面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
ガウルン子飼いの双子ちゃんとの手合せが終了し、私は体を伸ばしながら剣道場を出ていこうとする。
あーあ。時間を無駄にしたーって感じ。
『軍曹殿。お見事でした』
「へーへー」
あの程度で『お見事』って言われてもねェ…。
そこまで大したことはしたつもりはないんですけど。
「流石だね加奈」
「ん…あんがと」
でも、ロランの褒め言葉は別。
どんな些細なことでも純粋に嬉しい。
「彼女達も凄かったけど、加奈さんがその上を行ってる事が凄い…」
「あの体術を初見で見切るとは…お見逸れしました」
皆なら、あの程度の動きは頑張れば普通に避けられそうだと思うけどね。
って、なんかマドカだけが怪訝な表情してる?
「どうしたのマドカ?」
「いや…な。肉体にこれといった改造処置などを受けていないのに、あれ程の動きが出来ていることに驚いていてな…」
「多分、ガウルンの奴に相当鍛えられてたんだろうね」
あんなびっくり人間みたいな動きをし始めた時には、別の意味で驚いたけど。
何が悲しくて、漫画みたいな戦闘をしなけりゃならんのよ。
(つーか…なんか知らない間にギャラリー増えてない?)
学校と言う閉鎖社会の中では噂の広まる速度は本当に驚異的だ。
少なくとも、私が剣道場に来た時点じゃ人影は疎らだったような気がするけど。
「ま、そんな事はどうでもいいか。それよりも…そこの双子」
「…なに?」
「約束通り、話を聞かせて貰うよ」
「いいわ。どこで話す?」
「整備室だよ、この野郎」
「どうして? 話をするならどこかの部屋の方が良いんじゃ…」
「この学園に整備室なんて場所に積極的に出入りをする奴がどれだけいる? そんなのは機械弄りが好きな奴か、もしくはオイルの匂いが好きなジャンキーだけだ。あそこは殆ど個室も同然だから問題ねぇよ。それに…」
「それに?」
キョトンとした顔をしている姉の鼻をギュッと摘まんでからブンブンと軽く横に振る。
ウニュって顔をして、ちょっとだけ可愛かった。
「お前達が私に手合わせなんて申し出てこなけりゃ、今頃は普通にアーバレストの修理をしていたんだッつーの。少しだけとはいえ私に貴重な時間を使わせたんだ。その代価ぐらい払え。敗者に命令できるのは勝者の当然の権利だろ?」
「うぅ…そうね。貴女の言う通りだわ。私達は自分で挑んで勝負に負けた。何も文句は言えない。玉蘭もそれでいいわね?」
「うん…お姉ちゃんがそう言うなら…」
よし決まり。
ついでだし、こいつらの事もこき使おう。
それぐらいはしてもいいだろ。
「それじゃ、とっとと整備室に……ん?」
「どうしたんだい加奈?」
「いや…あそこ」
「「「「ん?」」」」
なにやら怪しい視線を感じると思って振り向くと、そこにはお姉ちゃんだいちゅきな原作主人公サマがいた。
なんか驚いたような顔でこっちを見てやがるけど…普通に不愉快。
っていうかキモい。そしてウザい。
「あぁ?」
「うっ……」
はぁ…情けない。
ちょ~っとガンつけただけで子犬みたいに逃げやがって。
それでも本当に男かッつーの。
ちゃんと玉と棒が股間についてるんですかー?
「うわぁ…加奈さんの睨み付ける攻撃で逃げてった…」
「防御力が下がる以前の問題ですね」
「ファイヤー以下だな」
え? 蘭ちゃんはともかく、ヴィシュヌもポケモンしてるんだ…。
あとマドカ。流石に伝説のポケモンと比較しちゃ可哀想だよ…ファイヤーが。
「嫌なもん見た。早く行こ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
自販機で軽く水分補給をした後に皆でゾロゾロと整備室に向かうと、今日もまた彼女達…更識簪と布仏本音の姿があった。
「あ…相良さん…」
「かなかなだ~」
「おいっす。今日も来てたんだ」
「うん…」
この前も思ったけど、この子って随分と口数が少ないな。
恐らくは姉の影響だろうけど。
「あれ? その二人って…二組に来たって言う…」
「私達の事を知っているの?」
「ん…四組でも噂になってるから…」
ほんと…どこまで広がってるんだよって感じ。
こりゃ、学園中に話は行ってるな。
「この子は四組のクラス代表で日本の代表候補生の更識簪。その隣にいるのが一組の布仏本音。んで、この二人が…」
「二組の夏玉芳。中国の候補生よ。この子が私の妹の夏玉蘭」
「玉蘭よ。私も候補生なの」
「あ…よろしくお願いします…」
「よろしく~」
へぇ…ちゃんと自己紹介ぐらいは出来るんだ。
もっとこう…『貴方に名乗る名なんて無いわ』ぐらいの事を言うかと思ってた。
意外とコミュ力はあるのかもしれない。
「でも、どうして彼女達と相良さん達が一緒に…?」
「ま…色々とあってね。それよりも、今日も隣借りるね」
「う…うん」
簪さんの隣のハンガーに、この前みたいにアーバレストを展開して固定する。
さーてと…今日はどの辺をやりますかね~?
