面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えず現実を教える

 焦燥するあまり、強硬姿勢を取ってきたセシリアに怒りを覚えたマドカは、彼女の要望通りに試合を受ける事に。

 場所は第三アリーナ。

 これまでに色んな試合が行われた因縁ある場所でもある。

 

 アーバレストの修復作業があるので、流石に加奈は同行できなかったが、その代わりに乱とヴィシュヌ、それから夏姉妹がピットにて試合を見守ることに。

 

「ホント…マドカも災難よね。あんな奴と試合をする羽目になるだなんて」

「そうですね。でも、ここらで受けておかないと、次に何をしてくるか予想が付きませんから」

「二回目でもうISを使ってきたって事は、三回目には人質とかを使ってくる可能性もあるわ」

「バカみたい。そんな事をしたって何の意味もないのに」

 

 ここまで来るともう、呆れを通り越して哀れにさえ感じてくる。

 そこまでして一夏と一緒にいたいのか。

 その気持ちが彼女達には全く理解出来ない。

 

「大切な人と一緒にいたい。その気持ちだけは理解出来なくはないけどね」

「それを理由にして『やるべき事』を放棄しては本末転倒でしょう」

「馬鹿は死ななきゃ治らない。けど、あの手の馬鹿は死んでも無意味でしょうね」

「どれだけ輪廻転生を繰り返しても、性根の部分はそのまんまな気がする」

 

 もうボロクソに言われているが、それ程の事を今までしてきているのだから擁護のしようがない。

 

「にしても、想像以上に人が集まってるわね」

「流石はIS学園。情報の伝達速度が尋常じゃありませんね」

「その大半はセシリア・オルコットの負ける姿を見に来たって感じね」

「スマホやカメラで録画している奴とかもいる。これ、試合内容によってはとんでもないことになるかも」

 

 観客席に来ている女子達は大きく二つに分かれていた。

 片方はセシリアに対して罵詈雑言を言っている者達。

 主に二年や三年、一組以外の一年生たちだ。

 

 もう片方は、マドカの事を応援している者達。

 これは学年やクラス問わずに皆が歓声を上げていた。

 

「そういや、さっき加奈さんとアルが言ってたこと…本当にあると思う?」

「分かりませんね…。でも、絶対に無いとは言い切れません。念には念を入れて置いて然るべきかと」

「馬鹿な奴ほど、何を仕出かすか分からないものだし」

「特に、自分のやっている事が正しいと妄信的なまでに疑ってない奴はね」

 

 そうこうして話している間に、遂に運命の試合が始まった。

 最初から結果の見えている試合が。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「おい…ふざけているのか?」

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

 アリーナのステージを縦横無尽に駆け抜ける複数のビット達。

 マドカの操るサイレント・ゼフィルスの6基のビームビットが滑らかな動きで的確に射撃を行い、2基のシールドビットがあらゆる攻撃をシャットアウトする。

 その動きはまるで、マドカと言う名の指揮者の導きによって奏でられるオーケストラのよう。

 

 一方のセシリアはと言うと、必死にブルー・ティアーズのビットを動かしてはいるものの、動かすだけで精一杯で全くゼフィルスのビットについていけていない。

 僅かな隙を的確に狙われ、確実にダメージが蓄積していっている。

 ビット自身の動きもお世辞にも滑らかとは言い難く、全てが直角的。

 素人ならばいざ知らず、マドカ程の実力者になれば、どこにどのような攻撃を仕掛けてくるかが手に取るように把握出来た。

 

「…呆れたな。なんとなく予想はしていたが、まさかここまで弱いとは…」

「お…お黙り…なさい…!」

 

 合計で8基ものビットを操っているのに、マドカは涼しい顔で腰に手を当てている。

 逆にセシリアは、その半分の4基のビットを操るのにも精一杯で、さっきから顔に汗が滲み出ていた。

 

 斜め下の方向に予想外。

 どれだけ弱くても、もう少しは出来るだろうと踏んでいたのだが、セシリアの実力は今のマドカの遥か下にあった。

 もしかしたら、前に一夏と戦った時の方がまだ強かったかもしれない。

 そう思わせるほどに、素人目から見ても弱く感じた。

 

「え? なにあれ? あの縦ロールさ…めっちゃ弱くね?」

「ビットの事をそこまでよく知らない私達にも動きが目で追えるって…相当じゃない?」

「あれで私達の事を見下してたの? 代表候補生だから。イギリス人だからって」

「ふざけんじゃねぇぞ!! このクソビッチが!!」

「テメェは大人しく、野郎の尻でも追い駆けてればいいんだよ!!」

 

 只でさえビットの操作で精神をすり減らしているところに、そこへ更にセシリアに追い打ちをかけるように観客席から飛んでくる罵詈雑言の数々。

 もう既にセシリアの精神は限界に到達しようとしていた。

 だが、ここで頑張らなければ本当に破滅してしまう。

 セシリアにとって、正真正面の正念場だった。

 

「ガンバレー! 高田さーん!」

「そんな奴、一気にやっちゃってー!

