面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
少しだけ危ないシーンもあったが、順調に深夜の校舎へと侵入することに成功した私達4人。
因みに、さっき麻酔銃で眠らせた警備員は、ご丁寧にベンチの上で横にしてやった。
傍から見ると、完全に最初から寝る気満々のサボリ野郎である。
私が上司だったらマジ切れした上で給料抜きにしてるな。
『想像はしてたけど、深夜の校舎って不気味だな…』
『窓から差し込む月明かり…フリーホラーゲームのワンシーンみたい』
『お姉ちゃん。それだと私達、これから恐怖体験することになっちゃうけど…』
『このメンバーなら、大抵の事が起きても余裕で解決できそうだけど』
少なくとも、私達はホラーゲームによくある『一般人系主人公』ではない。
元傭兵に、元傭兵に育てられた工作員。
トドメに元テロリストで米国の候補生だ。
勿論、全員が専用機持ち。
ちょっとした部隊ぐらいなら余裕で潰せるぐらいの戦力だ。
『それじゃ、とっとと行きますか。当然だけど、警戒は怠らずに…ね』
『『『了解』』』
地下へと続く隠し通路の場所は校舎一階のど真ん中…正面玄関付近であることは既に分かっているが、正確な場所は分かっていない。
それは近くまで行ってから確かめればいい。
今は兎に角、移動することは大事なのだ。
寮内と同様に、足音を殺して腰を低くしつつ廊下を進んでいく。
パッと見はまるで、どこぞの怪盗団みたいだ。
(警備員は…周囲にはいないみたいだな。恐らく、他の場所を見廻っているんだろう)
IS学園のセキリティは、基本的に警備システムに依存している。
学園を見廻っている警備員は、IS委員会の連中が小五月蠅い教育委員会の連中を黙らせる為に形だけで配備しているだけに過ぎない。
最近の教育委員会は中々に馬鹿に出来ない権力を持ち始めているからな。
時と場合によっては、IS委員会や女性権利団体であろうとも関係なく噛み付くような集団になっている。
そこら辺は普通に感心するんだけど、実際には単なるモンスターペアレントの集まりだ。
実質的には、やっている事は権利団体やIS委員会と大差はない。
そんな連中を黙らせる為に仕方なく、無駄にプライドだけは高いIS委員会の連中が警備員を雇ったんだろう。
だって、警備員を雇うって事は、自慢の警備システムが万全ではないと自分達の手で証明しているようなものだから。
警備員の数は必要最低限なのは、委員会のアホ共のせめてもの抵抗なんだろう。
こっちとしては非常に有り難いけどね。
(けど…今回の誘拐作戦って、委員会も極秘裏に許可しているんだよな…。それを思うと少し複雑)
連中やクソ両親の掌で踊らされている感はあるが、だとしても篠ノ之箒と言う存在がIS学園にとって不必要であることには変わりはない。
在籍しているだけで不利益しか生まない生徒なんて、誰も守ろうなんて思わない。
今まで奴が守られて来たのは、全て姉である篠ノ之束の見えない加護があったからに過ぎない。
その加護が無くなった以上、学園側としてもあの女を学園に置いておく道理も義理も無い。
仮に私達が動かなくても、いつの日か必ず何らかの形で退学という名の追放処分になっていただろう。
無論、これまでの所業の全てを奴が転入する可能性のある全ての学校に知らせるというオマケ付きで。
委員会はやる時は徹底的にやる。絶対に逃げ場なんて与えない。
なーんて考え事をしている間に、最初の目的地付近へと無事に到着した。
『軍曹殿。地図に示されている場所は、この付近です』
『了解。パッと見は何も無いように見えるけど…』
普通に見る感じでは、何の変哲もないタダのコンクリートの壁だ。
けど、私にはそんなのは通用しない。
こうして、壁に手を当ててツツー…と這わせていくと…。
『…あった。本当に微妙だけど、極僅かな段差があった。多分、ここだ』
試しに軽く壁を小突いてみると、明らかに他の場所とは音が違った。
なんというか…中に空洞がある感じの『コンコン』って音だ。
『本当だ…』
『スゲーなお前…まさか、手の感覚だけで探り当てるとは…何者だよ…』
『ただの女子高生です』
『軍曹殿。流石にそれは笑えません』
『うっちゃい』
女子高生が女子高生を名乗って何が悪い。
私は純然たる事実を言っているだけでしょうが。
『予め用意しておいた特製吸盤をくっつけてー…ハイ取れた。後は、こうして義眼から伸ばしたケーブルを繋いでー…アル、お願い』
『
パスコード自体は既に入手済みなので、後はそれを入力するだけ。
これさえ乗り越えれば、後は一気に仕事が楽になる。
