面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
VTシステムの発動によってISが暴走したラウラ・ボーデヴィッヒを無事に鎮圧に成功したわけだが、だからと言ってここから原作のように保健室に運んで休ませるなんて事にはならない。
よくよく考えて欲しい。
口を開けば過激発言しかせず、徹底的に他者を見下し、挙句の果てには意味不明な暴力まで振るう。
幾ら気を失ったからと言って、そんな危険極まりない人物をご丁寧に治療をするか。
否。断じて否である。
普通に考えても絶対に有り得ないし論外だ。
最低限の検査だけはして外傷は無いと判断されたので、あの人造人間は気を失っている今の内に、嘗てあの篠ノ之箒も着せられていた拘束衣を着けてから、その目にはアイマスクを付けて視界を遮り、更には耳栓と猿轡も付けて耳と口も封印した。
後はそのまま、これまた篠ノ之箒が嘗て収監されていたIS学園の地下深くにある特別収容所に強制連行。
篠ノ之箒の時とは違い、今回の相手は気を失ったままなので連行は楽だった模様。
ひと仕事を終えた私達は、その後に悠々自適に美味しい美味しい夕ご飯を満喫したわけで。
それから二日後…私のドイツの知り合いが見事に有言実行をしてくれた。
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IS学園の学園長室。
普通ならば滅多に入る機会の無い場所に、何故か私は立っていた。
スコールさんやオータムさん、山田先生と一緒に。
「学園長。私達に何か御用なんでしょうか?」
「えぇ。先日の一件で少し」
「「「「あぁ…」」」」
その言葉で全てを察した。
因みに、私達の目の前の机に座っている好々爺こそが、このIS学園の真の学園長で、名前を『轡木十蔵』と言う。
飄々として捉え所のない爺さんで、普段は奥さんに表向きの学園長を任せ、自分は学園内の掃除などをしている用務員をやっている。
有事の際などに、こうして自ら学園長になるってわけだ。
「まずはご苦労様でした。VTシステムの暴走が拡大する前に沈静化してくれただけでなく、事後処理まで。オータム先生。スコール先生。山田先生。そして…相良加奈さん。本当にありがとうございました」
「いえ…そんな…」
「アタシ等は単に自分の仕事をしただけッつーか…なぁ?」
「そうね。でも、学園長にお礼を言われるのって滅多に無いでしょうから、少しだけ気分が良いかも」
「かもですねー」
なんだろう…どこか違う世界線でも、似たような事を経験しているような気がする。
多分、気のせいなんだろうけど…。
「特に相良加奈さん。アナタの活躍には感謝しかありません。まさか、アナタが自分から動いてくれるとは」
「別に…学園の為を思ってやったわけじゃないですけどね。アレは単に、今後の事も考えてドイツに更なる恩を売っておこうと考えただけであって」
「そういえば、アナタは昔、ドイツにいたことがあるんでしたね。当時に知り合った人間も多いのだとか」
「まぁ…一応」
このじーさん…どこまで知ってるんだ?
いや、どこまで調べたんだって言った方が正しいか。
本当に得体の知れないお爺ちゃんだよ、全く…。
「実は、今回お呼びしたのはドイツ軍からの使者が来たので、皆さんに会わせようと思ったからです。向こうも、今回の事に貢献してくれた方々にお礼を言いたいと仰っていたので」
ドイツ軍からの使者?
それって、まさか…。
「彼女には客室で待って貰っているのですが、ついさっきこちらに来るように言いました。もうドアの前で待っている筈です。なので…入っても良いですよ」
『彼女』って言った時点で、私の予想が当たる確率が更に高くなった。
「失礼します」
うん。
この声は間違いなく『アイツ』だわ。
私の予想は見事に大当たりして、ドアを開けて入って来たのは案の定『彼女』だった。
「ドイツ軍所属、IS運用特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ隊』隊長。『クラリッサ・ハルフォーフ』少佐…参りました」
やっぱりね。
って…少佐?
「ようこそ来てくれました。ハルフォーフ少佐」
「私の来訪を許可してくださり、誠にありがとうございます。轡木学園長」
普段のノリは完全に鳴りを潜め、今は立派な『ドイツ軍の軍人』になっている。
これがこいつの素だったら、どれだけ良かった事か…。
「この方々が、この度の事件の事後処理をしてくださった先生方です」
「そうでしたか。今回の事は完全に我が軍の不徳の致すところだと言うのに…ドイツ軍を代表して感謝とお詫びの言葉を言わせて貰います。申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました」
「「「ど…どういたしまして…」」」
見事に三人揃って同じ反応をしとるがな。
無理も無いけどさ。
現役のドイツ軍人からお礼と謝罪を同時にされる機会なんて、マジで一生無いと思うし。
「そして…お久し振りですね。カシム軍曹…いや、相良教官とお呼びすべきでしょうか」
「よしてよ。今の私はもう教官じゃないし、傭兵もやってない。単なる女子高生の『相良加奈』なんだから」
アルじゃなくて、こいつに『軍曹』とか『教官』とかって言われるのは、なんか恥ずかしいんだよな…。
「きょ…教官? 軍曹?」
「ど…どういうこと?」
「相良さんが昔、傭兵をやっていた事はオータム先生達から聞いてましたけど…」
あ…山田先生もその辺の事は知ってるんだ。
なら普通に話しても大丈夫か。
「今から約四年ほど前…彼女は非常に優秀な傭兵として一時的にドイツ軍に雇われ、様々な作戦への参加や支援を行い、その時の腕を買われて我が部隊の教官に就任していた時期があるのです。その時に、我々は相良教官から兵士としての心得や必要な知識を初めとした様々な技術を徹底的に叩き込まれて鍛え上げられました」
