらも、とりあえずやって退けた。
(よくこんな窮屈な方法論編み出せるもんだよ)
それを達者に出来る
ちょっと悔しいと想いながらも、とりあえず終えて談笑していた柴田美月に譲る。
「―――随分と速いんだな」
そのタイミングを見計らって、一人の男が話しかけてきた。
「いや、記録表出てるじゃん」
E組でのランク表は出ており25人中では、下の方なのだ。
何を言っているんだコイツは、という思いでうざ絡みしてきた司波達也に返す。だが司波達也としても言い分はあったようだ。
「雪姫先生の指導を『無視』してでも、『現代魔法』の四角四角でやり通そうとする辺りが、な」
「まぁ俺は入試の際に『紀藤』とかいうむっつり野郎に、あれこれ言われたからな。面倒だが、そうしているのさ」
「どんなこと言われたんだ?」
これは西城の質問。大して拘ることでもないので、答えることに。
「現代魔法で大切なのは、『過程と結果の全てをしっかり意識すること』なんだそうだ」
紀藤という教師いわく
『感覚だけでは正確な魔法は使えない』
『魔法を発動するプロセス及び準備段階が肝要』
『改変したい事象と改変後の結果を考え、意識することが不可欠』
そういうことを言われて、ウザく思いながらも試験をこなしたのである。
「ほー。まぁその考え方もアリなんじゃね?」
「ある程度のことならば、な。例えばそこの台車やら材質は置いておくとして丸いボール程度、自身の身体ならば、それもアリだろうさ」
だが、それとて本当に『改変後の結果』を『固定』出来るだろうかと思う。それは『変化』を許容しない考えである。
「例えば、あの森崎をベネズエラのスラムにでも『送り込みたい』と考えた時に、その改変したいエネルギー総量はこの際無視するとして、術者にスラムの具体的なイメージ及び座標さえあれば、そこに送り込むことは可能なはずだな」
「まぁ現代魔法の認識力論ならば、その結果をもたらす際に認識の壁があるはずだな……」
その紀藤という教官は、干渉を受けやすい質量と重量がそこまで大きくない『無機物』ならば、という程度での言葉だったのだろう。
そんなことは啓太からすれば、『理解している』。
しかし、それこそがある意味では頭を固くさせているとも言える。
「そう。だからこそ―――魔法師の魔法は『限定された空間に自らの理想の事象を起こすこと』にランクダウンされる。起こしたい事象が、そのままに現実を改変出来るとは限らないから、そこには意識の範疇は無いはずだ。自分の思った通りの結果が出来ないならば、そこには世界の変化があるはずだ」
これは現実においても、そうなのだ。社会活動―――特に『政府』が何かの消費活動のキャンペーンを行ったとしても、それがそのままにプラスに転じるとは限らない。
2000年代初頭から言われ続けていた少子高齢化社会の解消のために、政府があの手この手で、結婚や子作りということを色々奨励しても、そこにはキャンペーンという『干渉』を受けている『当人の考え』が含まれるならば、中々上手く行かないものだ。
そもそも結婚や恋愛が個人の自由である以上、中々にヒトがそれに踏み出せるとは限らないのだから。
「我と『他』、自と『他』……なる程、確かに少々、現代魔法は硬い理屈に捕らわれているか」
それが浦島の術理かと少しだけ探る姿勢をしていた達也は―――それを即座に諦めることにした。
啓太の背後から『鬼』が迫りつつあった。それを認識出来ていないことが、不幸の始まりか。
「まぁそういう固定できないものを固定してしまう道理というのが、現代魔法での『干渉力』なんだろうな。他からの
そんな風な最後の結びのつもりの言葉のあとに、啓太の頭がわし掴まれた。
「ほぅ……それで、そんな偉そうな講釈垂れてる暇がキサマにあるのか?」
「―――」
(-_-;)オワタ としか表現できない顔をして無言でいる啓太は、頭を掴んでいる後ろの美女に振り向かないままに言い訳する。
「いや、あの今回はスタート講習で、特にランクとか気にしなくても、というか、2科全部で雪姫先生の指導は効果ありだと理解できたから―――」
「私の弟子である以上―――私の方法論でもう一回やってからそういうことは言え!! 紀藤のようなこまっしゃくれた飼い犬なんぞの言うことを聞くな!!」
「スンマセン!! マスター!!」
果たして何発の蹴りを放ったか分からぬもので、再度大型CADの元に叩き出された啓太は、雪姫先生の方法論―――『変化を受け入れろ』とでも言うべきもので、現代魔法の定義した合格点を叩き出して―――この実技講習でのTOPを飾り……その単一移動系統の魔法では、1科の中級にも迫るのであった。
そもそも……全体を通してみれば、かなりとんでもない結果が生まれていたりするのだが、雪姫先生の春麗ばりの百裂脚に男女ともに見惚れて、そんなことには誰も気付かなかったのだ。
(さて、ここから先に雪姫先生の指導方法が通用するのかどうか、だな)
達也としては傍観者の気分でいるしかない。出てきた結果は、まず間違いなく確かなものだ。
そんな達也の観測は―――昨日の森崎と同じく浅薄なものであり、その正体を知った時に……少々、自分のアイデンティティを脅かされ、本家の意義すらも疑いたくなるのは、また別の話である。
