面倒くさいので、取り敢えず寝る ~IS編ifストーリー~ 作:とんこつラーメン
「私とガウルンが出会ったのは、私が10歳の頃だった」
原作キャラ共の現状を教えて貰ったところで、今度は私が話をする番になった。
昔のことながらも不思議と鮮明に覚えている記憶を頼りに口を動かす。
「皆にも前に話したとは思うけど、9歳の頃にガーンズバックの待機形態である『義眼』を麻酔も無しに左目に無理矢理埋め込まれて、その後にまたもや無理矢理に近い形で私は世界各地の紛争地域へと送り込まれた。私自身とガーンズバックの性能テストの為に」
私にとっての黒歴史を話す。
本当なら死んでも嫌な事だけど、ここにいる皆になら平気。
「加奈さんとアイツが出会ったのが10歳の頃って事は…」
「出逢ったのは、紛争介入をし始めてから一年後のこと…ってことだね」
「そゆこと」
包帯でぐるぐる巻きになっている右腕を見つめながら、話を進めた。
「当時のガウルンは所謂『フリーの傭兵』ってやつだった。金次第でどんな勢力にも尻尾を振る連中。と言っても、アイツにはアイツなりの矜持ぐらいはあるみたいでね、ド素人の癖に戦場を我が物顔で闊歩していた『女性権利団体』の連中の味方にだけは絶対になろうとはしなかった」
「非常に腹立たしいですが…それだけは同意できますね…」
「私もヴィシュヌに同感だな」
まだ右腕の感覚が薄い。
これは完治までに相当な時間が掛かりそうだな…。
「そういえば、あのガウルンって奴と対峙してた時『なんで生きてるんだ』的な事を言ってなかったか?」
「あぁ…それですね。私がガウルンと初めて会った時、アイツは病気だったんですよ」
「病名は?」
「膵臓癌。しかも末期の」
「末期って事は…」
「完全なステージ4。医者からも見放されるレベルの重篤状態。常に顔面が真っ青で、少しでも気を抜けはすぐに吐血する。既に余命宣告されていたレベルなのに、アイツは嬉々としてライフル片手に戦場を走り回ってた」
「異常者だな…」
出逢った当初、私もオータムさんと全く同じ感想を持った。
どうして自分の命よりも敵を殺す事を優先できるのか。
その思考が全く理解出来なかった。
「自分がもうすぐ死ぬって分かっていたからこそ、アイツは普通じゃ考えられないような作戦を幾つも提案し、それを実行に移し続けた」
「その作戦ってどんなの?」
「簡単に言えば、自分の命を勘定に入れない作戦。単独特攻。単独攪乱。単独潜入に単独での囮。誰もが全く予想出来ない、従来のセオリーを無視した作戦の数々に、多くの部隊が意表を突かれ、ガウルン一人の為に次々と壊滅していった。その数は両手じゃ数えきれない」
普通なら、自分がもうすぐ死ぬと分かったら、少しでも長生きしようと頑張ったり、もしくは仲間や家族に対して何かを遺そうとするものだが、アイツはそのどれもしなかった。
『どうせ死ぬなら、俺はベットの上なんかじゃなくて、戦場のど真ん中で全てを巻き込んでド派手に死んでやりたい』
それが当時のアイツの口癖だった。
「だからこそ、私はアイツが生きている事に本気で驚いた。本来なら、とっくの昔に癌で死んでいた筈なのに」
「実際には癌が治っていてピンピンしていた…か」
「多分、ガウルンの癌を治療したのは、アイツの背後にいる奴等だろうな」
「わ…分かっているのかッ!?」
「うん。っていうか、あいつ普通に話してたし」
少しだけ喉乾いた。
透明な急須みたいな形をした奴でチューってな。
これ…名前なんて言うんだろう?
