面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
アルが操作した防犯カメラの映像を私のスマホに映して貰い、食後にそれを皆で見ていた。
お世辞にも良い映像とは言い難く、普通に胸糞悪い物ではあった。
でも、私個人としては、こんな程度の事では何とも思わない。
「…なにこれ」
乱ちゃんが沈黙を破り第一声を放った。
普通ならば『なんなの、このイジメの映像は』という意味と思うだろうが、私には分かっていた。
この子は決して、そんなつもりで言ってはいないと。
乱ちゃんは…否、この場にいる私たち全員が本気で呆れ果てていた。
「こんな所業が普通に行われている学園側にも十分に問題はあるし、同情の余地もあるかもしれないが…」
「そうですね…これは余りにも…」
「言葉すら出ない程に愚かだな」
おっふ…やっぱりマドカはオブラートに包みませんな…。
物凄く同意するけど。
「画面越しでもよく分かる。こいつは…本当に最初から全てを諦めてる。完全に目が死んでる」
ここまで生気が無い目をした奴もまた珍しい。
ずっと前にも同じような目をした奴を見た事があるけど、そいつの場合は故郷も家族も仲間も全て失って、残されたのは自分一人とアサルトライフル一丁だけって状況に陥った奴だった。
大切な物を何もかも失い、目からハイライトが消えてた。
ま、そいつは最終的にヤケクソになって大暴れしたんだけど、この男装女にそんな根性は無いだろうな。
もし、ほんの少しでもそんな気概があったんなら、こんな状況には陥ってない。
「私もそう思う。なんか…抵抗する気ゼロにしか見えない」
「かわいそーだけどー…んー…なんかなー…」
簪は割と私寄りで、温厚で優しい本音ちゃんですらも今回の事には訝しんでいる。
この子にそうさせるって時点で相当だぞ…。
「こいつ…自分の身体にどうして『足』が付いてるのか、ちゃんと理解してないんじゃない?」
「先生が呆れるのも納得かも。流石にこれは酷い…」
玉芳と玉蘭は、まぁ当然な反応。
この姉妹は私と境遇が似てるってこともあって、ドライでシビアな考えをする。
「…世の中には、こいつ以上に悲惨で大変な目に遭いながらも、必死に頑張って生きようとしてる人が山ほど存在してる。その人達は、自分の境遇に決して悲観なんてせずに、なけなしの勇気を振り絞って前を向いて歩き出し、見事に希望を掴んで見せている。まぁ…だからどうしたって言われればそれまでなんだけどね。悲劇自慢なんてしたって意味ないし」
あー…また私の悪い癖が出てしまった。
でももう止まりそうにないわ。
「大切なのは『勇気』を出すこと。本当の本気で今の状況をどうにかしたいと考えているのなら、それこそ文字通り必死にならないとダメだ。自分の命すらも賭ける覚悟を見せて、泥水を啜り、石に齧りついてでも絶対になんとかしてやるって気合が無いと。本人にその気があれば、自然と周囲の人間だってそれに気が付く。そうすれば、アイツに助け舟を出そうとする者だって自然と出てくるはずだ。でも、現実にはそんな事にはなってない。何故なら、アイツは何にもしていないから。何もせずにボーッと突っ立って、まるで河川に落ちた葉のように状況に流されるだけ。そのくせ、口だけは一丁前に『お願いします。助けてください』と言う。まるで、アイツは『助けて貰うのが当たり前』みたいに思っている節が見受けられる。ふざけんなよ。前にも言ったけど、最後の最後に自分を助けるのは自分自身だけだ。周りの人間は、そこに行くまでの手助けをするだけ。でもコイツは違う。ピンからキリまで他人に助けられる気満々。多分だけど、こいつはもう本気で誰かに助けて欲しいとか微塵も思ってないよ。あのセリフは単に『悲劇のヒロイン』を演じる為のポーズに過ぎない。誰もいない場所で敢えて言ったのは、自分でもそう思い込むため。口では『助けて』って言ってるけど、実際には流されるだけの人生を『良い』って思ってるんじゃないかな。だって、何も考えずに他人の言いなりになってれば楽だしね。人間って生き物は、少しでも『楽』を知ってしまうと、自然とその方向に流されやすくなる傾向がある。それ自体は悪くは無い。私だって人の事は言えないし。でも、何事にも限度がある。自分自身の人生すらも他人任せにするのは絶対に嫌だ。どんな時も、自分の未来も運命も自分の手で切り開いてナンボってもんでしょ。だから、私は例え何があっても絶対にアイツを助けたいって気にはならない。もし仮に誰かがアイツを助けたとしても、今度はその助けた奴の言いなりになるだけ。単に命令を下す相手が変わるだけで根本的な解決には微塵もなってない。そんな奴を私は人間としても認める気は無い。アレはもう人間の振りをしているだけの単なる『お人形』だ。全く…悲劇のヒロインごっこならどっか余所に行ってやってくれって感じ。存在しているって考えただけで不愉快極まりないからさ」
…言ってしまった。
シャルロット・デュノアが来てからずっと溜まってた鬱憤を全て吐き出してしまった。
お蔭で凄くスッキリはしたけど、皆が凄い目でこっちを見てる…。
「お…俺も加奈の意見に全面的に同意だが…まさか、ここまで言うとは思わなかった」
うーわー!
