面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えず手合せをする

 放課後になり加奈たちは約束通り剣道場へと足を運んでいた。

 そこには既に夏姉妹も到着していて、加奈の事を静かに待っている。

 

「待っていたわ。もしかしたら逃げられるかも…なんて考えたりもしたけど」

「逃げる理由とかも特に無いしね」

 

 今から思い切り体を動かすと言うのに、姉妹は揃って制服のまま。

 それは加奈も同じで、制服姿のままここまで来ていた。

 

「あー…皆は外で待ってて」

「外で?」

「うん。多分だけど、剣道場全体を使った戦いになるかもしんないから。皆を巻き込みたくは無いんだよね」

 

 自分よりも弱いと分かっていても、相手はあのガウルンの弟子。

 舐めて掛かるような事だけは絶対にしない。

 

「…分かりました」

「加奈さん…頑張ってね」

「武運を祈っているぞ」

 

 ヴィシュヌ、乱、マドカもそれぞれに納得し、静かに道場の外に出て、出入り口の所で加奈の事を見守ることにした。

 それで他の野次馬な生徒達も何かを察したのか、道場の外にて覗き込むようにして見ることに。

 

「…で、手合せって実際には何をする気? まさかとは思うけど、ご丁寧に『剣道』で勝負とか言わないよね?」

「まさか。今からするのは貴方も良く知ってる『手合せ』よ」

「ふーん…武器は?」

「ここにあるのならばどれでも好きなのを」

「つっても、あるのは精々、竹刀か木刀とかしかないじゃない。幾らIS学園の敷地内にある剣道場とはいえ真剣は無いだろうし…」

「そうね。正直、私達も真剣が無いと知った時は少しだけがっかりしたわ」

「そーゆー部分だけは息が合うんだな…私達…」

 

 こうして面と向かって会話をして改めて理解をする。

 この少女達は間違いなくガウルンの弟子で、同時に『自分と同類』であると。

 

「仕方ない…竹刀じゃ流石に雰囲気出ないし、ここはお互いに木刀で殺り合うことにしようか」

「そうね。玉蘭もそれでいい?」

「うん。お姉ちゃんがそれでいいなら」

 

 妹は妹で姉に対しての依存度が高い。

 これはある意味で一夏に似ていると思った。

 

「それと…これも聞いておきたいんだけど、制服のままするの?」

「別に構わないでしょ? 見られて恥ずかしいものなんて無いし。この場には同性しかいない」

「…うん。それには私も同意だし、これと言って異論もないんだけど…そーゆーのは余り堂々と言わない方が良いと思う。色んな意味で」

「なんで?」

「…目的はどうあれ学校という場で集団生活をする以上、芝居でもいいから女としての恥じらいを持てと言ってるんだよ」

「貴女はそうしてるの?」

「一応ね」

「そう……」

 

 加奈とこの双子とは精神構造が非常に酷似している。

 常人が恥と思うような事を恥とは思わないし、どこまでも現実主義で効率主義でもある。

 身内とそれ以外の線引きがハッキリと出来ていて、身内以外の存在に対してはどこまでも冷酷になれる。

 良くも悪くも、彼女達は人間として破綻していた。

 

「じゃ…とっとと武器を取ろうや」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「…ここまで思考が似てると、本当に嫌になるね」

「「そう?」」

 

 三人が選んだのは共通して短い木刀の二刀流。

 理由は『ナイフと同じ感覚で使えると思ったから』。

 

「ふーん…」

「どうしたの?」

「別に。最近の木刀って軽いんだなって思って」

「そうね。私も日本製の木刀がここまで軽量だとは思わなかった」

「これならいつも以上のスピードが出せそうね、お姉ちゃん」

 

 因みに、彼女達基準では木刀の中には常に破壊力を向上させるための鉄塊が入っている。

 なので、何も混入されていない競技用の木刀では非常に軽く感じてしまうのだ。

 

「別に正式な試合って訳じゃないんだし、どこからでも、どのタイミングからでも仕掛けてきていいよ。ハンデとして先制攻撃はしないであげる」

「じゃあ…お言葉に甘える事にする」

 

 妹の玉蘭が加奈の背後に周り、姉の玉芳が正面に位置取る。

 丁度、挟み撃ちのような形になった。

 

「どうした? 掛かって来ないのか?」

「「…………」」

 

 いざ始めようとした途端、姉妹は急に固まってしまった。

 別にふざけている訳ではなく、仕掛けたくても仕掛けられないのだ。

 

(一見すると無防備な風に見えるけど…)

(この女…全く隙が無い…!)

