面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
今回で、原作での超重要キャラ(今作ではどうでもいい)が全年齢版での出番を完全に終えます。
もしかしたら、ちょっとしたことで僅かに登場するかもしれませんが、基本的に今後は出てきません。
物語からフェードアウトします。
その代わり、R-18版では大活躍して貰いますが。
そうなることで、これから登場予定の残り二人のヒロインの運命が大きく歪みます。
加奈たちが五反田食堂で食事を楽しんでいる頃。
同時刻のIS学園の理事長室は異様な雰囲気に包まれていた。
「…私の聞き間違いでしょうか。もう一度だけ言って貰えますか?」
「「はい」」
困った顔で頭を抱えているのは、IS学園の真の学園長である『轡木十蔵』。
普段は用務員として過ごしているが、それはあくまで表の顔であり、実際にはこのIS学園の全ての実権を握っている人間なのだ。
そんな彼の前に立っているのは、奇妙な雰囲気を出している織斑姉弟。
本来ならば今日は休みの筈が、どういう訳か二人揃って学園長室を訪れていた。
「私、織斑千冬は本日をもってIS学園の教員を辞職したいと思います」
かなり衝撃的な事をはっきりと言ってのけた。
彼女が、こんな洒落にならない冗談を言うような人間ではないのは轡木もよく知っている。
千冬の言葉が嘘ではない証拠として、彼の目の前には『退職届』と書かれた封筒が置かれていた。
「山田先生から聞きました。地下に拘束していた筈の篠ノ之の姿が無くなったと。誰が、どうやってアイツを誘拐したのかは不明ですが、あれは私のクラスの生徒です。篠ノ之が今までしてきた数々の暴挙と、アイツの誘拐を事前に防げなかったのは担任であり学年主任である私の責任です。なので、その責任を取って辞職をしたいと考えました」
確かに、千冬が言っている事は尤もかもしれない。
だが、同時に轡木はこうも思っていた。
あの問題児がいなくなって清々した…と。
IS委員会とも独自の繋がりがある彼は、今回の篠ノ之箒誘拐事件の犯人を知っている。
知った上で彼はその全てを敢えて見逃した。
篠ノ之箒がいなくなることで得こそすれ、不利益になることは一切無いからだ。
少し前ならば、箒に何かあれば姉である篠ノ之束の逆鱗に触れると考えられていたが、実際にはそんな事は一切無く、彼女が地下に幽閉されても全くアクションを起こさなかった。
これにより箒が束に完全に見捨てられたと判断した学園上層部は、今までの分の含めて箒を厳重に処罰することを決定した。
もし仮に誘拐などされなくとも、箒は近日中には退学処分になる予定だったので、実は余計な手間が省けて学園側としては非常に大助かりだったりする。
「考えを変える気は…ないのですね?」
「はい。ありません」
「そうですか…」
千冬から発せられる異様な雰囲気を怪しみながら、轡木は今度は隣にいる一夏の方に視線を向ける。
「織斑一夏くん…君も考えを変える気は無いと…そう思っていいのですか?」
「はい。俺も、このIS学園の自主退学しようと思っています」
「その理由を伺っても…?」
「もう知っていると思いますが、今のIS学園に俺の居場所はありません。大衆の面前で最低最悪の羞恥を晒してしまったんですから」
「それは…」
「このまま学園に居続けても、在校生の皆も俺も誰も得なんてしません。だったら、いっそのこと辞めようと思ったんです」
「…そうですか」
一夏の身に起きた事もまた、轡木は学園長として全て把握していた。
確かに耐えがたい辱めを受け、その結果として学園中のヘイトを買う結果になり、更には学園内に潜んでいた女尊男卑主義の生徒達の台頭を許してしまう結果となった。
「ですが、そうなると君の身が危険に晒されてしまう事になりますよ? 元々、君は自分の身を守るためにIS学園に入学をしたのですから」
「その辺は心配いりません」
「と言いますと?」
いきなり千冬が話に割り込んできて『心配ない』と言ってきた。
何がどう『心配ない』のかが良く分からない轡木は、渋い顔をしながら聞き返す。
「今後、一夏の身柄はIS委員会にて保護される事になっています。それに伴い、私の所属も正式にIS委員会に移ります」
「委員会に…ですって…?」
独自のパイプを持っているとはいえ、十蔵は委員会の抱えている『裏の顔』を全く知らない。
否、正確には裏で何かをしている事はなんとなく感づいてはいるが、それが何なのかを知らない。
IS委員会は自らの抱えている『闇』を全身全霊を持って秘匿し続けている。
生半可なことでは、これを暴くことは難しいだろう。
轡木も『触らぬ神に祟り無し』の精神で、今までは無視していたが、それに自ら飛び込もうとしていると思われる者を前にして何もしないような男でもない。
だが、それは同時に学園全体を危機に晒す事と同義。
委員会を敵に回せば碌な事にならないのは確実だった。
ならばどうすればいいか。
轡木の考えはもう既に決まっていた。
「そう…ですか。そこまでお二人の決意が固いのならば…もう私からは何も言いません。今までお疲れ様でした」
「「ありがとうございます。今までお世話になりました」」
轡木はこの姉弟を見捨てた。
非情と思われるかもしれないが、もう既に覚悟を決めている二人と、何にも知らない大勢の生徒と教職員、どちらかを取れと言われれば当然、より数の多い方を選択する。
学園長である以上、彼には教師たちと生徒達を守る義務と責任があるのだから。
この二人の為だけに、他の者達を危険に晒すわけにはいかない。
物語の主人公のように『どちらも助ける』というリスクの高い選択肢は選べない。
どちらかを選び、どちらかを捨てる。
それが大人の生き方だから。
(我ながら…嫌な人間になってしまいましたね)
