面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
セシリア・オルコットがIS学園からいなくなった次の日の放課後。
最近ではもう殆ど日課と化しているアーバレストの修理に行く前の息抜きとして、食堂で皆と一緒に談笑をしていた。
今回は簪や本音ちゃんも一緒にいる。
私の周囲もかなりの大所帯になってきたなぁ…。
これじゃ、原作の織斑一夏の事が言えないや。
「マドカから昨日の一件については聞かされたけどさ…正直、マジで色んな意味で呆れたって言葉しか出なかったな~」
「全くの同意見だ。と言うか、ここにいる全員が同じ意見だと思うぞ」
この中で一番の当事者だったマドカが深い深い溜息を吐きながら、当時の事を振り返っている。
いやマジで、今回はマドカが一番の貧乏くじを引かされてない?
「セシリア・オルコットがこっちの想像以上の色ボケ女だったことにも驚かされたけど、そっちはまぁ一先ず置いておこう。ぶっちゃけ、何もかもが想像通りだったし」
結末だけを聞かされれば、あの女は堕ちるべくして堕ちたとも言える。
彼女の境遇自体には同情の余地は残されているけど、だからと言って差別主義になったり、そこからコロっと態度を入れ替えた挙句、男のケツを追い駆けることにのみ執着するようになったのは紛れもなくあいつ自身の意志だ。
こう言ってはあれだが、要するに両親が他界してしまった時点でセシリア・オルコットの破滅は約束されていたも同然だったってことだ。
哀れと言えば哀れだけどな。
更生する機会は今までにも沢山あっただろうに、本人がそれを全くしようとしなかった。
織斑一夏との試合の後なんかが最大にして唯一のチャンスだったんじゃなかろうか。
「問題があるとすれば、織斑一夏の方か…はぁ…」
全く…サラ先輩よ…やってくれたなってのが本心だ。
あの男自身がどうなろうと、私はどうでもいいんだけど…その結果が…ね。
「そう言えば、今の一組はどんな感じになってるんだい?」
「なーんにも変化なし。ね、本音ちゃん」
「そだねー…かなかなの言う通り、変化が無いと言うか…まるで皆、今までの事を必死に忘れようとしてるって印象を受けたかなー」
「忘れようとしている…か」
この子…のんびりしているようで、かなり鋭い観察眼を持っている…!
本音ちゃんの言った通り、私からしても一組の生徒達はまるで『織斑一夏やセシリア・オルコットなんて生徒は最初からどこにもいなかった』的な感じの雰囲気を醸し出していた。
「昨日の今日だからか、当然のように織斑一夏は休んでいるし。まだぞろ自分の部屋でだいちゅきなお姉ちゃんを脳内妄想で犯してるんじゃないの?」
最初、マドカの口からこの事を聞かされた時、本気の本気でドン引きした。
まさか、この私がガウルンと自分の両親以外の人間相手にドン引きする日が来るとは思わなかった。
そう言う意味じゃ褒めてやるよ。
「これが本当の『生理的嫌悪』ってやつなのですね…」
「あの時、あたしもあそこにいたけど…あまりの気持ち悪さに全身に鳥肌が立ちましたもん…うぇ~…」
「私の専用機が…あんな変態野郎のせいで開発中止になっただなんて…!」
ヴィシュヌと乱ちゃんは顔を青くして、一方の簪は眉間に皺を寄せてのマジ切れモードに。
大人しそうな子ほど、怒った時が怖いってよく言うけど…本当だったんだ…。
「まぁ…大衆の面前でオナニー映像を暴露されたのは本気で同情するし、可哀想だとは思う。けど、それとは別にあの男の『自己状況認識の足りなさ』には呆れまくった」
「あぁ…例の『常に監視されている状態』ってやつか」
「そ。あの男は自分の置かれた状況と立場ってのを微塵も理解していなかった。それが私には信じられない」
まだ子供だから。まだ高校生だから。
そんな言い訳が通用するのは昭和の時代や平成初期の頃だけだ。
この令和の世の中は、見事なまでに完全な情報化社会となっている。
ネットの海にさえ潜れば、それこそ調べられない情報なんて何もない。
その気になれば、小学生だって上手にネットを使ってみせる。
無駄に知識だけが先行している子供なんて、今では全く珍しくない。
もしかしたら、そいつらの方が織斑一夏よりも正しく状況を認識できるかもだ。
「表向きの事とはいえ、今のアイツは『世界で唯一無二の男性IS操縦者』という肩書を持っている。絶滅危惧種の動物なんかとは比較にすらならない。本当に世界でたった一人の超絶希少な存在なんだ。アイツの身体からは、世界中の研究者たちが喉から手が出るほどに欲しがっているデータが腐るほど出てくる。そんな連中が大人しくIS学園にあの男を通わせるわけがない。研究施設に来ない代わりにIS学園に通わせようとした際、絶対に研究者と学園側で何らかの交渉が行われた筈だ」
「それが…あの男の完全監視…?」
「恐らくは。そもそも『研究者』って人種は、往々にして身勝手で我儘で自己中心的で、目的の為なら手段なんて全く選ばないような狂人集団だ。完全監視だけで済ませているだけでも相当に譲歩しているよ」
うーん…自分で言っておきながらアレだけど、私も相当に偏見な眼を持ってるな…。
なんたって、ソースが自分の両親だからね。
「本当なら、最低でも一日数回の体液接種とか、健康診断とかもされられていても全く不思議じゃない。けど、実際には…?」
「全然、それっぽいことをしている様子は無かったよね~」
他のクラスである皆はともかく、私と本音ちゃんはアイツと同じ一組だ。
何から何まで…とまではいかなくとも、少なくとも教室内でのアイツの動向ぐらいは把握出来る。
「そこら辺は、アイツの姉貴がどうこうしてたんだろうけど…それでも、一言ぐらいは何かあってもよかったんじゃないかって思う」
「織斑せんせーはなんていうか…言葉が足りないよね~」
「本音ちゃん…上手いこと言うね。はい。座布団の代わりにアメちゃんあげよう。ミルクココア味」
「わ~い♡」
「「「「「餌付けされてる…」」」」」
ん? なに? 皆もアメちゃんが欲しいの?
