面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えず走る

 ちょっとした裏技を使い、アルが私のスマホにアリーナにあるモニターの映像を映し出してくれた。

 隣ではロランが覗き込むようにして一緒に見てくれている。

 

「これは…確かに全身装甲で銀色のIS…だね」

「うん…。パッと見だとシャドウに酷似していると思うけど…」

 

 少なくとも、私はこんなISは知らないし、見た事も無い。

 アルの話では、あらゆるデータバンクにも全く存在していないらしく、完全な『未知のIS』と言う事になる。

 けど、重要なのはそこじゃない。

 問題なのは、この機体から発せられた『声』だった。

 

「ねぇ…アル。この声って、まさか……」

『その『まさか』であると推測できます。少なくとも、私のデータにある『声』と銀色のISから聞こえてきた『声』は完全に一致しています。まず間違いないかと』

「け…けど…『アイツ』がISを操ってるなんておかしいよ。もしかしたら、遠隔操作とかで声もスピーカー越しに…」

『残念ながら、あの声は機体内部から発せられています。中に誰かが搭乗しているのは間違いないかと』

 

 アルの言う事に間違いは無い。

 今までもそうだったし、これからもそうだという確信がある。

 だからこそ猶の事信じられない。

 だって…だってアイツは……。

 

(()()()()()()()()()()()()()()()()()……)

 

 幽霊が動かしてるなんてのは有り得ないし、そもそもの話、一体どこで『奴』はあのISを手に入れた?

 背後には誰が潜んでいる?

 

「加奈…君はアイツの事を知っているのかい?」

「良く分からない…」

「…? それはどういう…?」

『軍曹殿や私が知っている人物かどうか怪しいから…と言う意味です。確かに、あらゆるデータが我々の知っている人物であると言っているのですが、だとするとどうしてもおかしい部分が出てきてしまうのです』

「おかしい部分?」

『はい。それは……』

 

 アルに全てを説明される前に、私が自分の口で答えを言う事にした。

 

「本当なら…ずっと前に死んでいる筈だから…だよ」

「死んでいる…? まさか、君が…?」

「ううん…違う。病気だよ。しかも重度の。何もしなくても、放っておけば勝手に死ぬぐらいのやつ」

『私の計算でも、彼がああして生きているのは明らかにおかしいのです。確実に何らかの処置がなされていると考える方が自然です。ですが……』

「生半可な腕じゃ治療なんて無理でしょ。だってあいつ…医者から堂々と余命宣告受けてたんだよ?」

 

 …なんて話してるけど、実は約二名だけ『アイツ』を完全完璧に治療できる可能性を秘めた人物を知っている。

 一番想像したくない可能性だけど…こういう時の悪い予感程よく当たるってのがお約束だからな…。

 

『軍曹殿。どうしますか?』

「いつもなら普通に無視…って言ってる所だけど…」

「…行くのかい?」

「うん。別にあいつ等がどうなろうと本気でどうでもいいけど、アイツがいる以上はここで大人しくてる訳にはいかないから。もしも、本当に『アイツ』なら…狙いは間違いなく私だろうし」

『アリーナにはマドカ達もいます。行くのなら急いだ方が宜しいかと』

「だね」

 

 もう制服まで着るのは面倒くさいので、ISスーツだけを着てから簡単に準備を整える。

 すると、私の隣で同じようにISスーツに着替えているロランがいた。

 

「私も一緒に行くよ。大丈夫、加奈の邪魔はしないさ」

「ロラン……ん?」

 

 スマホにメール…?

 送信相手は…マドカ?

 

「…………」

「加奈?」

「ちょっとマジで急いだ方が良いかもしれない。アル…全速力で走るから、最短距離でアリーナまで行けるルートのナビをよろしく。勿論、ロランも一緒に行ける道をね」

『了解。お任せください軍曹殿』

 

 さて…いっちょ行きますか!

 待ってろよ…クソッタレ野郎!!

 

 

 

 

 

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・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃ試合でもなければ戦いでもない。

 一方的な『蹂躙』だった。

 

「おいおい…まさかとは思うけどよ、それが本気とか言わねぇよな?」

「く…くそぉ…!」

 

 真っ先に攻撃を仕掛けた一夏は、呆気なく倒されて足蹴にされ、鈴は一夏が敵の近くにいるせいで思うように攻撃が出来ないでいた。

 

「ゲリラの少年兵でも、もうちっとばっかし気合が入ってんぞ? ま、こーんな『ごっこ遊び』で満足してるようなガキ共にゃ丁度いいかもしれねぇがな」

「なんですってぇ…言わせておけばぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 明らかな挑発に乗り、鈴が激高しながら二対の近接ブレード『双天牙月』を振り回しながら突撃する!

