面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~   作:とんこつラーメン

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面倒くさいので、取り敢えず売り捨てる

 嘗ての部下たちによって徹底的に痛めつけられ、恐怖と共に気を失ってしまったラウラ。

 だが、彼女が目を覚ました時、そこはまた別に場所になっていた。

 

「え?」

 

 思わず呆けた声を出してしまうのも無理はない。

 何故ならそこは『法廷』だったのだから。

 

「こ…こは…」

 

 今まで入った事は無かったが、ラウラはこの場所を知っている。

 ここは軍の法廷。

 これまでにも多くの規則違反を犯した軍人たちが、ここで裁かれていた。

 

(い…一体いつの間に…?)

 

 混乱しながら辺りを見渡すと、そこには見知った顔と見知らぬ顔が交互に並んでいた。

 中には、ラウラの直接的な上官だったハーゼ隊の基地司令や、先程まで自分の事を痛めつけていたクラリッサの姿も。

 そのいずれもが、まるで親の仇であるかのようにラウラの事を睨み付けていた。

 

「これより、シュヴァルツェ・ハーゼ隊元隊長ラウラ・ボーデヴィッヒ元少佐の裁判を開始する」

 

 困惑するラウラを余所に、裁判長が裁判の開始を宣言する。

 一体何の裁判なのか。

 未だにラウラにはさっぱり分からなかった。

 自分が何をしたと言うのか。

 裁かれるような事など何もしていない。

 ラウラは本気でそう思っていた。

 

 だからこそ彼女は分からない。

 今回の裁判が完全な茶番であることを。

 この法廷には自分の味方なんて一人も存在しない事を。

 全てはラウラを合法的に放棄する為。

 ドイツと言う国が生み出してしまった『汚点』を消し去る為。

 

 本来ならば、ここで被告であるラウラに名前やら何やらを言わせるのだが、これは正式な裁判ではないので、進行は素早く執り行われる。

 

「部隊内にて過剰かつ無用な暴力を振るい、更には留学した日本のIS学園においても一般生徒に対して軍人兼代表候補生として決して有り得ないような暴力を持って傷つけ、挙句の果てには条約で禁止されている『ヴァルキリー・トレース・システム』を使用、暴走させIS学園に多大な被害を齎した。この罪状に間違いはないか?」

「なっ…!?」

 

 暴力云々に関しては心当たりはあるが、VTシステムに関しては全く知らない。

 今回初めて聞かされた。

 それもその筈で、システム発動時にはもうラウラは気を失っていた。

 彼女が目を覚ました時にはもう暴走は鎮圧され、気を失ったまま投獄された上で、そのままドイツへと強制帰国され、気が付いた時にはハーゼ隊の基地に戻って来ていた。

 まるで狐にでも化かされたような感覚。

 

「ま…待ってください! VTシステムとは一体何の事で…」

「はい。全て間違いありません」

「ク…クラリッサ…!?」

 

 あろうことか、ラウラの罪状を全肯定したのは、嘗ての副官のクラリッサだった。

 彼女こそが自分の弁護人なんじゃないかと思っていたラウラにとって、数少ない味方が真の意味で裏切ったと知った瞬間だった。

 さっきまでの暴力行為は夢だったんじゃないかと信じたいほどに。

 

「裁判長。そのVTシステムの暴走を食い止めたのは、あのカシム軍曹…いや、カシム大佐であるという情報がクラリッサ少佐が証言しておりました」

「おぉ…我が国の若き英雄が、再びこのドイツを救ってくれたのか…」

「流石はカシム大佐ですな。我々はまた彼女に大きな借りを作ってしまった」

 

 陪審員や弁護人、傍聴人たちが急に騒ぎ出す。

 再び聞いた聞き慣れぬ『カシム』と言う名前に、ラウラは困惑の色を隠せない。

 

「その顔…もしや、元少佐殿はカシム大佐の事を知らないのでは?」

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 その瞬間、この場にいる人間達の殺気が全てラウラに集中した。

 思わず腰が抜けて座り込みそうになるが、いつの間にか背後にいた警備の軍人によって強制的に立たされた。

 その時にラウラは、自分の手に手錠が付けられている事に初めて気が付いた。

 

「なんと嘆かわしい…! この分だと、今から四年前に起きた『女性権利団体襲撃事件』の事も知らないのだろうな…」

「襲撃…事件…?」

 

