面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、先輩からの忠告を聞く

 セシリア・オルコットが食堂から立ち去った直後、話ながらこっちにやって来た上級生のサラ・ウェルキン。

 まさかの人物の登場に、皆が一瞬だけ固まってしまった。

 

「…見ていたのか? さっきのやり取り」

「えぇ。それが『役目』だから」

 

 この発言…やっぱりか。

 

「えっと…どうしたんだい加奈?」

「この先輩がどうかしたんですか?」

「うん…ちょっとね」

 

 別にお互いにデメリットとなることはないし、普通に尋ねてみるか。

 その方が色んな意味で手っ取り早い。

 

「先輩。この際だからストレートにお聞きします」

「何かしら?」

「…アナタが、イギリスから派遣されてきた『監視役(エージェント)』なんじゃあないんですか?」

 

 全員が驚いたような目でこっちを見ているけど…返答は如何に?

 

「…御明察。流石は噂に名高い傭兵さんね。見事だわ」

 

 意外と呆気なく暴露したな…。

 あの縦ロール女がいなくなったことで、再び食堂はいつも通りの喧騒を取り戻したし、そのお蔭でこっちに聞き耳を立てている奴は一人もいない。

 だから、安心して話したって事か?

 

「ま…待ってくれ加奈。彼女はイギリスの代表候補生だ。それなのにエージェントとは一体…」

「その辺は本人に聞いた方が早いと思うよロラン。そうでしょ?」

「ウフフ…そうかもね」

 

 余裕の笑みを浮かべながら、サラ先輩は私達の横へと座った。

 

「相良さんの言う通り、私こそがイギリス担当のエージェントをしているわ。と言っても、実際にやるようになったのは今年に入ってから…なんだけど」

「それってつまり…」

「セシリア・オルコットの入学に際して…ということなのですか?」

「その通りよ。タイ代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーさん」

「私の名前を…!?」

 

 なんとまぁ…伊達にエージェントと候補生を兼任している訳じゃあないってことか。

 同じイギリスの候補生でも、ここまで差が出ると哀れとしか言いようがないな。

 

「去年までは私もごく普通の学生だったの。けど、今年の初め頃にいきなり本国から連絡が来てね」

「『セシリア・オルコットが入学するから、エージェントをやって欲しい』…とでも言われたのか?」

「またまた正解。見事ねマドカさん」

 

 今度はマドカが正解してみせた。

 このまま行けばハワイ旅行とか行けるかもしれない。

 

「私の事を監視していたエージェントは、私自身に『問題無し』と判断して早々に本国へと帰還してしまっていたの。こっちとしては嬉しい限りなんだけど、今回はそれが完全に裏目に出てしまった形になるわね」

「成る程…再びイギリスからエージェントを派遣するにしても、それ相応に時間や手間が掛かる。そうするぐらいなら、信頼の置ける在校生に監視役を頼んだ方が遥かに楽…ってことか」

 

 そこで楽をしようとするなよ…と言いたいが、イギリスにはイギリスの事情があるし、仮に他の国であっても同じような事をしていただろう。

 

「なんせ、あの子は本国でもかなりの問題児でね。女尊男卑は当然として、貴族以外は基本的に見下すし、我儘を言う事なんて日常茶飯事。正直言って人間としての評価は余り高くは無いわ。候補生としてはボチボチ…だった筈なんだけど、いざIS学園にて試合をしてみると、その評価が一瞬でひっくり返ったわ」

 

 だろうな。

 前にガウルンが言ったり、ついさっきマドカも指摘したりした事だが、アイツは本当に『ビットを扱えるだけ』に過ぎない。

 逆を言うと、その事だけに満足して、それ以上の事を目指そうとしていない。

 いや…昔は目指していたのかもしれないが、その気持ちも織斑一夏に出会った事で全て完全に消え去ったと見るべきだろう。

 

