面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
あれはあくまで『予定』の話なので、実際にそうなるかはまだ未定です。
良くも悪くもストーリーの流れ次第になります。
ま、それとは別にセシリアは退場、一夏にも自分の『立場』を理解して貰うとしましょう。
いきなりアリーナ内に響き渡ったサラの声。
突然の出来事にマドカ以外の全員が口を開けて驚いていた。
「セシリアが終わりってどういう意味だよ…反則負けって何の事だよ!」
全く状況を理解出来ていない一夏が管制室にいるサラに向けて吠える。
その姿は、マドカからしたら滑稽以外のなにものでもなかった。
『どういう意味って、そのままの意味に決まってるじゃない。織斑一夏君』
「な…なんで俺の名前を…」
『そりゃ、知ってるわよ。今のアナタは世界一の有名人になってるんだから』
悪い意味で…という言葉が口まで出そうになったが、そこは我慢して飲み込んだ。
ここで言わなくても、いずれ思い知ることになるのだから。
『マドカさん。今回はうちの『元代表候補生』が迷惑を掛けたわね。国を代表して謝罪するわ。ごめんなさい』
「別に気にしてなどいない。自分よりも弱いと分かっている相手と戦うのは、余り良い気分ではなかったがな」
フンと鼻息を荒くすると、マドカはレーザーライフル『スター・ブレイカー』と近接用ナイフを収納し、同時に全てのビットを機体に戻して腕組みをする。
「お…お前…どうして武器を仕舞うんだ!?」
「もう試合が終わったからに決まっているだろう。貴様は一体何を聞いていたんだ? その耳は飾りか?」
「なに…!?」
絵に描いたような挑発に反応する一夏。
それだけで、観客席に数多くいる生徒達の中にいた、まだ僅かながら残っていた一夏のファンも冷めた視線をするようになった。
『セシリアはもう候補生じゃない。クビになったのよ。その子はそれだけのことを仕出かしてきたんだから』
「嘘を言うな!! セシリアは何もしてねぇっ!!」
本気で言っているのか?
マドカはもう、この場にいるだけでストレスが溜まっていく。
一刻も早く立ち去りたいが、今から起こるであろう愚か者二人の破滅劇を近くで見てやろうという気持ちもまた強かった。
『しているわよ。まず、入学早々に日本を見下す発言をしたばかりか、女尊男卑発言までした。これで1アウト。この場には君もいたと聞いているけど?』
「そ…それは…! でも、もう終わった事じゃねぇか!!」
『終わってないわ。だって、セシリアは自分の発言に関する謝罪を全くしていないんだから』
「え…?」
ここで初めて一夏は驚いた顔でセシリアを見る。
愛しの彼からそんな顔をされて、思わずセシリアも視線を逸らしてしまった。
『そして、候補生であるにも拘らず、ISに関する完全なド素人と試合をして敗北寸前にまで追い込まれた。これは候補生としての実力を疑われる所業。はい2アウト』
「で…でも、あの試合はセシリアが勝ったじゃねぇか!!」
『あれは単に運が良かっただけよ。もし、あの状況で君のISのSEが無くならなかったら、あの試合は確実に君が勝利していたわよ? もしそうなれば、イギリスの候補生の面目は完全に丸潰れ。最高の恥晒しになっていたでしょうね。素人男子にすら碌に勝つ事も出来ない口だけの女…ってね』
あの試合は、組まれてしまった時点でもうセシリアには碌な結末が待っていなかった。
勝っても負けても得をするのは、どこまでも一夏ただ一人だけ。
もし勝てたら、一夏はその能力を高く評価されると同時に自信を付ける事が出来て、負けても『素人だから仕方がない』とされる一方で、試合を通じて様々な事を学ぶことが出来る。
つまり、あれは単に『セシリアを踏み台にして一夏にISの事を実戦形式で教える』という名目で行われた、ある種の『茶番劇』でもあったのだ。
『そして、セシリアは君と行動を共にするようになってから、候補生として大切な義務…機体の稼働報告や自身の活動報告などを纏めて国に提出するべきレポートの作成を一切行わなくなった。これは明らかに候補生としての役目を完全に放棄している。はい、3アウト』
「フン…馬鹿の極みだな」
これに関しては流石に一夏も何も言えず、その代わりにマドカがセシリアを鋭く睨み付けながら吐くように零した。
『トドメに、この間起きた『謎のIS乱入事件』において、あろうことか無断出撃をした上での手も足も出ないままの惨敗。もー…擁護できないわ。マジであり得ません』
