面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えず日常に戻る

「や~っとベッドから出られた~…」

 

 校舎内の廊下を皆と一緒に歩きながら、私は思い切り背中を伸ばす。

 私がガウルンを追い払い、ベッドの上で目覚めてから一週間。

 そこから更に一週間後に私は無事に退院した。

 医者からは脅威過ぎる回復力に度肝を抜かれていたが、これにはちゃんと理由があったりする。

 

「流石は加奈…と言いたいが、今回ばかりは少し凄すぎるような気が…」

「色んな意味で常識が通用しないのが加奈さんだけど、まさかそれが体の回復にも適応されるとは思わなかったな~…」

「ま、これにもちゃんと理由はあるんだけどね」

「そうなのですか?」

「うん」

 

 あんまし変な目で見られるのもアレだし、ちゃんと説明しておきますか。

 別に隠しておくことじゃないしね。

 

「実は……」

『相良夫妻による過去の改造処置の際、軍曹殿の体内には大量の医療用ナノマシンが投与されました。それがあるから、軍曹殿は常人よりを遥かに超える回復力を誇っているのです』

「……そゆこと」

 

 ア…アルに言おうとしている事を全部言われた…。

 ちくせう…加奈ちゃーん…ショーック…。

 

「ナ…ナノマシン…ですか…?」

「私の体の中にも少なからず入ってはいるが…加奈の場合はそれ以上ということなのか? アル」

『そうですね。恐らくではありますが、マドカの体内にあるナノマシンの総量の数倍はあるかと』

「す…数倍…」

 

 そうなんです。

 ぶっちゃけ、私の身体って半分以上がナノマシンで構成されてるようなもんなんだよね。

 だからと言って、ゲームやアニメみたいに即時回復なんてことは無いけど。

 幾らナノマシンといえど、出来る事には限度がある。

 

「けど、今回の場合はちょっと状況が違ったんだよね」

「どういうことだい?」

「ほら…私ってさ、めっちゃ大怪我したじゃん? それを治そうとナノマシン達が総動員で必死に頑張ってくれたみたいでね…」

「加奈が一週間で治ったのはそれが理由か…」

「まぁね。デメリットが無いわけじゃないけど」

 

 いやー…あれはマジでキツかった。

 久々に意識が朦朧としたもん。

 

「ナノマシンも所詮は機械。全力稼働すれば当然のように熱を発する。普段はそこまで気にならないけど、今回のように全力全開で長時間に渡って動き続けたら…」

『その熱は軍曹殿の身体にも影響を与え、まるで熱に魘されるような状態に陥ってしまうのです』

「ね…熱に魘されるって……」

「その時の加奈さんは、どれぐらいの熱が出ていたのですか?」

「たった一晩だけのことだったし、熱を測る余裕も無かったから良くは分からないけど…体感的には40度以上は確実にあったと思う」

「「「「40度以上ッ!?」」」」

 

 そのリアクションは当たり前だよね。

 常人なら確実にぶっ倒れるレベルだし。

 

「例えるなら、あの晩の私の体の中は、さながら『定時で帰る事なんて絶対に許さない、早朝まで残業させる超絶ブラック企業』だね。勿論、残業代は無し」

『現実にあったら確実に潰れてますね』

「私もそう思う」

 

 ありがとさんよナノマシン達よ。

 まだまだ体に包帯は巻かれてるけど、それでも日常生活が遅れるぐらいにはなったよ。

 

「お腹空いた~…鉄分摂取したい~…」

「何故に鉄分?」

「単純に血を出し過ぎた。病院食じゃ味気無さ過ぎるんだよ~。かといって、自分で作る訳にもいかないし…」

 

 もしも作らせてくれたら、レバーとほうれん草マシマシの炒め物とか食べるのにな~。

 今は兎に角、お腹一杯に色んな物を食べたい。

 太るかもしれない? 大丈夫。

 私は幾ら食っても太らない体質だから。

 

「なら、早く食堂に向かおうか。急げばまだ席を確保できるはずだ」

「さんせー…ん?」

「あれは……」

 

 少しだけ歩く速度を上げようとすると、前方に何やら見覚えのある、けど絶対に関わり合いになりたくない男が知らない女子達と話をしていた。

 