「話を戻すけど、織斑千冬は自分の弟に可能な限り心配を掛けさせたくないって意図が見られる。別にそれ自体は何もおかしくはないし、自分の弟に対する当然の反応だと思う。だからと言って、何も言わないのは間違ってるけどね」
「確かに。必要な情報を隠す事で、将来的に不利益を被る可能性だって出てくる。丁度、今みたいに」
玉芳が私の話を見事に補足してくれた。
伊達にあのガウルンの下で弟子をしてないってことか。
『要は話し方の問題…ということですね。それとなく注意を促すだけでも、かなり違っていた事でしょう』
「ここでアルも入ってくるか」
『暇だったものでつい』
『つい』で会話に乱入してくるとか、もうそれAIの思考じゃないから。
完全に人間の思考になってきてるから。
『一応、あれから私の方でも少し調べてみましたが、あの映像は一般的には公開されていないようです』
「マジで? てっきり、まだこの学園に隠れ潜んでいる女尊男卑思考の馬鹿どもがネットにばら撒いてると思ってたけど…」
『どうやら、何者かによってブロックされていると思われます。恐らくは…』
「篠ノ之束か」
そんな事をやりそうな人間なんて、あの女以外には考えられない。
「ちょっと待ってほしい。アル、君は今『一般的には公開されていない』と言ったね? と言うことは、どこか別の場所では公開されているのか?」
『その通りですロラン。どうやら、例の映像は『女性権利団体に所属している者達専用のサーバー内』でのみ閲覧できるようになっている模様です』
「なんでまた、そんな面倒な事を…」
「戦意高揚…いや、団体全体の士気を上げる為か」
実際、その効果は最低最悪の形で発揮されている。
その証拠が今、私達の後ろでアホ丸出しの顔で演説しているしね。
「皆さん! 昨日の例の試合を見たでしょう!? あれこそが織斑一夏の本性!! 大人しそうな顔をしていても、その仮面の下では常に我々の事を下卑た目で見ていたのです! あんな下劣なる人間を、これ以上この神聖なるIS学園に野放しにしていていいでしょうかっ!? 否!! 断じて否!! 幾らISを動かす事が出来ても所詮は男!! 暴力でしか物事を解決できない野蛮な生き物など存在する価値すら無い!! 一刻も早く、あの男をこの学園から追放し、再び平穏なる学生生活を取り戻しましょう!!」
一体どこの選挙演説かッつーの。
聞いているだけで反吐が出る。
けど、悲しいことにあれを聞く一定数の奴等がいるのもまた事実なんだよねェ…。
それを助長してしまったのが、例の映像なんだけど。
「別に性欲処理をするなとは言わないけどさ…もうちょい警戒心とか持たなかったのかね? 誰もいないからってベッドの上で堂々と…アホか。いきなり誰かが部屋に尋ねてきたらどーするつもりじゃい。せめて、トイレとか風呂場とかにしろよな」
「ち…因みに…加奈さんは…どうしてるの…?」
「私? 仮にベッドでするとしたら、最低でも部屋の鍵を閉めて、カーテンも閉めて、喘ぎ声も漏らさないようにシーツを噛みながらする」
「て…徹底的なんですね…」
「そんな加奈も可愛くて好きだけどね」
あらら…乱ちゃんが顔を真っ赤にしてしてしまった。
うん。めっちゃ可愛いです。抱きたい。
ついでにロランの惚気言葉も頂きました。
余談だけど、夏姉妹はこの手のネタには耐性が無いみたいで、姉妹揃って顔だけじゃなく耳まで真っ赤に染めていた。
「またまた話が逸れたけど、今回の事は偏に織斑一夏だけが悪いとは言い難い。セシリア・オルコットにトドメを刺す為とはいえ、完全にやり過ぎたサラ先輩にも悪い所はあるし、弟に対する注意喚起が足りなかった織斑千冬も悪い。当然、自分の置かれた立場を正しく把握しておらず、何もかもを全て勘違いをした挙句、余りにも注意力が散漫していた織斑一夏も悪い」
「『やり過ぎ』と『言葉足らず』と『注意力不足』が綺麗な形で重なってしまった結果が…」
「今のこの状況…ってことね…」
ヴィシュヌと玉蘭が辟易した顔で、まだ食堂の端の方で演説している女尊男卑主義の生徒を眺めている。
多分、あの女子は女性権利団体の母親を持ってたりするんだろうな。
余程の事が無い限り、自分からあんな歪んだ精神になったりしないだろうし。
「これからIS学園は、どうなってしまうのだろうね…」
「分からない。けど…」
「けど?」
「…織斑一夏がいなくなるのは時間の問題かもしれないな…」
大勢の生徒達の前で醜態を晒し、その実力もガウルンやマドカによって証明されてしまった。
今のあの男は、マジで『ISを動かせる男』という価値しかない。
ならば無理にでも学園に通わせる必要は無いんじゃないかと言う意見が出てきても不思議じゃない。
場合によっては、あのクソ両親がお手製の男性IS操縦者を送り出してくる可能性だって否定できない。
この状況を覆す方法は…無いだろうな。
もし、織斑一夏がISを動かした『本当の理由』が知られてしまったら…あの男は間違いなく殺される。
完全なる『裏切り者』として。
…どうでもいいんだけど。