あのレナードにすら気を使われてしまったー!
もうダメだ…おしまいだぁ…。
「…で、このイジメ自体はどうする? 先生に報告でもする?」
「普通に放置…と言いたいけど、このままあのバカどもを調子づかせるのも癪だしなぁ……あ」
良いことを思い付いたでゴザル。
「どうしたんですか加奈さん?」
「いや…口頭で告げ口をすれば怪しまれるかもだけど、メールやメッセージとかなら大丈夫なんじゃないかと思って」
「メール? 加奈は教職員の誰かの番号とかアドレスなんかを知っているのかい?」
「いやロラン…忘れたの? スコールさんとオータムさんのこと」
「あ」
この反応…普通に忘れてたな。
仕方ないか…私もそうだったし。
幾ら先生になったからと言っても、私の中じゃ未だに『仲の良い年上のお姉さん』なんだよな…これが。
「あの二人のアドレスなら普通に登録してあるし問題無いでしょ。アイツ等に、そこまで調べるような根性も技術も無いだろうし」
「「「同感」」」
ヴィシュヌとマドカとレナードが共感してくれた。
レナード以外は普通に嬉しい。
「でも、直接動くような真似は避けて貰った方が良いかもしれない。あの二人と私達が親しいのは普通に知れ渡ってる可能性もあるし」
「それとなく、別に先生に知らせて貰えれば幸いだね」
仮にスコールさん達が何らかの妨害とかを受けたとしても全然平気だろうけど、そんな問題じゃない。
アイツ等に何かをされると言うこと自体が我慢ならない。
「今後はレナードも気を付けておいた方がいいかもしんないね」
「か…加奈が俺の心配をしてくれた…だと…!? 遂に俺の嫁になる決心が…!」
「違うわ。普通に人道的に心配しただけだわ。都合よく勘違いすんなし」
「それでも構わん!」
「お前のメンタルは超合金Zか」
「超合金ニューZαだ」
「マジンカイザーの装甲材質じゃんかよ。強すぎかよ」
並大抵の事じゃビクともしないじゃねーか。
「あの様子から察するに、もうあの女は理性のタガが外れている可能性が高い。目的の為なら手段を選ばなくなってくるかもしれない」
「手段を選ばないって…例えばどんな?」
簪に尋ねられて考えてしまう。
自分で言い出しておおいてなんだが、年頃の女子高生にこーゆーのを普通に言って良いんだろうか…?
いや、ここにいる面子は大なり小なり裏側を知っている人間達だ。
多少の事じゃ動揺とかしない…と信じる。
「うーん…夜這いとか?」
「「「「よ…夜這い…」」」」
「よばいー?」
反応したのは簪と乱ちゃんとマドカと玉蘭の四人か。
マドカの意外と初心な部分が見れて普通に眼福。
そして、本音ちゃんはそのまま純粋無垢でいて欲しい。
「それならば心配は無用だ」
「私にゾッコンだから?」
「それもある」
あるんかい。
「俺だって伊達や酔狂で男性IS操縦者を自称している訳じゃあないからな。ちゃんと自己防衛の手段ぐらいは持ち合わせているさ」
「ふーん…ってことは、レナードって喧嘩強いんだ?」
「それなりにはな。流石に加奈には敵わないさ。あのガウルンやゲイツとも互角以上に渡り合い、その身一つで戦場を闊歩していた君にはね」
そっち方面で褒められても、あんまし嬉しくは無いなー。
けど、その時の経験が今に活かされているのもまた事実だから笑えないんだよねー。
「ま、いざとなったら『奥の手』を使うまでさ」
「専用機?」
「そんなところだ」
レナードの専用機かー。
どんな機体なんだろ。
織斑一夏の『白式』みたいな一点特化型?
それとも汎用型?
因みに、アーバレストは汎用機に近い近接戦機。
銃火器満載だけど、主に使ってるのがショットガンやアサルトライフルだから。
一応、狙撃銃もあるけど、基本的には試合じゃ使わないしね。
「だから心配は無用だ」
「分かった」
冷静に考えたら、レナードってずっと、あのクソ両親の所にいたんだもんね。
その時点で普通じゃないのは確定済みか。
流石に私みたいに肉体改造(物理)されてないだろうけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
レナードとシャルルの部屋。
当然だが、レナードは静かな寝息を立てながら寝ている。
ちゃんとベッドとベッドの間に引き出し式の壁を出し、その上でシャルルに背を向けるようにして。
室内が静寂に包まれてから一時間。
足音を殺すようにしながらシャルルがベッドから出てきて、レナードが寝ているベッドに近づいていく。
(君に恨みは無い…無いけど…僕にはもうこうするしか道は残されてないんだ…)
寝ているレナードの前でそっとジャージを脱いでいき下着姿となる。
普段は男装の為に付けているコルセットが無く、女性用の下着の上下を装着していた。
(自分の初めてを初めて会った男の子に捧げるなんてね…。でも、これが成功すれば僕も…僕も…アハハ…ハハ…!)
無言で微笑みながら、その目からはハイライトが完全に消える。
そっとベッドの上に乗って、寝ているレナードに体を近づけていく…その時だった。
「やっぱりな」
「え?」
シャルルの眉間にレナードが持つ拳銃の銃口が突き付けられた。