 

 加奈は道場の中心付近で両腕をダランと下げたような状態で棒立ちしている。

 素人目には隙しか無いように見えるが、実際には全く違った。

 どこから、誰が、どんな風に仕掛けてきても瞬時に対処出来る。

 分かる者にしか分からない極地。

 某ハンター漫画に例えるならば、加奈は自身の周囲に『円』を張り、即席で自分だけの領域を生み出していた。

 

「玉蘭…」

「うん…」

 

 覚悟を決めたのか、姉妹はそれぞれに木刀を握りしめ構えを取る。

 明らかな臨戦態勢なのにも拘らず、加奈は相変わらずのポーズだ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 ほぼ同時に姉妹が加奈に向かって駆ける!

 その速度は明らかに常人のそれを凌駕していた!

 

「およ?」

 

 だが、彼女達は加奈の真横を素通りし、そのまま眼前の壁に向かってジャンプ!

 

(隙が無いのならば…)

(隙を生み出させるまで!!)

 

 まるでパルクールのように壁に足を突き、そこから更に別の壁へと跳躍。

 自分の身体をスーパーボールにでもしたかのように縦横無尽に跳躍を繰り返していく!

 

「なるへそ…私を攪乱して隙を見い出そうって作戦か。中々に良い事を考え付くじゃない?」

 

 こんな事はガウルンによって徹底的に鍛えられた彼女達だからこそ出来る芸当であり、他の者達に同じような事をしろと言われたら絶対に不可能である。

 幾らIS学園でも、ここまで人間を止めたような生徒は他にいない。

 

 何回かの跳躍の後、遂に姉妹は攻撃を仕掛けた!

 玉芳が天井に足を突き、玉蘭が加奈の懐深くまで潜り込む!

 

(上下からの攻撃に人間はどうしても一瞬だけ反応が遅れる!)

(人間は本来、上や下からの脅威に対処するように出来ていないから!)

((天地からの同時攻撃…これならば!!))

 

 着眼点は悪くない。寧ろ、これは最適解に近い。

 …加奈という『超越者』が相手でなければ…の話だが。

 

「…甘い」

「「なっ!?」」

 

 あろうことか、加奈は体を丸めるようにしながら小ジャンプをし、上下から繰り出される同時攻撃をギリギリの所で見事に回避。

 その後、木刀を握っている両腕を伸ばし、自分の身体をプロペラのように縦回転させ、姉妹を纏めてぶっ飛ばした。

 

「「がぁ…!?」」

 

 双子は最初自分がいた方とは逆の壁に叩きつけられ背中を強打。

 普通ならば心配するところだが、彼女達は普通に立ち上がってきた。

 だからと言って決してダメージや疲労が無いと言う訳ではないのだが。

 

「隙が無いなら作ればいい。その発想は悪くない。けど、そーゆーのは織斑千冬のような『普通の達人』にしか通用しない。少なくとも、私やガウルンのような『化け物』には利かないよ」

「…みたいね。少し甘く見てたわ」

「小細工が通用しないなら…!」

 

 さっきまでの冷静な顔は消え、歯を食いしばりながら突撃してくる。

 常識外れの跳躍をしていたとは思えない程にキレがある動きだった。

 

「「正面から行く!!」」

「馬鹿みたいに同じことを繰り返さず、かといって次の小細工を考える訳でもない。そーゆーのだよ。それがいいんだよ」

 

 玉芳は右斜めから右手に持った木刀を、玉蘭は左から薙ぎ払うかのように左手に持った木刀を振るう!