「そ…それは! 倒された俺や鈴を助けようとして…!」
『だとしても、一言二言ぐらいは言う余裕はあったでしょう? それも無しに出撃とか愚の骨頂。話にならない。つーか論外』
何をどう言っても論破される。
何故なら、サラの言っている事は全て正論だから。
「そ…そもそも、アンタは一体誰なんだよ! さっきから好き放題言いやがって!」
『あら失礼。自己紹介を忘れていたわね。私は二年のサラ・ウェルキン。イギリスの代表候補生であり…国からの命令で、そこにいるセシリア・オルコットの監視役をしていた者よ』
「か…監視役…!?」
「サラ先輩が…私を見張っていた…!?」
『そうよ。本国は、国にいた頃から問題児であったアナタを日本に送ることに強く反対していた。けど、それをアナタはオルコット家の財力を利用して強引に解決させた。それで心配になった女王陛下は、既にIS学園に入学していた私にアナタの監視役を命じられたの。入学してからコッチ、ずっとアナタの事は見張っていたわ。文字通り…何もかも…ね』
尊敬していた先輩が、まさか自分を監視していた。
一度に沢山の情報が頭の中で錯綜し、セシリアの視界がブレブレになってくる。
『一応、私は日本における女王陛下の名代を務める事になっている。私の声は即ち、女王陛下の言葉と心得なさい』
「は…はい…」
サラが陛下の名代に選ばれるのも当たり前だった。
昔から『ウェルキン家』は代々、女王陛下に仕え、常に影に日向にイギリスの事を支え続けてきた名家なのだから。
『今朝がた、セシリアは国から候補生をクビにされる通告をされた。理由はさっき述べた通り。けど、慈悲深い女王陛下はセシリアに最後のチャンスをお与えになられた』
「最後のチャンス…?」
『そう。そこにいる高田マドカさん…実は彼女、イギリスから『候補生にならないか』とスカウトされているの。セシリアの後釜としてね』
「後釜…!?」
『で、その彼女と試合をして、もし勝つ事が出来たら今までの事は不問にして候補生のままでいさせてやる…そう言う条件だったの』
「ま…待ってくれ! それってつまり…」
『そう。今回の試合は彼女にとって最後の希望。ここで自分の実力を自分だけの力で証明しなければいけなかった。だけど…それはもう叶わない。どこかの誰かさんが試合に乱入してきたことで』
ここでようやく一夏は自分が仕出かしてしまった致命的な過ちに気が付いた。
これはセシリアが一人で乗り越えなくてはいけない試練だったのだ。
なのに、何も知らない自分が全てを台無しにしてしまった。
それを知った途端、背筋に冷たい汗が流れた。
「お…俺は…セシリアを守ろうと思って……そうだ! もう一回試合をすれば…」
『貴方バカァ? 言ったわよね? これが最後のチャンスだって。今までに何度も何度も不祥事を起こした挙句、候補生としての矜持すらも失った人間に最後のチャンスを与えただけでも相当に譲歩しているのに、この期に及んで『もう一回だけチャンスをください』だなんて都合のいい事が通用する訳がないじゃない。世の中も国も、そんなに甘くは無いのよ』
これが正真正銘のラストチャンスだった。
今している事も無駄な足掻きに等しいのに、これ以上の醜態を晒せば命すら危うくなる。
『そうじゃなくても、一人の相手に対して二人掛かりで向かうだなんて『卑怯』な行為…女王陛下がお許しになるとは思わないけど』
「ひ…卑怯…」
『その通り。我が国の候補生に『卑怯者』は必要ない』
そうだ。
幾ら相手が格上とはいえ、二人掛かりだなんて傍から見たら卑怯者にしか見えない。
実際、観客席の女子達はさっきから憎悪の籠った視線を二人に向けている。
『もしも、試合に負けるだけで済めば…最悪でも候補生クビとかだけで済んでいたかもしれないのに。よりにもよって、正々堂々の騎士道を好む女王陛下が最も嫌う事をするだなんて…アナタは祖国に対してどれだけ喧嘩を売れば気が済むのかしら?』
「ち…ちが……」
どれだけ言い訳をしても最早、無意味。
もう事は終わってしまったのだから。
『おバカな彼が乱入してきた時に、ちゃんと事情を説明して引っ込んで貰っていれば、まだどうにかなっていたのに…あろうことか嬉々として共闘しちゃうんだもん。本気で呆れてしまったわよ』
「…………」
『恋は盲目とはよく言うけど、本当にその通りね。ほんの少しの間とはいえ、自分の状況も立場も完全に忘れてしまうんだから』
どうしてこうなった?
