面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
深夜になり、私と夏姉妹、ダリル先輩の四人は寮にある私の部屋に集合していた。
勿論、部屋の灯りは消してある。
「まさか、こんな形で加奈の部屋に来ることになるなんてね」
「別に、これからも来たかったら好きに来ても良いよ? 別に知らない仲じゃないんだしさ」
「…そうだね。それじゃ、今度からそうさせて貰う」
今となっちゃもう、私もこの姉妹を警戒なんてしていない。
する理由が無くなったから。
「にしても、まさかまたスニーキングスーツを着る羽目になるとはな~。伸縮自在のフリーサイズで助かった」
「私とお姉ちゃんのは自前。一応、最新型」
「オレのは普通に叔母さんからのお下がりだな」
スニーキングスーツのお下がりって…。
「そういや、今回の事はスコールさんに?」
「おう。ちゃんと話した。何にも言ってなかったぞ? 寧ろ、出来るのなら是非ともして欲しいって感じだった」
「スコールさん達も、間接的な意味であの女の被害者だからなぁ…」
前に、栄養ドリンク片手に仕事をしているスコールさんとオータムさんを見かけて、思わず夜食の差し入れをしたことがある。
その時は二人に抱き着かれながら泣いて喜ばれた。
「一応、分かっているとは思うけど、念の為に言っておく。作戦が開始したら、基本的に会話は全てISを介した『プライベート・チャンネル』で行う事とする」
「「「了解」」」
やってる事は殆ど潜入ミッションだからね。
変に声を出すなんて論外中の論外だ。
ISを使えば声を出さなくても会話は出来る。
使える物は何だって使わないと。
『軍曹殿。虚から通信です』
「OK。音量は出来るだけ下げて、その上でオープンチャンネルにして」
『了解』
私の義眼から虚先輩の声で通信が入ってくる。
傍から見ると凄い光景だけど。
『あー…あー…テステス。皆さん、聞こえますか?』
「「「「聞こえる」」」」
『結構。お偉方に連絡した所、案の定、喜んで話を聞き入れてくれました』
「ってことは…」
『はい。防犯の関係上、今から最大で1時間。校舎内と学生寮、そして学園敷地内の全ての防犯カメラや警報装置などが完全停止します。その間に地下へと続く道へと侵入してください。そこには防犯カメラの類は一切無いので』
「最初から何者かに侵入される事を想定していないってか?」
『その通りです。それだけ学園内の防犯設備に自信があるのでしょうが…』
「そいつが通用するのはズブの素人だけだ。オレらみたいにプロとしての心得が少しでもある奴が相手だと全く意味がねェ。もしも軍人とかが集団でやってきたら、こんな学園なんて一溜りもねぇよ」
『それには同感です』
どこまでも、この学園の防犯は『普通の不審者』相手にしか想定していない。
その手のプロが本気になれば、それこそ幾らでも警報装置や防犯カメラなんて簡単に無力化できる。
それでも、並み居る犯罪者たちがここを襲撃しようとしないのは、偏に『IS』と『ブリュンヒルデ』という最大の防犯装置があるからだ。
だが、ブリュンヒルデは男達によって調教されて『雌犬』となっているし、ISだって操縦者が素人なら簡単に制圧できる。
今はまだその事実が知られていないから大丈夫だけど、このことが公になれば大変なことになるだろう。
ま、いざとなったら私達がどうにかするんだけど。
「にしても…1時間ね。時間的にはギリギリかしら」
「場所自体は先生から貰った地図で分かるけど…」
「まさか、校舎一階のど真ん中とはなぁ…」
正確には、本校舎一階の物陰に当たる部分。
普段は背景の一部としてしか見ていない場所で、普通に通り過ぎている。
だからこそ最大の効果を発揮してるんだけど。
『当然ですが、出入り口は隠し扉となっており、侵入するには専用のパスコードが必要となります』
『パスコードは既に私の方でハッキング、入手済みですのでご安心を』
「わーお…アル君ってば頼りになるぅ~」
ほーんと、こーゆーことに関しては手が早いんだから。
「ターゲット確保後は、先生が受け取りに来る手筈になってる」
「どうやって?」
「IS…コダールを使うって。特注のステルス装置を外付けで装着して来るって言てた」
「アイツがねェ…」
あのバカが直々に動くとは…人手不足なのか?