 だが、その思い一撃もIAI単分子カッター『ダークエッジ』によって呆気なく受け止められた。

 

「この…華奢な見た目の癖に…なんつーパワーなのよ…!」

「アホか。パワーの違いなんてのは、やり方次第で幾らでもカバー出来んだよ。はぁ…やっぱ…つまんねーなぁ…。『アイツ』が来るまでの間の暇潰しぐらいにはなると思ったが、まさか準備運動にすらならねぇとは予想外だぞ? てめぇ、仮にも代表候補生だろうが。しかも中国の」

「アンタ…あたしのことを知ってッ!?」

「今時の候補生ってのは、この程度の実力でもなれちまうもんなのか? だとしたら、今度のモンドグロッソはつまんねー大会になりそうだな。見に行こうと思ってたのによ」

「なんですってぇぇ…!」

 

 ただでさえ感情的になり易い鈴は、絶え間なく聞かされる挑発に怒りながら歯を食縛っていた。

 

「あぁ…それともあれか? その貧相な体を使ってロリコンなオヤジどもに股でも開いたのかぁ? お前みたいな雑魚、それぐらいでもしねぇと候補生になんてなれねぇかっ! あっはっはっ!」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 遂に堪忍袋の緒が切れた鈴。

 相手の足元に一夏がいる事も忘れ、少し離れてからの『衝撃砲』を連射する!

 

「死ねっ!! 死ねっ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 命中時の土煙で何も見えなくなるが、それでもお構いなしに撃ち続ける!

 最早、彼女の怒りを収められるのは男の死体だけだろう。

 

 そして、思い切り撃てるだけ撃ち続け、鈴は息も絶え絶えになりながらも親の仇のように眼前を睨み付ける。

 自分の攻撃で敵が倒れている事を信じて。

 

 だが…その願いは呆気なく崩れ去った。

 

「おーお。ひっでーなぁ…。味方がいるってのに容赦なく撃ちやがってよ。でもまぁ…その根性は気に入ったぜ。あれだけ言われても、まだ『味方がいるから』なんていう糞みたいな理由で攻撃を躊躇ってやがったら…マジでぶち殺してたわ。まぁ……」

 

 煙が晴れると、そこにあったのは……。

 

「ぜーんぶ…無駄だったけどな」

「う…うそ…!」

 

 完全に気を失った状態の一夏を盾にして衝撃砲を全て防いで見せた敵ISが無傷のまま立っている姿だった。

 

「り…ん……」

 

 それだけを言い残し、一夏の身体から専用機『白式』が強制解除される。

 もう用済みと言わんばかりに、ピクリとも動かない一夏をゴミのように放り投げ再び鈴と対峙する。

 

「あ…あたしのせいで…一夏…が…」

「ん~? もしかして、フレンドリーファイアをしちまったせいで戦意消失でもしちまったのかぁ? はぁ…がっかりだ。この程度の事で狼狽えるとか…本当に詰まんねぇぜ。仕方ねぇ…もう仕舞いにするか」

 

 そういうと、いきなり両腕をだらんと下げ、精神を集中し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Λ(ラムダ)・ドライバ…発動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう呟いた瞬間、敵機体の周囲に謎の力場が発生した。

 足元の地面を抉り、クレーターを生み出し、同時に機体から発せられる圧迫感も爆発的に増した。

 鈴は本能的に理解する。

 これが、この男の本気なのだと。

 今までのは、こいつからしたら本当に『お遊び』にしか過ぎなかったのだと。

 

「んじゃ…終わらせるか」

 

 右手を徐に持ち上げ、指で銃の形を作る。

 それを鈴の方に向けて、まるでからかうように軽く一言。

 

「バーン」

「え?」

 

 指先から放たれた不可視の超絶的で超巨大な衝撃波。

 どうやって…とか、なんで…とか、そんな事を考える暇もなく鈴は自身の専用機『甲龍』を粉々にされながら吹き飛ばされる。

 悲鳴すら上げる事を許されず、目の前が真っ白になっていく。

 分かるのは、自分が手も足も出ないままに倒されたという事実。

 今までの努力を、苦労を、研鑽を、全否定するかのような圧倒的実力差。

 機体の性能がどうとか、そんな下らない理由ではない。

 操縦者の力量が異次元レベルに違い過ぎた。

 