「ド素人の男子に敗北寸前まで追い詰められ、無断出撃までしたにも拘らず、謎の乱入者には手も足も出ずにフルボッコ。挙句、それらに関する反省の色は全く無し。男の尻を追い駆ける事しか考えない馬鹿に成り下がった。本国にいた頃よりも遥かに堕落したアイツに、普段から穏やかな笑みを浮かべている女王陛下も遂に堪忍袋の緒が切れてしまった」

 

 うわぁ…マジかよ。

 イギリスの女王陛下と言えば、差別とかを最も嫌っていて、どんな奴にも温情を持って応えるという善人の鏡みたいな人だと聞いているのに…そんな人物をマジ切れさせたのか…普通に引くわ。

 

「そして今朝、あの子の元に本国から最終通告が来た。端的に言えば『候補生をクビ』って言い渡されたのね」

 

 当然と言えば当然だが…復帰早々に聞かされたらキツいよな。

 そのタイミングを見計らっていた可能性もあるけど。

 

「そこでどうして、私と試合をする話に繋がるんだ?」

「それも至って簡単。イギリス本国はマドカさんをセシリアの後釜にしたいと考えている。けど、セシリアはそれに納得が出来ない。ならば、力付くで候補生の地位を守ってみせろ…ってことよ」

「…加奈の予想が大当たりした…ということか」

 

 この程度じゃ全く喜べないけどね。

 普通に予想しやすい内容だったし。

 ヒントも非常に多かったしね。

 

「まぁ…全く意味が無いことではあるんだけどね」

「どういう事ですか?」

「本国の方もマドカさんとセシリアとの実力差はよく知ってる。マドカさんを試合に出させることが出来なければ、その時点で終わり。けど、もし仮に試合に出て戦ったとしても、セシリアの勝ち目なんて限りなくゼロに近い。つまり…」

「出来レース…ということね」

「正解。過程がどんな風になろうとも結果は変わらない。イギリスはあの子をより高い所から叩き落とす為に、敢えて有りもしない希望を抱かせた」

 

 こっちもまた、私の予想通り…か。

 ま、気持ちは分かるけどね。

 あの手の身の程知らずは無駄に精神的にタフな場合が多い。

 だから、やる時は徹底的にやる。

 一切の容赦も慈悲も無く、相手の心を木端微塵に打ち砕くぐらいの事をしないといけない。

 中途半端にすると、却って反抗してくることがあるから。

 

「今のセシリアはかなり追い詰められている。最悪の場合、家も潰されるらしいし。もしかしたら、どこかで奇襲みたいなことをしてくるかもしれないわ。もし、そんな事をしたら一発アウトだけどね」

「だが、今の彼女にそんな判断が出来るとは思えないな」

「そうね。だからこそ気を付けて頂戴。窮鼠猫を噛む…なんてことにはならないと思うけど、念の為にね」

 

 話すだけ話すと、先輩は椅子から立ち上がってから立ち去ろうとする。

 そこへ、マドカが待ったを掛けた。

 

「待て」

「どうしたの?」

「もし仮にアイツと私が試合をした場合…容赦する必要は無いんだな?」

「勿論。アナタの本気で叩き潰してあげて。立ち上がる気力も湧かない程に」

「…了解した」

「それじゃあね」

 

 手をヒラヒラとさせながら、先輩は食堂から出て行った。

 その後ろ姿を見ながら、改めて国という集合体が恐ろしくなった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 真っ暗な部屋の中、一人の青年がとあるモニターを見ながら笑みを浮かべていた。

 モニターに映っているのは、友人達と談笑している加奈の姿。

 それを眺める度に、青年はうっとりとした顔をする。

 

「やっぱり、そうだ…。君が…君だけが俺の隣に立てる。立つ事が出来る。相良…加奈…」

 

 そんな彼の背後から、『男』がワザと靴音を鳴らしながら近づいてきた。

 白衣を着ていて、彼が科学者であることは分かるが、肝心なその顔は影で覆われていて全く見る事が出来ない。

 