「いいの? 普通に部外者たちがいたけど」
「大丈夫。ああ見えて、あの子達…実は暗部所属だから」
「うそ…」
だよね。それが普通の感想。でも本当。
「仮に聞かれても、ちゃんと弁えてるよ。それに、聞かれてもそこまで問題は無いんでしょ? だから話してくれるんだし」
「それはそうだけど…」
「なら、気にせずにとっとと話す」
「…了解よ」
基本的に修理作業はアルに一任してるけど、それでも時折、人の手が必要な場面が出てくることがある。
そんな時は私やロランたちが手を貸すことになる。
『軍曹殿。今日は脚部の修理を執り行いたいのですが』
「そうだね。まずは足を直さないと話にならないか」
いやさ…改めてみると凄いのよね…破損状況が。
よくもまぁ、こんなにも壊れたもんだ。
「ア…ISが喋った…?」
「お姉ちゃん…これなに…?」
「私のISのサポート用AIのアルだよ。はい、ご挨拶」
『アルです。どうか、お見知りおきを』
「「ど…どうも…」」
どうしてアル相手には萎縮するねん。
私って、そんなにも威厳ない?
「それじゃ、聞かせて。どうしてIS学園に来たの? アイツの命令?」
「えぇ。私達は先生の命令でここに来た」
「因みに、候補生になったのは学園に来る少し前」
普通に考えれば、ガウルンのコネを使ったと見るべきなんだろうけど、この双子ならば実力でも十分に候補生になれる素質がある。
そこら辺は正式な方法でなったと考えるべきかもしれないな。
「学園に来た目的は?」
「先生に『カシムと接触して、一緒に学園生活を送れ』と言われたから。それ以外には何も言われてない」
「……は?」
あのガウルンが…そんな殊勝な事を言っただ?
一体何の冗談だ? いや…ちょっと待てよ?
「…一つ聞きたい。あの時…ガウルンを回収しに来た時にはまだ候補生でもなければ、学園に来る予定も無かった…んだよね?」
「そうよ。命令を受けたのは、あの後のことだった。それがどうかしたの?」
「はぁ…成る程ね」
嫌だなぁ~…たったこれだけで分かってしまう自分自身が。
割とマジの自己嫌悪…。
「何か分かったのか加奈?」
「うん…一応ね」
ほんと…溜息しか出ませんわ。
アル…悪いけど、ちょっと作業の方は任せるわ。
「本当に嫌な事だけどさ…私とガウルンって、根本的な部分において同類なんだよね。だから、アイツには私の考えている事がなんとなくだけど分かる。ってことは、私もまたアイツの考えている事が分かっちゃうってことなワケでして」
「つまり?」
「ねぇ…皆。一番手っ取り早く強くなるには、一体どうしたらいいと思う?」
「急な質問だな…加奈の事だから無意味な質問ではないと思うが…」
「早く強くなるためには…か」
皆がウンウンと唸って考えている。
あの双子ですら真剣に考え中だ。
「正解は『格上の相手に何度も何度も繰り返し実戦形式の練習をする』…だよ」
「「「「あ」」」」
どうやら、ロランたちにもどうしてガウルンがこの双子を学園に送り出したのかが分かったみたい。
それでこそ私の大切な友人達だ。
「貴方達には分かったの?」
「あぁ…恐らく、君達の『先生』は…」
「アナタ達を今よりもずっと強くする為に加奈さんと接触させようとした…」
「私達を…」
「強くするために…?」
まだイマイチ分かってないっぽい。
なら、ちゃんと説明してやりますか。
「あの襲撃騒ぎの時、ガウルンはISに乗ったロランたちの事を目撃している。それで、皆が他の連中とは頭一つ分飛び抜けている事を知った。ガウルンは一流の傭兵だ。その理由も一発で分かった筈だ」
「私達はこれまでに何度も加奈と模擬戦を繰り返してきている。未だに一度も勝利をもぎ取った事は無いが、それでも自分達が確実に強くなってきている自覚はあるよ」
「そうよね。学園に来た頃と今の自分とじゃ割とマジで大違いだし」
「蹴りの鋭さ、体捌きなど加奈さんから学んだ事は多岐に渡ります」
「確かに、加奈と出会わなければ、ここまで成長することは無かったかもしれんな」
少なくとも、私の見立てでは今のロランたちはもうとっくに国家代表クラスの実力には達していると思っている。
簪の姉である生徒会長にだって十分に勝てるだけの腕前にはなった。
「先生は…私達の成長を期待している…?」
「そういう事になるね。じゃなきゃ『私と接触しろ』なんて言わないでしょ」
「先生……」
この双子からしたら複雑だろうね。
今の自分達じゃまだ実力不足だって言われていると同時に、もっと強くなれと期待を込めた一言を言われてるんだから。
(にしても、まさかあのガウルンがそんなヒューマニストみたいなことをするとはねェ…世も末だわ)
こりゃ、マジでもうすぐ世界は終末を迎えるかもしれないな。
お金でも溜めて、皆一緒にロケットで地球を脱出する検討でもするべきか?