(ごめん……一夏……)

 

 最後にそれだけを心の中で呟き、鈴は生身の状態でアリーナの壁に強烈に叩きつけられ、そのまま地面に落下した。

 

「あ……あ……」

 

 まだ息はあるようだが、完全に白目を剥き、口からは涎、目からは涙、鼻からは鼻水を出し、全身の筋肉が弛緩したのか、股間からは失禁をしていた。

 

「うんうん。出力調整は上々みたいだな。もしも最大出力でぶっ放してたら、消し炭すら残ってなかっただろうしな」

 

 攻撃が上手くいった事で満足したのか、男は何度も頷いている。

 代表候補生が呆気なく倒された。

 その事実は、まだアリーナに残っている生徒達にこれ以上ない絶望を叩きつけることになった。

 逃げたい。けど、最大級の恐怖によって腰が抜けて動く事すら出来ない。

 動いたら殺されるかもしれない。

 まだ死にたくない。

 そんな感情が全員の胸中に渦巻き、無自覚のままに自分達を金縛り状態にしていた。

 

 だが、恐怖に支配されずに辛うじて自我を保っている者達も少なからず存在していた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「圧倒的…か」

 

 マドカが悔しそうにそう呟く。

 自分だって決して弱い方ではないと自負してはいるが、それでもあの銀色のISに勝てるイメージが全く湧かない。

 

「あの織斑先生の弟の方はともかく、あの鈴お姉ちゃんまで呆気なく倒されちゃうなんて…」

「途中であの男が呟いた『ラムダ・ドライバ』とは一体…? まさか、それがあの機体に搭載されている『単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)』…? その力であの力場を生み出したのでしょうか…」

 

 たった一撃でISが粉々になるなんて、まず有り得ない。

 ISを覆っているシールド・エネルギーを貫通…もしくは、そんな物すら意味が無い程の超威力を持っているのか。

 どちらにしろ、並のISでは絶対に太刀打ち出来ないのは確実だった。

 

「…どうしますか? このままでは…」

「個人的には、アイツ等がどうなろうと本気でどうでもいいが、だからと言ってこのまま傍観し続けるのも……」

「そうだね。私もぶっちゃけ、お姉ちゃんに関しては自業自得だって思ってるし、あの男の方もマジでどうでもいい。けど……」

「えぇ。下手をすれば学園全体が危機に晒されてしまう可能性があります。だからと言って、私達も仕掛けたりしたら…」

「逆にあの男を刺激する可能性もある。大凡考えうる最悪のパターンだな…」

 

 どう動くのが正解なのか。

 頭の中で必死にそれを考えていると、彼女達に向かって近づいてくる二人の教師がいた。

 

「あなた達!」

「無事だったか!」

「スコール…オータムも…」

 

 スコール・ミューゼルとオータム。

 マドカのかつての同僚であり、『組織』を出てからはこうしてIS学園で教師を務めている。

 彼女達もまた、加奈にとって大切な人々でああった。

 

「…織斑千冬の方はどうしてる?」

「弟が倒されて怒りまくってるわ。拳を握りしめて血が出てたし」

「それでも出ようとはしないんですね…」

「立場ってのもあるだろうけど、それ以上にアイツは委員会の犬だからな。弟のこれからを考えると、動きたくても動けないんだろうよ」

「本人は否定するだろうけど、あいつってば完全に人質みたいなもんだしね」

 

 聞いていて呆れるような情報を交換していると、いきなりスピーカーから千冬の叫び声が聞こえてきた。

 

『お…お前達、何処に行く!? やめろっ!!』

 

 叫びと共に出てきたのは、専用機『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリアと、どこから調達したのか、学園に配備されている訓練用の日本製量産型第二世代型IS『打鉄』を纏った箒の二人だった。

 

「よくも一夏さんと鈴さんをっ!!」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 完全に頭に血が上っている二人を見て、マドカ達は頭を抱えた。

 変に刺激をしない方が良いと考えていた矢先だったから尚更だ。

 

「あのバカ…無断で訓練機を使いやがって! 自分が何をしてんのか分かってんのかッ!?」

「これはもう…反省文とかじゃ済まされないわね。しかも、あの二人が目の前でどうなったかとかも理解してない。あのままじゃ確実にやられるわ」

 

 教師としてもそうだが、常識ある社会人としても到底見過ごせるような事ではない。

 特に箒がしている事は、下手をすれば犯罪になる可能性すらもあるのだ。

 

 蹂躙劇は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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