面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
「…で? ここまで来たは良いけど、ここからどうするつもり?」
「ご心配なく。先程も申した通り、まずはコレをドイツへと連れ帰ります」
『コレ』…ね。
もう人間扱いすらしてないってか。
こいつの今までの事を考えたら無理も無いけどさ。
って、私は学園内の事しか知らないけど。
「どうやって?」
「まずは、ここに予め用意しておいた少し大きめな鞄を出します」
「まさか、それに入れていくつもり? 空港の荷物検査とかで即バレるでしょ」
「その点も大丈夫です。ちゃんと軍の方から両国の空港に予め話は通してあるんです。なので、見られても問題ありません。普通にスルーしてくれる手筈になっています。それでも一応の隠蔽はしますけどね」
「マジかー…」
改めて思うけど、やっぱドイツ軍ってマジパネェ…。
アメリカと同様に敵にだけは回したくはないわー。
「んで、向こうについたら軍法会議という名のお芝居で極刑確定か」
「そうなります。どんな極刑になるかは不明ですが」
「世の中には、死んだ方が幸せな極刑も沢山あるからねー」
特に、こいつは仮にも女。
しかも、特殊な性癖を持つ大きなお友達にモテそうな体をしている。
ってことは、待っている末路は殆ど限定されたも同然だ。
少なくとも、ドイツ軍…というかドイツと言う国には、この女を置いておく理由はもう微塵も存在していない訳だし。
「でもまぁ、向こうに戻っても準備にはそれなりの時間があるでしょうし…その間は…」
「その間は?」
「精々、私達の『遊び相手』にでもなって貰いましょうか。私も含め、コレに対するフラストレーションは溜りに溜まってますからね。コレがどうにかなる前に、今までの『お返し』ぐらいはちゃんとしておかないと。私達の腹の虫が収まりません」
「そりゃそっか」
こいつがドイツでどんな事をしてきたのかは知らないし、興味も無い。
ただ一つだけ言えることは、あの温厚なクラリッサをここまでブチ切れさせるほどの事を、
こいつはしてしまったってことだけだ。
普段から優しい奴ほど、本気で怒らせたら怖いっていう典型だしな。
「大佐殿。申し訳ありませんが、コレを鞄に詰めるのを少しお手伝い願えませんでしょうか?」
「別にいいよー。っていうか、もう大佐で固定なのね…」
「はい。そもそも、貴方ほどのお方を軍曹という階級に留めて置くなど有り得ません」
「へーへー」
本当に…どうしてドイツでの私の評価って、こんなにも高いのかしらね~。
そこまで特別な事をした覚えって無いんだけどな~。
・・・・・
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・・・
・・
・
ドイツ シュヴァルツェ・ハーゼ隊特別基地。
司令官室。
「ハルフォーフ少佐。ラウラ・ボーデヴィッヒの運送任務、ご苦労だった」
「いえ。向こうで予め諸々の準備は終えておられましたし、カシム大佐…いえ、サガラ大佐の御助力もありました」
「うむ。嘗ての事と言い、今回の事と言い、本当に我が国は彼女に対して頭が上がらんな」
「全くですね」
クラリッサの前で机に座っているのは、この基地の司令官。
実質的なハーゼ隊のトップにして、彼もまた四年前に加奈に救われた人間の一人でもある。
「国全体としてもそうだが、私個人としても彼女には一生掛けても返せない程の非常に大きな借りがある。もし今後、彼女とその友人達がドイツに訪れた際は、この基地総出で出迎えなくてはな」
「その時が今から楽しみです」
きっとその時は、可愛らしくも驚いた顔を見せてくれるに違いない。
それを想像しただけで、クラリッサは心の中で涎ダラダラである。
「ところで…持って帰ってきた『アレ』はどうしている?」
「はっ。今は取り敢えず、基地内にある捕虜収容所にて隔離してあります」
「そうか。君が日本に向かう前から裁判の準備は進めていたのだが、思ったよりも帰りが早かったのでな。まだ終わってはいないのだ」
「矢張り、そうだったのですね。では、それまでは…?」
「遊んでやれ。今までの分もたっぷりとな」
「了解しました」
最初からそのつもりだったが、上官からの許しが出たとなればもう遠慮はいらない。
言われた通り、思う存分にやってやろう。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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「ぐあっ!?」
基地内にあるIS専用特別訓練場。
収容所から無理矢理に連行されたラウラは、そのまま拘束服をはぎ取られ、下に着ていたISスーツのまま、基地に配備されていた黒いラファールにこれまた無理矢理に登場させられてからの、半ば強制的な模擬戦という名の鬱憤払いをさせられていた。
「ほらほら。とっとと立ってくださいよ~。元隊長?」
「お…おのれ…!」
今、自分の事を吹き飛ばしたのは、今までずっと格下だの雑魚だのと罵ってきた部下の一人。
確かに嘗てはラウラに対して手も足も出なかったが、今はこれである。
手も足も出ないのは、逆にラウラの方になっていた。
「な…何故だ…! これは…どうなっている…!?」
「どう…とは?」
「日本にいた筈の私がいつの間にかドイツに帰って来ていて、しかもお前達に倒されている…! なんなんだ一体…!」
ラウラからしたら本当に意味不明なことだろう。
まるでワープでもしたかのような感覚。
それも無理も無い話だ。
VTシステム発動後からずっと、彼女は気絶をしたままだったのだから。
彼女の記憶は、レナードにボコボコにされたところから完全に途切れている。
(あのレナードとか言う男に敗れた後…私はどうなった…何があったと言うんだ…!?)
