面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
もしかしたら、前作でアンチ勢だった楯無だけ、今作では救済対象になるかもしれません。
というのも、今の話の流れ的に無理に楯無をアンチにするよりは、救済ルートにした方が話の流れが自然になりそうな気がしたからです。
なので、アンチになるのは第一期ヒロインズと千冬と一夏のみになります。
『織斑一夏は必ず二人の試合中に乱入してくる』
セシリアとの試合に向かうマドカに向けて、加奈はこう言い残した。
なぜ、どうしてそんな事が断言出来るのか。
それは彼女が『転生者』であることが関わってくる。
加奈は知っているのだ。
『織斑一夏』という人間の本質を。
『守る』という行為に対して異常なまでに執着している事を。
なにより、加奈はある『事実』を知っている。
御都合主義。予定調和。お約束。
色んな表現をされるこの現象。
どこから。どうして。
どんなのは関係ない。
それが『当たり前』であり『義務』なのだから。
そもそも、原作ではマドカは敵として登場し、実際にセシリアとも対決している。
その時はまた別の結末があったが、今回は時系列的にもそれよりもずっと前だ。
そうである以上、この世界線は原作を完全に逸脱している。
現時点で既に原作ヒロインである凰鈴音が脱落しているのが良い証拠だ。
故に、加奈はマドカ達にある『助言』をしておいた。
世界の『法則』が牙を剥くのであれば、こっちはそれを利用してやる。
いつの世も、ギャラリーを味方につけた者が最も強い。
その下地はもう既に完成している。
正確には『勝手に相手が生み出してくれた』と言うべきか。
加奈たちが何もせずとも、彼女達が行動する度に生徒達からのヘイトを稼いでいた。
その事実に気が付いていないのは本人達だけだった。
勝敗なんて関係ない。
『試合をする』…その事実が確定した瞬間から、セシリアが最愛の相手からトドメを刺されるという運命は決まっていたのかもしれない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
この日、一夏は今までに起きた様々な事による精神的ショックにより学校を休んでいた。
だが、だからと言って素直にベットで寝ている訳ではなかった。
「千冬姉…千冬姉…千冬姉……うっ…!」
下半身丸出しの状態でベッドの上に座り、背中をのけぞらせる。
その手には大人の女性の物と思われる下着が握られており、白濁液によって汚されていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…千冬姉…俺…俺…」
ティッシュで『後始末』をし、再び手を動かそうとしたところでふと気が付く。
時間がもう放課後になっている事に。
「…喉…渇いたな…」
今までずっと『自家発電』をしていたので疲れた一夏は、適当に手を洗ってから制服に着替え、汚れたままの『オカズ』をベットの上に放り投げる。
どうせ、今は一人だからという浅はかな理由故に。
「何やってんだろ…俺…はぁ…」
ポケットに手を入れながらトボトボと歩き、寮の廊下にある自販機まで辿り着くと、こっちに向かってくる女子達の姿が見えた。
「やべ…」
今の自分は休んでいる事になっている。
そうでなくても、今はあまり誰かと会うような気分じゃない。
咄嗟に近くにある物陰へと身を隠してしまった。
「ねぇ、アレどうする? 見に行く?」
「別に良くない? どーせ結果は見えてるっしょ」
「だよねー。落ち目のクソ候補生なんて、高田さんの敵じゃないでしょ」
なにやら気になる単語が出てきた。
無意識の内に聞き耳を立てた。
「今頃は、高田さんにズタボロにされてるんじゃない? あのイギリス候補生のお嬢様は」
「有り得るー! つーか、それしか有り得ない」
「だよねー! けど、どうして、いきなり試合なんて申し込んだんだろ? 絶対に勝ち目なんてないのに」
「なんか、少し前に食堂で高田さんに向かって勝負をしてくれって頼んでたらしいよ? クラスの子が見てたって言ってた」
「ふーん…で?」
「勿論、断ったって」
「そりゃそうでしょ。だって、高田さんには勝負を受けるメリットも理由も無いもん」
「それ以前に、どうしてそんな事を言ったのかって感じだけど」
セシリアが誰かと勝負をしている。
しかも、その相手は彼女よりも格上。
それを聞いた時、クラス対抗戦の時の記憶がフラッシュバックする。
(もう二度と…あんな事は御免だ…! 今度こそ…今度こそ俺が守るんだ…!)