 今度は左右逆の腕、違う角度からの同時攻撃!

 

 しかし、それもまた加奈に易々と防御される。

 最初から分かっていたかのように両腕の木刀でガード。

 姉妹もその展開は読んでいたのか、攻撃を仕掛けなかった方の手にある木刀で追撃を掛ける!

 

「迷わずの追加攻撃…いいじゃない。けど…まだ甘い」

 

 加奈は器用に体を捻り、その追撃さえも避けてみせた。

 それでも姉妹は攻撃の手を緩めない。

 

「「それなら!!」」

 

 今度は超至近距離からの蹴りを放ってくる!

 挟まれた状態から直撃を受ければ確実に頭蓋骨が砕けるは必至!

 

「そっちが蹴りで来るのなら…」

 

 さっきの身体を捻りながらの回避の体勢から、加奈は木刀を手放しつつ床に手を付いてスカートが捲れる事を全く気にせずに逆立ちの体勢になる。

 

「こっちも蹴りで対抗しますかね…っと」

「これは…!」

「カポエイラっ!?」

 

 両足を広げ、その場で体を回転させながら遠心力によるキックが炸裂!

 二人は手に持つ木刀を弾かれながら頬を蹴り飛ばされ、床に叩き付けられる!

 

「うーん…なんでも習っておくもんだな」

「どういうこと…?」

「カポエイラが使えるだなんて聞いてない…!」

「こっちも言った覚えは無いよ」

「じゃあ…どうして…?」

「前に暇潰しに『シロナガスクジラでも出来る超簡単カポエイラ講座(超初級編)』っていう通信教育をしてたから」

 

 普段はゲームやパソコンばかりしている加奈ではあるが、かといって運動が嫌いと言う訳ではない。

 寧ろ、適度に体を動かす事は大好きである。

 けど部屋からは出たくない。ならばどうすればいいか。

 加奈が導き出した答えが『運動系の通信教育』だった。

 

「…まだやる?」

「「………」」

 

 落ちた木刀を拾い上げながら、加奈の事を睨みつける。

 だが、すぐに姉の玉芳が表情を元に戻しつつ木刀を床に放り投げた。

 

「止めるわ。私達の負けでいい」

「お姉ちゃんっ!?」

 

 自分からの敗北宣言に玉蘭が驚きの表情を見せる。

 

「いいの?」

「えぇ。もしも『一手』足りないのならば私ももっと必死に足掻こうと思った。けど…違う。一手どころじゃない…二手も三手もアナタは先の事を見ている。私だって馬鹿じゃない。全部の攻撃を防がれ、二人揃っても一撃すら入れられなかった時点で勝負がついてるって理解出来る」

「そんなことない!! もっと攻めれば必ず私達が!」

「玉蘭」

 

 玉芳の静かではあるが重みのある言葉が玉蘭を大人しくさせる。

 全身を震わせながらも悔しそうに歯を食いしばり木刀を床に落とした。

 

「アナタだって分かっている筈よ。このまま続けても、必ずあと11手目で玉蘭が、そこから更に6手目で私が完全に戦闘不能にされていた。今までの攻防だって、彼女は決して本気を出していない…そうでしょ?」

「バレてたか」

「確かに私達はあなたよりも弱いかもしれない。けど、それぐらいは流石に分かるから」

「伊達にアイツの弟子はやってない…か」

 

 退け時を弁えている所も師匠そっくりだ。

 疲れた顔をしながら、加奈は心の中で密かにそう呟いた。

 

「相良…加奈…! 私はまだ諦めてない…負けなんて認めない…! 在学中に必ずお前を越えてやる…!」

「それはまた…只でさえ数少ない楽しみが一つ増えて嬉しい限りだ」

「そんな事を言ってられるのも今の内なんだから…!」

「ハイハイ」

 

 こうして、加奈と夏姉妹との手合せは特に誰も大怪我などをせずに幕を閉じた。

 と言っても、夏姉妹の方は地味に打撲などを受けているが、本人達にとってはなんてことない掠り傷だったので、剣道場にあった救急箱で簡単に処置をしただけで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

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