「また見ているのかい? 君も飽きないねェ…」

「惚れた女を眺める事に飽きる男がどこにいますか。その気になれば、俺は死ぬまで彼女を見続けますよ」

「怖い怖い」

 

 男は肩を竦めるが、その声には全く感情が籠っていない。

 それはまるで虚無であるかの如く。

 

「…ところで…何か御用ですか? …『相良藤助』博士」

 

 相良藤助。

 それは嘗て、加奈の口から出た名前。

 彼女の実父の名前だった。

 

「別に何も。ただ、君の様子を見に来ただけさ」

「そうですか」

 

 少しだけ視線を藤助に向けていたが、すぐにまた前を向きモニターに映る加奈の姿を目に焼き付けようとする。

 

「博士。俺はもう我慢出来そうにありません。この気持ちを…想いを彼女にぶつけないと気が済まない」

「と言うと…?」

「決まっています。俺もIS学園に行く。加奈に会いに行くために。そして、俺の全てを彼女に捧げる為に」

 

 視線だけを後ろに向け、藤助の姿を瞳に写す。

 青年の目は全く笑っていない。

 

「俺は彼女に恋をした。加奈の事を愛している。彼女が望む事ならば何でもする。例えそれが…恩人である博士を殺す事だろうとも」

「凄い決意だ。そこまで情熱的に愛されている我が娘が羨ましい限りだ」

 

 感情の無い口調で言われても全く説得力が無い。

 彼が娘である加奈を大事に思っているのは父性から来るものではなく、彼女が自分達夫婦にとっての最高傑作であるからだ。

 

「俺はきっと、貴方たち夫婦と敵対する道を選ぶだろう。加奈を守り、加奈を愛し、加奈と共に道を歩む。それが俺の望みであり、俺の全てなのだから」

 

 徐に青年は立ち上がり、振り向きながら藤助をじっと睨みつける。

 その目はさっきまでの陶酔に浸っていたものではなく、一人の男として決意をした目をしていた。

 

「まぁ…別にいいさ。いずれにしろ、君には加奈に接触して貰うつもりでいたからね。あの篠ノ之束すら凌駕する『天然の超天才』である君と、史上最高の傑作にして至高の芸術品でもある私達の愛娘である加奈…二人が接触した時にどんな反応をするのか非常に興味がある」

 

 どこまでも加奈の事を道具扱いしかしていない藤助。

 だからこそ娘に憎悪されていると知っていながらも微塵も態度を改めないどころか、微塵も躊躇いなく更に先へと突き進む精神構造は、ある意味で人知を超越しているのかもしれない。

 

「ついでに、何も知らずに学園でのうのうと暮らしている『織斑一夏(失敗作)』に現実でも教えてあげますよ」

「好きにしたまえ」

 

 一夏の話題が出た途端、急に藤助の口調が冷める。

 彼にとって一夏は最早、視界に入れる事すら鬱陶しい存在になっていた。

 

「ところで…『ベリアル』はどうしてます?」

「整備は終わっている。いつでも出せる」

「そうですか…では、持って行きます」

「別に私達の確認を取る必要は無い。あれは君の専用機なのだから」

「では……」

 

 青年は藤助の横を通り過ぎ、そのまま部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。

 

「この部屋を出た瞬間から、俺はあなた達夫婦と決別し、加奈の味方となる。彼女の敵は俺の敵だ。ガウルンだろうとなんだろうと関係ない」

「……そうか」

「では…失礼します」

 

 その言葉を最後に青年は部屋を出て行き、藤助はモニターに映る自分の娘の姿を静かに眺めた。

 

「さて…加奈と彼が邂逅した時、何が起きるのか…ここでじっくりと観察させて貰うよ。本当に楽しみだ。なぁ…そうだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レナード・テスタロッサ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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