「大丈夫! そんな雑魚、楽勝だって!」

「いっけー! そこだー!」

 

 マドカへはもうプロ選手のような応援が飛び交う。

 今までの人生でここまで応援されたことは無いので、どうも気恥ずかしい思いをしていた。

 だからと言って、ビットの動きが乱れる事は全く無いのだが。

 

「…もうそろそろいいか」

「え?」

 

 今までずっと手ぶらだった状態から、いきなりBTエネルギーマルチライフル『スター・ブレイカー』を展開して右手に装備する。

 

「これ以上、試合を続けても結果は見えているし、お前が哀れだ。だから…一気にケリをつけてやる。感謝するんだな」

「なん…ですって…!」

 

 自分はライフルを撃つ余裕は愚か、その場から身動き一つすら出来ないのに、マドカは余裕の表情でライフルを構えた。

 

「やれ…ビット達。まずは、その目障りな奴のビットを叩き潰せ」

 

 マドカの声に従うかのように、ゼフィルスのビットから発射されるビームが自在に曲がり、まるで本当に意志があるかのようにティアーズのビットの一基を貫き破壊した。

 

「ビ…ビットでビットを破壊した…!? あれが『偏光制御射撃(フレキシブル)』…!」

 

 本来、自分も目指さなければいけなかった領域。

 目指そうとしていた技術。

 それを目の前でまざまざと見せつけられ、セシリアの精神に動揺が走る。

 動揺すると言うことはつまり、脳波も乱れるという事。

 只でさえ最初から精細を欠けていたビットの動きが更に悪くなる。

 

「…隙だらけだ。やれ」

「し…しまっ…!」

 

 心の乱れが生み出した致命的な隙。

 それを突かないマドカではない。

 四基あったビットは次々と、マドカのビットによって撃墜されていった。

 

「わ…私のビットが…そんな…」

「驚いている場合か?」

「…え?」

 

 気が付いた時、セシリアの目の前にスター・ブレイカーの銃口が眼前にあった。

 彼女が呆けている間に、マドカは『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』によって懐へと飛び込んでいたのだ。

 

「い…一体…いつの間に……ハッ!?」

 

 本体であるマドカが動いたと言うことは、つまりビットの動きが停止しているということ。

 少なくとも、セシリアの中の常識ではそうだった。

 だが、現実は違った。

 

「ビットが…動いている…?」

 

 さっきまで自分のビットを破壊していたゼフィルスのビットがセシリアの周囲に展開して、その小さい銃口を向けている。

 本体とビットが同時に動く。

 これこそ、セシリアに最も足りなく、同時に最も必須とされている技術。

 

並列(マルチ)思考(タスク)

 

 本国でどれだけ練習しても習得の兆しすら見えなかった技術。

 それを、目の前の少女は易々と使いこなしている。

 これこそが『差』。

 試合前に言っていた『決定的な実力差』。

 マドカが自分の遥か先に立っているという確固たる証拠だった。

 

「終わりだ」

 

 ビットの使い過ぎによる精神的疲労によって思うように動けず、もし仮に動いても周囲にあるビットの包囲網からは逃げられない。

 つまり『詰み』。完全なる王手。

 

「別れを言え。お前を取り巻く全ての物にな」

「わ…私…は…」

 

 怯えるセシリアの顔を一瞥した直後、無情にも引き金が引かれる。

 

「か…は…っ…!」

 

 ゼロ距離から放たれたビームの一撃はセシリアの顔面に直撃し、それと同時に全てのビットからもビームが発射され、ブルー・ティアーズの全身を貫く。

 その衝撃で四肢がまるで関節の壊れた操り人形のように踊り狂う。

 もう悲鳴も断末魔を上げる余裕もない。

 

(マドカ…聞こえる?)

(乱か。どうした?)

(加奈さんの言ってたこと…当たったみたい)

(と言うことは…)

(うん。どうして…とか、なんで…とかは分からないけど、ここに来てるのは確か。って事は…)

(間違いなく、来るな)

(大丈夫とは思うけど、用心はしておいてね)

(了解だ。任せておけ)

 

 いきなり来た乱からのプライベート・チャンネルを切り、地面に落ち行くセシリアを見下ろす。

 するとその時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり、向かい側のピットから白式を纏った一夏が飛び出してきて、落下しているセシリアをキャッチした。

 

「大丈夫かセシリア!?」

「一夏さん…」

 

 その時、確かにセシリアは安堵の笑みを浮かべた。

 この瞬間を期待し、待ち侘びたかのように。

 

 …だが、その光景を観客席からジッと見つめる一人の女子生徒がいた。

 

「成る程…こうなったか。あのまま負けていた方が幸せだったでしょうに…可哀想に」

 

 その女子生徒の名は『サラ・ウェルキン』。

 セシリアと同じイギリスの代表候補生にして、同時にイギリスのエージェントに任命された少女。

 当然、彼女もまた話を聞きつけてマドカとセシリアの試合を見に来ていた。

 

「…予想外の結末ではあったけど、これでセシリアの運命は完全に決した。勝ち負けに関わらず、あの子の未来は完全に閉ざされた。だって…」

 

 サラは一夏にお姫様抱っこされているセシリアを見ながら、薄い笑みを浮かべた。

 

「『卑怯者』に候補生の称号は相応しくないもの」

 

 もう見る価値は無いと判断し、本国へと事の結末を報告する為にアリーナから出ていこうと踵を返す。

 

「よりにもよって、初恋の相手に引導を渡されるとはね。ここまで哀れだと逆に笑えてくるわ。まるで三流コメディみたい」

 

 だが、この時のサラは…否、サラだけではない。

 一夏もマドカも乱もヴィシュヌも玉芳も玉蘭も想像していなかった。

 この一夏の乱入が、ISの出現により世間に広がりつつある『女尊男卑』社会に決定的な一打を与えてしまった事を。

 この時の、名も知らぬ一人の女子の録画した映像がネットを通じて全世界に広まった事で、一夏を含めた彼の周囲の人間達の『破滅』が確定してしまった事を。

 

 

 

 

 

 

 




次回、一夏乱入の理由と、セシリアの破滅確定。
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