「な…なぁ! お前達って2組の生徒だろッ!? 鈴の事を知らないかっ!?」

「鈴…?」

「二組のクラス代表で中国の代表候補生の凰鈴音だよ! クラス対抗戦からこっち、全く姿を見ないんだ! 同じクラスなら何か知ってるんじゃないのかッ!?」

 

 うわー…普通に嫌な奴だー。

 なんつーか…近づきたくもない。

 話しかけられてる子達が本気で哀れだわー…。

 

「同じクラスだからって何もかも知ってるわけないじゃん。そもそも、私らは普通の生徒だしー? お偉い代表候補生サマの事情なんてどうでもいいっていうかー」

「そーだよねー。なんなら、お友達の候補生や、篠ノ之博士の妹とかに聞いたらー?」

「もしくは、自分の所の担任とか。織斑先生ってアンタの姉貴なんでしょ? アタシ等よりもよっぽど事情を知ってるでしょ」

「そ…それは……」

 

 そっかー…アイツはまだ何にも知らされていないのか。

 だから慌ててあんな事をしている…っと。

 事情を知っている身からしたら馬鹿丸出しにしか見えないけど。

 

「ねぇ…まさかとは思うけど、私が入院している間、あの野郎はずっとあんな感じだったの?」

「その通りだよ加奈。幼馴染が何も言わずにいきなり姿を消したことに相当、動揺しているようだ」

「皆マジで辟易してるんですよー」

 

 だろうね。

 見ているだけでしかめっ面になってる自分がいるもん。

 

「あんな奇行を繰り返した結果、最初あった彼に対する女子達の好感度は完全に下がってしまったようです」

「ふん…愚か者の末路だな」

 

 わーお…マドカってば辛辣ー。

 でも同感ー。

 

 でも、アイツがいると食堂にまで行けないなー。

 遠回りしてもいいけど、そこでまた遭遇しても嫌だし…。

 皆に提案して、ここは物陰に隠れて様子を伺って、アイツが去った後に進んだ方が良いだろう。

 因みに今は放課後なので、時間はたっぷりとある。

 今の内に食べるメニューを考えておこう。

 

「箒はまだ入院してるし…セシリアもまだ戻ってこないし…千冬姉は何も教えてくれない。だから、君達だけが頼りなんだ! 何でもいいから教えてくれ!」

「なんでもいいから…ねぇ…どうする?」

「これ以上、絡まれるのもクソウザいし…見せてやれば(・・・・・・)?」

「そだねー…ちょっと」

「な…なんだ?」

「スマホ…貸して」

「お…おう…」

 

 スマホを貸す?

 どーゆーこった?

 

『軍曹殿。恐らくはネットニュースを見せようとしているのかと』

「ネットニュース? まさか…」

『はい。そのまさかです』

 

 もう情報が流れてるのか…?

 中国政府から他国に対する牽制?

 それとも、また別の意図が…?

 

「ここをこうして……あった。ほら」

「おっと…」

「そこ、見てみ」

「なんだよ………え?」

 

 ここでようやく真実の暴露か。

 あの御坊ちゃんはどんな反応をするのやら。

 

「鈴が…中国に強制送還された上に候補生の称号を剥奪っ!? 壊れたISを弁償する為に20億の借金っ!? なんで、そんな事になってるんだよッ!?」

 

 なんでって…普通に考えればすぐに分かるだろ。

 でも、ネット上ではそれ以上の事は書いてないのか。

 そりゃそっか。

 『深部』の事まで書いたりしたら、逆に自分達の首を絞めることになるんだし。

 

「ぶっちゃけ、私達はアイツが消えてくれて清々してるけどね」

「うんうん。やっと二組に平和が訪れたーって感じ?」

「どうして、そんな事を言うんだよッ!? 鈴は二組のクラス代表だろッ!?」

「クラス代表『だった』…ね。それ以前に、誰もあんな奴を自分達の代表だなんて認めてないけど」

 

 おや? なんか急に風向きが変わってきたぞ?