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そして達也・啓太が深雪・リーナと合流する形で、生徒会室に向かうと、そこには昼間にはいなかった男子役員がいるのであった。
役職 生徒会副会長 名前 服部なんちゃら―――面倒だから義足野郎とでも名付けたい男は、深雪とリーナに挨拶してから、こちらを無視してきた。
別にいいけど、早速も風紀委員会本部へと案内されようとした達也と啓太を咎めた。
服部ダリル(命名 啓太)副会長によると、2科生に風紀委員なんて無理だ。2科生の魔法能力では無理に決まっていると言ってきた。
「第一…… そこの浦島は、アナタと会長に……い、い、イチモツを握らせたとんでもない男なんですよっ! そんなヤツを風紀委員にしようだなんて!! ありえない!!」
「「
いい加減忘れたいことを蒸し返されて、3年女子2人が真っ赤になって怒鳴りつける。
しかし啓太とリーナとしても訂正したいことがある。
握らせたではなく。握られた。
能動ではなく受動なのだと―――。
「では服部副会長は『居合い拳』『無音拳』の使い手を、このまま放置していていい、と?」
騒動の最中のイベントを知っているならば、騒動そのものがどういうことで、どういう顛末だったのかを知っているとは予想していた。
市原鈴音の言葉に、苦しげになりながらも……。
「そ、それでも!! 彼よりも適任が!!」
「この場合、要するに摩利さん及び教師側の思惑としては、彼を取り締まる側に置くことで、ある程度の『抑止力』として活用したい。仮にもしも、彼をこのまま一般生徒としておくと、まず間違いなくいきって、しめてやろうとした1科生を主体に『昏倒した生徒』の山で、安宿先生の負担が増すこと大です」
「2科生の拳圧で、1科生が倒れ伏すと? 」
侮っているというよりも、恐怖している風な声に『やれやれ』と思う。
「私も格闘技に特別詳しいわけではありませんが、人体の『急所』ぐらいは、生家の魔法から存じています。恐らく静かに
「さぁ? ただ俺にこれを教えた『タケミチ・T・ミナモト』は、最終的には無音拳で大規模レーザービーム砲みたいなのを放っていましたよ」
鈴音の質問に返した言葉に、法螺吹きが。という顔をするものも多いが、目敏くリーナの表情を見ていた司波達也だけは、『まさか』という顔をするのだった。
ともあれ……。
「とにかく! 私は反対です!!!」
「う〜〜ん。頑固ねぇ……啓太くんはどう思う?」
「俺の実力は、知られているようなのでとりあえず置いておくとして―――司波君の実力検分をダリル副会長がやればいいのでは?」
誰がパーフェクトガンダムのパイロットだ。と言わんばかり睨みつけてきたが、構わずに言うことに。
「ウチはちょっとばかり長く商売人の家をやっている身でしてね。ものの良し悪しを分かってもらうため、分かるためには、『試食』というのが必要なんですよ。
司波達也の値打ちが分からないというならば、アナタ自身で測ればいいのでは?
相手が海の物とも山の物ともつかぬというならば、その御大層な魔法で測ればいいんですよ―――無論、俺の結果は昨日の通りだったわけですけどね」
その言葉に、誰もが息を呑んだ。それは―――。
「いい考えですね。浦島君―――魔法戦で後腐れなく決着を着けさせることで、お兄様の実力を測る……それ即ちお兄様の真の実力をお披露目すること―――正しく、私が求めたものです」
―――こいつにも何か隠しているものがあるのか?
深雪の滔々とした言葉で、そういう疑惑の目がいっそう向けられることになるのだった。
常日頃、自分を持ち上げる妹ならば、こんなことを言われても別に思わないが、浦島の発言に関しては『余計なことを』と、内心での悪罵が出てくるのであった。
しかし……語った内容は、まぁ一般的なことだ。分かりやすい話である。
「で、どうします? ここで悪罵を呪文の如く言っていたって、何も決まりゃしませんよ」
「―――いいだろう。司波達也、お前の魔法を俺の魔法で測ってやる。その上でならば、風紀委員にでもなんでもなるがいい」
達也としては大して望んでいないが、それでも妹が自慢し求めた以上……ここで退くという選択肢は無さそうだ。
「浦島も無音拳以外の『術法』を持っていると雪姫先生から聞いた。出来ることならば私に見せてほしいもんだ」
「―――あのBBA……」
摩利の言葉に随分ととんでもない悪罵が出てくるものだ。
達也からしても雪姫先生は確かに年上だが、高くても20代後半―――どちらかといえば20代前半にしか見えないのだが……。
(口が悪いな……)
そんな感想を胸中で言いながらも、自分のCADを取りに教務課へと向かうのであった。
そして20分後―――。
魔法師からすれば脅威の体術を見せた司波達也の忍術と『波紋呼吸法』のごとき攻撃で、服部副会長はサンダーボルト宙域に倒れ伏すのであった。
南無。
「ほほぅ。長瀬……いや、九重の忍術か。なんとも懐かしいものを見せてくれる」
そんな司波達也と服部副会長の戦いの見届人席に勝手に現れた雪姫先生は、そんなことを言うのであった。
その言葉の意味を誰何する前に達也の技法説明が為されて―――。服部副会長は、リユース・サイコ・デバイスでも手に入れるのかもしれない勢いで演習場を去り―――。
「よし! それじゃ次は浦島! キミの実力を見せてもらおうか! いいんですよね雪姫先生?」
浦島啓太の違う実力が披露されることになるのだった。