『義眼って分かってても、スゲー光景だな…』
『眼からケーブルが伸びてるしね…』
『周囲が暗いから、そこら辺のホラーよりもずっと怖いかもしれない』
『はいそこ、うっちゃい。私は別に青鬼でもなければ、ヨシエでもないんだよ』
私に触れたからって別にゲームオーバーになんてならんわい。
『入力完了。扉を開きます』
私達が軽い雑談をしている間にアルは仕事を完了してくれた。
目の前にある壁に擬態した扉が、プシューという音と共に開き、中へと続く道が出現する。
『これより第二フェーズへと移行する。各員突入開始』
『『『了解』』』
パスコード入力盤を隠していたパネルを元に戻してから、私達は暗闇が支配する空間へと入って行く。
侵入直後、扉は音も無くゆっくりと閉まり、完全に私達は闇と同化した。
「…流石に、ここからは肉声で話しても大丈夫でしょ」
「みたいだな。ふぅ…こんなにも長くプライベート・チャンネルを使い続けたのは初めてだったぜ…」
「全くね。本当に変な感覚だったわ」
「もう少し長くしてれば、癖になっていたかもしれない」
それはそれで御免被るなー。
やっぱ会話は肉声でないと。
「…で? ここからはどうなってるの?」
「ちょっと待って。えっと…」
玉芳が魔改造スマホを取り出してからディスプレイに地図を表示させる。
私達はあくまで『不法侵入者』なので、ご丁寧に灯りなんてつけてくれない。
なので、このスマホが唯一の光源になっていた。
「この先に専用のエレベーターがあるみたいね。しかも、またもや専用のパスコードを入力しないと目的地に辿り着けない仕様になってる」
「はぁ…ご丁寧に手間暇をかけてくれちゃって」
呆れてモノも言えませんな。悪い意味で。
「そのパスコードは?」
『無論、私が入手済みです。お任せください』
「アルが物凄く頼もしすぎる件」
思わず『もうアルだけでいいんじゃないかな』って言いそうになった。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。手っ取り早くてよ。んじゃ、とっとと『お姫様』の元まで急ごうぜ」
「「「賛成」」」
ダリル先輩の言う通り、余計な手間が省けるに越したことはない。
ここは素直にアルに感謝しつつ、進む事にしよう。
そういや、学園の地下には他にも、例の無人機を解析した場所とか、後は私の記憶が正しければ『暮桜』が密かに保管されている的な話も聞いたことがあるような気が…。
ま、別にいいか。
今はそれは全く関係ないし。
気にせずに今は先を急ごう。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「エレベーター乗ってる時に屁を出した奴って死刑にならないかな」
「いきなりどうした?」
「いや…なんか目的地が想像以上に地下深くでエレベーター乗ってる時間が暇なので、女子高生らしい話題でもしようと思って」
「今のどこが女子高生らしい話題なの?」
「まるで、仕事に疲れたOLみたいな話題」
『軍曹殿。今のは流石に私も擁護できません』
「まさかの全方位からの集中砲撃ッ!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
エレベーターが止まり、目的地である『特別収容棟』と言う名の問題児専用矯正収監施設に到着した。
『念の為、ここからはまたプライベート・チャンネルで話すよ』
『分かった。んで、例の女はどこにいるんだ?』
『あんまり広くはないみたいだし、手分けして探せば…』
『その必要は無いみたい。皆、あそこ』
『『『ん?』』』
玉蘭が何かを見つけたのか、ある場所を指差す。
そこにあったのは、何とも言えない姿になった、嘗ての剣道暴力娘の成れの果てだった。
『おいおい…マジかよ…』
ダリル先輩が驚くのも無理は無い。
本物の刑務所と同じ牢屋の中に収監されていたのは、その全身を『拘束衣』に包まれ完全に身動きが出来ない状態にされ、更にはSM専用のアイマスクに特製耳栓、鼻と口を覆い尽くす特殊マスクで防がれている。
よく見たら、マスクとは別の部分から伸びた紐みたいな物があって、恐らくはマスクの下に猿轡、もしくはボールギャグが咥えられているんだろう。
『幾ら稀代の問題児だからっつってもよ…ここまでするのかよ…』
『徹底してるわね…』
『哀れな女…』
これが、姉の威を借り続けて好き放題暴れた女の姿か。
見れば見るほどに醜くて仕方がない。
もしも、自分の想い人が自分が過ごした部屋で姉と近親相姦の真っ最中だって知ったら、どんな反応をするのだろうか。
精神が壊れる? それとも『信じない』とか言って大暴れする?