 四年前と言えば、まだラウラはドイツ軍のラボにて調整中だった。

 故に、普通は知らなくても当然と思われるだろうが、当時の事は軍内でも非常に大きく取り上げられており、その気になれば今からでもデータベースにて事件の詳細を知ることは可能だ。

 これはドイツ軍内だけでなく、ドイツ国内でも非常に有名な事件で、国民たちの中でもカシム…加奈は英雄視されていた。

 

「今から約四年前…女性権利団体ドイツ支部の連中が突如としてドイツ軍の各基地へと襲撃を仕掛けてきた。目的は『軍内で使用しているISを奪う為』だった」

「だが、ハーゼ隊の基地に臨時教官として軍に雇われていた当時まだ11歳で凄腕の傭兵だったカシム軍曹率いる傭兵部隊がドイツ軍と協力して権利団体の者達を迎撃、殆ど被害を出す事無く撃退に成功した」

「その際、全体の指揮を担当していたカシム軍曹は、権利団体が所有していた数機のISをたった一人で相手をし、これを完全に圧倒した」

「更には、カシム軍曹は奴等が使っていたISをも見事に奪い、それをドイツ軍へと譲渡した」

「当時はまだ対IS戦における有効打を持ち得ておらず、ハーゼ隊の熟練度も十分とは言えなかった。故に、もしカシム軍曹がいなかったらドイツ軍は多大な被害を被っていた可能性が非常に高い」

「分かるか? 彼女こそが我が国の真の英雄であり、ハーゼ隊にとっても大恩ある師でもあるのだ。貴様がバカの一つ覚えのように慕っている織斑千冬とはワケが違うのだよ」

 

 全く知らなかった。

 知ろうともしなかった。

 ラウラにとっては千冬こそが全てであり、それ以外の存在はどうでもよかったから。

 

「っと…話が逸れてしまったな。すみません裁判長」

「別に構いません。彼女の事に関しては特別だ。特別に許可しましょう」

「ありがとうございます」

 

 こんな事が許されるのも、この裁判が『お芝居』だから。

 最初から結末が決定しているが故の事だから。

 

「裁判長。実は、彼女が日本に行く際、空港にて不審な男と接触していた証拠写真があります。提示してもよろしいでしょうか?」

「許可します」

 

 不審な男?

 全く身に覚えのない事を言われ頭が混乱する。

 だが、そんなラウラの事など無視して、法廷のスクリーンに一枚の写真が表示される。

 それは、制服姿のラウラが白衣を着た怪しい中年男性から何かを受け取っている姿だった。

 

「ボーデヴィッヒ被告。この男は何者ですか?」

「し…知らない! 私は、こんな男なんて知りません!!」

 

 裁判長に尋ねられ、必死に無実を訴えるラウラ。

 だが、現実は非常である。

 

「…だそうだが?」

「それは、この小娘が言っている戯言です。その証拠…否、証人を法廷に入れてもよろしいでしょうか?」

「許可します」

 

 裁判長が許可すると、法廷に白衣を着た一人の男が静かに入ってきた。

 それは、写真にも映し出されているラウラと接触をしていた人物だった。

 

「では質問します。この写真に写っているのはアナタですか?」

「はい。間違いありません」

「この時、何を話していましたか?」

「日本に向かう少し前に、私はボーデヴィッヒ元少佐から接触を受け、自分のISに違法とされているVTシステムを組み込むように言い渡されました。勿論、その時は全力で拒否しました。アラスカ条約で研究、開発が禁止されている事は私も十分に良く知っていましたから。ですが…」

「どうしたのですか?」

「もし…協力を拒んだら、この場でお前を殺して、その上で今までお前達がやって来た違法な研究の事を世間に暴露すると…銃で脅されました」

「それで仕方なく、アナタは元少佐の機体にVTシステムを搭載し、日本に行く時の空港にて、この写真に写っている通り渡したと」

「はい…その通りです」

 

 何を言っているのか全く分からない。

 こんな男なんて知らないし、会った事すらも無い。

 それもそうだ。

 この写真は、今回の為だけに用意された合成写真であり、この男も今回の為に用意された単なる役者に過ぎないのだから。

 

「この期に及んでも、まだ自分の罪を否定し続ける! このような者に情状酌量の余地があるでしょうかッ!? いや無い!」

 

 ここまで来て、ようやくラウラは初めて理解した。

 この場には最初から自分の味方など一人もいないと。

 自分は孤独であり、完全に詰んでいると。

 