自己嫌悪をしながらも、轡木は二人が部屋から出ていく様子を見守る。
仲睦まじく手を繋ぎ、笑みを浮かべながら去っていく二人。
それはまるで姉弟と言うよりは、歳の離れたカップルのように見えた。
「まさか…いや…そんなことが…」
変な考えがふと脳裏に浮かんだが、頭を振ってすぐにその考えを消した。
もしも轡木が考えた事が正しかった場合、あの二人はもう既に戻れない場所に行ってしまっているということになる。
「はぁ…問題は未だに山積み…ですか」
大きな溜息を吐きながら、轡木はすっかり冷めてしまったお茶を一気に飲み干した。
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その日の夜。
日本のとある空港に『彼』が降り立った。
「うーん…! 本当に長い空の旅だった。だが、ようやく到着したんだな…加奈が待っている日本に」
降り立ったのは、加奈の両親である相良夫婦の元から離れ、愛する加奈を守る為だけに全てを敵に回す決意を固めた天才少年『レナード・テスタロッサ』。
因みに、加奈は彼の事は全く知らない。
完全な片思いである。
「すっかり夜になってしまったな。俺の来日は表向きは極秘扱いになっているから、学園からの出迎えなどは期待しない方が…」
「テスタロッサ君」
適当にカプセルホテルにでも泊まろうかと思い始めた時、いきなり誰かに話しかけられる。
敵意は感じなかったので声のした方に振り向くと、そこには緑の髪で眼鏡を掛けた女性が立っていた。
「お待ちしていました。IS学園で教師をしている山田真耶と申します」
「これはご丁寧にどうも。レナード・テスタロッサです。アメリカから来ました」
正確には、レナードはスイス・オーストリア系やイタリア系の血を引くアメリカ人なのだが、その辺の説明は話せば長くなるのでいつも省略している。
「しかし…どうして出迎えが? 一応、俺が日本に来ることは伏せられていた筈では…?」
「そうなんですが、学園長が『折角、日本まで来てくれたのに出迎えも無しなのは申し訳がない』と仰られて、私もそれには同意していたので、こうしてお出迎えにあがったんです」
「成る程…」
日本の『おもてなし』の精神は知っていたが、まさかこんな形で体験することになるとは思わなかった。
この時点でもう既に、レナードは地味に日本での生活が楽しみになって来ていた。
「それにしても驚きました。まさか、いきなり二人目の男性IS操縦者が現れるだなんて」
「俺自身はずっと前からISを動かせていました。別に世間に公表すること自体は問題無ないのですが、するとしても準備やタイミングというものがある。ですので、俺がISを動かせるというのはいうのは、今はまだ秘密扱いなんですよ」
「ということは、正式に入学をしたら…?」
「はい。大々的に発表して頂いて構いません。その程度では俺は全く困らないし、寧ろ望むところですから」
普通ならば自ら矢面に立つのは可能な限り避けたいと思うのが当たり前。
だがしかし、レナードは自分の能力に絶対の自信があるので、多少の事ではビクともしない。
実際、彼には世界中のIS全てを敵に回しても無傷で圧勝できる程の超高性能なお手製の専用ISを所有している上に、本人もまた頭脳、身体能力全てにおいて常人を遥かに凌駕している。
誰が来ても、何が襲い掛かって来ても必ず勝てるという確信が彼にはあった。
「ところで、俺の他にもフランスとドイツからも転入生が来ている筈では…?」
「流石ですね。あの子達の事も知っていたなんて」
「必要と思う情報は全て手に入れるようにしているので」
正確には『加奈の害になる可能性がある存在についての情報を仕入れている』だ。
「あの子達は、どうやら少しだけ遅れているみたいで、明日の朝に到着する予定になっているみたいです」
「と言うことは、俺だけが一足先に来てしまった…と」
「そうなりますね。これから学園の方に車で向かおうと思うのですが…大丈夫ですか?」
「問題ありません。もし出迎えが無かった場合、適当なカプセルホテルにでも泊まって朝までの時間を潰そうと思っていましたから」
「そうだったんですね。分かりました。では、行きましょうか」
「はい。お願いします」
こうして、加奈に対して一方的な愛を向けている少年レナードが日本入りした。
彼が来た事でまた、加奈の学園生活が波乱に満ちたものになっていくのだが、本人はまだその事を知らない。
そして、レナードの存在で後からやって来る『二人』の辿る運命も、正史とは非常に大きくかけ離れたものとなっていく。
そんな彼らが、織斑姉弟がIS学園から去ったと知るのは、明日になってからの事だった。
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因みに、その頃の加奈はと言うと…。
「うぅ…なんか急に背筋に今まで感じた事が無い程の悪寒が走ったんだけど…風邪でも引いたかな? 一応、お昼は栄養たっぷりのものを食べたつもりなんだけど…」
『熱などはありませんね。至って平熱の健康体です』
「マジか。それは良かった」
『ですが、夜更しをすれば本当に風邪を引く可能性があります。体内にあるナノマシンで治りはしますでしょうが、それでも一日ぐらいは寝込むでしょう。なので、今すぐにでもゲームを終了して就寝することをお勧めします』
「へーい。ま、キリが良い所だし…別にいいけど。んじゃ、おやすみー」
『おやすみなさい。軍曹殿』
自分の部屋のベッドの上でアルのお小言を聞きながら眠りについていた。
次回、加奈たちが一夏と千冬が消えた事を知り、同時にレナードと対面する。
後ついでに、残り二人のヒロインとも会う…かもしれない。
もしかしたら最初はモブ同然の扱いかも。