いや…違うか。
ガウルンは別に部下を信用しない男じゃない。
単純に『自分がした方が確実』と判断しただけか。
実際にそうだから嫌になるんだよな。
「合流場所は、学園近くの海岸」
「流石に敷地内で受け取りはしないか」
それはそれで地味に大変だが、一度でも敷地外に出てしまえばどうとでもなる。
そこまでが勝負って感じかな。
『では、通信を切ります。頑張ってください』
「あいよ」
さて…と。
それじゃ、そろそろ気持ちを切り替えますかね。
『軍曹殿。あと1分で深夜12時…作戦開始時刻です』
「分かった」
部屋にある壁掛け時計の秒針がゆっくりと動く。
そして…。
「時間になった。作戦開始」
「「「了解」」」
私達は、音が出ないようにドアノブを回してから廊下に出た。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
当然だが廊下は真っ黒状態。
私達は事前に用意しておいた暗視スコープを装着して、気配と足音を消しながら寮の廊下を進んでいく。
監視カメラの類は完全に沈黙しているが、警備員は普通に歩き回っている。
と言っても、人数はそこまで多くは無い。
精々が一つの寮に対して一人や二人程度だ。
学生寮よりも、機密満載な校舎の方にこそ警備員は多く配置されている。
(何事もなく寮から出られれば最高なんだけど)
窓から飛び降りるって手段も一瞬だけ考えたんだけど、それだとどうしても大きな動きとなるので完全に音などを殺せない。
万全を期すために、こうして地道に寮の出入り口から外に出るのだ。
我ながら、かなり間抜けな光景なのは自覚してる。
だけど、これが一番確実なんだから仕方がないじゃない。
(む? あの灯りは…)
懐中電灯? ってことは警備の巡回か。
『どうする?』
『私に良い考えがある。そこの物陰に隠れて』
四人皆で物陰に隠れ、一ヵ所に集まる。
それを確認してから、アーバレストの拡張領域に密かに入れてあった『潜入工作用特別ダンボール(LLサイズ)』を取り出して皆で被る。
機体が修復中とはいえ、物の出し入れぐらいは普通に可能だ。
因みに、段ボールには『相良研究所 IS用パーツ』とポップなゴシック体で書かれてある。
『おいおい…これで本当に大丈夫なのかよ?』
『まぁ…見ててよ。セ・ン・パ・イ』
僅かな隙間から外の様子を伺う。
すると、警備員が振り向いて、こっちにゆっくりと近づいてきた。
「ん? なんだこりゃ? ダンボール…? なんで、こんな場所に…」
普通に怪しんで手を伸ばしてくるが、そこでふとダンボールに書かれた文字が気になったのが手を止めた。
「IS用パーツ…だって? おいおい…冗談じゃないぞ。なんだって、そんな物が入ってる段ボールを、こんな寮の廊下のど真ん中に置いておくんだよ。ったく…これだから学生って奴は…」
なんか急にブツブツと愚痴を言い出したし。
いきなりどうした?
「IS用のパーツが入ってるんじゃ迂闊に触れないしな…。変に移動させて文句を言われても嫌だし。仕方がない…このままにしておくか。さて…と。お次は三階だったな」
見るだけ見てから、警備員は欠伸を噛み殺しながら三階へと昇って行った。
完全に姿が消えるまで待ってから段ボールを脱ぐことに。
『凄い…本当にダンボールで誤魔化せた…』
『だから言ったでしょ?』
私の心の師匠は『スネーク』だ。
ゲームも全シリーズやった。
『ソリッド』も『ネイキッド』も大好き。
『…他の気配も感じない。どうやら、この寮を巡回してるのは、さっきの奴だけみたいだね』
『それじゃあ…』
『うん。後はもう外に出るだけ。急ごう。早く隠し通路まで行かなくちゃ』
気配&足音を消してから行動再開。
順調に寮の廊下を進んでいくと、ふとどこからかベッドが軋むような音が僅かではあるが聞こえてきた。
(ん? この音は…?)
よーく耳を澄ませたら、ベッドが軋む音だけじゃない。
肉と肉がぶつかり合うような音や、水音みたいのも聞こえてくる。
音の出所を探ると『1025』と書かれた部屋に行きついた。
(この部屋は確か…あの野郎の…)
あぁ…成る程ね。そーゆーことですか。はいはい。
(…発情した猿みたいに盛りやがって。一生、そこで姉弟の近親相姦でもやってろ)
頭を振って気を取り直し、先を急ぐことにした。
後で知った事だが、私達が去った後もずっとヤってたらしく、一晩中に渡って姉弟の喘ぎ声が聞こえていたらしい。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
当然だが、外にも警備員は普通に巡回している。
人数は寮の中よりも多い。
けど、外ならば隠れる場所も無数に存在している。
寧ろ、室内よりも行動はし易いかもしれない。
(いざとなれば、私が魔改造した『Maxim9』麻酔銃バージョンを使うけど)
これ、地味に私のお気に入りなんだよね。
だから常に拡張領域の中に入れてある。
(…今だ!)
警備員が背中を向けた隙を見計らって、素早くその場を通り過ぎる。
それを何回か繰り返していく内に、本校舎の外観が見えてきた。
(警備員と言っても、所詮はただ見て回っているだけ。隙を突く事は簡単だな)
だからと言って油断をする気は無いけど。
『ここまで来たら、とっとと校舎まで行こうぜ。もう30分を切ってるんだしよ』
『いつもなら、寮から校舎まで、あっという間なのにね』
『隠れながら進んでいるせいか、いつもよりも余計に時間をくってるんだよ』
『先輩の言う通り…隙を突いてから一気に行くか。慎重かつ大胆に…ってね』
さて…問題は、どのタイミングで仕掛けるか…だけど……ん?
「ふわぁ~…ったく…幾ら仕事つっても何が悲しくて、こんな真夜中に見廻りなんてしないといけねーんだか…。どれだけ給料が良くても割りに合わないっつーの」
おいおい…なんか急に若い警備員が愚痴を言いながらベンチに座りやがったぞ?
完全に仕事を舐めてますな。
それなら、私からサボり野郎に快適な睡眠をプレゼントしてやろう。
『狙いを定めて……そこ!』
完全消音の麻酔銃をベンチに座っている警備員に向けて発射。
背中を伸ばして両腕を上げた一瞬に脇腹に命中。
一瞬だけビクッとなったが、すぐに全身がダランとなって眠りに落ちた。
『あ…ヤベ』
警備員を難なく無力化出来たは良いが、その手から懐中電灯が地面に落ちようとしている。
物音を聞きつけられて集まられたら厄介だ。
『ちっ!』
足音を消した状態で全速力で走り、懐中電灯が落ちる前にキャッチ成功。
スイッチを消してから警備員の手に戻してやることに。
『ふぅ~…ちょっとだけ焦った』
『すげー…なんだよ今の走りは…普通に世界記録更新してるだろ…』
『流石は加奈ね…』
『私の事は良いから。それよりも、早く校舎まで行くよ』
『『『了解』』』
こうして、私達四人は深夜の本校舎へと侵入すべき歩みを進めるのだった。
次回、箒誘拐(茶番)。