面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
食事の後、私達は一緒に整備室へと足を運んでいた。
IS学園の整備室は、基本的には『整備班』と呼ばれる集団の場所となっている。
二年生になると『操縦科』と『整備科』のどっちかを選ぶことになり、整備班とは文字通り『整備科』を選んだ者達によって構成された集団の事を指す。
整備を専攻しているだけあって、その腕前も中々のもの…らしい。
詳しいことは全く知らない。興味も無いから。
別に整備に興味が無いわけではなく、『IS学園の整備班』に興味が無いだけ。
「まーだここは使える筈だよね?」
『整備室の使用時間は18時30分までとされています』
「なら、まだ余裕だ」
えっと…どこかに開いているハンガーは無いかな~っと。
ここはよく整備の授業などで来ることもあるらしく、訓練機を使った整備の簡単な訓練もするらしい。
別にそんな事なんてしなくても、こちとら実際の戦場のど真ん中で何度も何度もやってるんだけどね。
「加奈さん。あそこが空いてますよ」
「おー…サンキュ。ヴィシュヌ」
ヴィシュヌが指さした場所には確かに何も固定されていない空きのハンガーがあった。
なんか隣では誰かが何かをしているっぽいけど、正直どうでもいいし、気にもしない。
私は私の機体を修復出来ればそれでいいのだから。
「まずは今の状況を見てみないとな~。データ上は知ってるけど、知るのと見るのとじゃ大違いだし」
「なぁ…加奈。君の専用機『ガーンバック』…じゃなくて『アーバレスト』だったか。あれの待機形態は君の義眼なんだろう? どうやってハンガーに機体を出すつもりだい?」
「そのことなら大丈夫だよ、ロラン」
いつもは自分の左目を隠している前髪を掻き上げて、本来なら左目の眼球がある場所に埋まっている義眼を掴んで~っと。
「はい。ここからちょっとグロ注意だから。苦手な人は目を逸らしててねー」
「私なら大丈夫だよ、加奈」
「わ…私も平気です!」
「それぐらいなら、なんとか」
「余り私を見縊るなよ、加奈」
前言撤回。
なんか割とみんな平気でした。
私の心遣いが無駄になってしまった…。
「んじゃ、いくぞー。ほいっとな」
ぽこん。
そんな呆気ない音と共に義眼が取れた。
一応言っておくと、この義眼は普段はそう簡単に取れる物じゃない。
ちゃんとガッチガチに固定されている。
けど、今回みたいにどうしても整備をしなくちゃいけない場合は、こうして一時的に固定を解除できるようにしてある。
あのクソ両親が私の事を完全に玩具扱いしているって証拠だね。
「おぉ…予想はしていたが…中々に凄い光景だな…」
「だから言ったのに。ま、いいけど」
この義眼を装置に固定して…っと。
「アールー。おねがーい」
『了解』
義眼が光り出し、アーバレストの姿がハンガー内に展開される。
約2週間ぶりぐらいに自分の機体の現状を見ることになった…んだけど…。
「これはまた…酷いな…」
「フェイス部分と右腕部とか特にズタボロじゃない…」
「あれだけの強烈なエネルギーが激突した衝撃波を至近距離でモロに受けているんだ。当然と言えば当然だが…」
「重症…ですね…少し前までの加奈さんと同様に…」
うわぁ…なんともまぁ酷い姿になっちゃって。
最初の頃とは違って見る影もないじゃないか。
「確かに酷いけど、コアの方は無事なんでしょ?」
『はい。コア部分とその周辺、後はコクピット部分は辛うじて無傷です』
「辛うじてなんだ…」
ガウルンと戦って『辛うじて』でも無傷の部分があるだけ奇跡なんだよ乱ちゃん。
まともに戦えば普通に死んでてもおかしくないんだから。
『損傷が酷いのは機体の外装部分だけではありません』
「中身…つまりフレーム部分も酷いのか?」
『はい。戦闘中から既に機体全体に多大な負荷が掛かっていました。相手があのガウルンであり、奴の機体がΛ・ドライバ搭載機である以上、搭乗者である軍曹殿も機体に負荷が掛かることを承知の上で限界を超えた機動をしなくてはいけませんでしたから』
実際には、そんな事を気にしている余裕が無かったってのが本当なんだけどね。
一瞬の油断が文字通り命取りになるし、機体のことなんて考えてたらガウルンになんて絶対に勝てない。
「その結果がこの状態なんだから笑えないけどね」