精神が焦燥していることに加え、冷静な判断力を欠如している事によって、セシリアが勝負をしている『理由』を考えられなかった。
それがのちに致命的になるのだが。
「どこでしてるんだっけ?」
「第三アリーナ。割と多くの子達が見に行ってるみたい」
「へー…その殆どが、あの糞女を嫌ってる奴等だろうけど」
「寧ろ、あの女を嫌ってない人間ってこの学園に一人でもいるのかって話。入学初日に日本人全員に喧嘩を売ってるんだからさ」
「しかも、女尊男卑発言のおまけ付きでね」
「その後の謝罪とかも一切無かったしね。いやー…あそこまで見事に全方位に喧嘩を売ってて平気な顔をしてるとか…どんだけ面の皮が厚いんだよって話」
「あーあ…マジで消えねーかなー…あの糞女。見てるだけで不愉快だわ」
「空気読めよなー…ホント」
ブツブツとセシリアに対するアンチ発言を残しつつ、女子達は去って行った。
それに対しても思う所はあるが、今はそれ以上にセシリアの安否の方が気になっていた。
「第三アリーナ…だったよな…! 待っててくれ…セシリア…!」
一夏は第三アリーナへと向けて走り出す。
まるで、捕らわれの姫を助けに行く王子のように。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして今に至る。
(加奈の助言通りになったか…)
まさか…と思いつつも、どこかでこんな事態も想像していたマドカ。
なので、そこまで驚いてはいない。
それどころか、これにより至る『結末』を即座に予測し、逆にほくそ笑んでいた。
「本当に…無知とは愚かなものだな…。愚か過ぎて哀れにすら感じてくる」
目の前でセシリアを抱き上げている一夏を見下ろしつつ、マドカはもうこの試合に対してほんの僅かしかなかった戦意すらも完全に失った。
別の言い方をすれば『やる気が無くなった』。
この時点で既にもう勝敗は関係なくなってしまったのだから。
「完全な茶番だな…これは」
はぁ…と溜息を漏らすマドカの視線の先で、まだ何も知らない二人はイチャコラしていた。
「ど…どうして一夏さんがここに…?」
「セシリアがここで試合をしているって聞いてさ。急いで駆け付けたんだ」
「でも…一夏さんは今日はお休みをしていたんじゃ…」
「そんなの関係ないさ」
「一夏さん…」
もう完全に二人だけの世界。
観客の生徒達も呆れ果てて黙り込んでしまった。
「あいつがセシリアと戦っていた奴か…」
「そうですわ…」
「よくもセシリアを…許せねぇっ!」
ティアーズのPICが稼働したのを確認した一夏は、彼女を離してから雪片弐型を手に取る。
そこから、まさに猪突猛進と言った感じでマドカに対して突撃していった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
余りにも読みやすい動きに対し、マドカは即座に近接用ナイフで応戦。
軽く前に出しただけで簡単に防いでみせた。
「今度は俺が相手だ!! 覚悟しやがれ!!」
「ハァ…馬鹿かお前は?」
「なんだとッ!?」
「もう既に
「どういう意味だ!!」
「そのままの意味だが?」
一夏は全力で斬り掛かっているにも拘らず、マドカは涼しい顔でそれを受け止めている。
しかも、短いナイフ一本で楽々と。
「今だセシリア! 俺がこいつの動きを抑えているから、こいつを撃て!!」
「え?」
一瞬、本気で呆けてしまった。
ここでもしも少しでも頭を冷静な状態に戻せれば、まだギリギリではあるが救いようもあったかもしれない。
だが、今のセシリアは愛しの彼がピンチに陥っていた自分を助けに来てくれたというシチュエーションにより致命的なまでに冷静さを欠いていた。
要は、こんな状況にも関わらず『恋愛脳』になってしまったのだ。
「分かりましたわ! 一夏さん!!」
ビットは全て破壊されてしまったが、まだ自分にはライフルが残されている。
機体のSEも辛うじてではあるが残っていた。
(私と一夏さんが力を合わせれば、誰が相手でも必ず勝てますわ! 彼女にさえ勝ってしまえば、私は一夏さんと…)
一夏に当たらない位置まで移動してからマドカに狙いを定める。
ライフルを両手で構えてから引き金を引く!