「ガウルンを治療し、更にはアイツにISを提供し、ついでにアイツを男性IS操縦者にした奴等…それは『うちの両親』だよ」
「相良夫妻…!」
「そ。私の親父である『
あーあ…言っちゃった。とうとう言っちゃった。
絶対に口にしたくなかったのに、両親の名前を言っちゃった。
『恐らくですが、なんらかの改造でガウルンを操縦者にしたのではなく、ガウルンだけが動かせるISをコアから製造したのだと推測できます』
「その根拠は? アル」
『もしも既存のコアを使用しているのであれば、他のISと同様に私からの接続が出来た筈なのですが、それが全く出来なかった。まるでファイアーウォールのような物に阻まれているかのように』
「あのIS『コダール』のコアが完全独立していて、コアネットワークにも繋がっていないから…?」
『だと思われます。ガウルンにのみ同調するように製造された特別製のコアなのでしょう』
「操縦者を合わせるんじゃなくて、機体の方を合わせる…か。簡単に思い付きそうでありながら、実際には誰もやっていない事だよな…」
「そうね。操縦者を改造した方がコストも少なくて済むし、効率もいいしね」
「それをしないのは、自分達の頭脳と技術に絶対の自信があり、同時に豊富な物資を持っているという証拠なのか…」
アイツ等がどこで何をして物資やら資金やらを得ているのかは私にも全く分からない。
娘である私に分かっている事があるとすれば、それは『何も分かっていない』ということだ。
私からしても謎が多い…いや、謎しかない両親だったからな。
「ところで、どうして加奈はガウルンと共闘していたんだい? 今も昔も奴の事は嫌いだったんだろう?」
「まぁね。けど、奴が強いのは変えられない事実だったし、共通の敵もいたしね」
「権利団体か?」
「正解。あの頃の私とガウルンは、お互いに利用できるだけしてやろうって思ってたから。その途中で妙に気に入れられて、増々私はアイツの事が嫌いになったけど」
昔の事を思い出すと、それだけで嫌悪感で鳥肌が立つ。
あぁ~…もう! 怪我が治ったら、すぐにロランに抱いて貰おう。
この不快感を払拭したいから。
どうせなら、マドカや乱ちゃん、ヴィシュヌを含めた乱交プレイも悪くないかもしれない。
「ところで、ガウルンが言ってた『カシム』って何?」
「昔、私が名乗ってた偽名。普通に本名知られたくなかったから」
「「「「分かる」」」」
「いやいや…」
同年代女子四人が同意してくれた。
地味に嬉しい。
「加奈ちゃんとガウルンはかなりの因縁がある相手なのね…」
「向こうからの一方的な因縁ですけどね。けど、実力だけは本物です」
「それはアタシらも見てたから分かるよ。真っ向勝負じゃ勝ち目はねぇだろうな…」
スコールさんもオータムさんも、IS操縦者として非常に高い実力を持っている。
割と冗談抜きで世界レベルの実力者だと思う。
そんな人達でも、ガウルンに勝つのは困難を極めるだろう。
あの男に常識は通用しない。
Λ・ドライバ搭載機を手に入れた事で、更にそれが顕著になった。
「私達も強くならなくては…」
「そうですね…。いつまでも加奈さんばかりに負担は掛けられないし…」
「幾ら、加奈さんの機体が『第二形態移行』したからと言って、それに頼りきりになるのは論外ですしね」
「また同じような事が起きらないとは限らない。その時に備えて、我々も成長しないとな…」
皆がやる気に燃えている…。
友人達のこういう姿を見るのは普通に嬉しい。
私も頑張って怪我を治さなきゃって気持ちになるし。
「怪我を治したら、今度はアーバレストも修理しないとなぁ~…」
「派手に壊れてたものね」
「それに関しては心配すんな。その時が来たら、整備室を優先的に使えるようにしていてやるよ」
「いいんですか?」
「構いやしねぇよ。加奈がいなかったら、本当にどうなっていたか分からないんだ。それぐらいは許されるだろ」
ま、あのジジイな学園長なら二つ返事でOKくれそうだけど。
(ガウルンには逃げられたけど…あの感じだと、また戦う事になるんだろうな…。今頃、どこで何をしているのやら…)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
中国 北京 IS委員会中国支部
