面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
突如として発生した、原作にもある『ラウラ・ボーデヴィッヒ大暴れ事件』。
まさか、アーバレストの修理が完了した直後に起こるとは思わなかった。
と言うか、原作ヒロイン&原作主人公の大半がいなくなった状態であの女が行動を起こすだなんてね。
しかも、犠牲になっているのは名前も知らなければクラスも知らない一般生徒。
この事態は流石に予想していなかったよ。
「では、行ってくる」
「はいよ。行ってらー」
適当に手をヒラヒラさせながらレナードを見送る。
自主的にトラブルに足を突っ込みに行くだなんて私とは大違いだわ。
ま、アイツの専用機が見れる良い機会だと思いますか。
「彼の専用機…か。加奈はどんな機体を想像する?」
「汎用性が高い機体か、もしくは私のアーバレストやオータムさんのアラクネみたいな中~近距離主体の機体か。可能性を考えていけばキリがないけど…たった一つだけ断言できることがある」
「それは?」
「アーバレストと同じように『Λ・ドライバ』を搭載してるだろうってこと」
レナードは親父たちの所から来た。
なら、アイツの専用機も親父たちが製作したと考えるのが妥当だ。
もし仮にレナードが一人で製作をしたとしても、物資とかは親父たちの所にあったのも使っているだろうし。
どんな形にしろ、レナードの機体には私の機体と同じように親父たちの手が入っている事になる。
その時点で絶対に普通じゃないのは確定事項だ。
「レナードが味方である以上、そこまで過剰な警戒は必要ないけど…純粋な興味ならあるからね。後学の為にも皆でよーく観察しておこうか」
あ…そうだ。
なんか今、少しだけ忘れてたことがあった。
「ねぇ、玉芳。玉蘭」
「「なに?」」
「ガウルンから、レナードの機体について何か聞かされてたりとかしてない?」
「先生から…か」
「ん~…?」
ダメ元で尋ねてみたけど、やっぱ駄目だったか?
悪いことをしたかもしれない。
「私達も詳しいことは知らないけど…先生が珍しく、苦虫を噛んだような顔で教えてくれた事があった」
「アイツが? そんな顔を?」
「うん」
確かに珍しいな…。
あのガウルンが、そんな顔をするってマジで滅多に無いぞ…。
「先生も機体の名前とか形状は教えてくれなかったけど…」
「確か、レナードの専用機はコダールよりも前に開発されたにも関わらず、コダールを遥かに凌駕する圧倒的な性能を持ってるって言ってた」
「はぁ?」
あのコダールを超える性能って…それどんな化け物よ?
アーバレストとほぼ互角だった超高性能機だぞ?
しかも、Λ・ドライバも搭載してるおまけ付き。
「先生曰く『チート』だって。それだけじゃ流石に、どんな機体かなんて全く想像出来ないよ」
「だよなぁ…」
けど、あのガウルンが『チート』なんて言うなんて相当だぞ?