混乱の極みにあるラウラだが、そんな事情など彼女達は知らない。
今は只、今までの恨みを晴らすだけだ。
「どうしてアナタが私達に手も足も出ないのか…教えてあげましょうか?」
「クラリッサ…」
自分の事を見下してくる副官。
今はラウラの代わり少佐と成り、同時に隊長にもなっている。
「答えは単純。私達がアナタよりも強いからです。最初から…ね」
「最初から…だと…!?」
「そう…最初から。アナタがまだ隊長でもなければ少佐でもない頃から、私達の実力はアナタを完全に圧倒していたのです」
「…昔はそうだったかもしれない。だが! 私は織斑教官の指導によって強くなった!」
「そうですね。確かにアナタは彼女の指導によって強くなった。それは認めましょう。でも、こうは考えなかったのですか? 『自分が強くなったということは、同時に私達も強くなっている』…と」
「なん…だと…?」
嫌な汗が頬を伝う。
考えたくない。
けど、考えてしまう。
「つまり、私達とアナタとの実力差は、最初から微塵も埋まってなどいなかった…そういう訳です」
「有り得ない…! では何故! お前達は私に負けていたッ!?」
「上層部からの命令です」
「上層部…だと…?」
「えぇ。とある『実験』の為に、私達は仕方なく『弱いフリ』をしていたんですよ。愚かにも増長したアナタの横暴にジッと耐えてね。ま、それももう終わりですけど」
まだ転がったままのラウラの顔を、クラリッサが見下ろしながら足蹴にする。
それは、今までの彼女からは考えられない程に恍惚な表情だった。
「最初こそは『もしかして』という希望を持たれていたけど、それは呆気なく瓦解した。非常に早い段階で『実験』は失敗判定された。その時点でもう既にアナタの運命は決していたんですよ」
「実験…失敗…」
ラウラの脳裏に嫌な記憶が蘇る。
それは嘗て、彼女が生まれた場所である研究所での記憶。
「で…では…どうして…私を代表候補生に…隊長に…少佐に…」
「何か変化があれば、また違う結果が得られるかもしれない。織斑千冬を教官として寄越したのも、その一環だったようですが…結果は大失敗。それどころか、事態は更に最悪な方へと向かった。上層部は完全にアナタに見切りをつけ、敢えて日本に行くことを許可した。今のアナタならば、必ずや日本で不祥事を起こすだろうと。そうして、アナタを合法的に『処分』する為に」
「あ…ああぁ…」
自分の存在意義を全て壊される程の衝撃。
『嘘だ』と一言言えば、まだ耐えられたかもしれない。
でも、急転直下に続いた状況の変化に精神が摩耗し、そんな反論をする余裕すら完全に失っていた。
「今現在、アナタを裁くためだけの軍事裁判の準備をしています。まぁ…結果は決まっていますけど」
「裁判…」
今になってラウラは自分が日本でした事を思い返す。
顔面蒼白とはまさにこのことで、ラウラの顔はまるで死人の方に真っ青になった。
「そもそも、私達の教官はこの世にたった一人だけ。織斑千冬のようなアスリート上がりの女などではなく、幼少期から傭兵として生きてきた『あの方』のみ」
「何を言っている…織斑教官こそが私達の!」
「違う!! 私達『シュヴァルツェ・ハーゼ隊』の担当教官は、あの『カシム大佐』…いや、『カナ・サガラ大佐』だけだ!!」
「カシム…? サガラ…?」
どっちも知らない名前。
ラウラには彼女達が誰の事を言っているのか全く分からなかった。
「嘘でしょ…? この子、マジで言ってる?」
「信じらんない…」
「私達全員の大恩人にして、ドイツ軍最高の英雄として称えられている、あの人の事を知らないだなんて…」
「今時、ライブラリを調べれば一発で出てくるほど話題なのに?」
「つーか、クラスメイトな上に命の恩人でもあるんでしょ?」
「その人の名前を知らないって…」
「非常識にも程がある。論外だ。話にすらならん」
隊員の少女達から向けられる侮蔑の視線。
まるで道端に落ちているゴミを見るような目。
それが恐ろしくて、ラウラは思わず体を震わせて静かに泣いた。
「何を泣いているんですか? まさか、泣けば全てが許されるとでも?」
「ち…違う…私は…」
「そうですか。ま、そんな事はどうでもいいです」
クラリッサが少しだけその場を離れたと思ったら、彼女の専用機である『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を纏って戻ってきた。
「今は『訓練』の続きをしましょうか。さぁ…今度は私が相手をして差し上げますよ? 元隊長殿?」
「あ…ああぁぁぁ…」
他の隊員たちですら、自分では全く太刀打ちできない程だったのに、隊長となったクラリッサはどれ程の実力者になるのか。
それを想像しただけで、ラウラは恐怖で身を震わせた。
「『因果応報』…と日本では言うそうですよ? 今のような状況は」
逃げられない。
どうして、こんな事になってしまったのか、どれだけ考えても答えは出なかった。
分かっているのは、もう自分は完全に終わりだと言うこと。
そして、これから彼女達に今までしてきたことの『ツケ』を払わされると言うことだけだった。