あの時も話したけど、あれからもう四年も経つのか…。
本当に時が過ぎるのは早いもんだわ…。
「え…え? 今から四年前って言うと…」
「加奈ちゃんは11歳よね? それでドイツ軍に雇われただけじゃなくて、特殊部隊の教官もやってた…?」
「おいおい…どんだけ優秀だったんだよ…。複数の意味で常識を覆し過ぎだろ…」
「そう言われても」
あの時は思わず、金に釣られてやってしまったんだよなー。
だって、物凄く金払いが良かったんだもん。
誰かに何かを教えるって事の楽しさにも目覚め始めてた頃だし。
基本的に単独行動ばかりをするか、もしくは同じ傭兵仲間と一緒に仕事をする事ばっかりだったから、軍に協力ってのも中々に新鮮な経験だった。
あの時の教訓などは今の私の中にもまだちゃんと息づいてるよ。
「教官になられた際に、相良教官に『軍曹』という階級を便宜的に与えられたのです」
「もしかして、アルが普段から加奈ちゃんの事を『軍曹殿』って言ってるのって…」
「その時の名残か?」
「いや。それとは全く関係ないから」
その前から普通に私の事を『軍曹殿』って呼んでたしね。
あの一件以降、本当の意味で『軍曹殿』になってしまったんだけど。
「そうだ。クラリッサ、お前確か『大尉』じゃなかったか? いつの間に『少佐』に出世したんだよ?」
「『元隊長』がいなくなったことで、私が本来の階級に戻っただけです。ですので、昇進などではないんです」
「あー…」
そういや、なんかそれっぽいことを言ってたような気がする。
こいつも苦労してるんだなぁ…。
「そう言えば、閣下が相良教官のこれまでのドイツ軍への貢献と、今回の功績を加味して、貴女が望むのであれば我がドイツ軍の大佐にしたいと仰っていました」
「軍曹から出世し過ぎだろ。いきなりそんなに昇進しても、普通にこっちが困るわ。それ以前に、私はドイツ軍に所属してないから」
「では、もし今後ドイツに来られた際には『大佐殿』とお呼びすると言う事で…」
「もう勝手にして…」
どーせ言っても聞かないのは今までの経験で把握済みだし…。
ここは好きにさせておこう。
「んで、『アイツ』はこれからどうするんだ?」
「『処分』が下されるのはもう確定していますが、それでも一応の『軍法会議』はしなくてはいけません。今、本国では閣下たちがその準備をしてらっしゃいます。私の任務は、IS学園の皆さんへの謝罪と感謝の意を示すと同時に、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』元隊長を本国へと連れ帰ることです」
「ま…これまでの『経歴』や『生まれ』がどうであっても、あいつがドイツ軍に所属していた事実は覆せないしな。諸々の遺恨を残さない為にも形式上は正式に除籍処分にしないといけないってことか」
「そういうことです。彼女はドイツ軍に所属しているだけでなく、代表候補生もしていましたから。対外的な意味合いもあるのでしょう」
「本当に…苦労ばかりだな…」
だから私は軍人も候補生も好きになれないんだよ。
ロラン達の苦労を知っているから尚更に。
「ところで、彼女は今どこに?」
「地下の収容所に。相良さん。ハルフォーフ少佐を案内して貰えますか?」
「え? なんで私? こういう時、普通は先生達がするんじゃ…」
「アナタなら、あの場所の事を良く知っているでしょう?」
「…そういうことね」
あの『篠ノ之箒誘拐事件』に、このじーさんも一枚噛んでたってことか。
くそ…今更ながら、仏の掌の上で踊らされてた孫悟空の気持ちが分かった気がするわ…。
「しゃーない。私が連れて行くよ。それでいいんでしょ?」
「はい。よろしくお願いしますね。相良大佐殿」
「それは素で止めて…」
自分の通っている学園の学園長に言われるのは普通に堪えるんですけど…。
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そんな訳で、やって来ました地下特別収容所。
学園長権限で、あの時の誘拐に関わったメンバーは自由にここへの出入りを許可されているらしい。
あのお爺ちゃん…意外と頭の中身は私寄りなのかもしれない。
学園の『膿』を摘出するのに手段を選ばない所なんて時に。
「着いたぞ。ここが収容所だ」
「IS学園に、このような場所が存在しているとは…驚きです」
「だろうな。それが普通だ」
通常の学校には、こんな場所なんて絶対に必要ないし、存在してない。
IS学園が特殊な学校であるって言う良い証拠だわ。
『この他にも『反省室』や『懲罰房』などもあるようです』
「もう殆ど軍の施設ですね。それとアル、貴方も久し振りですね」
『はい。久し振りですね、クラリッサ』
当然だが、クラリッサはアルの事も知っている。
というか、割とアルとは気が合ってたような印象が強い。
『それにしても、私が話の邪魔をしないように気を使ってコアネットワークに潜っている間に、まさか軍曹殿が大佐殿になっていたとは。これには流石の私も驚きました』
「うっちゃい。大佐殿言うなし」
はぁ…アルにバレてしまった。
こいつにだけは色んな意味で隠し事が出来ないからなぁ…。
「キャ―――――――――♡ 大佐殿の『うっちゃい』キタ――――――――♡」
「はぁぁ~…」
あーあ…クラリッサが元に戻っちゃった…。
凛とした時のクラリッサは普通にカッコいいと思えるだけに、中々にキツい…。
「ほら。そこの牢屋…そこにアイツがいるよ」
「む。そうですか」
急に顔の上半分だけシャキっとするなし。
口元がめっちゃニヤけてるんだよ。
クラリッサの変貌ぶりに呆れながら、私達はアレが入れられている場所まで来た。
そこには…文字通り全身を拘束され、目と耳と口を封じられた哀れな銀髪のウサギが閉じ込められていた。