逆に早く見たくなってきたわ。
「早くしろよー。じゃないと、あの二人が死んじゃうぞー」
こんな時でも冷静沈着な自分が嫌だ…なんて言っておけばまだ人間でいられるような気がしている今日この頃。
実際には、友人でもなんでもない奴が幾ら死んでも、本気でどうでもいいんだけどね。
口にしたらドン引きされるかもだから言わないけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
レナードがピットに向かってから数分後。
ISスーツを着たレナードが姿を現した。
「さて…と。では、行くか」
ふーん…ISスーツのデザイン自体は織斑一夏と同じなんだ。
いや…もしかしたら、アイツの着ているISスーツの方が先に産み出されていて、それを元に織斑一夏のISスーツが作られたのかもね。
その方が普通に有り得そうな気がするわ。
「出ろ…ベリアル」
一瞬、背筋がゾクってなった。
レナードの雰囲気が変わり、その身が黒い光で覆われる。
光が消えた後に現れたのは、アーバレストと同じ全身装甲のIS。
コダールと同じように全身が鋭角的で、アーバレストと同じように双眼式のメインセンサー。
頭には左右非対称のアンテナと思われる角があり、背中には翼っぽいパーツも。
カラーリングは全体的に暗い銀色。
なんつーか…黒銀って感じ。
「あれが…彼の専用機か…!」
「禍々しいと言うか…なんと言うか…」
「迫力が凄まじいですね…」
「まるで…磨き上げられた銀の神像のようだな…」
「名前は思い切り悪魔だけどね…」
マドカの感想に簪がツッコんでくれたけど、まさにその通りだ。
ベリアル…ヘブライ語で『無価値』や『無益』を意味する名を持つ大悪魔。
そして、サタンとは独立した大悪魔でもある。
悪事を美徳と考え、淫乱で正しいことに対して臆病。
火のチャリオットに搭乗した美青年の姿で描かれる事が多いらしいが…。
「ベリアル…浮上」
ピットからベリアルが宙に浮く。
ISである以上、それ自体は別に不思議でもなんでもないんだけど…私には奇妙に見えた。
『軍曹殿。あのベリアルと言う機体についてご報告があります』
「なに?」
『軍曹殿の予想通り、あの機体にはΛ・ドライバが搭載されています』
「やっぱりね。でも、アルが報告するって事は、それだけじゃないんでしょ?」
『はい。あのベリアルは…現状、Λ・ドライバから発せられる斥力のみで飛行しています』
「は…はぁっ!?」
Λ・ドライバの斥力で浮遊してるって…冗談でしょっ!?
あれは発動するだけでも尋常じゃない程の集中力を有するんだぞっ!?
機体全体を浮かせられるほどの斥力なんて、どれだけの出力が必要で、どれだけの集中力を要するんだって話ですよッ!?
もしそれが事実なら、レナードの奴はもう完全に人間辞めちゃってるからねッ!?
「か…加奈…。今、アルからとんでもない話を聞いたような気がするんだが…」
「気のせいじゃないよ…。アルは冗談は言っても嘘は言わないから。アイツがΛ・ドライバだけで浮いてるってのは本当だよ…」
「PICは搭載されてないの…?」
『それは不明です。ですが、その可能性も無きにしに在らず…と言ったところでしょうか…』
「そっか…」
レナードの奴…こっちの想像を遥かに上回る機体を持ってきやがって…!
どう考えてもアーバレストよりも性能上じゃんか!
もし、あのベリアルに対抗するとしたら…。
(私も『炎の魔剣』を使うしかないか…?)
アレの性能もまぁまぁに化け物だからな。
それ以上の欠点も山ほどあるけど。
文字通りの『超攻撃力特化型IS』。
「はぁ…」
見るんじゃなかった…って思っている一方で、先に見ておいて正解だったかも…なんて思ってたりもする。
いいよもう…そのベリアルとかいうISの性能…とくと見させて貰おうじゃないか。
けど、その前に…。
「『あそこ』に連絡をしておくか…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「そこまでだ」
「なに?」
溜りに溜まったストレスを発散させる為に痛めつけ、足蹴にしている女子生徒を蹴り上げようとした瞬間、ラウラは声を掛けられ動きを止めた。
