面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えずスルーする

「セシリア・オルコットから喧嘩を売られるかもしれない?」

 

 オータムさん&スコールさんからマドカの候補生スカウトの話を聞かされた後、私達は皆で食堂に来て小休止をしていた。

 そこに丁度、夏姉妹もいたので合流することに。

 

「どうしてそうなるんだ?」

「良く考えてみ。どうしてこのタイミングでマドカに候補生の話が来たのかを」

「このタイミング…?」

 

 当事者であるマドカや、他の皆も同じように小首を傾げていた。

 あの双子が普通の反応をしている姿は見ていて面白い。

 

「イギリス側はとっくの昔からマドカの高い実力は知っていた。それなのにどうして候補生の話が来なかったのか。それは単純に『その必要が無かったから』だ」

「ってことは、今はその必要があるって事になるのかな…?」

 

 乱ちゃんが、そのものズバリな事を言ってくれたが、ここは敢えて私が説明しますか。

 説明役こそ我が本分ってね。

 

「IS学園に入学してからのセシリア・オルコットの候補生としてあるまじき言動の数々。入学初日から始まった暴言の数々は、間違いなく本国の方にも報告が行っている筈だ。日本だけじゃなく、男を見下したような態度をし、クラス全体から不評を買った。その後、織斑一夏との試合を経て変わったように見えたが、それはあくまで『そう見えた』だけ。根本的な所は何も変わっていないだろうさ」

「どうしてそう思うんだい? 何か根拠が?」

 

 よくぞ聞いてくれましたロラン。

 それこそ、この話の本題なのだよ。

 

「あいつが友好的に見えたのは、単純に『織斑一夏に惚れたから』だ。けど、実際には何にも変わっていない。その証拠に、もし本当に改心して心を入れ替えたのなら、真っ先に不快な気持ちにさせたクラスの皆に謝罪をするべきなのに、アイツは何にもしなかった。それどころか、いきなり篠ノ之箒と口喧嘩をし始める始末。恐らく、セシリア・オルコットの中では何にも心境の変化なんてしていない。未だに心のどこかで日本の事を見下したり、織斑一夏以外の男に対して馬鹿にしたような態度をしているだろう。現在、あの女の世界は織斑一夏こそが全てになっている節がある。だからこそパッと見だけは変化したように見えるだけ。多分、アイツは未だに織斑一夏と篠ノ之箒以外のクラスメイトの顔も名前も全く覚えていないだろうよ」

 

 あー…疲れた。喉乾いた。

 一息で一気に話すなんて慣れない事はしないもんだ。

 

「イギリスって国はお世辞にも人口が多い国とは言い難い。それこそ中国やインドのような国と比べると雲泥の差だ。逆を言えば、それだけ候補生の数も少ないって事になる。その中でビットを使える人間ともなれば更に絞られるはずだ。そんな数少ない人間の一人が国外にて有り得ないような不祥事を起こしてしまった。しかも、そいつは有名な家の御令嬢だ。そう簡単に切り捨てる訳にはいかないが…」

「その理由だけでは許されない事態に発展しかけてしまった…か。最悪の場合、戦争待ったなしの状態に陥っても何ら不思議じゃなかった」

 

 ロランの言う通り。

 これはもう学生同士の言い争いなんて次元じゃ済まされない。

 代表候補生は国の旗を背負う者。

 代表候補生の言葉は即ち、国の言葉と受け取られても決して不思議ではないのだ。

 

「それだけでも相当に評価を下げてしまっただろうが、そこに更に追い打ちを掛けてしまったのがクラス代表を決める試合だ」

「完全なド素人である織斑一夏に敗北寸前まで追い込められてしまった事…ですね」

「その通りだよ、ヴィシュヌ。自分で相手を挑発した挙句、そいつに負けそうになりました…なんて、そんなのイギリスが許すとは思えない。完全に国の恥さらしだ」

 

 しかも、その相手が男なんだから大変だ。

 『織斑千冬の弟だったから』なんて言い訳は通用しない。

 性別差別自体は公には出来ないが、世間的にはまだ女尊男卑思考が浸透している場所も数多い。

 そんな奴等に知られたら、一気にイギリスの評価は地に落ちる。

 イギリスアンチの波はあっという間に広がっていくだろう。

 

「イギリスももうセシリア・オルコットを庇えなくなってきた。現状、あの女を守る理由は無くても、候補生をクビにする理由なら山のように存在している。けど、どれだけ雑魚でも今のイギリスにとって候補生一人をクビにするってのは相当に苦渋の決断だった筈だ。空いた穴は想像以上に大きくなるだろう。他の候補生が育つのを待っている間に他国との差は広まっていく一方だ。だからこそイギリスは『即戦力』となる候補生を求めているんだ。丁度…マドカのような…ね」

「なんとも複雑な理由だな…実力を評価されているのは嬉しいが…」

 