「そ…それって、どういうことよっ!?」
「そのままの意味だが? 分からないと言うのならば、もう一回言ってやろう」
ビルの屋上にある支部長室にて、日本から強制連行された鈴が怒りを露わにしながら机に座っている支部長に怒鳴り散らしている。
「凰鈴音。貴様から代表候補生としての権限を全て剥奪する。それと同時に、お前の未熟さ故に破壊された専用機『甲龍』の修理費を全て貴様の負担とする」
「じょ…冗談じゃないわよっ!! どうして、このアタシが候補生を降ろされないといけないのよ!!」
「理由を言わなければ分からんのか? 本当に愚鈍な奴だ」
懐から出した葉巻に火を着け、鈴がいる事にもお構いなしに吹かしていく。
「自分が候補生であるのをいい事に我々をISで脅迫し、向こうでも好き放題に振舞い候補生にあるまじき態度にて他者に迷惑をかけ、しかも初戦から苦戦をし、挙句の果てには無様に敗北して機体を破壊される始末。お前を候補生から降ろすには十分過ぎる理由だと思うが?」
「そ…それは! 一夏がクラス代表なんかをしてた上に、女の子たちを侍らせてたから!」
「自分のやった事を全て男のせいにするとは…愚か極まりないな。所詮は男の尻を追って無理矢理に日本まで行ったケツの青いガキ。いや…己の責任すら碌に取れないような子供を候補生にしてしまった我々の不手際でもあるか」
支部長はやれやれといった感じで首を振り、灰皿に葉巻を押し付ける。
「そ…それに、専用機のことだって意味不明な機体が全部悪くて!」
「お前が単純に雑魚だっただけだろう。自分の弱さを相手のせいにするなっ!!」
「ひっ…!」
ここで初めて支部長が切れる。
幾ら大人嫌いとはいえ、それでも真っ向から怒鳴られれば怯みもする。
「これから貴様には文字通り一生掛けて『甲龍』の弁償をして貰う。言っておくが…中国は日本のように甘くは無いぞ。覚悟しておくのだな」
「ど…どういう意味よ…」
「そうだな。お前の大好きな日本円に例えれば…弁償額はおよそ『20億円』だ」
「に…二十億ッ!?」
「当たり前だ。甲龍は我が中国の最新兵装であった『衝撃砲』を装備していた最新鋭機なのだぞ? あれ一機を製造するのに、どれだけの莫大な資金と時間と労力が掛かったか…子供のお前には理解出来まい?」
「子供子供言うな!!」
「子供を子供と言って何が悪い。だがまぁ…安心しろ。本来ならば、候補生でもないお前に働き口なんて無いのだが…幸いなことに貴様のような貧相な体を好いている奇特な方々もいるようでな。その方々が貴様の身体を欲している」
「なによそれ……」
「要は『体で稼げ』と言っている。裏で政府の方々が良く使っている『奴隷娼婦』になってな。お前のような奴では一生会えない方々に毎晩抱かれるだけで大金を稼げるんだ。こんなに楽な仕事もあるまい?」
「ふ…ふざけんじゃないわよっ!! 何が悲しくて好いてもいない男共に犯されないといけないのよっ!!」
「全ては貴様が悪い。それだけだ」
「この…クソジジイがぁぁぁぁっ!!」
遂にブチ切れた鈴は、怒りに身を任せて支部長に殴り掛かろうとする…が、その拳は途中で横から伸びてきた腕によって掴まれ、そのまま床に投げ飛ばされた。
「きゃぁぁっ!? な…何よ一体っ!?」
すぐに顔を上げて自分を投げた相手を見ようとすると、そこにはチャイナドレスを着たそっくりな顔をした二人の少女が立っていた。
「丁度いい。貴様にも紹介してやろう。お前の後釜になるのだしな」
「アタシの…後釜…!?」
二人の少女は支部長の両隣に移動し、ジッと鈴の事を睨みつづける。
「右にいるのが姉の『
「こいつらが…!?」
まるで路上に落ちている石ころを見るような目つきをしている双子の少女達。
鈴の事を人間として見ていないようだった。
「弱い…弱すぎ。こんなのが本当に候補生だったの? 支部長」
「そうなのだ。本当に嘆かわしいことだがな」
「お姉ちゃん。これ目障りだから殺してもいい?」
「こ…ころ…!?」
日常的な会話のトーンで『殺す』と言ってのけた玉蘭。
それだけで、この姉妹が自分のような『表側』の人間ではないと分かる。
「だめ。これは今日から男共の肉便器になるんだから」
「はーい」
「な…なんなのよ…こいつら…」
立ち上る雰囲気だけで桁が違う。
