面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
自分に突き付けられた銃口を目にし、シャルル…もといシャルロットの思考が一瞬だけ停止する。
「な…なんで…?」
「なんで…だと? まさか、お前…自分の正体が本当に誰にもバレていないと本気で思っていたんじゃあるまいな?」
「そ…れは…」
自分の男装がバレることを前提にしているとはいえ、決して手を抜いたわけじゃない。
少なくとも、レナードにはバレていないと思っていた。
だから、彼のこの発言には息を飲んでしまう。
「俺だけじゃない。加奈や、その周りにいる者達は全員、一目でお前が女であることを見抜いていた」
「そう…なんだ…」
シャルロットは加奈と全く接点が無い…が、その周囲にいるのが代表候補生達であるのはよく知っていた。
候補生と言うのは良くも悪くも目立つ存在なので、最低でも顔と名前ぐらいはネットに公開されている。
なので、シャルロットもすぐに彼女達が代表候補生であることが分かった。
「こんな時、本来ならば大声を上げたり、電話で誰かを呼んだりするのが正しいんだろうがな…」
「しない…つもり…?」
もしかして助けてくれる?
思わず、そんな淡い期待を抱いてしまうが、この男はそんなに甘い人間ではない。
「いや…正確には『する必要が無い』だな」
「必要が無いって…それはどういう意味…」
「俺が何もしなくても、お前はもう『終わり』だってことさ」
「お…わり…?」
唇が震える。視界が歪む。体が震える。
彼が何を言っているのかリカイデキナイ。
「
レナードがベッドから起き上がり、部屋のドアを静かに開けると、そこには昼間にシャルロットに暴力を振るい脅していた、女尊男卑主義の女子生徒達が並んで立っていた。
「…いつから気が付いていたのよ」
「最初から。あそこまで露骨に殺気を向けられていたら、ドア越しにも気が付くってもんだ。その程度じゃ俺はビクともしないがね」
入口に立っている女子達が、シャルロットには地獄からの使者に見えた。
どうして彼女達が自分達の部屋の前に立っていたのか全く分からない。
「大方、シャルロット・デュノアが俺に夜這いを仕掛けたタイミングで突入でもして、その瞬間を写真にでも収めるつもりだったんだろう? あと、念の為の監視も兼ねて」
「写真…監視…!?」
まさか、自分はずっと見張られていた?
流石に寮の中までとは思っていなかったのか、驚いた衝撃で口をパクパクさせる。
「その通りよ。そこまで見抜いていただなんて…アンタ、マジで何者?」
「何処にでもいる只の超天才だ。あの相良博士たちに見い出された…な」
「な…なんですってっ!? あの相良博士たちの所にいたのッ!?」
「そうだ。その時、俺は画面越しに加奈の事を知り一目惚れをした。画面越しでは満足できなくなった俺は、博士たちを決別をして加奈に会う為にこうしてはるばるIS学園にまで来たって事だ」
自分達の後方支援者(だと一方的に思い込んでいる)相良夫婦に見い出された天才児。
こんな状況でなければ完全否定していたところだが、レナードは男の身でありながらISを動かし、実際に加奈と行動を共にしているだけでなく、自分達の事も易々と見破ってみせた。
流石の彼女達も、ここまでされて完全否定できる程、愚かではなかった。
「それよりも…いいのか?」
「何がよ…」
「もうそろそろ、恐らくはお前のスマホに電話が掛かってくるぞ」
「私の携帯に…?」
遂には予言染みた事まで言い出す始末。
思わず、スカートのポケットの中に入っているスマホを手に取った瞬間、いきなり着信が来た。
「ほ…本当に来たッ!? 相手は…ママっ!?」
急いで着信に出ると、受話器の向こうから母親の歓喜に溢れた声が聞こえてきた。
「マ…ママ? こんな時間にどうしたの?」
『ごめんなさいね。喜びの余り、思わず電話しちゃったの!』
「喜びって…一体何があったのよ?」
『ついさっき、相良要博士から連絡が来て…遂に私達の『楽園』が完成したのよ!』
「な…なんですってっ!?」
ずっと待ちに待っていた瞬間。
女による、女だけの楽園。
それが完成したと言うのだから驚きを隠せない。
『もう男性IS操縦者もデュノア社もどうでもいいわ! すぐに私達も『楽園』に向かうわよ! アナタ達の退学手続きはこっちの方でやっておくから!』
「分かったわママ! あ…そうだ」
不意に彼女の目が床に座り込んでいるシャルロットに向けられる。
シャルロットにも受話器の声が聞こえていて、先程レナードの言っていた『時間切れ』の意味を理解していた。
「実はさー…今さっき、仕事に失敗した馬鹿な奴がいるんだけどー…そいつを『ペット』として連れて行っても良い?」
『失敗…ペット? あぁ…成る程ね。勿論いいわよ。連れてきなさい。私達でたーっぷりと可愛がってあげて、私達の為の『苗床』になって貰いましょうか』
「さーんせー♡ ウフフ…♡ 今から楽しみだわ…♡」
終わった。本当の意味で。