 マドカからしたら微妙な心境だろうね。

 要は『セシリア・オルコットの代わりに候補生になってくれ』と言われたようなもんなんだから。

 

「けど、どうしてそこから彼女が高田マドカに勝負を挑む事に繋がるのかしら?」

「それもまた簡単。今朝、アイツはかなり沈んだ表情をしていた。これは私の予想ではあるけど多分、国の方から連絡が来たんじゃないかな。今までやらかしたことに長々と言われた挙句に『お前はクビだ』的な事を。その後にこうも言われた筈だ。『お前の後釜となる少女にもしも勝てたら、今までの事は不問にする』…って」

「有り得なさそうで…有り得そうな気がするのはなんでだろう…」

 

 その有り得なさそうなことを平気でするのが、今の国家って奴だからだ。

 玉芳。玉蘭。お前達もそれはよーく知っている筈だ。

 

「イギリスはどうしてそんな面倒な事をするんでしょうか? クビにするのなら、とっとと通告してしまえばいいものを」

「徹底的に潰す為だろうな」

「徹底的に…?」

 

 生真面目なヴィシュヌには想像しにくいか。

 それが彼女の魅力でもあるんだけどね。

 

「普通に解雇通告を出しても、今までの伝手を使って変に抵抗をしてくる可能性がある。それを無くすために、その心を完全にへし折る気なんだよ。人間って生き物は往々にして『小さな希望』を見つけた後に『絶対的な絶望』を突き付ける事で、呆気なく心が折れるもんなのさ」

「その『小さな希望』がマドカさんとの試合で…」

「『絶対的な絶望』が、その果てに訪れる変えられない結末…か」

 

 これを考えついた奴は相当に心が捻くれているに違いない。

 私でも、ここまではしない…と思う。多分。

 

「だが、私はそんな下らない試合なんてする気は無いぞ? 意味が無いんじゃあないか?」

「それすらも含めているんだろうさ。単純な実力だけで候補生になれるのなら誰も苦労はしないってね」

 

 言葉巧みに相手を誘導し、試合に持ち込ませる。

 ISの試合だって同じようなもんだ。

 いつの世も、最終的に相手の心を制した者が勝つんだよ。

 

「試合を申し込めなければ、その時点でゲームオーバー。仮に試合をしても、マドカとアイツとでは実力が違い過ぎる。万が一の勝ち目すらもありはしない。つまり…」

「試合をしてもしなくても、結果は変わらない。ただ、その過程で彼女の心は完全に折れるだろうが」

 

 わぉ…ロランってば、私が言おうとしてたことを普通に言っちゃった。

 もしかして、段々と私に看過されつつある?

 

「上げてからドン底まで落とす…か。イギリス政府も中々にエグいやり方をするのね」

「他の奴らとは違って、あの女は中途半端に他の力も持ってるからな。だからこそだろうな」

 

 金の力ってのは侮れない。

 その気になれば幾らでも不可能を可能に出来るんだから。

 

(まぁ…やったことがやったことだからな。まず間違いなくオルコット家は潰されるだろうけど)

 

 どれだけの名家であっても、国の力を使えば一撃だ。

 セシリア・オルコットは調子に乗り過ぎた。

 政府がここまで堂々と動いているって事は、あの女はイギリスで『最も怒らせてはいけない人物』の逆鱗に触れてしまったんだろう。

 普段は温厚な人物ほど、怒った時が恐ろしいと相場が決まってるからな。

 

「ほら。噂をすれば何とやら…だ」

「ん?」

 

 食堂の入り口の方に目を向けると、そこにはここまで走ってきたと思われる、呼吸の荒いセシリア・オルコットが立っていて、何かを探すかのように食堂内をキョロキョロとしていた。

 

「もしや、私の事を探しているのか?」

「十中八九そうだろうね。けど、どうやってマドカの事を特定する気だ? 向こうはこっちの事を知らない筈だが…」

 

 あ。なんか急にこっちを凝視し始めた。

 そんでもって真っ直ぐに来てますよっと。

 

「台湾やタイ…オランダの候補生と一緒…一体どなたが高田マドカさんですの?」

 

 わー…そーきたかー…。

 情報伝える側も考えたなー。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「マドカは私だが? 一体何の用だ」

 

 ついさっきまで、この女についての話をしていたからか、マドカはすぐに立ち上がってセシリア・オルコットを睨み付ける。

 さてはて…どんな風に話をしてくるのやら。見ものだな。

 

「単刀直入に申し上げますわ。私と模擬戦をしてくださいませ」

 

 まさかの剛速球ストレートー!

 これに対してマドカ選手はどう切り返すのかー!

 

「断る。お前と試合をする理由が無い」

 

 こっちもド直球で返したー!