なんでこうなった?
どこで、何を間違えた?
日本に来たのがいけなかったのか?
それとも、ISに関わった事が駄目だったのか?
考えれば考えるほど分からなくなってくる。
それでも『一夏と出会った事が間違いだった』という選択肢だけが全く浮かばないのは流石だった。
『ついでに言うと、今回の試合は衛星中継を通じて本国にいらっしゃる女王陛下もちゃんと見ていらっしゃるから』
「へ…陛下が…!?」
『そう。そして、たった今…私宛にアナタに対する最終処分を言い伝えるメールが送られて来たわ。どうやらもう、陛下は貴女と言葉を交わす事すら嫌になったようね』
イギリス国民が誰よりも愛し、尊敬すべき女王陛下。
最も怒らせてはいけないお方を自分は怒らせてしまった。
セシリアはもう正常な状態ではいられなかった。
全身から嫌な汗が流れ、顔も真っ青に染まっている。
『セシリア・オルコット』
「は…はい…」
『ブリテン国女王の名において…貴公から国家代表候補生の称号を完全剥奪とIS学園の強制退学処分。同時にオルコット家の取り潰し、及び戸籍の剥奪、国家からの永久追放処分を言い渡す』
「戸籍…剥奪…? 永久…追…放…?」
『陛下はお前と言う人間がイギリスにいたという事実すらもお認めにならないのよ。お前の仕出かしたことでイギリスは他国から不要な追及を受ける羽目になったのだから』
頭が真っ白になる。
もう何も考えられない。
自分は全てを失ってしまった。
「な…なんだよそれは!! 何が戸籍剥奪だ! 永久追放だ!! ふざけるんじゃねぇっ!!」
再起動した一夏がお約束のように声を荒げる。
それを聞き、セシリアは本当の本当に最後の希望に縋りつく事を思い付いてしまった。
それがどれだけ無様で情けないとしても、もう手段は選んではいられない。
今の彼女は藁にも縋るような思いなのだから。
「い…一夏さん!! 織斑先生に…アナタのお姉さまに頼んでくださいまし!! どうにかしてくれるように!! お願い致します!!」
「そ…そうだ! 千冬姉ならなんとかしてくれるかもしれない!」
まだ学園には戻って来てはいないけど、でも連絡ぐらいは出来る筈。
そう信じた最後の賭けだったが、それが最大級の墓穴を掘ることになるとは想像もしていなかった。
『ウフフ…そうくると思ったわ。アナタが最後に縋る者がいるとすれば、それは彼以外に考えられない。けど…無駄なのよ。無駄無駄』
「無駄じゃねぇっ!! 千冬姉なら絶対になんとかしてくれる!!」
『私が言ってるのは、そういう意味じゃないわ。分からないの?』
さっきから話が妙に噛み合っていない。
蚊帳の外になっていたマドカだけは、サラの言おうとしている事を理解していたが。
『セシリア…残念だけど、彼を頼っても無駄よ。だって……』
その一言が、一夏の破滅の序章を告げる呪文となった。
『一夏くんは最初から、アナタのことなんて微塵も見ていなかったんだから』
次回、一夏破滅への序曲&セシリア完全退場R-18行き。