「ここですわ!」
一筋のレーザーがマドカ目掛けて飛んで行く!
命中するか…と思われたが、そうは問屋が降ろさなかった。
「甘い」
「「なっ!?」」
セシリア渾身の一射は、マドカ操るシールドビットによって防がれてしまう。
視線は眼前の一夏に向けたままの状態で。
つまり、マドカは顔すら動かさずにセシリアの攻撃を防いで見せたと言うことになる。
(…もうそろそろいいか)
ここらが潮時だと感じたマドカは一芝居を打つ事に。
「成る程な…やってくれたなセシリア・オルコット。これがお前の『作戦』か」
「さく…せん…?」
「惚けるなよ。あそこまでして私と一対一で戦う状況を作り出しておきながら、実際には自分が負けそうになった瞬間に、この男に頼んで乱入して貰う手筈だったのだろう? いやはや…見事にしてやられたよ。これがお前の『やり方』という訳か」
そこまで言われて、ようやくセシリアは自分の犯してしまった絶対的かつ致命的な過ちに気が付いた。
これは本来、自分の実力がマドカよりも高いことを証明する為に行われた試合の筈。
なのに、2対1で戦っては意味が無い。
それ以前に、これはもう試合の体裁を失ってしまっている。
「まさか、最初から二人で私をどうにかするつもりだったとはな。恐れ入ったよ」
「ち…ちが…私は…」
「何をさっきからゴチャゴチャと言ってやがる!」
頭に血が上っている上に、まったく事情を知らない一夏は声を荒げてマドカを睨み付ける。
それが自分とセシリアの首を絞めつける事になるとも知らずに。
「セシリア! 俺達が力を合わせれば、こんな奴なんて楽勝だ!」
「一夏さん…」
やる気満々な一夏とは対照的に、もうセシリアの目は焦点が合っていない。
体を震わせ、ライフルすらも手から落としてしまった。
「どうした? 言われた通りに撃たないのか? 別に幾らでも撃って貰って構わないぞ? どれだけ撃っても意味は無いとは思うがな」
この『意味が無い』は、どれだけ撃っても命中しないという意味に加え、もう何をどうしても結果は決まってるという意味も含まれている。
それを正しく理解しているのはセシリアだけだが。
「お前…セシリアに何をしたッ!?」
「別に何も? それにしても、お前も哀れだな」
「なんだとっ!?」
「救いに来た筈が、逆に引導を渡す羽目になるとは…本当に無知とは恐ろしいものだ」
「テメェ…!」
何を言っているのかは分からないが、それでも自分が挑発されている事だけは分かる。
これまでの鬱憤を全て晴らすかのように全力を込めるが、それでもマドカの身体はビクともしないし、その表情もまた変わらない。
「もう飽きたな…」
「なにっ!?」
「二人揃って、この程度とは…もういい。そろそろ終わりに…」
ビットを動かして二人揃って蜂の巣にしてやろうとすると…突如としてアリーナ全体に声が聞こえてきた。
『それには及ばないわ』
「ん?」
「なんだっ!?」
「この声は…!?」
それは管制室から聞こえる声。
オープンチャンネルで呼びかけていた。
『セシリア。この試合は問答無用で貴女の反則負けよ』
「サラ…先輩…」
アリーナから立ち去ったと思われたサラではあったが、実際には去ったのではなくて管制室に移動していただけだった。
『そして、アナタの全てが終わった瞬間でもある。残念だったわね』
セシリア・オルコットの判決が下された。
次回、セシリアにトドメを刺し、一夏にも大ダメージのおまけ付き。
まさか、ここまで長引くとは…。