恐怖で足が震え、歯がガチガチと音を出す。
「知っての通り、中国は世界でも1・2を争うほどに人口が多い。人口が多いと言うことは、それだけ様々な事に対する『競争率』も高いと言う事だ。受験戦争然り。就職戦争然り。それは勿論『代表候補生』も該当する。つまり、候補生の座を狙っている者達は他国などよりも遥かに多いと言うことなのだ。それは同時に、候補生と言う立場が他の国以上に簡単に入れ替わり易いと言うことでもある」
それを聞き、ようやく鈴は全てを理解した。
ほんの少しでもミスをしたり、スキャンダルが起きたりすれば、すぐに候補生の資格を剥奪され、別の人間がそこに入って来る。
中国での候補生とは、常に薄氷の上に立っているに等しい程に脆い立場なのだ。
「今回、お前は『委員会の人間を脅す』と言うことに加え『専用機を壊される』という特大の問題を起こした。仮に私が判断を下さなくても、すぐに世間はお前を候補生から降ろせと言ってくるだろうよ」
「そ…そんな……」
日本から引き離されただけでなく、莫大な借金まで背負わらされてしまった。
間違いなく人生の終わりである…が、まだ鈴の不幸は終わらなかった。
「それと、これも伝えておかなければな」
「まだ…何かあるの…?」
「つい先日、貴様の母親が逮捕された。容疑は殺人だ」
「え…? お…お母さんが…人を殺した…?」
今までで一番の衝撃。
それは鈴の頭を一瞬で真っ白にするのに十分な破壊力があった。
「どうやら、貴様の母親は日本から戻ってきた辺りから『女尊男卑』になっていたようでな。お前の知らない所で『女性権利団体』のメンバーになっていたようだ」
「そんな…嘘よ…」
「事実だ。貴様が惚れた男を追って日本に向かった事も知っていたようでな、それを聞いたお前の母親は激怒して…別れた筈の夫…つまりはお前の父親の元まで行き『自分の娘がゴミのような男のケツを追うような愚かな人間になってしまったのは、全て父親であるお前のせいだ』と叫びながら、何度も何度も腹を包丁で刺していたとの事だ。勿論、夫は出血多量によるショック死」
「あ…ああぁ……」
自分が日本に行ったせいでお母さんがお父さんを殺した。
それを聞かされた鈴は壊れた機械のように首を振るばかりだった。
「只でさえ『女性権利団体』という犯罪集団の一員だった事に加え、余りにも残虐非道な殺害方法だった事もあり有罪は免れないとの事だ。最低でも終身刑。最悪の場合は死刑だろうな」
「う…うそ……おかあさん…おとうさん……」
日本に行って初恋を成就させようと息巻いている間に、母が父を殺していた。
なんでこんな事になってしまったのだろう。
無言で涙を流しながら、鈴はその事ばかりを考えていた。
「支部長さん。これ…壊れちゃったみたいだけど…どうするの?」
「壊れたならば壊れたで都合がいい。拘束する手間が省けるしな。おい!」
支部長が廊下に向けて叫ぶと、ドアから黒服の男達が入ってきた。
「その娘を『いつもの場所』へと連れて行け。もう調教の準備は済ませてある」
「了解しました」
男達は鈴の小さな体を持ち上げ、そのまま無抵抗な彼女を何処かへと連れて行った。
もう二度と、凰鈴音と言う少女が表舞台に立つ事は無いだろう。
「さて…これで目障りな小娘が片付いた。君達の今後についてだが…」
「知ってる。『先生』から聞いてるから」
「IS学園に行けばいいんでしょう?」
「その通りだ。あの小娘のせいで下がってしまった中国の候補生の評価を少しでも回復させてくれ。頼んだぞ」
「「了解」」
全く同じ動きで頷いてから、夏姉妹は部屋から出て行った。
彼女達がいなくなってから、支部長は額に浮き出た冷や汗をハンカチで拭いた。
「ふぅ…生きた心地がしなかったぞ。それにしてもミスター『ガウルン』はどうして彼女達をIS学園に行かせようとするんだ…? こっちとしては好都合だからいいが…」
その後、凰鈴音は名も知らぬ男によって処女を散らされ、見知らぬ男の子供を何人も身籠り続け、やがて自分の名すらも忘れ、本当の意味で男達のダッチワイフとなったという。
現在の彼女の行方を知る者は誰もいない。
無事に借金を返せたかどうかも定かではない。
たった一つだけ明らかになっているのは、彼女の母親の死刑の執行が成されたと言うことだけだった。