「なんだ…そのISは…? それに、その声はレナードとか言う男…。まさか、それが貴様の専用機か?」
「ベリアル…この俺の専用機だ」
黒と黒。
対峙する二つの黒。
『黒い雨』と『黒い悪魔』。
同じ色でも、ベリアルの姿は明らかに普通ではなかった。
「何をしに来た? 今は模擬戦の真っ最中だ。邪魔をするな」
「模擬戦? サンドバックにしているの間違いじゃないのか?」
「貴様…!」
図星を突かれラウラの顔が険しくなる。
怒りの感情を向けるが、レナードは全く動じていない。
その顔はベリアルの装甲に覆われ隠れているので、実際の表情は分からないが。
「どうやら、織斑千冬は随分と素晴らしい教育をしていたようだな。弱肉強食。専用機と言う力さえ持っていれば、弱者をどれだけ傷つけても構わないと。脳まで筋肉で出来ていそうな女が考えそうなことだ」
「織斑教官を愚弄する気か! 貴様!!」
「愚弄じゃない。純然たる事実を言っただけだ。お前の今の行動がそれを如実に証明しているじゃあないか」
「黙れっ!!!」
レナードの言葉に激高したラウラは、彼に向かってリボルバーカノンを発射する。
電磁加速で発射された砲弾の威力は凄まじく、並のISならば直撃しただけでSEの大半は持っていかれるだろう。
だがしかし、砲弾はベリアルの装甲に触れる前に完全に空中で静止し、ゴトリという音と共に地面に落ちた。
「なんだこれは? こんな事で、このベリアルに攻撃を当てられると…本気でそう思っているのか?」
「砲弾が効かない…だと…!? ま…まさか、貴様の機体にも私の『シュヴァルツェア・レーゲン』と同じ『PIC』が搭載されて…」
「PIC? あんな玩具とラムダ・ドライバを一緒にするな。それは俺だけでなく、同じラムダ・ドライバ搭載機を有する加奈への侮辱でもあると知れ」
狼狽したラウラが思わず言った言葉が、図らずもレナードの逆鱗に触れてしまった。
これが彼女の運の尽きになるとは、この時は誰も予想しなかった。
加奈を除けば。
「加奈が見ている手前、どんな風にお前を痛めつけ、その上でカッコよく凱旋するか考えていたが…気が変わった」
「何を言っている…!?」
「残念だったな。お前は一撃では終わらせない。この学園に来たこと。己の分も弁えずに暴れた事。そして…この俺とベリアルと対峙してしまった事を後悔しながら叩き潰してやる。よかったな? お前は今から、この俺の踏み台になると同時に、ベリアルの初実戦の相手をするんだ。だから…」
ベリアルの姿が一瞬で消えた。
慌ててハイパーセンサーを最大にして周囲を見渡すが、焦りのせいで上手く索敵できない。
「精々…死なないように気張れよ?」
「ハッ!?」
いつの間にか背後にいたベリアル。
その裏拳をまともに顔面に喰らい、ラウラは真っ直ぐに向かい側の壁まで吹き飛んで激突した。
「ば…馬鹿な…!? この私とレーゲンが…一撃で…!?」
シールドバリアーが張られているにも拘らず、ラウラの頬は赤く腫れていた。
今の一撃が、それ程の威力だったと言う証拠だ。
彼女のISのSEも大幅に削られ、一気に半分にまでなっていた。
「あ…あの…テスタロッサ君…」
「大丈夫かい? お二人さん」
「う…うん…。なんとか…」
先程までとは打って変わり、倒れていた二人の生徒には優しい声色で話しかける。
本当に身を案じている訳ではなく、単に加奈に優しい男アピールをしているだけだが。
「まだ動けるなら、早くここから離れた方が良い。巻き添えになるかもしれないからね」
「わ…分かった。その…ありがとう…」
「どういたしまして。それよりも、ちゃんと保健室に行って怪我の治療をした方が良い」
ボロボロになったISから降りた二人は、そのままフラフラになりながらも、なんとかステージから出て行った。
残されたのはベリアルを纏ったレナードと、壁に埋もれているラウラだけ。
「弱者は強者によって淘汰される。お前のその言い分を…今度は自分の身で味あわせてやる。感謝しろよ?」
「舐め…るな…! 私は…織斑教官の…教えを受けた…栄光ある…ドイツ軍の…!」
折れそうになる心を、ドイツ軍としてのプライドと千冬から教えを受けたと言う自信で辛うじて繋ぎ止めている。
十数秒後。
そんな事をしても無駄だったと思い知るのだが。