「だが、この損傷は加奈が命がけで皆を守ってくれた証拠でもある。誇ってもいいと思うよ」
「ロラン…そーゆー台詞はズルい」
普通に惚れ直してまうやろがい。
出来れば二人きりの時に言ってほしかった。
『各部関節が特に酷いですね。これは完全修復までに少し時間が掛かるやもしれません』
「そればっかりは仕方がないね。精々、学園の物資を好きなだけ使わせて貰おう」
それぐらいの役得があってもいいとは思うし。
「それはそれとして…マジで何処から手を付けるの?」
「どこもかしこも酷い状態ですからね…」
「アル。どうする気だ?」
『まずは外部装甲をパージし、フレームの修理から取り掛かろうかと』
「妥当だね。まずは中から修理しなくては」
ま、修復と言っても、こうしてハンガーに固定されている時は私の出る幕なんて全く無いんだけどね。
なんでって? 見てれば分かるよ。
『では、ハンガーの整備システムへのアクセスを開始します』
「アクセス? 何をする気だ?」
「簡単に言うと、アルがここの機器を使って機体の修復作業をするって事」
『まだ怪我が完治していない軍曹殿に無理はさせられませんから』
なんて主人想いのAIなのかしら。
この気遣いが普段からもっと発揮されていれば最高なのに。
『…アクセス完了』
「「「「おぉ~…」」」」
四人が驚いている中、アルは整備ハンガーに装着してある作業アームを動かして具合を確認していた。
「どう?」
『問題はありません。では、これより修復作業を開始します』
複数のアームが器用に動き、アーバレストの装甲を一つ一つ取っていく。
素人が見ていれば面白くないかもしれないが、私達のように少なからずISに関わっている人間からすれば、見ているだけでも割と面白かったりする。
「うわぁ…アルが言った通り、内部フレームの方も酷いわね…。中からコードとかはみ出してるし…」
「それだけ、奴との戦いが見ている以上に壮絶だったということだろうな…」
当事者の身が知る真実…ってか。
実を言うと、私も実戦でΛ・ドライバを使ったのはあれが初めてだったりする。
だって、ガーンズバックには『妖精の目』はあってもΛ・ドライバは無かったし。
シミュレーションでは何回も使った事はあるし、起動方法も熟知していたから問題は無かったけど、Λ・ドライバ同士がぶつかればどうなるかまでは流石に知らなかった。
あの時点ではまだΛ・ドライバは私のアーバレストにしか搭載されていないものだったから。
『こちらの想定以上に内部フレームへの負荷が大きかったようです。修復作業は中々に難航しそうですね』
「推定修復完了時間は?」
『今日からほぼ毎日を修復作業に宛てたとしても、一ヶ月近くは掛かるかと』
「これだけの損傷をたった一ヶ月でどうにか出来るのなら安いもんだ。昔は碌にパーツも少ない中で応急処置ぐらいしか出来なかったからね」
『あの頃と比べれば随分と恵まれた環境になりましたね。軍曹殿』
「機械系は…ね」
学園自体は最低最悪だけど。
ぶっちゃけ、ロランたちがいなかったら迷わず出て行ってたよ。
逆を言うと、皆がいる限りは絶対に出て行かない。
「ところでさー……」
「ん? どうしたんですか、加奈さん」
「いやねー…『お隣さん』はいつまでこっちを覗きこんでるつもりなのかなーって思って」
「「「え?」」」
「あぁ…あれか」
おや。マドカだけはちゃんと気が付いてたんだ。流石だねー。
「あ…えっと…その…」
「かなかな~…これはね~…」
ハンガーとハンガーを隔てている僅かな壁から顔だけを出してこっちを覗き見ている二つの人影。
一人は私と同じクラスの『布仏本音』で、もう一人は水色の髪と眼鏡が特徴的な大人しそうな顔の少女だ。あの子は確か……。
『軍曹殿。彼女はあの『更識楯無』の妹であり、日本の代表候補生でもある『更識簪』です』
「そうだった。今、思い出した」
いやね。名前も知ってたし顔も知ってたつもりなんだけど、なんか普通にド忘れしてた。
首の所までは出かかってたんだけどな~。
「ア…ISが喋った…?」
「ウチのは人工知能搭載機だから」
「そ…そう…なんだ…」
普通に考えてもアルみたいのが内蔵されてるISは非常に珍しいだろうしね。
ジロジロと見てしまうのも無理ないかもしれない。
「…で、私達に何か御用? 日本の候補生サン」
「べ…別に用事があるって訳じゃなくて…その…」
「ん?」
なんでそこで急にモジモジし始める?