これから自分に降りかかる『現実』を目の当たりにし、恐怖の余り逃げ出そうと腰を浮かせた瞬間、シャルロットの首に赤い『首輪』が付けられた。
「な…何…これ…!?」
「何って…首輪に決まってるじゃない。ペットに首輪をつけるのは『飼い主』として当然の義務じゃない?」
「あ…ああぁ…!」
逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。
そう思ってISを呼び出そうとするが、思い出す。
授業などの時以外、自分の専用機は彼女達に取られてしまっていると言う事を。
自分達に逆らえないように。逃げられないように。
専用機という名の自衛手段は…今のシャルロットには無かった。
「も・し・か・し・てー…これを探してるのかニャ~?」
「か…返して…!」
取り巻きの一人がシャルロットの専用機の待機形態をブラブラとさせ、咄嗟にそれを取ろうとするも、首輪に繋がった紐に引っ張られて床に倒れ込んでしまう。
そんなやり取りには目もくれず、レナードはキッチンに立って水を飲んでいた。
手段を選んでいる場合じゃない。
ここでどうにかしないと、本当に終わってしまう。
ずっと諦めの底にいたシャルロットは、ようやく『それ』を口にした。
「た…助けて!! お願い!! 僕を助けてください!!」
「助けて…ねぇ…」
涙と鼻水を流しながら必死に懇願する。
そんな彼女を見ながら水を飲み終え、空になったコップをシンクに置くと、レナードは軽い足取りでシャルロットに近づき、しゃがんで視線を合わせた。
「だが断る」
「…………え?」
頭が真っ白になった。
断る? なんで?
「そもそもの話、どうして俺がお前を助けないといけないんだ?」
「それ…は…」
ついさっきまで夜這いをして来ようとした相手を助ける。
普通の神経ならまず有り得ない事だ。
「俺は世間一般的には『悪』に属する人間だと自分で思っている。どんなに言いつくろっても、俺は善人には成れないし、そんな資格も無いと思っているし、成りたいとも思わない」
「い…きなり…な…にを…?」
視線を合わせるのを止めたレナードはベッドに座り足を組む。
その顔には相変わらず薄い笑みが浮かんでいた。
「俺はな…お前の境遇にも、お前の人生にも、お前の過去にも、お前の未来にも、お前に関するありとあらゆる全てに対して微塵も興味なんて無いんだよ。お前がどうなろうとも俺には全く関係ないし、心の底からどうでもいい。分かるか? 俺にとってのお前は、道端に落ちている犬の糞以下の存在でしかない。そんなお前を俺が助ける道理がどこにある? もっと現実を見てから発言した方が良いぞ」
「…………」
絶句。
レナードが自分の事を避けていたのは、毛嫌いをしていたり、加奈に夢中だったかじゃなく、単に興味が無かったから。
視界の端にすら写らないような存在だったのだ。
「俺が全力で助けるとしたら、それは加奈とその友人達だけだろう。何故なら、俺は加奈の事を全身全霊を持って愛しているし、その友人である彼女達の事も同じぐらいに大切にしたいと思っているから。では、ここでお前に一つだけ問おう」
「な…に…?」
またもやしゃがみこみ、無表情で徐にシャルロットの顔を掴んで顎クイをした。
「お前は加奈の友人か? それとも俺の友人か? 俺や加奈とお前は、一体どんな関係だ?」
「あ………」
完全に察した。
レナードとシャルロットは単に同じ部屋になっただけの赤の他人。
通常ならば、そこから友人関係に発展しそうだが、レナードは最初からシャルロットの正体と目的を知っていたし、シャルロットもまた目的があってレナードに近づいた。
この時点で既に、シャルロットがレナードと親しくなれる可能性は完全にゼロだった。
関係性なんて発展のしようがない。
自分は邪な目的を持ち、相手はそれを知っている。
そうなれば、誰だって警戒はするし、自分から近づこうともしない。
「もし、この場にいたのが
レナードの声が良く聞こえない。
頭が現実を否定する。
ずっと我慢してきたのに。ずっと耐えてきたのに。
何一つとして良いことが無いまま終わり?
「もうそろそろ『ソレ』を連れて行ってくれないか? こんな時間に起こされて眠いんだが」
「…そうね。『楽園』が完成した以上、もうIS学園になんて用は無いし。ほら…行くわよ!」
「うっ…! やめで…! だずげで…!」
本当のペットのように紐で引っ張られながら、シャルロットは必死に手を伸ばす。
だが、その時にはもうレナードは後ろを向いてベッドに入ろうとしていた。
レナードの頭の中では、もうシャルロットの事を殆ど忘れかけている。
それ程までに興味が無いのだ。
明日には辛うじて名前と顔だけを覚えているような状態になり、一週間もすれば存在自体を完全に忘却していることだろう。
我々が、道に落ちている小石の形状を覚えていないように。
ドアが完全に閉められ、室内が再び暗くなり、少ししてからレナードの静かな寝息が聞こえてくる。
更にそれから数分後。
少し離れた場所から車が発進するような音が聞こえ、遠くに消えていった。