 変に回りくどい言い方をしないのがマドカクオリティ。

 

「それに…私は弱い者苛めは好きじゃない」

「私が弱いと仰るつもり…? このイギリス代表候補生セシリア・オルコットが弱いと…?」

 

 この期に及んでまだ候補生の称号に拘ってんのかい。

 呆れて何にも言えんわ。

 

「弱い。弱すぎる。寧ろ、ビット使用中に何も出来ずに棒立ちになっている奴のどこが強いのかを教えて貰いたいぐらいだ」

「そ…それは…!」

 

 はい論破。

 弱点が丸見え過ぎて、ビットの長所を微塵も活かせてない時点で自分が最弱だって理解しろよコロネ女が。

 

「ビット兵器と言うのは本来、ビットと本体とが連携することで初めて本領を発揮できる兵装だ。だが、お前は単純にビットを『飛ばす』事しか出来ない。これを弱いと言わずしてなんと言う?」

「う…ぐぅ…!」

「分かったら、とっとと消えろ。目障りだ」

 

 これでフィニッシュ…かしらん?

 大半の奴はここで引き返すけど…。

 

「そうは…いかないのですわ…!」

「なに?」

「あなたに勝たなければ私は候補生を…オルコット家を…!」

 

 ふーん…やっぱりか。

 想像通りで却って面白くないな。

 

「なにより…一夏さんに傍にいられなくなる…それだけは…!」

 

 …どこまで行っても『織斑一夏』かよ。

 もう完全に依存してやがるな。

 一種の病気なんじゃなかろうか。

 あんな男のどこにそんな魅力があるのか微塵も理解出来ない。

 

「あ…貴女だって候補生になりたいんでしょうッ!? 私と試合をすればイギリスでの評価も上がって…」

「…お前は馬鹿か?」

「は?」

 

 うん。マドカは見事にここにいる皆の言葉を代弁してくれたね。エライ。

 後で頭を撫で撫でしてあげよう。

 

「確かにイギリスの方から候補生のスカウトは来たが…それだけだ。まだ私は候補生になると決めた訳じゃあない。一言も自分から『候補生になりたい』だなんて言った覚えは無い」

 

 勝手に相手の事を決めつけてるのがアウトですな。

 こいつは本気で交渉をする気があるのか?

 自分の我儘はどこでもなんでも通用するって勘違いしてないか?

 幾らなんでも現実を甘く見過ぎ。ふざけんな。

 

「それにな…貴様如きと試合なんぞせずとも、私の評価はそうそうと落ちたりはしないよ。お前と違ってな」

 

 うわー! マドカってば煽りの天才だー!

 これは言われた方はイラつくわー!

 

「負け犬は負け犬らしく、部屋に籠って自分を慰めながら遠吠えでも吠えてろ。お前のような雑魚にはそれが一番お似合いだ」

「わ…たくしは…! 私は…!」

 

 というか、この女はマジで気が付いてない?

 自分が食堂に来てからずっと、日本人の生徒達から親の仇のように睨みつけられてる事に。

 少なくとも、学園内にいる日本人からの評価は最低最悪だって事に。

 いや…本当に気が付いてないんだろうな。

 こいつの頭の中はどこまでも『織斑一夏』とくっつく事しか考えてないから。

 

「高田さんがイヤだって言ってるんだから、早く消えろよな」

「つーか、マジでウザい。っていうかキモい」

「候補生でお嬢様なら何を言っても許されますーってか?」

「フツーに目障り。反吐が出そうなんですけど」

 

 我慢の限界に達したのか、遂に周囲の日本人生徒達からの大声の影愚痴が始まった。

 あっという間に食堂はセシリアアンチに染め上った。

 これは何とも恐ろしい光景だわ…。

 学校と言う名の閉鎖社会ならではの現象だな…。

 

「はぁー…早く死んでくれないかなー…どこぞの一年生のイギリス候補生さん」

「そんなに日本が嫌いなら、最初から来るんじゃねーよって話なんですけど」

「マジでソレな。大して強くもねーくせに態度だけは一人前ってクソだよね」

 

 流石に同情してしまうが…それもこれも全て身から出た錆、自業自得だ。

 お前は学園内の日本人全てを敵に回してたって事にようやく気が付いたか。

 

「………っ!」

 

 全方位からのアンチコールに耐えられなくなったのか、セシリア・オルコットは悔しそうに俯きながら食堂から出て行った。

 それと同時に、食堂内はすぐにさっきまでの穏やかな喧騒が戻った。

 

「やっと消えたか…」

「けど、油断は禁物かもしれない。追い詰められた奴は何をしてくるか分からないから」

「そうだな…注意はしておこう」

 

 そもそも、あの女も他の連中と同じように暴力的だからな。

 それでまた自分の首を締めてるんだから始末に負えない。

 

「災難だったわね…高田マドカさん」

「お前は…」

「あんたは…」

 

 いきなり私の所にやって来たイギリス人の二年生。

 それを見て久し振りに驚いた。

 まさか向こうから接触してくるとは。

 

「初めまして。イギリスの代表候補生で二年生の『サラ・ウェルキン』よ。よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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