「裁判長。少しよろしいでしょうか?」

「どうしました? クラリッサ少佐?」

「実は、IS学園から彼女がVTシステムを所持していたと言う決定的な証拠を預かっています」

「それは?」

「IS学園のアリーナの監視カメラの映像です。そこに、カシム大佐が暴走したVTシステムを沈黙させている様子が録画されています。これを提示してもよろしいでしょうか?」

「許可します。ここにいる皆さんに見えるように映してください」

「分かりました」

 

 クラリッサが手元にある機器を操作すると、先程まで写真が映し出されていたスクリーンに、今度は監視カメラの映像が映し出される。

 そこには、まさに今、ラウラの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』が沈黙し、それと同時にVTシステムが強制発動する瞬間の映像が流された。

 

「確かにこれは…」

「間違いなくVTシステム。しかも、よりにもよって織斑千冬のデータを使うとは…」

「この娘は織斑千冬の事を強く慕っていた。ならば、こうなるのも当然か」

「ある意味、この姿こそがボーデヴィッヒ元少佐がVTシステムを意図的に自分の機体に組み込んだと言う証拠になりますな」

 

 こんなのは知らない。

 全く身に覚えなんて無い。

 だけど、なんとなく分かる。

 この映像は自分がレナードに敗北した直後の映像であると。

 

「おぉ! カシム大佐がやって来たぞ!」

「あれが成長した今のカシム大佐か…」

「ISを纏った…。形状が違うと言う事は、いつの間にか第二形態移行していたのか」

 

 そこからは圧倒的な蹂躙劇だった。

 文字通り手も足も出ず、カシムこと加奈の専用機であるアーバレストのΛ・ドライバの前に倒されていく。

 図らずも千冬の姿をしていたので、まるで本物の千冬が敗北しているかのようにも見えた。

 

「中から元少佐を取り出したぞ」

「別に助ける義理も無いだろうに…本当にカシム大佐は軍人の鏡のような人物だな。ドイツ軍に正式に所属していないのが本当に惜しい」

「仕方あるまい。一方はサガラ夫婦が生み出した最高の芸術品にして最高傑作。それに比べ、コレは軍人としては愚か、人間としても五流以下の、道端に落ちている犬の糞に集る蠅や死肉に群がる蛆虫にすら劣るゴミ。比べるのすら烏滸がましく、カシム大佐に失礼というものでしょう」

「全くですな」

 

 自分の事を侮辱されていると言うのに、もうラウラにはそんな事はどうでもよかった。

 問題なのは、目の前に映し出されている映像の中で、自分のせいでVTシステムが発動し、その後に誰かによって命を助けられていると言う事だった。

 

 その後、コアであるラウラを失った事で人の形すらも失ったVTシステムは、アーバレストの最強の一撃にて消し飛ばされた。

 直後、法廷内には大量の拍手が鳴り響いた。

 傍聴人たちに至っては全員が立ち上がってからのスタンディング・オベーション。

 

「静粛に!」

 

 裁判長がカンカンと音を鳴らして皆を静かにさせる。

 本当は裁判長も映像を見て興奮していたのだが。

 

「被告人。これを見てもまだ自分がVTシステムに関与していないと言いきれますか?」

「そ…それは…」

 

 言えなかった。

 こんな事なんて知らないのに、この映像に関してだけ言えば、ラウラは否定する材料を持ち合わせていなかった。

 自分が気絶をする直前までは、確かにこの光景に見覚えがあったから。

 

「…判決を申し渡す。被告人ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「は…はい…」

「軍籍及び代表候補生としての資格を全て剥奪。国外追放とする」

「こっ…!?」

 

 国外追放。

 文字通り、生まれた国を追い出されると言う事。

 幾らラウラでも、裁判での決定に異を唱えられるほど愚かではない。

 言葉を失い、呆然自失と成り立ち尽くした。

 

「フッ…心配するな」

「司令…?」

 

 ここに来て初めて言葉を発した司令に、ラウラは震えながら顔を向ける。

 彼の顔が愉悦の笑みを浮かべており、ようやく今までの溜飲が降りたかのようにスッキリしていた。

 

「お前のような貧相な体の失敗作でも、是非とも買い取りたいと仰る奇特な方々がいてな。お前はそこに売り渡される事になっている」

「私…が…売り…?」

「そうだ。しかも、そこにはお前の憧れている『あの女』もいるらしいぞ?」

「それは…まさか…?」

 

 自分が憧れている人物と言えば一人しか該当しない。

 だが、一体どこにいると言うのだろうか。

 それだけが分からなかった。

 

「お前が売り渡される場所。それは…」

「それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS委員会の日本支部だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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