 ちょっと面白くなってきた。

 

「あいつ、自分が代表候補生だからって無理矢理、二組のクラス代表になってんだもん。元からクラス代表だった子を脅して」

「鈴はそんな事はしねぇっ!! 嘘に決まってるっ!!」

「なら、私達以外の二組全員に聞いてみれば? 皆揃って同じ事を言うと思うけど」

 

 初手から完全に失敗してるだろ…それ。

 周りから嫌われる事しかしないって…ある意味で凄いな。

 

「そういや知ってる? アイツ、転入初日に事務の人をビビらせてたって話だよ」

「マジで? どこで聞いたの、その話」

「秋川さん。事務室の近くを通りかかった時、偶然にも中の話が聞こえたんだって」

「うわー…普通に引くわー…」

「ち…違う…! 鈴は…そんな奴じゃ…!」

 

 おーおー。

 面白いぐらいに狼狽えてますなー。

 何かに縋るようにスマホを弄ってるけど、逆に彼女達の言ってる事が事実だって思い知るだけだろ。

 

「IS学園に来る際…政府の人間をISで脅迫した疑いあり…?」

「噂じゃそれ、アンタに会いに来るためだけにしたんだってよ」

「凄いねー。男の尻を追い駆ける為に政府に喧嘩売るなんてさー」

「どう考えても人生破滅する未来しか見えないでしょ。恋は盲目ってよく言うけど、盲目的になって破滅しちゃ意味無いよねー」

 

 すげー…日本の女子高生ってすげー。

 オブラートなんて微塵も無い、全く容赦なく追い詰めてるー。

 私でもここまで…するかもしれない。

 

「アイツが好き勝手するお蔭で担任の榊原先生もストレスで胃が痛くなってたし…」

「冗談抜きで、アイツってば二組にとっての疫病神だったよねー」

「うんうん。代表候補生だからって偉そうにふんぞり返ってさ。こっちのことなんて全く眼中になし」

「いっつも口癖みたいに『あたしも一組が良かった』って言ってたし」

「あー…思い出したら腹立ってきた! どうして、あんなチビに私達が良い様に振り回されなくちゃいけなかったのよっ!! 代表候補生なら何をしても許されるのかよっ!!」

「あいつ…普通に寮とかでISの無断展開もしてたらしいよ」

「はぁっ!? お偉い代表候補生サマは規則すらも破っていいってか? ふざけんなっ!!」

 

 完全に今までの鬱憤が大爆発してるな…。

 きっと、彼女達は破裂寸前の風船のような状態だった。

 それをあのバカ野郎が何も考えずに刺激して風船を割りやがった。

 相手の感情に鈍感なのも、ここまで行くと犯罪的だな。

 いつか、取り返しのつかない事をしそうだ。

 私は普通に無視して見捨てるけどね。

 

「何を騒いでるの?」

「「「あ!」」」

 

 二組の教室から誰かが出てきた…?

 見た事の無い奴だけど……転入生か?

 中国人っぽい見た目だが…。

 

「だ…誰だよコイツ…」

「あのチビの代わりに中国から来た転入生にして代表候補生の『夏玉芳(ヤンユイファン)』さんよ。あいつとは違って物腰も丁寧だし、暴力だって振るわない。これこそ本当に代表候補生よねー」

「もういない、どこぞのおチビさんや、日本の事を見下してたっていうイギリスのお嬢サマにも見習ってほしいよねー」

 

 あいつが…新しい候補生…?

 けど、あの気配…どこかで…?

 

「勿論、満場一致で新しい二組のクラス代表になって貰ったわ」

「夏さんみたいな子にこそ代表って言葉が相応しいし」

 

 かなりの無感情みたいだな…。

 さっきから表情筋が全く仕事をしてない。

 目つきも、常に何かを警戒しているように動いているし。

 

「…この男は?」

「ほら。例の男性IS操縦者サマよ」

「そう……」

 

 弟野郎を一瞥だけして、すぐに視線を逸らした。

 成る程…視界に入れる価値すら無いってか。

 

「どうでもいい」

「え?」

「邪魔。消えて」

「なっ…! いきなり出てきて、その言い方は無いだろッ! うわっ!?」

 

 あのバカチンがヤンとかいう女に手を伸ばした瞬間、別の手が伸びてきてアイツを床に叩きつけた。

 中々の実力だけど…投げ飛ばした奴、ヤンって奴と同じ顔してない?