私ってば何かした?
「そのIS…あの時、クラス対抗戦が中止になった時に活躍した機体…だよね?」
「…もしかして、観客席とかにいた?」
「控室に…私…一応、4組のクラス代表だから…」
「なるへそ」
つまり、控室のモニターの映像で見ていたと。
クラス代表なら、確かにあそこにいても不思議じゃない。
「アナタが…操縦者なのかなって思って…」
「まぁね。長年の相棒だし」
『私と軍曹殿は幼い頃からの付き合いですからね』
「小さな頃の加奈…実に興味深い…」
「私も…」
別に大したことないと思うんだけど。
見た目だけなら、どこにでもいる無愛想なクソガキだったよ。
中身は全然普通じゃなかったけど。
「つーか、布仏さん…さっき私の事を『かなかな』って呼ばなかった?」
「呼んだよ~。『相良加奈』だから『かなかな』~」
彼女が他人に渾名を付けたがるのは知ってたけど、幾らなんでも安直すぎやしないか…?
もうちょっと工夫をしましょう。評価△。
「っていうか、私の事を知ってるんだ。クラスの中じゃ出来るだけ影を薄くして過ごしてるつもりなんだけど」
「知ってるよ~。いっつも本を読んでたり、スマホを弄ってたり、寝てたりしてるよね~」
「御見通しかよ……」
どんだけ私の事を見てるんだよ、この子は…。
私のストーカーかっつーの。
「ご…ごめんなさい! 本音はいつも人に変な渾名を付ける癖があると言うか…」
「別に気にしてないよ。渾名を付けられるなんて経験自体、初めてだし」
渾名を付けてくれるような友人、今まで一人もいなかったしね。
ロランたちは別だけど。この四人は特別枠。
「その怪我…あの時の…?」
「うん。ある程度は治ったけど、完治はしてない感じ。動けるようになっただけマシだけど」
動けるなら動く。それが私。
「ところで、そっちは何をしてたの?」
「それは……」
こっちばかり覗かれてるのはアレだし、こっちからも覗いてやろう。
なんとなーく想像はついてるけど。
(あ…やっぱりか)
隣のハンガーにあったのは、作りかけの一台のIS。
これが織斑一夏のせいで製作を放棄された彼女の専用機にして悲劇のIS『打鉄弐式』か。
(そういや…さっきからずっとこっちを覗いているバレバレな隠れ方をしている生徒会長サンは何をしてるんだ?)
本人は本気で隠れているつもりなんだろうが、私からしたら素人丸出しだ。
暗部なんて言っても所詮は人一人すら殺したことも無ければ、本物の戦場の雰囲気すらも知らない子供。
冷たい血飛沫で頭を冷やしたことも無ければ、硝煙の匂いを目覚まし代わりにしたことも無いだろうし、一年間の平均睡眠時間が10分だった事も無いんだろうな。
今はその反動でグータラ生活を満喫中だけど。
(それとは別に、めっちゃ高度な気配遮断能力を駆使してこっちを見てる、さっき廊下で見かけたガウルン子飼いの双子もいるし)
こっちは伊達にガウルンの事を『先生』と呼んでいないわけで。
私じゃなければ見逃してしまいそうなレベルで気配を隠している。
生徒会長も、自分のすぐ傍に暗殺のプロが二人も隠れているだなんて思ってないだろう。
あれじゃ、いつ殺されても文句は言えないな。
中途半端に才能だけあった結果があれか。なんて情けない。
「はぁ…」
「どうした? 加奈」
「ううん…なんでもない。今日もマドカは可愛いなーって思っただけ」
「か…かわ…っ!?」
不意打ちをした時にマドカの反応が可愛過ぎ。
本当にあの暴力女や弟野郎と同じ遺伝子を持っているとは思えない。
マドカの方が遥かに人間として格上でしょ。
(これから放課後は整備室に通う事になるかもなー…)
何があってもいいように、少しでも早くアーバレストを修復しておかないと。
怪我が治ったら、私もやれる範囲でアルのことを手伝おう。