「他には命令とか受けてないの?」
「受けてない。けど、何かあればこっちから連絡するとは言ってた。それと、実は相良加奈…貴方に先生からの伝言がある」
「アイツから私に?」
その時点で嫌な予感しかしないんですが。
聞きたくなーい。けど、聞かないといけないような気もする。
って、なんで急にイヤホンの付いたボイスレコーダーを出す?
「これに録音してある」
「聞いてるんじゃないんかい」
「自分の声で言った方がカシムは信じるって言ってた」
「あんにゃろ…」
どこまで人をおちょくりやがって…。
しかも、その通りだから余計に腹が立つわ!!
「はぁ…どれどれ?」
仕方なくイヤホンを耳に着けてガウルンの伝言とやらを聞くことに。
『よぉ…カシム。お前の事だから、玉芳たちの正体を見抜いた瞬間から俺が何かを企んでいると思ったんじゃねぇか?』
全く以てその通りだよ、このクソ野郎。
『けど安心しな。例え何があろうとも、お前に不利益になる事だけは絶対にしねぇ。IS学園をどうこうする気もさらさらない。ンなことをしたって意味がねぇからな。お前とは遺恨とか何にも関係なく、頭を空っぽにして思う存分に殺し合いてぇんだよ』
どの口が言うんだか…と言いたいけど、これはマジだろうな。
アイツはよく騙しのテクなんかは多用するが、それは作戦上の駆け引きの時が主だ。
私から見ても、ガウルンがIS学園を襲撃する理由は皆無だし、一切の利益にもならない。
だって、襲撃の理由に最もなりそうな理由である『世界で唯一の男性IS操縦者である織斑一夏の身柄と専用機の奪取』って理由が、ガウルン自身の存在によって無くなっているから。
自分自身が男性IS操縦者な上に、それを無限に産み出せる存在が背後にいる。
つまり、あのクソ両親にとっても、ガウルンにとっても、IS学園と言う場所は微塵も価値が無い場所って事になる。
『仮に何か行動を起こすとしても、お前やテメェのダチ公には一切手出しはしないし危害も加えない。というか、お前の場合は学園の他の連中がどれだけ死んでも顔色一つ変えねぇだろ。お前と俺は同類だからな。その辺のことは一発で分かっちまうんだよ』
うっちゃいわ。
アイツも自覚してやがったとは…増々、自分の事が嫌いになる。
『ま、精々可愛がってやってくれや。なんなら、お前の『お友達』にしてもいいぜ! あはははははははっ!!』
ここでメッセージは終了した。
最後の最後に下品な笑い声を残しやがって…。
夢に出てきたらどうするんだよ!
「どうだった?」
「うん…なんつーか…少なくとも『私達は』大丈夫だって事が分かった」
「私達は?」
「ってことは、IS学園は…?」
「そっちも大丈夫だと思う。私の予想が大当たりだわ」
恐らく、何かあるとすれば、それは『生徒側』になると思う。
それも、私達とは全く関係のない生徒達が。
別にそれなら私的には何の問題も無い。
寧ろ『もっとやれー』って応援するわ。
「ま…この学園にいる間は、お互いに仲良くしますか…。ガウルンもそれを望んでるっぽいし」
「先生がそう言っていたのなら。けど、それとは別として、今度はISでの勝負もして貰う」
「はいはい。それをするにはまず、こいつを修理しないとね。つーことで手伝え」
「「了解」」
素直なこって。
一体ガウルンはこの二人にどんな教育を施してきたんだろうか。
それは純粋に気になる。
「あのさ…アタシからも一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「アンタ達が今の中国の候補生って言うんなら…お姉ちゃ…いや、凰鈴音がどうなったのかは知ってる?」
「一応は知ってる。実際に会ったし」
「そうなんだ…」
腐っても従姉妹だったしね…流石に乱ちゃんは知りたいか。
そりゃ、そうだわな。
「私達の前で堂々と候補生をクビになっていた上に、破壊された専用機の修理費用を全額負担するように言われてた」
「当然の結果…か」
「けど、そんな額なんて払える筈もないし、普通に多額の負債になったみたい。私達が知ってるのはそこまで」
「なんか色々と言われて呆然自失になった所で、どこかへと連れて行かれてた。今、彼女がどうなってるかは知らないし、興味も無い」
「…そっか。教えてくれてありがと」
少しだけ落ち込んでいる風だったが、すぐに顔を上げてスッキリとした顔で前を向いていた。
前々から見限っていた相手が相応しい末路を迎えた。
最初から覚悟は出来ていたのかもしれない。
…今晩辺り、慰めてあげようかな。