 もしかして双子だったりとか?

 

「クソみたいな汚い手でお姉ちゃんに触ろうとするな。蛆虫」

「いっつ…! なんだよ…お前は…!」

「お前みたいな蛆虫に名乗る安い名前は無い」

 

 なんだろう…どこかで聞いたことがあるようなセリフ。

 

玉蘭(ユイラン)さん!」

「ユイ…ラン…?」

「玉芳さんの双子の妹で、同じ代表候補生の『夏玉蘭(ヤンユイラン)』さんよ」

「言わなくていいのに…こんな奴に呼ばれたりしたら、私の名前が穢れる」

 

 やっぱり双子か…道理で同じ顔をしてる筈だ。

 妹の方は大人しい顔に似合わず、かなり苛烈な性格をしてるみたいだけど。

 

「「あ……」」

 

 やば…視線が合ったっ!?

 でも待てよ…? この感じは…まさかっ!?

 

「…どうしたんだい加奈。急に険しい顔になって」

「ガウルンの野郎…舐めた真似しやがって…!」

「ど…どういう事?」

 

 とことんまで私を馬鹿にする気か…!

 いいだろう…そっちがその気なら、こっちにも考えがある…!

 今に見てろよ…死にぞこないの戦争狂野郎が!!

 

「皆さ…あの時、ガウルンを回収しに来た二体のISの事を覚えてる?」

「忘れる筈がない…私達にとっても屈辱の日だったからな…」

「あの双子、あの時に量産型コダールに乗ってた奴等だよ」

「なんですって…!?」

 

 流石はヴィシュヌ。

 ちゃんと声のボリュームを押さえて驚いてくれた。

 そんな所が普通に好き。

 

「立ち振る舞いや雰囲気とかで分かる。何より、私と視線があった時に見せた殺気があの時と全く同じだった。間違いないよ」

「何と言うことだ…!」

「多分…あの双子はガウルンの弟子だ。アイツの事を『先生』って呼んでたし」

「あの男の弟子…」

「それだけで相当な実力者だって事が分かるわね…」

 

 確かに強い…強いけど、私なら簡単に勝てる。今の状態でも。

 皆でも、鍛えれば十分に勝ち筋はある。

 強くはあるけど、強すぎではない。

 

「この事…スコールさん達には…?」

「報告するべきだと思う。あと、山田先生にも」

「あの人にも?」

「うん。変に知らせないで後々で混乱されても厄介だし。それなら今の段階で教えておいた方が良いと思う」

「織斑先生には?」

「絶対に教えちゃダメ。あの女の事だ。もしあの双子がガウルンの弟子だと分かると、すぐに捕まえて情報を吐かせようとするに決まってる。それは確実にガウルンを刺激することにもなる。そして、ガウルンもそれを確実に想定している筈。ガウルンって男は腐れ外道ではあるけどバカじゃない。寧ろ、こういった作戦を考える事に掛けては天才と言ってもいい。剣を振るしか出来ない脳筋女の考えそうなことなんて御見通しだよ」

 

 普通に考えたら、あの双子はスパイか特殊工作員と考えるべきなんだろうけど…今はまだハッキリと断定は出来ない。

 そもそも、私が入院している間にあの双子が来ている時点で既にコッチは後手に回っている。

 今は状況が動くまで警戒を怠らないようにしながら静観するしかない。

 

「…アル。一応、学園の監視カメラにハッキングを仕掛けて、可能な限りアイツ等の動きを見逃さないようにして」

『了解です。軍曹殿』

 

 夏玉芳に夏玉蘭…か。

 まるで昔の自分を見ているみたいでイヤだな…。

 ガウルンの奴…まさか、私に昔の感覚を思い出させる為にあの双子を候補生にまでしてIS学園に寄越したんじゃ…?

 くそ…! 考えれば考えるほどにドツボに嵌る気がする…!

 お腹が空いてるから尚更だ…。

 

「く…くそぉっ!!」

 

 弟野郎は膝をガクガクさせながら立ち上がって、負け犬ムーブ全開で去って行った。

 去ってくれたのは良いが…また別の厄介な奴が残ってしまった。

 仕方がない…今回は大人しく諦めて遠回りしよう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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