ま…どっちでもいいか。
別に興味とか無いし。
『…取り敢えずは目的のブツを発見って感じか。じゃあ、早く運び出す準備でもしますかね』
完全に五感が封印されたこの状態だと、私達がここにいる事にすら全く気が付いていないだろう。
音に配慮することなく牢屋の鍵をピッキングで開けられるな。
『ここをこうして…っと。玉芳、そこの器具を取って』
『これね。どうぞ』
『ありがと。後は、これを使ってこうすれば…』
カチ
『…開いた』
『『『おぉ~』』』
音を出さないように小さく拍手された。
ちょっとだけ照れる。
『でもよ、流石に体を抱えようとすれば気が付かれるんじゃねぇのか? どうする?』
『さっきの警備員みたいに眠らせる?』
『それもいいけど…もっといい方法を思い付いた。皆、少しの間だけ音を立てないようにしててね』
そーっと篠ノ之箒に近づいてから…片方の耳栓だけを取って、そこに私の口を近づける。
そして、私の特技の一つをご披露した。
「待たせちまったな箒。助けに来たぜ」
「……!?」
相良加奈ちゃんの数ある特技の一つ『声真似』。
ぶっちゃけ、かなり嫌ではあるけど、少しでも仕事をスムーズに済ませる為に仕方なく、織斑一夏の声を真似て篠ノ之箒の耳元で呟いた。
普通に考えれば、『どうしてコイツがここにいるんだ』とか思うだろうけど、異常なまでにあの男を妄信しているこの女ならば、疑う事すらしないだろう。
「………!」
『泣いてやがるし…』
『どうして少しも疑問に感じないのかしら…』
『バカみたい…』
そう言ってやるなって。
これからの事を考えたら、人生最後の慈悲ぐらいは与えてやってもいいだろう。
「今すぐにでも出してやるから、少しだけ寝ててくれ。な?」
「………!」
嬉しそうに何度も頷くバカ女に呆れながら、私はこいつの首元に強力睡眠薬を注射した。
すると、一瞬で全身の力が抜けたかのようにガクッとなる。
「結局、眠らせるんだ」
「まぁね。でも、同じように眠らせるにしても、大人しく眠って貰った方が色々と楽でしょ?」
「そうかもね。じゃあ、後はこいつを運び出すだけね」
「そゆこと。後もう少しだ。がんばろー」
「「「おー」」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
来た時と同じルートで地下から出て、その後に警備員に発見されないように細心の注意を払いながら学園の敷地の外へと出ることに成功した。
因みに、篠ノ之箒の身体はダリル先輩が運んでくれた。
「ふぅ…外の空気が美味しい…」
「だな。お前らの『先生』ってのはどこにいるんだ?」
「えっと…あ。いた」
「あそこにいる」
「「ん~?」」
合流地点である学園近くの海岸まで行き、双子が指さす場所を凝視すると、なんか微妙に空間が歪んでいるような感じがした。
まさか…あれか…?
「おいガウルン」
「おぉ…カシムか。まさか、本当にテメェが協力してくれるとは思わなかったぜ。冗談のつもりで言ったんだけどなぁ…」
ISの光学迷彩が解除され、徐々に嘗て見た白銀の機体『コダール』が出現した。
「お久し振りです。先生」
「命令通り、篠ノ之箒を運んできました」
「よくやったな。ま、カシムが協力した時点で成功は確約されたようなもんだが」
「うっちゃい」
こいつに褒められても微塵も嬉しくないわ。
「こいつが…例の襲撃者なのか?」
「そ。生粋の戦争狂の変態野郎だよ」
「…明らかに普通じゃねぇな。立ち上る雰囲気に狂気が混じってる気がしやがる…」
へぇ~…流石はスコールさんの従姉妹ってだけはあるか。
初見でガウルンの異常さに気が付くだなんて。
「ほぉ…? 中々にやるじゃあねぇか。気に入ったぜ。なぁ…アメリカの候補生サンよ」
「テメェ…オレの事を…!?」
「当たりめぇだ。仕事柄、そーゆー情報は全て仕入れてるんだよ」
じゃないと傭兵なんてやってられないしな。
それだけは普通に共感できる。
「それよりも、とっとと受け取れ」
「おっと。そうだったな」
ダリル先輩がガウルンに篠ノ之箒を手渡す。
完全に物扱いだが、気にする必要は無い。
これは予想だけど、これから奴は本当の意味で『物扱い』されるから。
「ありがとよ。礼と言っちゃなんだが、テメェが使ってる口座に『一本』振り込んでおいてやるよ」
「勝手にしろ」
「それじゃあな。今度は戦場で楽しく殺し合おうぜ! カシムゥゥゥ…!」
「うっちゃい! とっとと行け!」
「ハハハハハハハハハハ!」
最後に大笑いをしながらガウルンは篠ノ之箒を腕に抱えながら上空へと消えていった。
「はぁ…最後の最後に物凄く疲れた…」
「お前…アイツと因縁とかあるのか?」
「一応…過去に色々とありまして…」
「そ…そっか…お前も苦労してんだな…」
苦笑いをしながら私を頭を撫でてくれるダリル先輩。
その優しさが今だけは凄く身に染みた。
因みに、夏姉妹は去りゆくガウルンを見届けながら手を振っていた。
箒の末路はもう既に決定済み。
どうなるかはお楽しみ。